公認心理師 2021-2

本問は「身体損傷」「自損行為」など、過去問ではなかった用語が出ていますが、内容としてはリスクアセスメントになります。

大切なのは「この状況で大切な情報は何か」を見極められることです(情報の価値は状況によって変わりますからね)。

問2 身体損傷により病院に搬送された患者で自損行為の可能性が疑われる場合、緊急に確認するべき事項として、優先度の低いものを1つ選べ。
① 自らの意思で行ったかどうかを確認する。
② 致死的な手段を用いたかどうかを確認する。
③ 明確な自殺の意図があったかどうかを確認する。
④ 背景にストレス要因があったかどうかを確認する。
⑤ 明確な致死性の予測があったかどうかを確認する。

解答のポイント

本問の状況で、何を最も警戒すべきか理解し、そのリスクを検証できる確認内容を選択することができる。

状況の把握・選択肢の解説

各選択肢の解説に入る前に、本問の状況において何が求められているかを考えておきましょう。

状況設定として「身体損傷により病院に搬送された患者で自損行為の可能性が疑われる場合」とあります。

身体損傷とは、身体の一部に変形や損傷などの変工を加える行為ですが、どこまでの範囲を指すかは領域によってまちまちな気がします。

ピアスなどの身体装飾を含める場合もあるようですが、その変工が加えられた身体の部位は元の状態に戻ることがないという場合を指して身体損傷と述べている書籍もあります。

その範囲はともかくとしても、本問の状況は「搬送されるほどの損傷が見られた」と捉えておけば良いでしょう(臨床現場でよくみられるリストカットなどより、もっと重大な損傷と見なしておく方が妥当でしょう)。

ちなみに、精神科などで拘束を行う場合、重大な身体損傷のリスクを避けるというのが理由の一つですね。

さて「自損行為の可能性が疑われる」という状況である場合、まず考えねばならないのは「患者の行為が自殺未遂であった可能性」です。

また「精神医学的問題を背景にした自傷行為である可能性」ということもあり得ます。

その場合、患者の精神状態を把握していくことも必須となります。

これらの可能性を考慮せねばならない理由として「直近の(具体的には入院中の)患者の安全をいかにして守るか」ということが挙げられるでしょう。

本問の自損行為が自殺未遂であっても精神医学的問題であっても、それらが明らかになれば入院中の患者への対応を考えるうえで非常に重要な情報となります。

それらを踏まえた対応を取らない場合、自損行為が入院中に行われることも懸念されるわけです。

すなわち、本問の状況で求められるのは「短期的なクライエントに降りかかるリスク」を的確に捉えることであり、「長期的なクライエントへの支援」を考えることではありません。

短期的な自殺リスクが高い場合、当然、どういった入院体制を取るかなどを検討していくことになります。

これらを踏まえて、各選択肢の検証に入っていきましょう。

① 自らの意思で行ったかどうかを確認する。

本選択肢の確認は、患者の自損行為が自殺未遂・精神医学的問題のいずれであっても重要なものになります。

自らの意思で行った自損行為であれば、それが入院中にも出現する可能性を考えねばなりませんし、それを踏まえた入院体制を整えることが必須となります。

仮に「自らの意思でなかった場合」でも、精神的錯乱状態(心神喪失等)であるなら、「本人の意思では自らを止めることができない」という状態ですから、やはりリスクが高い状態と言えます。

このように、本選択肢の確認は患者の答えがYes/Noのいずれであっても、クライエントの状態を見極めるうえで有効なものであると言えます。

よって、選択肢①は緊急に確認すべき事項として優先度が高いと判断でき、除外されます。

② 致死的な手段を用いたかどうかを確認する。
③ 明確な自殺の意図があったかどうかを確認する。
⑤ 明確な致死性の予測があったかどうかを確認する。

これらは自殺リスクのアセスメントでチェックすべき項目になりますね。

選択肢②は用いた手段をアセスメントすることで、患者がどの程度死への傾倒があったのかを測ることが可能です。

当然致死率が高い手段を用いているほど「死のうとする動因」が高いことが考えられますから、入院中の体制を堅固なものにしておくことが大切です。

これは他の問題の解説でも述べたことがありますが(例えば、公認心理師 2020-152など)、例えば選択肢②の手段が「致死率が低いもの」であったとしても、端的にリスクが低いとは言えません。

「致死率が低い手段」を用いていたとしても、患者が「この方法で死ねる」という確信度が高ければ、失敗した場合でも次は「もっと確実に死ねる方法」を実行するだけになります。

「致死率が低い手段」の代表としてはリストカットが挙げられるでしょうが、患者の中には「リストカットで死ねる」と強く思っている人がいても不思議ではありません(昔の映画などでは、リストカットで死ぬ描写がけっこう多かったです)。

選択肢⑤の「致死性の予測」とはそういうことであり、本問の患者が行った「自損行為」では死ぬには至らなかったものの、患者自身が「これで死ねる(=致死性の予測)」という確信が強かったのならば、入院中(もちろんそれ以降も)の対応を検討する非常に重要な情報であると言えます。

選択肢③の「明確な自殺の意図の有無の確認」は、自殺前には行われない確認ですね。

むしろ自殺未遂のときにチェックすべき事柄であると言え、本問の状況に合っています。

本問の自損行為が「明確な自殺の意図で行われたもの」であれば、今後も同様の行為を行う可能性が高いと見なすことができます。

余談ですが、うつ病の患者に「死にたいと思うこともありますね?」と問うことは多いのですが(死にたいと思うことがありますか?ではないのがミソ)、こちらは「死にたいという思い自体がうつの症状である」というメッセージを送るという意図があります。

以上のように、ここで挙げた選択肢はすべて直近でのクライエントの自殺リスクを測る上で有効なものであると言えます。

これらの確認を以って、クライエントが危機的な状況を脱するまでの体制を整えていくことが求められます。

よって、選択肢②、選択肢③および選択肢⑤は、緊急に確認すべき事項として優先度が高いと判断でき、除外されます。

④ 背景にストレス要因があったかどうかを確認する。

さて、ここでおさらいですが、本問のポイントは「短期的なクライエントに降りかかるリスクを査定すること」です。

本選択肢のストレス要因の存在は、患者を長期的にサポートしていくうえで欠かせない情報ではありますが、「直近でクライエントが自損行為や自殺行為に走る可能性を検討する」という観点から言えば、それほど重要な情報ではありません。

心理支援において、本選択肢のような「背景のストレス要因」を把握し、そこにアプローチしていくことは重要な対応になります。

しかし、支援は常に状況を見ながら行っていくものであり、状況次第では情報の価値も変動していくものです。

本問の状況においては、患者の自損行為が繰り返されること、その結果として起こる患者の死というのが最も避けねばならない事項であり、患者との面接でなされる質問・確認はそうした認識を背景にして行われなければなりません。

こうした対応ののち、患者が危機的な状況を脱したのならば、本選択肢のような確認が有効性の高いものとして前景に立ってくることになります。

以上より、選択肢④は、緊急に確認するべき事項として優先度の低いものであると判断でき、こちらを選択することになります。

1件のコメント

  1. お世話になっております。

    「うつ病の患者に『死にたいと思うこともありますね?』と問うことは多いのですが(死にたいと思うことがありますか?ではないのがミソ)」

    この点が良くわかりません。「ありますね」という問いかけは誘導にはなりませんか。「死にたいと思うことがありますか?」では、なぜいけないのですか?

    設問の趣旨とズレるようですみません。

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