初回面接

初回面接については、語るほどに長くなります。
今回は大枠の大切なこと、過去問で問われていることなどを踏まえて解説を行っていきます。
こちらもブループリントに出題されていますね。

初回面接で行うこと

インテーク面接では、クライエントの見立てを行うための情報収集、すなわちアセスメント面接を行います。
アセスメント面接の結果、所属機関で受け入れてカウンセリングを実施する場合、その第1回目の面接以降(クライエントからすると2回目以降)がいわゆる「治療的面接」とされます。
もちろん、アセスメント自体は治療的面接の中でも刻々と行われているものではありますが、治療を開始する上での見立てや所属機関で受け入れられるか否かといった判断をするためのアセスメント面接は治療的面接実施前に行うのが一般的と言えます。

さまざまな指摘はあるでしょうが、初回面接で行うことは以下の2点となります。

  1. 本人との信頼関係の形成:ラポールの形成
  2. 見立てに必要な情報収集:アセスメント
これらは相補的であることが重要です。
すなわち情報収集を行うことが、そのままラポール形成につながるよう努力する必要があるということです。
こちらが聞きたい、クライエントは話したくない、ということばかりを聴取していては、当然ですが信頼関係を築くことは難しいですよね。
大切なのは、こちらも聞きたい、クライエントも話したいということを聴取しながら、必要な情報についても聞いていくことです。
決してどちらかが優先的になることで、もう片方がおろそかになるようなことがあってはなりません。
どちらも同じくらい重要なものです。
上手な人は、頷きや相槌の打ち方などで、どんどんクライエントが話してくるようになります。
それはただ頷けば良いのではなく、クライエントが大切に思っている事項でしっかりと頷いていること、そのタイミングなどが大切なわけです。
初心者などで過剰に頷く人がいますが、クライエントによっては「わかったふりをしている」という疑念を抱かせることにつながりかねません。
【2018追加-16④、2018追加-34②】

初回面接の特性とラポールとの関係

心理療法で古くからある考え方に「インテーカーと治療担当者が別」というものがあります。
実際にはそれらを別に勤務させるような形態を採ること自体が難しいので、あまり実践的ではないようにも思えます。
しかし、インテーカーはやはり見立て等の力が必要という点で初心者では困難なことも多いため、大学院教育ではインテーカーが教員や経験のあるカウンセラー、担当が学生ということもあります。

この手法は様々な問題があると言えます。
例えば、見捨てられ不安のあるクライエントの場合、そういう構造自体に拒否感を持つこともあり得ます(特にインテーカーの方が経験があるわけですからね)。

ですが今ある構造に文句を言ってもしょうがありません。
臨床では、今あるものの中で最高のパフォーマンスができるように考えることが重要です。
この場合の問題としては、インテーカーが変わるためにラポールをどのように考えるのか、ということがあります。

当然、インテーカーが変わるわけですから、インテーカー個人へのラポール形成は望ましくありませんね。
では、どのように考えるのか?
私は「インテーカーの背後にある、カウンセリングという世界へのラポールを深めること」を目標に行うことが重要だと考えています。

そのための細かな工夫もしてみると良いでしょう。
例えばインテーカーの主語が「我々は~と考えています」などのように、自分個人とするのではなく全体的な呼称にするなど。

初回面接での観察点や留意点

初回面接では様々な視点を用いて見立てを行います。
それは何も言語的なやり取りからではなく、むしろそれ以外から得るものが多いのです。

相談票の記入:
字のまとまり具合はいかほどか。
筆圧はどの程度か。こちらは小中学校の面接でも留意してよい。
家族歴に自分(子ども)の名前を書くか否かも重要。書かなければどういう意味があるのか?
書く際の家族とのやり取り等々。この点に注目したのが「コンセンサス・ロールシャッハ法」です。家族が反応を話し合う中での力動を見るわけですね。

待合室での様子:
待合室→診察室の変化。要はリラックスした状態から緊張状態への変化を見る。
立ち上がる様子はどのような感じか。どんなに元気そうに見えても、立ち上がる様子は誤魔化すことができない。
付添者とどのような位置関係で座るか。ぴったり寄り添うか、離れて座るか。寄り添おうとしているのに離れる付添者などなど。

家族の同席について:
家族が同席を希望する場合どうするか。
本人が先か家族が先か。
年齢によっては同席か否かを尋ねた時の決め方等々。
家族から聴取したことは本人に話すことがあっても、その逆はない。もちろんその場合、家族に了承は取るが、それを拒む場合は拒む理由が重要。

現病歴の聴取:
現在の問題・症状、それらによる生活の支障具合。
医療機関受診の有無。

来談動機・経路の聴取:
特に「なぜ他ならぬ今なのか?」という問いは非常に重要。
心理的問題はいきなり出現するものではなく、ある程度の期間維持されていることが多い。だから「今日来たこと」にとても大きな意味があることも多い。

また、それを問うことでクライエントが来談に際して抱えている葛藤をやり取りすることもしやすくなる。
来談への葛藤は心理療法の最初に扱う必要があるくらい重要な事項である。

クライエントがカウンセリングに何を求めているのかを問うこと、つまりニーズを問うことが来談動機について問う場合の手法でもある。
この質問は非常に重要で、そのニーズの持ち方、例えば、過度な期待をしているなどからクライエントの特徴が現れたりする。

【2018追加-13④】

生育歴の聴取:
教育歴、職歴、結婚歴、遺伝負因(死亡者の死因)、違法行為、過去の症状について、など。
生育歴についても相談票の中で聞くことが多い。
初回面接で問うこともあるが、クライエントの主訴によっては生育歴の聴取が違和感を与えることも多い。
例えば成人のクライエントの場合、生育歴と症状が無関係であると感じているクライエントも少なくない。
そういう時に生育歴を問うと「当てはめようとしている」という思いを抱かれかねない。
クライエントによっては生育歴を問うことに固執し過ぎるのも良くないだろう。

と言っても生育歴が重要な情報であることは間違いない。
なので、聴取の際、クライエントの思いとずれそうな気がするときには、あらかた主訴について聴いた上で「これは皆さんにお聞きしていることなので、お願いします」と生育歴について尋ねるのが安全である。
私は「刑事がアリバイを聞くとき風」と称している。

【2018追加-13②】

その他:
家族からの情報で「なぜその情報を本人を前に言えないのか?」という問い。
最後にきちんと見立てを伝えること、希望を処方する、などなど。

臨床心理士資格試験問題からの抜粋

臨床心理士資格試験では初回面接に関する問題が複数出ています。
その選択肢を集めると、以下のような事柄が初回面接に行われる事項であると捉えられているのがわかります。
  • 面接の進め方について説明し、了解を得る(努力をする?)。
  • ラポールをつけるための努力をする。例えば、クライエントの状況がよくわかっていないのに安易に助言をするなどを避けること。
  • Clの主訴やカウンセリングに対する期待を聞き取る(過度な期待は?)。
  • 延長することが多いので、時間的余裕を持つ(河合先生も言っている)。
  • インテークで心理テストを実施するのは原則ではない。
  • 面接をしていくか否かの契約も話し合う。
  • 「かつてその問題にどのように対処したか」という質問が大切。
  • 守秘義務の伝達(例外事項の伝達も:自傷他害)。
  • 明らかに現実と異なっていても、まずは聞いていく(内的現実の重視)。決して外的現実を軽視するわけではない。主観的現実を受けとめ理解しようとする態度が見られない人に、自分の内面を表現しようという気にはならない。
これらは基本的にはインテーカーが行うことであると捉えられていますが、治療的面接の担当者でも重なる部分は多いでしょう。
【2018追加-16①②】

初回面接について間違えられやすいこと

初回面接に限らずですが、特定の教育を受けている場合に、しにくくなること、できなくなっていることがあります。
以下に思いつくまま挙げていきましょう。
疑義を唱えてはならないわけではない:
クライエントの語りに対して、疑問を覚えることもあるでしょう。
そういう時には質問をすること、時には「○○の点について私は理解できていない」ということを率直に伝えることが重要です。
そうしたアプローチ自体が心理療法的な関わりになることも少なくありません。
例えば、母子の一体感が強い場合の母親では、主語が明確にならず誰の気持ちを語っているのか不明瞭になる場合があります。
そういう時に「それは誰の思いなのか?」「お子さんはそういう風に言っていたのですか?」と確認することは自然ですし、それ自体が場合によっては必要です。
もちろんインテークというラポール形成も大切な場ですから、「それはお母さんの質問の仕方が、そちらに傾くような問い方をしていたからではないのですか?」といった突っ込んだ物言いは避けるのが無難でしょう(それも相手によりけりですが)。
見立てのための情報収集を行うという目的が初回面接にある以上、見立てに必要な情報や流れが見えない事柄についてはクライエントの負担の程度等を踏まえつつ疑問を差し挟んでいくことが通常です。
【2018追加-16③】
そのままの言葉を返すということを前提としない:
ロジャーズ派の教育を受けてきた人に多い傾向です。
ロジャーズ自体はそのようなことを言っていないのですが、そのままの言葉を返すというアプローチの教育を受けることが多いようですね。
なぜそのような教育がなされるのか?
おそらくですが、ロジャーズが解釈というものに対して疑義を唱えているということが影響していると思われます。
「そのままの言葉を返す」ということによって、そこにカウンセラーの意図を差し挟むことができなくなりますね。
相手の言っていることを単純に決めつけず、病的な枠組みや診断の枠組みをすぐにもってくるのではなく、その意味についてはクライエントが「知っている」という立場をロジャーズは取るわけです。
しっかりと聴いていくことで、それをクライエントが発見・表現してくるということですね。
そのように考えると「そのままの言葉を返す」というのは、あくまでも方法論であり、大切なのはその根底にある思想であると言えるでしょう(なんでもそうでしょうけど)。
カウンセラーとして持つべきなのは、不確実性に耐える肺活量であり、とある枠組みにスピーディに当てはめていく力ではないのです。
これは学派・流派を超えて共通であると思われます。
解釈を重視する精神分析でも「乱暴な分析」は厳に慎むようフロイトが指摘していますね(フロイトは「共感」も重視していますよ)。
【2018追加-16③】
定型の質問:
面接構造には、構造化面接・半構造化面接・非構造化面接があります。
以下のように分けることができます。
  • 構造化面接法:
    あらかじめ設定された仮説に沿って、事前に質問すべき項目を決めておき、仮説の妥当性を検証するためのデータを統計的に収集することが目的であることが多い。
  • 半構造化面接:
    あらかじめ仮説を設定し、質問項目も決めておきますが、会話の流れに応じ、質問の変更や追加を行って自由な反応を引き出すもの。
  • 非構造化面接:
    質問項目を特に用意はせず、被面接者の反応に応じ、自由に方向づけを行う。多面的・多層的・全体的なデータを収集して、仮説を生成することが目的であることが多い。
初回面接では、その構造上問うことが自然な質問がいくつかあります。
例えば「来談動機」「主訴の聴取」などですね。
それを問いつつ、出てくる内容によっては質問が変わってくるのですから、半構造化面接に近いイメージかもしれません。
もちろん構造化面接も行うことが想定されます。
代表的なのが「心理検査の実施」ですね。
これは質問項目が決まっているわけですから構造化面接の代表と言えます。
ただし、初回面接で心理検査を行うことがあっても、面接全体が定型の質問で埋め尽くされるということはありません。
そのクライエントや主訴の内容、所属している機関などによってフォーカスする部分が変わってくるのは当然のことと言えるでしょう。
また心理検査の結果を重視しすぎるのも問題です。
なぜなら、インテーク場面は一定にしつらえるのが難しく、しかもインテークではクライエントの緊張もあるため、どうしても結果に歪みが生じやすくなります。
ちなみ「定型の質問には答えやすい」と考えるのは誤りです。
それは質問内容によりますよね。
答えやすい質問とは、一般的には、Yes・Noで答えられること、いつ・どこで・誰がなどのようなクローズドな質問になります。
これらは引き出すことができる情報量は少ないものですが、それ故にクライエントに与える負担は少なくて済みます。
本当に上手な人は「なぜ~なのでしょう?」という「why」の質問形式を採ることなく、それ以外の質問形式(who、which、whereなど)を通して「why」で引き出される情報を得るのです。
初回面接の腕を上げたいと思う人は「なぜ」という言葉を禁止して臨むと良いでしょう。
それは「なぜ」と問われたときの心理的負担感にも敏感になるということであり、それはクライエントへの不要な負担を減らそうとする努力にもつながります。
【2018追加-13③、2018追加-16⑤】

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