公認心理師 2018追加-53

精神力動療法について、適切なものを2つ選ぶ問題です。

力動的精神療法については「精神力動療法」という名称で統一される可能性が出ましたね。
公認心理士資格試験で精神力動療法が出たのはこれが初めてだと思います。

解答のポイント

精神力動療法の重要概念である「無意識」について把握していること。
その他の心理療法の基本的概念について把握していること。

選択肢の解説

『①クライエントの主観的世界を理解し受容する』

こちらはロジャーズのクライエント中心療法に関する内容となっています。
公認心理師2018-121が類似した内容で、参考になります。

ロジャーズは「治療上のパーソナリティ変化の必要にして十分な条件」において6つの条件を挙げています。
その4番目に「セラピストは、クライエントに対して無条件の肯定的配慮を経験していること」とされています。
更に、5番目に「セラピストは、クライエントの内的照合枠を共感的に理解しており、この経験をクライエントに伝えようと努めていること」という条件が記されています。

4番目の内容は、セラピストがクライエントの体験の全ての側面を、そのクライエントの一部としてあたたかく受容していることを体験しているならば、クライエントはそれだけで無条件の肯定的配慮を体験している、となります。

5番目については、カウンセラーが可能な限りにおいてクライエントの内部的照合枠を身につけること、クライエントが自ら眺めているままにクライエント自身を知覚すること、そのようにしている間は外部的照合枠にもとづく一切の知覚を排除しておくこと、そして、その感情を移入して理解したことをコミュニケートすること、となります。

これらがいわゆる「共感的理解」「受容」と表現される現象となっています。
ちなみに「主観的世界」とは、クライエントの内的照合枠のことを指していると見て間違いないでしょう。

以上より、選択肢①は不適切と判断できます。

『②不安や恐怖を喚起して、それを段階的に和らげていく』

こちらは行動療法における系統的脱感作法を指していると思われます。
公認心理師2018-80の選択肢④が参考になります。

いわゆる逆制止を用いた技法であり、不安や恐怖の刺激が現れるときにリラックスする状態をつくり、不安・恐怖刺激に遭遇しても不穏感情が生じにくくすることを目的としています。
単純に言えば、恐怖状態では筋緊張が生じやすく、恐怖と筋緊張とがつながっている状態であると言えますが、その筋緊張に拮抗する刺激であるリラックス状態を作る(これを逆制止と言います)ことで、恐怖を緩めていく方法となります。

類似した技法として、フラッディング、エクスポージャー、曝露反応妨害法などがあります。
ただし、フラッディングやエクスポージャーは「和らげていく」という作業を入れることはなく「馴れさせる」ことが目的です(フラッディングは最大強度から、エクスポージャーは段階的です)。
曝露反応妨害法も、不安を喚起させて、その対処行動(手洗い等)を「妨害」する技法です。

系統的脱感作法では「不安階層表」を作成し、軽いものから段階的に不安・恐怖を喚起し、緩めていくという作業を繰り返し行っていきます。
この「段階的に緩めていく」という点が、本選択肢の内容が系統的脱感作法だという根拠となります。
類似した方法はありますが、やはり行動療法の代表的技法なので押さえておきたいところです。

ちなみに、脱感作はもともと「過敏性の原因となるアレルゲンをごく少量注射し、しだいにその量を増して過敏性を減弱させる方法がとられる」ことを指します。

以上より、選択肢②は不適切と判断できます。

『③無意識的な心的過程が存在することが基本前提となる』

「無意識」の発見者は精神分析ではありませんが、病の所在は無意識界にあるとして前面に押し出したのは精神分析です。
フロイトはこの存在をさまざまな失錯行為、夢、催眠術、神経症などを証拠としてあげています。
精神分析学では、この無意識の存在を前提とし、無意識裡での心的エネルギーの活動を描き出します

そもそも「力動論」とはダイナミックな相互関係があって、相互交流しているというダイナミズムについて考えることから名づけられました。
その相互交流している舞台にあたるのが構造論の中の「局所論」と呼ばれている、意識・無意識・前意識というところです
ここを舞台としている心的エネルギーの動きを描き出すわけですね。

以上より、選択肢③は適切と判断できます。

『④催眠療法から発展して外傷体験を想起させる方法へと移行した』

フロイトが神経症に興味を持ったのはAnna,O.の症例からです。
1880年~1882年までフロイトの先輩であるBreuerによって治療されていましたが、多彩な症状が出ていました。
彼女がある症状が現れた当時の事情を詳しく物語っているときに、その症状が消失することに気がつきました。
他の症状についても同様の手続を行い、Breuerはこの治療法を「カタルシス(浄化法)」と呼びました。

フロイトが実際にカタルシスを用いるようになったのは1885年のフランス留学の頃からです。
彼はこの年にシャルコーのもとで、ヒステリーが暗示によって強く影響されることと、これらの症状が外傷的体験を契機に発生するという学説を学びました。

この学説を持ち帰りはしましたがあまり受け容れられず、その後、フロイトはさまざまな治療法を試みたのち、1887年ごろから催眠療法に手を付け始めました
その後、もう一度留学し、催眠療法をより深く学びました。
そして、催眠療法とカタルシスを併用してヒステリー患者の治療に専念するようになったのです

フロイトは、ヒステリー患者も過去の外傷体験を必ず想起できると考えていました。
この頃はまだ事実として性的な外傷体験の存在を確信していましたが、その後それに疑念を抱くようになりました
フロイトは患者の語りが事実ではなく性的空想によるものと突き止めますが、この空想の中にこそ重要な心理的事実が含まれていることを発見しました。

この頃には自由連想法を完成させており、この方法によって、表面から隠れている患者の精神内界を探ることが可能となっています。

以上より、選択肢④は適切と判断できます。

『⑤不快感や恐怖などの感情を喚起する内的なイメージや思考を変容させる』

こちらは第2世代の行動療法についての記載になります。
公認心理師2018-80の選択肢⑤などが類似問題となります。

Beck,A.T.の創始した認知療法の中核理論として、否定的自動思考と呼ばれる認知の歪みの是正を重視しています。
また、Ellisの創始した合理情動療法では、非合理的信念に対して論駁することで変化を目指しています。

これらの理論は選択肢の内容を示していると見て相違ないでしょう。
よって、選択肢⑤は不適切と判断できます。

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