公認心理師 2020-116

動機づけ面接の基本的スキルに関する問題です。

来談者中心療法の要素も入った方法なので、その辺で迷わせようとする選択肢が入っていますね。

問116 動機づけ面接の基本的スキルとして、不適切なものを1つ選べ。
① クライエントが今までに話したことを整理し、まとめて聞き返す。
② クライエントの答え方に幅広い自由度を持たせるような質問をする。
③ クライエントの思いを理解しつつ、公認心理師自身の心の動きにも敏感になる。
④ クライエントの気づきをより促すことができるように、言葉を選んで聞き返す。
⑤ クライエントの話の中からポジティブな部分を強調し、クライエントの価値を認める。

解答のポイント

動機づけ面接の基本的スキルを理解している。

※書籍によって「基本的スキル」という表現ではないので注意が必要。

選択肢の解説

動機づけ面接は、アメリカのMillerとイギリスRollnickによって開発された対人援助理論で、変化に対するその人自身への動機づけとコミットメント(約束)を強めるための協働的な会話スタイルです。

アルコールに関する問題を抱えるクライエントへの面接技法を研究する中で、良い結果が得られたカウンセラーの面談スタイルを実証的に解析することで、アルコール依存症の治療法として開発され、体系化されたという経緯があります。

クライエントが語ってくれる会話を通して、カウンセラーの「正したい反射」を抑え、行動変容に伴う両価性である「変わりたい、一方で、変わりたくない」というクライエントの気持ちや状況を丁寧に引き出し、禁煙や飲酒など、標的とする行動や変化に関する発言を強化することで、クライエント自らが気づき行動に繋がる、というプロセスを支えます。

来談者中心的要素に方向指向的要素が加わった面接スタイルでもあります。

欧米では、これまでアルコール依存症をはじめとする多くのランダム化比較試験によって動機づけ面接の効果が検証されており、結果には多少のばらつきはありものの、アルコールや薬物乱用をはじめ、健康増進行動、治療アドヒアランスなどの領域での有効性が示されています。

また、セルフヘルプワークや認知療法、ストレスマネジメントなどの他の治療法と組み合わせる
ことにより、その効果はより大きくなるとされています。

動機づけ面接法には、初回面接から有益であり、また支援過程全体を通して使用される4つの具体的な方法があります。

この4つの方法を織り合わせることにより、動機づけ面接という織物が出来上がっていきます。

4つの方法はクライエント中心療法に由来していますが、動機づけ面接では、クライエントが自分の両価性を探索し、変化への動機を明確にすることを援助するという特別な目的があります。

この4つの方法は、略語でOARS(Open question:開かれた質問、Affirming:是認、Reflecting:振り返り・反映、Summarizing:要約)と表されます。

動機づけ面接では、これら4つを通して、チェインジ・トーク(変化についての話)を引き出していきます。

本解説では、OARSの順番通りに選択肢を並び替えて解説していきます。

なお、本問の解説は以下の書籍を参考にして解説していきました。

② クライエントの答え方に幅広い自由度を持たせるような質問をする。

こちらは動機づけ面接の基本的スキルである「開かれた質問」を指しています。

特に動機づけ面接の初期においては、ありのままを受容する雰囲気をもって信頼関係を築き、クライエントがなんでも話せる環境を作ることが大切です。

そのためにこの段階では、カウンセラーは注意深く傾聴し、なんでも表現できるように励まし、主としてクライエントが話すように仕向けなくてはなりません。

動機づけ面接法に熟練した臨床家が行った面接を分析すると、クライエントが話した時間は、会話全体の時間の半分以上になっています。

動機づけ面接には、クライエントからある種の言葉を引き出し、変わろうとする動機を形成する過程が含まれるので、非常に重要になります。

クライエントがカウンセリングの時間のうち、ほとんどの時間を使って話せるようにする1つの鍵は、開かれた質問(簡単な答えでは答えられない質問)をすることとされています。

時には質疑応答の質問(Yes・Noで答えられる質問)も必要ですが、動機づけ面接の初期段階では、特にそのような質問はなるべく少なく、なるべく間隔を置いてすべきであるとされています。

面接は、クライエントが自分を探求するために、カウンセリングに対して心の扉を開くことができるような質問で始まり、そのような質問が続くことが望ましいです。

面接の前にクライエントの課題が明らかであれば、以下のような切り出し方が一例となります。

  • 「あなたがここに来たということは、話したいことがあるのだと思います。何についてご相談したいと思っていますか?」
  • 「相談したい件について、どのように考えていますか?」
  • 「〇〇に関してのご相談と聞いていますが、それで間違いがなければ、お話しいただけますか?」

クライエントによっては、開かれた質問では表現しようがないということもありますが、そのような場合には選択肢を提示して確認していくことが重要です。

なお、開かれた質問をするときにも、3つの質問を次々としてはいけないという原理を覚えておくことが大切です。

動機づけ面接の過程には、クライエントが両価性も含めて、自分の経験を開放的な気持ちで考えられるように援助することも含まれています。

開かれた質問であっても、時にはクライエントの方向性を変えることがあることを理解しておきましょう。

以上のように、動機づけ面接の一般的な形式では、開かれた質問で始め、考える課題を示し、その後、振り返りの傾聴や、他選択肢で解説する他の方法で応答することになります。

よって、選択肢②は動機づけ面接の基本的スキル(開かれた質問)として適切と判断できます。

⑤ クライエントの話の中からポジティブな部分を強調し、クライエントの価値を認める。

こちらは動機づけ面接の基本的スキルである「是認」のことを指しています。

カウンセラーがクライエントの持っている強みや努力、資源に注目できること、そして、そのことについて敬意を表した発言が是認で、カウンセラーが心から感じる気持ちで是認することが大切です。

発言だけではなく、クライエントの発話を強化する態度(表情や頷き、相槌など)も是認に含まれます。

カウンセリングの過程で、クライエントを直接的に認めて肯定し、支持することは治療関係を深めやすく、クライエントが心を開いて自己を探索するように促す一つの方法です。

一般に、クライエントを褒める形や、その価値を認めて理解を示す形で行われることが多いです。

具体的には以下のような言葉かけになります。

  • 「今まで、いろいろな苦労をされているから、苦しい時の対応の知恵はたくさん持っていますね」
  • 「それは良い考えですね」
  • 「あなたは本当に勇気があって、意志が強い方のようですね」

(個人的には「評価を含む言葉かけ」は好きではないのですが、あくまでも動機づけ面接の理論の説明ということで)

こうした会話に関しては、文化によって違和感を持たれる場合もありますから、その文化の標準に合わせて調整する必要もあります。

いずれにせよ、クライエントに内在する力や努力を注意深く探し、適切に認めて肯定することが大切です。

以上より、選択肢⑤は動機づけ面接の基本的スキル(是認)として適切と判断できます。

④ クライエントの気づきをより促すことができるように、言葉を選んで聞き返す。

こちらは動機づけ面接の基本的スキルである「振り返り」「反映」に該当します。

動機づけ面接で最も使われるスキルで、クライエントが発言した言葉をクライエントに返すことであり、単純な聞き返しと複雑な聞き返しがあります。

単純な聞き返しは、クライエントの発話を繰り返し、もしくは、言い換えて応答することであり、複雑な聞き返しは、クライエントの発話に対し、その発話の中で語られていない内容や続いて語られそうな内容をカウンセラーが推測し付け加えて返します。

複雑な聞き返しをすることによって、方向を持つ面接への後押しとなります。

複雑な聞き返しの例としては、語られていない気持ちや感情を含めたり、クライエントの発した言葉について、少し強め、もしくは少し控えめな表現で返す、などがあります。

これらは自己動機づけ発言(チェンジトーク)を引き出すために用いられることになります。

Thomas Gordonは、「振り返り」に該当しない反応を以下のように略述しています。

  1. 命令する、指示を与える
  2. 警告する、注意する、脅す
  3. 助言を与える、提案する、解決策を与える。
  4. 論理的に説き伏せる、議論する、講義する
  5. 何をすべきかを道徳的立場から説得しようとする
  6. 反対意見を述べる、裁く、批判する、責める
  7. 同意する、承認する、褒める
  8. 辱める、あざける、レッテルを貼る
  9. 解釈する、分析する
  10. 安心させる、同情する、慰める
  11. 尋問する、探りを入れるような質問をする
  12. 興味を示さない、気を散らす行動を取る、冗談を言う、話の途中で話題を変える

ゴードンはこれらの応答を「障害物」と名付け、人が進む本筋からその人を逸らすものであるとしました。

動機づけ面接における「振り返り」は、障害物のいずれとも異なるものであり、クライエントが本当に話したいことを推測する応答となります。

以上より、選択肢④は動機づけ面接の基本的スキル(振り返り)として適切と判断できます。

① クライエントが今までに話したことを整理し、まとめて聞き返す。

こちらは動機づけ面接の基本的スキルである「要約」に該当しますね。

要約を述べることは、それまで話した事柄をつなぎ合わせ、強化する役割を果たします。

動機づけ面接における「要約」は、少なくとも3つの方法が提示されています。

一つは「集める要約」であり、これは、花束をつくるという比喩で表現されることも多いです。

矛盾すること、もの及び行動、それらに対する態度や感情、キーポイント(うまくいった、うまくいっている)、資源となるところ等を注意深く聴き、その中から1本1本「花 」を選んでいき、その「花」をまとめて、温かく、共感的に、善悪の判断を差し控えて、クライエントに花束として提示するのです。

もう一つは「繋ぐ要約」です。

これは今話した事柄と、以前に話した事柄を繋ぐという要約法です。

この要約には、それまでに話した事柄の関連性を振り返ってみるように勧める目的があります。

「繋ぐ要約」は、両価的状態を明確にするために大変役立ちます。

この要約では、矛盾は矛盾のまま提示し、この両方の存在を認められるようにするための方法でもあります。

「花」の選び方はクライエントが心の中で対立する感情を解消して実際の具体的な行動に移せるように、クライエントの変化へのニーズやメリットを引き出しながら、クライエントが変化したい方向とは矛盾をしている行動や考え方をしていることに気づいていけるようにまとめることがポイントです。

最後が「移行期の要約」になります。

この要約法では、ある課題から次の課題に移ることを明確にし、宣言します。

特に初回面接の終わりに、その面接の内容を「移行期の要約」でまとめ、結局のところ何が変わったのかをまとめておくと効果的です。

要約する時には、その中に何を含め、何を強調するかはカウンセラーが決めるということを覚えておくことが大切です。

この要約を始めるときには、これから何が始まるかを告げる前置きの言葉で始めると効果的とされています(「まとめたいと思います」みたいな感じで)。

こうした要約を繰り返し行っておくと、面接で達成したことを前提に面接を続けることができます。

以上のように、選択肢①は動機づけ面接の基本的スキル(要約)として適切と判断できます。

③ クライエントの思いを理解しつつ、公認心理師自身の心の動きにも敏感になる。

こちらは動機づけ面接の基本的スキルであるOARS(Open question:開かれた質問、Affirming:是認、Reflecting:振り返り・反映、Summarizing:要約)には該当しない内容です。

動機づけ面接は、来談者中心的要素に方向指向的要素が加わった面接スタイルでもありますが、本選択肢の内容はそれこそ来談者中心療法のスタイルを指していると言えるでしょう。

来談者中心療法の有名な概念として、いわゆる「三条件」があります(もともとの理論では六項目挙げられていた中で、特に重要とされた三つが抽出されて、こう呼ばれている)。

三条件は「無条件の肯定的関心」「共感的理解」「自己一致」になりますね。

本選択肢の前半部分(クライエントの思いを理解しつつ)は共感的理解を、後半部分(公認心理師自身の心の動きにも敏感になる)は自己一致をそれぞれ指していると考えられます。

来談者中心療法の創始者ロジャーズによると共感的理解とは、「共感は他者の私的な知的世界に潜入しそこですっかりくつろぐことである。それはその人の中に流れ変容し続けている、その人に感じられている意味、恐れとかもろさとか混乱とか、その人が経験しているあらゆるものに刻々と敏感であり続けることである。その人の生の中に一時的に住まい、その中を何の批判もせずにこまやかに動き回り、その人がほとんどといってよいほどに意識していない意味を感じ取ることである」というものです。

このロジャーズの考えを知っていれば、カウンセリングをはじめて10年20年程度の人間が「共感できた」「共感した」「共感が大事だよ」などと言えないと断言できるほど、共感は至難の業です。

そして「自己一致」に関しては「関係の中で、彼が、自由にかつ深く自己自身であり、彼の現実の体験がその自己意識によって正確に表現される」と述べています(あくまでも関係の中で、という限定されているのがミソですね。生活すべてで自己一致するなど、おそらく不可能でしょう)。

この表現ではわかりにくい人もいるかもしれないので、もう少し詳しく述べると「カウンセリング場面で生起するカウンセラーの様々な感情(たとえば、「このクライエント嫌い」「怖い」「自分のことで頭がいっぱいで、話を聴く気になれない」)を、否定しないということであり、それを否定してしまうことは、自分自身もクライエントを欺くことになり、そうした状態は、自己一致の状態から一番遠ざかってしまう」ということです。

こちらもなかなか至難の業ですね。

手始めに、自分の内側に湧いてくる感情や思考を、自分のものであるという自覚をしっかりと持つことくらいから始めてみると良いかもしれません(意外とこれが難しい)。

私は「自分のある考えがどのような流れ(自分の生まれや育ちなども含めて)によって生じたのかを、明確に説明できる」ように工夫していますが、これが自己一致を意味するかどうかはわかりません(わかりませんが、臨床には役立っています)。

以上のように、本選択肢の内容は動機づけ面接ではなく、来談者中心療法の理論を背景にした内容であることがわかりますね。

よって、選択肢③は動機づけ面接の基本的スキルとして不適切と判断できます。

なお、来談者中心療法について学びたいという方は、以下の書籍がお勧めです。

今は亡き佐治先生が編集された書籍です。

昔は有斐閣新書から出ていましたが、新版になり綺麗な装丁になりました(が、値上がりしている!)。

来談者中心療法についてロジャーズ自身の論文を引用しながら丁寧に解説してありますから、初心者の方、これから来談者中心療法を学びたいという方にもお勧めです。

佐治先生は「西の河合隼雄、東の佐治守夫」と呼ばれるほどの臨床家でした。

佐治先生の書籍としては、以下がお勧めです。

佐治先生は著作集も出ていますが、こちらが一番読みやすいかなと思います。

いずれも新書サイズですから、比較的読みやすいと思いますよ。

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