公認心理師 2019-17

問17は説明から概念を導かせるタイプの設問です。
こういうタイプの設問が今回の試験では多かったですね。

問17 治療者自身が相互作用に影響を与えることを含め、治療者とクライエントの間で起きていることに十分注意を払うことを何というか、最も適切なものを1つ選べ。
①自己開示の活用
②治療同盟の確立
③応用行動分析の適用
④関与しながらの観察
⑤自動思考への気づき

答えを先にいえば「関与しながらの観察」なのですが、それよりも重要なのは「日本心理研修センターが「関与しながらの観察」について公的に示した」ということです。
もちろん関与しながらの観察自体がそう狭い概念ではありませんから、これが単純に「定義」とは言えませんが、それでもやはり問題文のように「関与しながらの観察」を覚えておくことが試験を受けるにあたってはまず求められます。

解答のポイント

「関与しながらの観察」に関するサリヴァンの記述を把握していること。

選択肢の解説

①自己開示の活用

カウンセリングにおける自己開示について、簡単な歴史的経緯について述べましょう。
参考にしたのはこちらです(治療者の自己開示について、という項があります)。

伝統的精神分析においては、治療者の自己開示は患者の転移を汚染するとして禁忌とされてきました
しかし近年、治療者の個人的性質や情動的関与が治療過程に及ぼす影響が注目され、自己開示の是非が改めて議論されています

特に精神分析的精神療法では、治療者が患者の内面を探求していくという役割関係があるが、同時に、治療者も深く内省し一人の人間として患者と対峙する関係であって、そこには治療者としての生身が現れざるを得ません。
この職業的役割関係のように、その関係を通して目的があったり、話題があったり、互いに定められた役割があることを「三者関係」と呼びます。

一方、生身のやり取りでは、その関係自体が目的です。
例えるなら、赤ちゃんがお母さんに甘えるように、何かを目的とした関係ではなく、ただその関係自体を求めているという状態、これを「二者関係」と呼びます。

三者関係は役割があるのでどうしても不平等になりやすく、二者関係は平等な関係と言えます。
本来、精神分析での関係性とは三者関係が基本であり、そこに生身の二者関係が入り込んでくるということになりますし、そうならざるを得ないのです。
ただし、二者関係と三者関係が入り混じることは別にカウンセリングに限ったことではなく、日常的にもみられる現象ですから、それ自体が不自然なわけではありません。

もちろんカウンセリングでは、三者関係を維持することが基本であり、それを通して二者関係の問題に入っていく準備も行います(この辺が境界例の治療で重要なことです)。
ですが、やはりカウンセリングにおいても、カウンセラーの生身の部分は表現されざるを得ないものです。
大切なのは、カウンセラーが自らの自己開示によって、治療過程にどのような影響を及ぼしたかを自覚し検討しつつ面接を進めていくということです

思えば、カウンセラーはクライエントの目の前にいるだけで自己開示をし続けています。
年齢や性別、外見、服装、声のかけ方や声の高低。
これら全体がカウンセラーの纏う雰囲気となってクライエントに大きな意味をもたらすのです(カウンセラーの意図とは無関係に)。
このような視点で考えれば、自己開示は人間関係について回ることであり、それを一概に禁忌とするのは必ずしも治療的ではありません
繰り返しますが、自分の自己開示を細やかに把握し、その治療過程への影響を把握する力をつけることがカウンセラーの研鑽として正しい認識です

個人的には積極的に自己開示をした方がよいと思われることがあります。
それは面接の中でのクライエントとのやり取りで生じた種々の体験を、その心の文脈のままに正直に伝えるという作業です
これはできる人にはそう難しくないようですが、困難な人には非常に厳しいようですね。
ですが、これができるかどうかでカウンセリングの腕が一段上がるかどうかが変わってくるように感じます。

そしてクライエントとのやり取りで生じた体験は、何らかの形でクライエントに返すのが職業的に必要なことです
クライエントとのやり取りで生じた体験は、厳密に言えば、そのクライエントとの共同作業で生じたものですから、そのクライエントに返すことが求められます。
それがクライエントに返されることで生じてくるもの、それ自体が心理療法過程ということもできるのです。
この種の自己開示は、カウンセラーとしての責務と言うべきものですね。

以上、思いつくままに述べた部分もありますが、これらの内容は問題文のそれとは齟齬があるのがわかりますね。
よって、選択肢①は不適切と判断できます。

②治療同盟の確立

治療同盟については2018追加-121の中で詳しく述べているので、ここに再掲しましょう。
ちなみに作業同盟と治療同盟を同じ用語として解説しているので、その点ご承知置き下さい。

フロイトは晩年の論文の中で「治療者と患者は正常な自我を介して、治療のための同盟を結ぶ。この同盟こそ全ての治療過程の基礎である」と述べています
この考えは、メニンガーや土居健郎など現代の精神分析理論家にも受け継がれています。

そもそも心理的支援において、両者の間に関係が成立するのは、一方が何かしらの問題をもっていてその解決のために援助を求め、他方がその期待に応え得る専門家とみなされているからです
それはどんな濃密な人間関係が両者に生じたとしても変わりません。
決して、関係自体が目的になるわけではないということを常に心に留めておきましょう。
関係を治療的たらしめるには、クライエントとカウンセラーが互いにその役割をはっきりさせ、それを守ることによってです。

両者の役割を守ることは、あたたかい人間的交流を妨げることにはなりません。
一定の安定感のある状況・形式の中で、はじめて人は心を十全に開くことが可能になるのです
カウンセラーの善意や人間愛は、こうした状況・形式に沿って生じるのが筋であり、カウンセラーとしての役割を超えた善意や人間愛はあってはならないことです。

同時に、クライエントがこうした役割を超えた交流を求めてくる場合もあります。
クライエントと性的関係を結ぶというのはその極端な例ですが、一般的には、治療構造を揺さぶるような言動が見られるという形で現れやすいです。

互いに役割が定められているということは、カウンセラーにとってクライエントは個人的利害関係(単に金銭だけではありません)が生じない対象ということです。
だからこそクライエントは通常は表に出せない自分の姿を示すことができますし、役割があるからこそ、クライエントが秘密を語ったとしてもカウンセラーが変わらないだろうという安心感があるのです

こうした役割が定められれば、いわゆる治療構造についての取り決めの説明等が行われます
小此木先生グループが中心になって論じられてきた「治療構造論」ですね。
時間、料金、場所などが外的な枠組みとして定められることが多いです。
一方、内的な枠組みとしては「カウンセラーとしての限界」などもありますね。

これらの点を踏まえると作業同盟とは、カウンセリングにおけるカウンセラーとクライエントの協働関係に関する用語であり、

  1. カウンセリングの目標(どうなりたいのか、何をテーマにやり取りするのか)に関する合意
  2. 両者の間に形成される情緒的絆
  3. 構造論的な約束

などで成り立っていると言えますね

以上についてが治療同盟についての概観だが、この内容は問題文のそれと齟齬があることがわかります。
よって、選択肢②は不適切と判断できます。

③応用行動分析の適用

応用行動分析については、以前まとめています(こちらになります)。
応用行動分析に関しては「機能分析-実験的行動分析-応用行動分析」の流れで理解した方が良いと思いますし、上記の記事にも同じようにまとめていますのでここに再掲しましょう。

まず「機能分析」について学ぶ前に「行動分析」について述べていきます。
この2つの用語はほぼ同じように扱われていることも多いようですね。

まず「行動分析」についてです。
有斐閣の辞典によると定義が2つ示されています。

  1. 個体がなぜそのように行動するかを明らかにしようとする行動の客観科学。…⑤研究対象としてのヒトを含めた動物のオペラント行動などにその特徴がある。主要な研究領域に実験的行動分析と応用行動分析がある。
  2. スキナーの徹底的行動主義のパラダイムを用いた分析すべてを指す用語であるが、行動変容(応用行動分析)を行う際の対象児・者のアセスメントを指す場合もある。後者の場合、行動分析は弁別刺激-反応-結果の三項による随伴性が分析される。

2つ目の定義にある「三項による随伴性」とは、いわゆる三項随伴性のことであり、徹底的行動主義の主要な概念の一つです。
三項随伴性では、「問題を引き起こす先行刺激」「刺激に対するClの反応(標的となる問題行動)」「その反応から引き起こされる後続刺激(=結果)」という枠組みで、標的行動と環境との関連性のアセスメントをしていきます。

そして有斐閣の「臨床心理学」には、機能分析について以下のように記されています。

  • 行動を生じさせる刺激、それによって生じる行動、行動の結果という3つの要素の結びつき(随伴性)によって、行動が生じるというとらえ方である。そして行動と結果との随伴性を明らかにすることを機能分析と呼ぶ。

すなわち、行動分析の2つ目の定義が「機能分析」とイコールとなっているわけです。
そう考えると、「行動分析」は「機能分析」までを含んだより広い概念だと捉えることができます

いくつかの教科書等には、機能分析は「クライエントの問題行動を標的として、それを引き起こす変数を特定するとともに、その問題行動が維持されている環境との相互作用のメカニズムを把握する技術を指す」と心理療法の枠組みでは説明されているものも多いです。
しかし、上記の定義を考えれば、別に心理療法の枠組みに限るものではなく、動物を対象とした場合でも当てはまることがわかると思います

さて、こうした行動分析は有機体の行動の予測と制御を目標としています。
つまり、観察可能な有機体の行動と外界の出来事の間の関係を明らかにしようとするわけです。

具体的には、実験室等の厳密に制御された環境で、ヒトを含む動物を対象に、環境要因を直接操作し、環境への機能によって定義された行動を変容させることで、両者の因果関係を明らかにしようとするのです。
そして、行動分析におけるこうした研究領域を「実験的行動分析」といいます

この「実験的行動分析」で見出された変数を用いて、人間の行動問題の分析と修正を目的として「応用行動分析」が誕生しました
こちらがよく心理療法で用いられるタイプのものですね。
ASDの療育でよく活用されるものです。

さて上記より、これらの用語について説明するとしたら以下のようになると思います。

  • 行動分析:
    個体がなぜそのように行動するかを明らかにしようとする行動の客観科学であり、この中に機能分析を含む。
  • 機能分析:
    行動分析の中でもスキナーの徹底行動主義のパラダイムを用いた分析であり、特に三項随伴性を前提にしている。
  • 実験的行動分析:
    行動分析(機能分析も含む)を用いて有機体(動物とか)の行動の予測と制御を目標としたもの。
  • 応用行動分析:
    実験的行動分析で見出された変数を人間の行動問題の分析と修正を目的として応用したもの。ここでもスキナーの三項随伴性を通した分析、すなわち機能分析を用いた行動問題の分析が行われている

行動療法のモデルの中で「応用行動分析モデル」がありますが、それはこちらの応用行動分析の論理を用いているということです。

ここで示されたような説明は、問題文のそれとは齟齬があることがわかると思います。
よって、選択肢③は不適切と判断できます。

④関与しながらの観察

サリヴァンの関与しながらの観察については、その著書「精神医学的面接」で詳しく述べられております。
他の記事でもこちらについてまとめてありますので、こちらを転記しましょう。
以下が精神医学的面接における「関与しながらの観察」の関連部分です。

「「精神医学とは科学的方法を適用する根拠を有する領域である」とみなされるようになって以来のことであるが、われわれは「精神医学のデータは関与的観察をとおしてのみ獲得できるものである」という結論に達した。…目下進行中の対人作戦に巻き込まれないわけには行かないのである精神科医の主要観察用具はその「自己」である。その人格である。個人としての彼である。また、科学的検討に適合してデータとなりうるものは過程および過程の変化である。これらが生起するところは…観察者と被験者とのあいだに創造される場(situation)においてである」(p19)

純粋に客観的データというものは精神医学にはない。さりとて主観的データとそのままで堂々と通用するものもない。素材を科学的に扱うためには力動態勢や過程や傾向性をベクトル的に加算して力積をつくらなければならない。力積の作成操作を推論という。推論があちこちに飛び、思いがけない形を見せるところに精神医学研究の困難もあり、実用に耐える精神医学的面接の難しさもある」(p19-20)

精神科医は面接の中で起こる事態のすべてに深く巻き込まれ、そこから逃れられない。精神科医が面接への自らの関与に気づかずそれを意識しない程度がひどいほど、目の前で起こっていることに無知である度合いも大きくなる」(p41)

“客観的”観察のようなものは存在しない。あるのは「関与的観察」だけであり、その場合はきみも関与の重要因子ではないか」(p141)

「ジェスチャーや信号は、現在進行中の問答に関する面接者の考えをあけひろげにみせるものではないかもしれないが、被面接者に対して「面接者が人間である」ことを示唆する役には立つわけで、それで十分患者の支えになる」(p142)

「何を考えているのかの手がかりを全然示さない人、二人でどのようにしてゆくのが良いのかの鍵を全然与えてくれない人に面接を受けて、人生の大事な一面を検討されるとしたらどんなものだろうね?…要するにわれわれは(そんな能面のような人を相手としていたら)誰も自分の安全を感じないのである」(p142)

「精神医学は対人関係を研究する学である。対人関係は対人の場においてしか生じない。…対人の場とは二人の人間が互いに関わり合っている場合をいうのであって、この関わり合いを統合と言っている」(p80)

このようにサリヴァンは面接の中で面接者が影響を与えざるを得ないことを示しており、またそれによって面接者自身も影響を受けるのが自明であると捉えています。
そして、この相互作用を認識しつつ、そこで得られたデータを精神医学研究に用いることが重要であると捉えています。

また医師であるサリヴァンが示したという点から、もしかしたら問題文の主体が「治療者」になっている可能性もあります。
カウンセラーに限らず、医師やそれ以外の心理支援に携わる者全般に係わる概念ですからね。

以上より、選択肢④が適切と判断できます。

⑤自動思考への気づき

自動思考は認知療法において使われる用語です。
認知療法では、否定的自動思考と呼ばれる認知の歪みの是正を重視します

自動思考は、理論的に考えて生み出されるのではなく、自動的に思い浮かぶものであり、不合理であっても、本人には当然のことのように受けいれられてしまう思考のことです
また、自動的に思い浮かぶイメージも、自動思考に類するものとして扱われます。

認知では「スキーマ(深層にある信念や態度などの認知構造)→(推論の誤り)→自動思考」があり、推論の誤りは以下のものが示されています。

  1. 恣意的推論:証拠もないのにネガティブに
  2. 選択的注目:明らかなものには目もくれず、些細なネガティブに
  3. 過度の一般化:坊主憎けりゃ袈裟まで
  4. 拡大解釈と過小評価:失敗を人格全体に、成功を小さなものと思う
  5. 個人化・自己関係づけ:関係ないものを自分に関係すると思う
  6. 完全主義・二分的思考:白黒つけたい

こうした推論の誤りに対して、認知を同定・検証・修正するといった関わりや、ホームワークとして非機能的思考記録を取ってもらうなどの方法を採ることが多いです。

このように自動思考について述べたが、問題文の内容とは齟齬があることがわかります。
よって、選択肢⑤は不適切と判断できます。

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