公認心理師 2023-17

ASDの診断用評価尺度に関する問題です。

「診断用評価尺度」というところがポイントで、スクリーニングに関する基本的な考え方を背景に持っておくとわかりやすいでしょう。

問17 自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害〈ASD〉の診断用評価尺度として、最も適切なものを1つ選べ。
① ADI-R
② CONNERS3
③ KABC-Ⅱ
④ M-CHAT
⑤ WISC-Ⅳ

解答のポイント

各検査の特徴を把握している。

選択肢の解説

① ADI-R

ここではまずスクリーニングに関して述べていきます。

スクリーニングとは「無症状の者を対象に、疾患の疑いのある者を発見することを目的に行う検査」のことであり、例えば、胃がん検診の胃部間接X線撮影、大腸がん検診の便潜血検査などが、これに該当します。

便潜血があったからといって即大腸がんであると言えず(お尻が切れていたら血が混ざる等)、大腸内をカメラで見るなどの次段階スクリーニングに移っていくことになります(そこで怪しい部分があったら切り取って、検査をしてがん細胞であると判断されればそこで診断になる。たぶん)。

自閉症スペクトラム障害のスクリーニングには以下のような段階があります。

  • 第1スクリーニング:
    発達障害の特徴があると判断されたケースや療育・医療・福祉機関などにすでにかかっているリスクの高いケースを対象に、ASD、ADHD、LDなどの弁別をするためのアセスメント。
    代表的な検査が、M-CHATでありASDの早期発見においては非常に有用なツール。
  • 第2スクリーニング:
    ハイリスク群に対して弁別的診断の方向性を得ることを目的に行われる。
    代表的なのが、AQ、AQ児童用、PARS、SCQ、CARSなど。
  • 診断・評価:
    代表的なのが、ADOS、ADI-R、CARS2など。

このように、検査によってどの段階のスクリーニングを担っているかはかなり異なります。

段階が浅い方が多くの対象者に簡便に実施できるなどの利点がある分、どうしても精度が下がってしまい「診断」というほどの確度をもつことは難しいです(でも第一段階では、広く活用できることの価値の方が大きいわけです。リスクがある人を早期に把握できるから)。

本問で求められているのは、最後の「診断・評価」段階にあると思われるので、ADI-Rは適切なツールだと言えます。

ADI-Rは、DSM-ⅣおよびICD-10で診断的意義があるとされる3つの機能領域に焦点を当てて構成されています。

診断基準の3分野に対応した「相互的対人関係の質的異常」、「意思伝達の質的異常」、「限定的・反復的・常同的行動様式」に、「生後36カ月までに顕在化した発達異常」を加えた4領域についてスコアリングし、それぞれのカットオフ値をもとに診断評価を行います。

質問は全93項目から成り、①対象者の背景情報、②行動の全体像を捉える導入質問、③初期発達と重要な発達指標に関する情報、④言語・その他のスキルの獲得と喪失、⑤ASDに関する機能領域(「言語と意思伝達機能」、「社会的発達と遊び」、「興味と行動」)、⑥その他の臨床的意義のある行動全般について尋ねます。

対象者の発達歴や行動特徴を詳細に把握し、治療・介入計画の立案に役立てることができますし、治療・介入による変化など症状の経時的変化の指標として活用することも可能です。

また、各検査を特徴を踏まえて組み合わせることも重要です。

ADI-Rは過去の特性を主として診断の判定をし、ADOSは現在の特性で判定を行い、診断においては相補的な関係にあると言えます。

また、支援を考えるうえでは、ADI-RによってASD児者に対して周囲の人が感じている困難や課題の情報を得ることができ、ADOSによって専門家からみたASD児者の対人コミュニケーションの特徴に関する情報を得ることができます。

これらを総合して、日常で役立つ支援を構築できるとされています。

上記の通り、スクリーニングにはさまざまな段階があり、ADI-Rは診断用評価尺度として活用されていることがわかりますね。

よって、選択肢①が適切と判断できます。

② CONNERS3

こちらはADHDの症状の特定、行為障害、反抗挑戦性障害、不安、抑うつなどの鑑別診断または共存診断、影響のある機能領域の説明、介入の方針の提案といったADHD評価で主要な局面にてその有用性を発揮するとされています。

6つの主要因スケール(不注意、多動性/衝動性、学習の問題、実行機能、攻撃性、友人/家族関係)によって構成されています。

上記のスケールにある通り、ADHDを中心としつつ、それと関連が深い問題(行為障害など)についての評価を行うことも可能です。

適用年齢も6歳~18歳とされております。

以上より、選択肢②は不適切と判断できます。

③ KABC-Ⅱ

K-ABC(Ⅱじゃない方)は、2歳6か月~12歳までの子どものための個別式知能検査です。

その特徴としては、①認知処理能力と習得度を分けて測定すること、②認知能力をルリア理論(継時処理と同時処理)から測定すること、などが挙げられます。

認知処理過程尺度に継時処理尺度(3つの下位検査)と同時処理尺度(6つの下位検査)があり、それとは別に習得度尺度(5つの下位検査)が加わる形で構成されています。

算数や読み(習得度)などで困難さを示す発達障害等のある子どもにとっては、情報を処理する認知処理能力を習得度(語彙や算数など)と分けて測定することが望ましいというのがカウフマン夫妻の考え方です。

2004年に、K-ABCが改訂されてKABC-Ⅱが刊行されました。

日本版KABC-Ⅱでは、「認知-習得度」というカウフマンモデルを継承しながら、大幅な改良が加えられています。

主な点としては、以下が挙げられます。

  1. 適応年齢の上限が12歳11か月から18歳11か月になった(下は2歳6か月)。
  2. 認知処理の焦点が「継時、同時、計画、学習」と拡大された。
  3. 習得度で測定されるものが「語彙、読み、書き、算数」と拡大した。

ちなみにアメリカ版ではKTEA-Ⅱという優れた個別学力検査があるので、K-ABCの習得度に含まれていた「算数」「言葉の読み」「文の理解」はのぞかれています。

上記の通り、KABC-Ⅱは、①認知処理能力と習得度を分けて測定すること、②認知能力をルリア理論(継時処理と同時処理)から測定することが特徴であり、こうした点に課題があると思われる子どもに実施されることになります。

算数や読み(習得度)などで困難さを示す発達障害等のある子どもにとっては、情報を処理する認知処理能力を習得度(語彙や算数など)と分けて測定することが望ましいということですから、自閉症スペクトラム障害に限定された検査ではありません。

以上より、選択肢③は不適切と判断できます。

④ M-CHAT

M-CHATは、自閉症スペクトラムのスクリーニング尺度です。

一部の項目が全国の1歳6ヶ月乳幼児健診で必須チェック項目となっているほか、一部の自治体の健診では悉皆スクリーニングとして活用されています。

18~24ヵ月の幼児が対象なので、保護者が記入し評価者が採点を行うという方式を採用しています。

こちらのページに、実際の物があるのでご参照ください。

ただ、M-CHATについては、これのみで評価するのではなく、M-CHATを第一段階として、これに陽性であれば第二段階の面接が必要とされています(選択肢①の解説の通りです)。

あくまでも一次スクリーニングであり、それのみで診断をしていくわけではないということです。

こちらのサイトにもあるように、M-CHAT陽性と判断された子どものうち二人に一人は自閉症スペクトラム障害ではない(=陽性的中率は50%程度)であり、あくまでも第二段階(スクリーニングとその後の精査)のステップにつなげ、これを丁寧に行うことによって自閉症スペクトラム障害になる子どもの早期診断につながることが期待されており、実際に成果が上がっています。

上記の通り、M-CHATは自閉症スペクトラムのスクリーニング尺度ではありますが、あくまでも一次スクリーニングであり、それのみで診断をしていくものではありません。

よって、選択肢④は不適切と判断できます。

⑤ WISC-Ⅳ

WISC-Ⅳの細かいことについては、こちらに記載してあります。

WISC-Ⅳの活用法は現場によって様々ですが、概要としては知能を測ることができる、知能をいくつかの機能に分けて、その各機能についても測ることができる、という知能検査ですね。

その特徴を生かして、問題が窺える、知的機能のバランスに偏りがありそう、といった子どもに対してWISC-Ⅳの実施を検討することが多いです。

5歳~16歳11ヶ月対象ですが、知的障害が疑われる場合は5~7歳への適用は適切でない可能性があるとされています。

全検査IQ(FIQ)と、4つの指標得点(群指数)の5つの合成得点を算出します。

指標得点(群指数)は、言語記憶、知覚処理、ワーキングメモリ、処理速度の4つから成っていますね。

上記の通り、WISC-Ⅳは自閉症スペクトラム障害に限定した診断用評価尺度ではなく、知的機能の問題や、知的機能を構成する各指標のバランスを評価するものであり、特定の障害に限ることなく幅広く行われている検査になります。

よって、選択肢⑤は不適切と判断できます。

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