公認心理師 2022-139

事例の状態像を把握するのに最も適した検査を選択する問題です。

事例の状態を見立てる+各検査の目的を把握していることが求められています。

問139 23歳の女性A、会社員。高校時代にわいせつ行為の被害に遭った。大学卒業後、会社員となったが、今年の社員旅行の際に、仕事の関係者から性行為を強要されそうになり、何とかその場から逃げ出したものの、帰宅後に強い心身の不調を自覚した。その後3か月経っても症状が改善しないため、精神科受診に至った。同じような悪夢を繰り返し見ることが続き、よく眠れない。「このような被害に遭うのは、私が悪い」、「自分は駄目な人間だ」と話す。
 Aの状態像を把握することを目的に、公認心理師が行う可能性のある心理的アセスメントとして、最も適切なものを1つ選べ。
① CAPS
② DN-CAS 認知評価システム
③ JDDST-R
④ KABC-Ⅱ
⑤ TEG

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解答のポイント

各検査の目的を把握している。

選択肢の解説

① CAPS

さて、まず求められるのは本事例のAの不調がどういった経緯で生じているかを考えることです。

こちらは複雑性PTSDである可能性を踏まえてみていくことが重要になります。

複雑性PTSDは最も一般的には、逃れることが困難もしくは不可能な状況で、長期間/反復的に、著しい脅威や恐怖をもたらす出来事に曝露された後に出現するとされています(例:拷問、奴隷、集団虐殺、長期間の家庭内暴力、反復的な小児期の性的虐待・身体的虐待)。

複雑性PTSDの診断基準をまとめると以下の通りです。

診断に必須の特徴: 極度の脅威や恐怖を伴い、逃れることが難しいか不可能と感じられる、強烈かつ長期間にわたる、または反復的な出来事に曝露された既往がある。

次の3つの心的外傷後ストレス障害の中核要素を体験している。

  1. 心的外傷となった体験後の再体験
  2. 心的外傷となった出来事の再体験を引き起こしそうなものの入念な回避
  3. 現在でも大きな脅威が存在しているかのような持続的な知覚。驚愕反応の亢進でなく減弱がみられる場合がある
  • 感情のコントロールに関する重度で広汎な問題。ささいなストレス因への情動的反応性の亢進、暴力的な(情動と行動面の)爆発、無謀なまたは自己破壊的な行動、ストレス下での解離性症状、情動の麻痺、特に楽しみやポジティブな情動を体験できないこと。
  • 自分は取るに足らない、打ち負かされた、または価値がないという持続的な思い込み。これには、ストレス因に関する、深く広汎な恥辱感、罪責感、または挫折感が伴う
  • 人間関係を維持し、他の人を親密に感じることへの持続的な困難。人との関わりや対人交流の場を常に避ける、軽蔑する、またはほとんど関心を示さない。
  • 障害は、個人生活、家族生活、社会生活、学業、職業あるいは他の重要な機能領域において有意な機能障害をもたらしている。

つまり、複雑性PTSDの診断は単回性のPTSDの診断に加えて、感情の調節異常、否定的自己像、対人関係の障害を有していることが示されており、これらは自己組織化の障害として概念化されています。

これらを踏まえて本事例を見ていくと、Aは高校時代にわいせつ行為の被害に遭っており、その際の心因反応等に関する記述はありませんが、こちらの出来事と「今年の社員旅行の際に、仕事の関係者から性行為を強要されそうになり」というのは反復的に外傷的出来事に曝露されたと見なしてよいでしょう。

また、「このような被害に遭うのは、私が悪い」「自分は駄目な人間だ」という認知も複雑性PTSDに見られる否定的自己像であると見て矛盾がないでしょう。

すなわち、Aは複雑性PTSDの可能性があると見なし、その点を詳しく把握するような検査を選定することが重要になってきます。

本選択肢のCAPS(Clinician-Administered PTSD Scale)は、優れた精度のPTSD構造化診断面接尺度として各国の臨床研究や治験で広く使用されています。

PTSDの構造化診断面接尺度として医療保険適用もされています。

所要時間は、面接で90分前後、分析で30分ほどとされています。

このように、CAPSはPTSDの査定に用いられている検査ですから、本事例に適用することが可能であると言えますね。

よって、選択肢①が適切と判断できます。

② DN-CAS 認知評価システム

DN-CAS(Das-Naglieri Cognitive Assessment System)認知評価システムは、Luriaの神経心理学モデルから導きだされたDasのPASSモデルを理論的基礎とする検査であり、LDやADHD、ASDなどの子どもたちの認知的偏りを評価することができ、その援助の手がかりを得るために有効な検査とされています。

5歳~17歳11か月の子どもの認知処理過程を評価するための検査になります。

12の下位検査による標準実施、あるいは8つの下位検査による簡易実施に基づき、以下の4つの認知機能領域(PASS)を測定することができます。

  1. プランニング(Planning):
    提示された情報に対して、効果的な解決方法を決定したり、選択したり、使用したりする認知プロセス。数の対探し、文字の変換、系列つなぎ。
  2. 注意(Attention):
    提示された情報に対して、不要なものには注意を向けず、必要なものに注意を向ける認知プロセス。表出の制御、数字探し、形と名前。
  3. 同時処理(Simultaneous):
    提示された複数の情報をまとまりとして統合する認知活動。図形の推理、関係の理解、図形の記憶。
  4. 継次処理(Successive):
    提示された複数の情報を系列順序として統合する認知活動。単語の記憶、文の記憶、発語の速さ/統語の理解。

なお「プランニング」では、方略評価チェックリストがついており、検査者による観察と子どもの報告の2種類が設けられていて、子どもが問題に取り組んだプロセスや、用いた方略が結果にどう反映されているかを検討することができます。

特に子どもの報告は自身のことを振り返る力をつけることにもつながり、その後の指導場面でも役立つ情報になるとされています。

本問の事例では、明らかにPTSDを疑うような出来事や、それに基づくような反応が示されています。

重要なのはそうしたPTSDと関連する領域の査定であり、Aの発達認知評価ではありません。

なぜか本問では発達関連の検査が選択肢に多く含まれていて、どこに発達の問題を疑わせる記述があるのかと訝しんでしまいますが、こじつけるなら「発達的な特徴が、PTSDの問題にどれほど絡んでくるかも評価しなければならない」というくらいでしょうが、本事例の状況では先にPTSDの程度を査定する方が重要でしょう。

そもそもDN-CAS 認知評価システムに関しては、適用年齢も外れていますね。

以上より、選択肢②は不適切と判断できます。

③ JDDST-R

JDDST-Rについてはこちらのサイトがわかりやすかったので、引用させてもらいました。

こちらは改訂日本版デンバー式発達スクリーニング検査のことを指しており、元々はアメリカのフランゲンバーグとドッゾが乳幼児期に発達の遅滞や歪みのあるものをスクリーニングする目的で考案し、コロラド州デンバー市の乳幼児の検査結果を基に、1967年に標準化した「デンバー式発達スクリーニング検査」(DDST)の日本版になります。

こちらを上田礼子らが東京都、沖縄県、岩手県の検査結果に基づいて標準化して1980年に公表されましたが、発達検査は時代に即応した改訂にせまられるものですから、1992年にDDSTが改訂されて「DDSTⅡ」となったことに伴い、日本小児保健学会によって「DDSTⅡ」の標準化が進められ、現在は「改訂日本版デンバー式発達スクリーニング検査」(JDDST-R )が用いられています。

JDDST-Rは、乳幼児の発達について「個人-社会」「微細運動-適応」「言語」「粗大運動」の4領域、104項目から全体的に捉え、評価しようとしているところに特徴があります。

その目的は、普通にみえる子どもたち、あるいは外見上問題のないようにみえる子どもに実施して、発達的に障害のある可能性の高い子どもを抽出することにあります。

また専門的な医療、保健サービスの従事者にとっては、問題をもっている可能性のある症状のない子どもを抽出するためや、直感的に発達上に問題のありそうな子どもを見付けた場合にそれを客観的に確かめるため、周産期に問題のあったようなハイリスクの子どもについて発達の経過を検討していくためなどに有効です。

適用年齢は、生後16日から6歳までで、就学前の年齢範囲の全体を網羅しています。

上記を踏まえれば、JDDST-Rを適用するには本事例はそもそも適用対象外の年齢であり、検査目的も本事例を踏まえれば適当ではないと考えられます。

どう考えても、本事例において発達障害の査定をしなければならない理由は見当たらないですね(無理やり見つけるとすれば、認知が「固い」感じがすることくらいでしょうか。でもそれは発達障害由来ではない可能性も考えられる状況ですよね)。

以上より、選択肢③は不適切と判断できます。

④ KABC-Ⅱ

K-ABC(Ⅱじゃない方)は、2歳6か月~12歳までの子どものための個別式知能検査です。

その特徴としては、①認知処理能力と習得度を分けて測定すること、②認知能力をルリア理論(継時処理と同時処理)から測定すること、などが挙げられます。

認知処理過程尺度に継時処理尺度(3つの下位検査)と同時処理尺度(6つの下位検査)があり、それとは別に習得度尺度(5つの下位検査)が加わる形で構成されています。

算数や読み(習得度)などで困難さを示す発達障害等のある子どもにとっては、情報を処理する認知処理能力を習得度(語彙や算数など)と分けて測定することが望ましいというのがカウフマン夫妻の考え方です。

2004年に、K-ABCが改訂されてKABC-Ⅱが刊行されました。

日本版KABC-Ⅱでは、「認知-習得度」というカウフマンモデルを継承しながら、大幅な改良が加えられています。

主な点としては、以下が挙げられます。

  1. 適応年齢の上限が12歳11か月から18歳11か月になった(下は2歳6か月)。
  2. 認知処理の焦点が「継時、同時、計画、学習」と拡大された。
  3. 習得度で測定されるものが「語彙、読み、書き、算数」と拡大した。

ちなみにアメリカ版ではKTEA-Ⅱという優れた個別学力検査があるので、K-ABCの習得度に含まれていた「算数」「言葉の読み」「文の理解」はのぞかれています。

本事例を踏まえれば、そもそも適用年齢が対象外ということになりますし、本事例で示されている問題は発達(KABC的に言い換えれば、認知処理過程を測定しなければならないような状態)によって生じているとは言えないと見なすのが妥当ですね。

よって、選択肢④は不適切と判断できます。

⑤ TEG

TEGはTokyo University Egogramの略で、質問紙法による性格検査の一つです。

アメリカの精神科医E.Berneが創始した交流分析理論を基礎としています(バーンの弟子、J.M.Dusayがエゴグラムを考案しました)。

TEGの基礎となる交流分析理論の概略は以下の通りです。

人の内部には、親の自我状態(Parent:Pと略す)、成人の自我状態(Adult:Aと略す)、子どもの自我状態(Child:Cと略す)の3つの自我状態があると考えます。

このP・A・Cのバランスを知ることで性格特性を知ることができるというものです。

このような構造をより深く理解するため、PをCP(Critical Parent:CP;批判的な親)とNP(Nurturing Parent:NP;養育的な親)に分け、CをFC(Free Child:FC;自由な子ども)とAC(Adapted Child:AC;順応な子ども)に分け、全部で5つの機能側面としてこれらがどう機能しているかを分析します。

この表が簡単にまとめてくれています。

もちろんこれがすべてではありませんが、一般的にこのような特徴を持つとされています。

上記でも述べているように、TEGの目的はP・A・Cのバランスを知り性格特性を把握しようとすることです。

TEGの検査結果は正常~異常の判別をすることを目的としておらず、自己分析・自己成長の為に役立てられるように工夫されたものです。

CP~ACの5尺度の高低をパターンとして類型化し、各尺度の高低の示す意味と各尺度の相互関係からエゴグラムを把握します。

それにより、性格特性、行動パターンや交流パターンが理解できるということです。

こうしたTEGの特徴を踏まえると、P・A・Cのバランスを知り性格特性を把握することが重要であるとは考えられません。

きちんと状態をPTSDであると見なして、それに対応する検査を選定することが重要ですし、それがAへの適切な支援につながると言えます(というか、適切な検査を選定すること自体が、クライエントにとっての支援になっています)。

以上より、選択肢⑤は不適切と判断できます。

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