公認心理師 2021-16

脳損傷者に対する神経心理学的アセスメントで使用される検査に関する問題です。

どうせなので、関連する検査をざっと説明しておきました。

問16 脳損傷者に対する神経心理学的アセスメントで使用される検査の説明として、最も適切なものを1つ選べ。
① HDS-Rの成績が低下している場合、遂行機能障害が疑われる。
② RBMTは、手続記憶の障害を検討するために用いられる。
③ SLTAには、非言語性の認知検査も含まれる。
④ WAIS-Ⅳの数唱の成績は、注意障害の程度を知る助けになる。
⑤ WCSTは、失認症を評価する検査である。

解答のポイント

各神経心理学的アセスメントの概要を理解している。

選択肢の解説

本問の解説では、以下の書籍から引用しつつ述べていきます。

① HDS-Rの成績が低下している場合、遂行機能障害が疑われる。

HDS-Rとは改訂長谷川式認知症スケールのことを指しますね。

ここでは、認知症の評価尺度について概説していくことにしましょう。

まず認知症の行動評価尺度について述べていきます。

行動評価尺度は、治療者の臨床観察や患者の日常生活に関する介護者の報告に基づいて、患者の行動を評価するものです。

これはその目的によって、①概括的重症度評価尺度、②認知機能評価尺度、③精神症状評価尺度、④日常生活能力評価尺度に分類することができます。

それぞれの代表的な評価尺度を紹介していくことにしましょう。

  1. 概括的重症度評価尺度:認知症の重症度を全体的に評価する尺度であり、認知機能や活動性、ADLも含めた多面的、重層的な機能を含んでいる。
    ①CDR:記憶、見当識、判断力と問題解決、社会適応、家族状況と趣味・関心、パーソナルケアの6項目に関して5段階評価を行う。
    ②柄澤式 老人知能の臨床的判断基準:日常生活能力、日常会話・意思疎通、知能障害の具体的例示の3項目に関して6段階評定し、全体的評定は重い項目に基づいて評価する。
    ③N式老年者用精神状態評価尺度:家事・身辺整理、関心・意欲・交流、会話、記銘・記憶、見当識の5項目について7段階評定を行う。
  2. 認知機能評価尺度:主として認知症の中核症状である認知機能障害に注目した尺度。
    ①functional assessment staging(FAST):認知機能の障害を7段階評定し、さらに5段階のsubstageが設けられている。日常生活の状態が具体例を挙げて記述されており、明確な評価の指標となる。
    ②mental function impairment scale(MENFIS):認知機能7項目、動機づけ機能3項目、感情機能3項目の13項目に関して、7段階評価する。
  3. 精神症状評価尺度:認知症患者にしばしばみられる幻覚・妄想、不安、抑うつなどの精神症状や、易刺激性、攻撃性、脱抑制などの問題行動を評価するためのもの。
    ①behavior pathology in Alzheimer’s disease(Behave-AD):妄想観念、幻覚、行動障害、攻撃性、日内リズム障害、感情障害、不安および恐怖に関する25項目の症状と全般評価を4段階評価する。
    ②neuropsychiatric inventory(NPI):妄想、幻覚、興奮、抑うつ、不安、多幸、無関心、脱抑制、易刺激性、異常行動の10項目について5段階評定する。
  4. 日常生活能力評価尺度:患者のADLを評価するための尺度。
    ①N式老年者用日常生活動作能力評価尺度:歩行・起坐、生活圏、着脱衣・入浴、摂食、排泄の5つの基本的生活動作の側面から患者のADLを評価する。7段階評定。
    ②instrumental activities of daily living scale(IADL):電話の使用、買い物、食事の支度、家事、洗濯、移動・外出、服薬管理、金銭管理という生活手段を利用する8項目の能力について評価する尺度。
    ③disability assessment for dementia(DAD):衛生、着衣、排泄、摂食、食事の用意、電話、外出、金銭管理・通信、服薬、娯楽・家事の家庭内外の10種の活動について、成績を100分率で表す。

続いては、認知機能検査について述べていきます。

患者に課題を与えるテスト形式の評価法であり、見当識、記憶、前頭葉機能に関する項目を中心に作成されており、言語、様式特異的知覚、行為に関連する項目は検査法によって採否が分かれています。

  • MMSE:国際的に最も使用されている簡易認知機能検査であり、11の下位テストによって認知機能を多面的に評価する。詳しくは「公認心理師 2021-41」「公認心理師 2020-97」などを参照。
  • 改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R):日本で最も多く用いられている簡易認知機能検査で、9つの下位テストから構成されているが動作性検査を含んでおらず運動障害の影響を排除するように作成されている。
  • N式精神機能検査:12の下位テストから成る多面的な認知機能検査で、障害領域の分布に関するある程度詳しい検討が可能である。
  • Alzheimer’s disease assessment scale(ADAS):認知機能尺度と非認知機能尺度から構成されているが、このうちテスト形式の認知機能尺度(ADAS-Jcog)がMMSEやHDS-Rより詳しくウェクスラー式より簡便なので、認知機能の継時的変化を測定するために用いられている。
  • repeatable battery for the assessment of neuropsychological status(RBANS):即時記憶、視空間・構成能力、言語、注意、遅延記憶の5つの記憶領域を対象とする12の下位テストから構成されている。

さて、本選択肢では上記の長谷川式について問われていますから、ちょっと詳しく以下に述べていきましょう。

まず改訂長谷川式の検査項目は以下の通りです。

  1. 年齢
    ・年齢はいくつですか
  2. 日付の見当識
    ・今日は何年ですか
    ・何月ですか
    ・何日ですか
    ・何曜日ですか
  3. 場所の見当識
    ・私たちが今いるところはどこですか
  4. 即時記憶
    ・これから言う3つの言葉を言ってみてください
    1)桜、猫、電車 または
    2)梅、犬、自動車
    ・後でまた聞きますのでよく覚えておいてください
  5. 計算
    ・100から7を順番に引いてください
    ・それからまた7を引くと
  6. 逆唱
    ・私がこれから言う数字を逆から行ってください
    「6-8-2」
    「3-5-2-9」
  7. 遅延再生
    ・先ほど覚えてもらった言葉をもう一度言ってみてください
    ※回答がない場合のヒント:植物、動物、乗り物
  8. 視覚記憶
    ・これから5つの品物を見せます、それを隠しますので何があったか言ってください
    ※時計、鍵、ペン、硬貨、くしなど必ず相互に無関係なもの
  9. 語想起・流暢性
    ・知っている野菜の名前をできるだけ多く言ってください

得点範囲は0~30点であり、認知症群と非認知症群のcut off値は20/21点が妥当とされており、重症度の判定基準としては「非認知症:24.27±3.91」「軽度:19.10±5.04」「中等度:15.43±3.68」「やや高度:10.73±5.40」「非常に高度:4.04±2.62」となっております(平均値±標準偏差です)。

このようにHDS-Rの成績が低い場合は認知機能の問題が想定されますから、本選択肢にある「遂行機能障害」は適切とは言えません。

遂行機能障害を測定する検査としては、ウィスコンシンカード分類検査(公認心理師 2019-23)、BADS(公認心理師 2018追加-61)などが挙げられますね。

以上より、選択肢①は不適切と判断できます。

② RBMTは、手続記憶の障害を検討するために用いられる。

記憶障害の検査は、その記憶内容による分類があります。

記憶はその内容によって、宣言的記憶・非宣言的記憶に分類され、宣言的記憶はエピソード記憶と意味記憶に、非宣言的記憶はプライミングと手続き的記憶に分類されます。

それぞれの記憶の種類の説明に関しては他に譲りますが(「公認心理師 2018追加-24」など)、以下では各記憶内容に沿った検査法を簡単に説明していきます。

【エピソード記憶の検査法:前向健忘の評価】

WMS-R:前向性健忘に関する総合的な検査バッテリー。この検査では、視覚性記憶指数、言語性記憶指数と遅延記憶指数に加え、注意・集中力指数を測定することができます。

Reyの聴覚性単語学習検査(AVLT):言語性素材の学習能力を評価する検査。短期記憶容量を超えた単語のリストを繰り返し提示し、そのたびに再生を行わせ、その内容を記録する。それに加え、干渉後の再生と遅延再生、再認の成績も併せて評価する。これにより言語性素材の学習効率、再生と再認成績の解離や、保続、迷入の有無など多くの情報を得ることができる。

三宅式記銘検査:題材として2つの単語が対になったものを10組含んだ単語リストを用いる。検査者は被検査者に単語リストを読んで聞かせ、これを記憶させる。その後、対になっていた単語の一方のみを提示し、もう一方の単語を再生させる。この学習と再生を3回繰り返して施行し、その成績を記録する。

Rey-Osterriethの複雑図形:視覚性記憶の代表的な検査。18のコンポーネントより構成された複雑な幾何学図形を題材として用いる。それぞれのコンポーネントにつき、形と位置が正しいものには2点、いずれかが正しいものを1点、形も位置も正確ではないが認識できるものを0.5点を与える。

ベントン視覚記銘検査:複数の単純な図形が同時に提示され、被験者は特定の提示時間の後に、学習した図形を記憶により描画する。10指向が1セットになっており、初めの2試行では1つの図形が、それ以降の試行では2つの大図形と1つの周辺図形が提示され、試行を重ねるごとに図形はより複雑になっていく。

Warringtonの再認テスト:言語素材として単語を、視覚素材として顔写真を用いる。被験者の言語性、視覚性記憶における再認能力を評価する検査。記銘用に50枚の写真を用い、それぞれ3秒に1枚のスピードで提示され、すべて見せられ終わると、見せられた刺激とディストラクターが1枚ずつ提示され、二者択一で正しいものを選択する。

リバーミード行動記憶検査(Rivermead behavioral memory test:RBMT):従来の記憶検査の成績は、必ずしも日常生活における障害のレベルを反映しているとは限らない。Wilsonらによって考案されたRBMTは、日常生活における障害を予測するために、普段の生活で記憶に加えられる負荷を想定して作られた検査である。認知症などの生活障害を定量化できる数少ない検査であり、検査結果や解釈が理解しやすいこと、予定(展望)記憶(しかるべき時に、あるいは適切なキューに基づいて、するべきことを思い出す能力のこと。これが低下すると、就労などの社会生活の支障となりやすい)を測定できる有用な検査と言える。
RBMTでは、人名の記銘と遅延再生、未知相貌と日用品の記銘と再認、道順の記銘と遅延再生、予定(展望)記憶など、日常生活で要求される能力の評価を目的とした課題から成り立っている。
cut off値として、39歳以下が19/20点、40~59歳が16/17点、60歳以上が15/16点、スクリーニング合計点のcut off値として、39歳以下が7/8点、40~59歳が7/8点、60歳以上が5/6点と示されており、Wilsonらによると12点を満たない場合は独居や就労、就学が困難とされます。

【エピソード記憶の検査法:逆向健忘の評価】

自伝的記憶検査:個人史を3期に分け、それぞれにおける質問項目を定めている。時間と場所が特定されたエピソードは3点、個人的であるが非特異的な出来事や、特異的であっても時間や場所が想起できなかったものは2点、漠然とした個人的な記憶には1点を与える。逆向健忘の期間や個人的意味記憶とエピソード記憶の解離、時間勾配の有無についての定量的評価が可能。

クロヴィッツテスト:被験者に10個から20個のキーワードを提示し、それから想起される個人的エピソードを聴取する。陳述されたエピソードの具体性に応じて点数化を行うが、採点方法は前述の自伝的記憶検査と同様。

社会的出来事検査:有名人にまつわる出来事や大きな事件など、社会的な出来事の想起も逆向健忘の評価に用いられることが多い。こうした検査は、逆向健忘の期間や時間勾配の検出に効果を有する反面、個人の興味や生活状況に影響を受けやすいため、結果の解釈には注意が必要になる。

【意味記憶の検査法】

意味記憶は年齢や生活環境により大きく作用されるため、標準化された検査は少ないです。

例えば、ウェクスラー式の言語性下位検査である知識、単語、動作性下位検査である感が完成課題などは、それぞれ言語性、視覚性の意味記憶検査として見なすことができます。

【非宣言的記憶の検査法:プライミング】

Warringtonらは、段階的に単語や線画の一部を消去した画像を用い、被験者に最も断片化の程度の強い情報の乏しい画像から、徐々に断片化の少ない元の素材に近い画像を提示し、どの段階で同定できたのか記録しました。

この繰り返しの中で、より断片化の強い画像での同定が可能になり、この効果は翌日も持続しており、これが知覚性プライミングの代表的な例とされています。

【非宣言的記憶の検査法:手続き記憶】

回転盤追跡課題:知覚運動技能に関する手続き記憶の検査法。被験者は回転する円盤状の指標に、片手で持ったペン状の電極をできるだけ長時間接触させる。電極は記録計に接続されており、指標と電極が接触した時間と回数が記録される。訓練により指標との接触時間は増加する。

鏡映描画課題:知覚運動技能の獲得を調べる検査。被験者には自分の手の動きは鏡を通してしか見えないように鏡と衝立を設置し、その状態で2本の平行線で構成された図形をトレースするように命じる。検査者は所要時間と線から逸脱した回数を記録する。訓練の結果、逸脱の回数は減少し、所要時間も短縮する。技能の改善は訓練時と異なる図形を用いた場合でも見られる。

鏡映文字音読検査:知覚処理に関する手続き記憶の検査であり、上肢の運動要因を含まない。鏡を映したように形態の左右を反転させた単語のリストを用いる。リストの半数は各試行を通じて同じ単語を、残りの半数は各試行ごとに異なる語を用いる。リストの音読を繰り返し試行すると、繰り返し出現した単語だけでなく、新規に出現する語に関しても所要時間が短縮する。つまり、視覚パターン分析に関わる技能の獲得がみられる。

ハノイの塔:手続き記憶は運動や知覚処理だけでなく、問題解決に要する認知課題でも獲得されることが知られている。ハノイの塔は3本の棒にはめ込んである円盤の山を、最初の棒から別の棒へ移動させる課題である。円盤は1度に1枚、小さい円盤の上に大きい円盤を重ねてはだめというルールがある。5枚の円盤を用いた場合は、最短で31回円盤を動かさなくてはならない。訓練を重ねることにより、より少ない回数で円盤の山を移動させることが可能になる。なお、多くの円盤がある課題をさせるという拷問が古代にはあったという(1秒間に1つ動かしても一生かかる)。

以上のように、RBMTは、手続記憶の障害を検討するためではなく、エピソード記憶に関する障害の検査であることがわかります。

手続き記憶に関しては別の検査(ハノイの塔とか)が示されていますね。

よって、選択肢②は不適切と判断できます。

③ SLTAには、非言語性の認知検査も含まれる。

失語症は大脳の一定部位が限局性に損傷された結果生じる巣症状で、通常は、聴く、話す、読む、書くのいずれかの言語様式でも何らかの能力低下を示します。

こうした言語症状およびその類型としての失語症の型を明らかにするために、失語症検査が用いられます。

失語症者の言語能力を検査する方法としては、「標準失語症検査(Standard Language Test of Aphasia:SLTA)」「WAB失語症検査日本語版」がよく用いられております。

一方、これらの失語症検査が聴覚理解や口頭表出など言語様式別に検索する検査法であるのに対し、より実用的な言語運用の側面を評価する検査として「実用コミュニケーション能力検査(CADL)」が開発されています。

ここでは、それぞれの検査について解説していきましょう。

標準失語症検査(Standard Language Test of Aphasia:SLTA)は、リハビリテーション計画作成のための症状把握を目的に日本で開発された失語症検査です。

聴く(聴覚的言語理解)、話す(口語言語表出)、読む(音読、読字理解)、書く(自発書字、書取)、計算(四則筆算)の5つの大項目からなり、その下に合計26の下位項目があり、所要時間は60~90分とされています。

各言語様式で単音、単語、文レベルの能力を検索します。

読み書きに関しては漢字と仮名を別々に検査するなど日本語の特徴に即した内容になっています(漢字と仮名で脳の機能する場所が違うのは「公認心理師 2021-10」で示した通りですしね)。

原則として6段階に評価され、第6段階および第5段階の反応が得点となります。

SLTAは、失語症のタイプを分類することを主目的とした検査ではないので、必ずしも各失語型が示す典型的なプロフィールパターンがあるとは言えませんが、ウェルニッケ失語では下位項目1の「単語の理解」で得点が低下していたり、伝導失語では復唱の項目が低得点だったりするなど、ある程度の特徴が現れる場合があります。

また、純粋語啞では復唱や音読を含む「話す」の下位項目での低下、純粋語聾では聴覚入力を必要とする項目(聴く、復唱、書取)での低下など、それぞれの純粋型では言語様式間で得点差の著しいプロフィールとなります。

さらに、日本失語症学会(1999)により、SLTAの26項目の難易度だけではカバーできない軽度の失語症の症状把握や掘り下げテストを目的とした標準失語症検査補助テスト(SLTA-ST)が出版されています。

単純な質問に「はい・いいえ」で答える課題、日常生活上必要となるお金や時間の計算能力、ユーモアの理解を含むまんがの説明、長文の理解など、より詳細に把握できるのが特徴であり、所要時間は90分強です。

WAB失語症検査日本語版は、Kerteszらの開発した検査バッテリーを参考に、日本語版として改変されたものです。

SLTA同様、言語の様式別に言語症状を把握しようとするものですが、失語のみならず失行や半側無視、非言語性知能の検査を含むものになっています(ただし、非言語性検査項目の実施は任意)。

検査は自発話、話し言葉の理解、復唱、呼称、読み、書字、行為、構成という8つの大項目からなり、その下に38の下位項目があります。

WABの特徴は、失語指数(AQ)を算出できることにあり、自発語を20点満点、話し言葉の理解・復唱・呼称をそれぞれ10点満点で算定し、それらの特定を合計して2倍するとAQが得られます(AQは100が最高点)。

さらに、流暢性、話し言葉の理解、復唱、呼称の項目の得点配分によって、全失語、ブローカ失語、ウェルニッケ失語、健忘失語の4タイプに失語症を分類することができます。

施行に要する時間は約60~90分とされていますが、20~30分に短縮するための版の作成も進められています。

続いて、実用コミュニケーション能力検査(Communication ADL Test:CADL)について述べていきましょう。

日常会話場面と検査場面とでは失語症者の言語運用能力が解離しているように思われることがあります。

これは、日常会話場面では状況判断を基に比較的よくコミュニケーションが成立するにもかかわらず、SLTAやWABでは検査者の身振りや表情などを極力抑えた状態で言語能力を評価するため、検査場は予想以上に低得点となり言語能力が著しく制限されていると判定されてしまいがちなためです。

CADLは、このような臨床経験から、日常のコミュニケーション場面での言語行動を評価しようと開発された検査法で、日本人失語症患者に適用できるように標準化されたものです。

検査項目は34項目あり、日常生活の流れに近い状態で検査が配置されています。

被検査者の反応は、正答、遅延、歪み、自己修正、不完全、非口頭反応、誤反応・反応拒否、再刺激の8つに分類され、各項目とも満点は4点で、検査全体では136点となります。

全面援助から自立までの5段階にコミュニケーション・レベルを分類していきます。

このようにCADLは日常生活場面における実際の言語活動を把握しようとするものではあるが、基本的に、被検査者は検査指示を理解できる程度には聴覚的理解あるいは文字理解が保たれていなければならず、おのずからから検査可能な対象の重症度は限られてしまいます。

以上のように様々な検査についてその概要を述べましたが、SLTAは言語に関する項目で構成されており、WAB失語症検査になると失語だけでなく失行や半側無視、非言語性知能の検査を含むものになっています。

ですから、本選択肢の「SLTAには、非言語性の認知検査も含まれる」は適切な内容ではないことがわかります。

よって、選択肢③は不適切と判断できます。

④ WAIS-Ⅳの数唱の成績は、注意障害の程度を知る助けになる。

本選択肢の内容に関しては「公認心理師 2018追加-61」で出題がありますね。

注意とは「外的事象や内的表象(頭に浮かぶ考えや記憶等)のなかで、最も重要なものを選択して、それに対する脳の反応を増幅させる機能」であり、「適切な事象の選択、意識の集中と持続、他の事柄への移動、ならびにそれら全体を制御していく機能」とされています。

そして、この注意機能を測るものとしてWAIS-Ⅳの数唱がよく使われます。

数唱は聴覚的ワーキングメモリーを測っており、これは注意力や集中力の源と言えます。

例えば、標準注意検査法(CAT)において数唱は下位検査に加えられており、ウェクスラー記憶検査にも注意/集中の指標に数唱が入っています。

注意障害があると、数唱の成績が悪くなりがちです。

順唱が5桁以下、逆唱が3桁以下の場合は、意識障害をはじめとする非特異的な要因が否定できなくなります。

この数字の根拠として、順唱はMillerの「不思議な数字7±2」が重視されて5桁以上で正常と判断され、逆唱は武田(2011)より3桁以上で正常とし、それらを超えていれば聴覚的ワーキングメモリーの即時記憶と全般的注意は保たれていると判断します。

以上より、選択肢④が適切と判断できます。

⑤ WCSTは、失認症を評価する検査である。

人間の人間らしい機能は前頭葉に集中しています。

本来、そういった重要な機能は前頭葉のような場所にできるはずがないのですが(そんな前にあると、何か事故があったときに真っ先に障害されてしまう)、おそらくは言語的なやり取りが可能になったことによって急な「増築」が求められ、残った部位(前頭葉のある箇所)にそれがなされたと考えられます。

こうした前頭葉の機能を測定するアセスメントはいくつかあり、例えば、前頭葉アセスメントバッテリー、ウィコンシンカード分類検査などです。

前頭葉アセスメントバッテリー(Frontal assessment battery:FAB)は、Duboisらによって前頭葉機能を評価する目的で開発されたテストバッテリーで、類似性、語の流暢性、運動系列、葛藤指示、Go-No-Go課題、把握行動の6つの下位検査で構成されています。

FABにおけるcut off値の基準は、高齢者の場合は11点もしくは12店あたりが妥当だとされています。

ウィスコンシンカード分類検査(Wisconsin Card Sorting Test:WCST)は、Grant&Bergにより前頭葉機能の注意や概念の転換などの機能を評価する検査として考案され、その後、Milnerによる128枚のカードを用いた方法が臨床現場でよく使用されていました。

しかし、カードの枚数が多すぎることや、分類カテゴリーが重複しているため患者の選択したカテゴリーを同定できない等の問題がありました。

そこで、これらの問題点を修正するため、鹿島ら(1985)によって、Nelsonによる分類カテゴリーの重複する反応カードを削減した48枚法である修正カード分類検査に、更に2段階の教示、前頭葉症状である言語による行為の制御障害の評価も行えるようにした方法が、慶應版ウィスコンシンカード分類検査として開発され、日本においてよく使用されるようになりました。

この課題は前頭葉の機能障害に対して感受性をもつとされていることから、実行機能の計測法として有効であるとされてます。

実行機能とは、例えば、戦略的な計画、系統的探索、環境からのフィードバックを利用した認知セットのシフト、目標の達成に向けた行動の方向付けや衝動的な応答の抑制のような「前頭葉機能」です。

ウィスコンシンカード分類検査では、まず初めに、いくつかのカードが実験参加者に呈示されます。

これらのカードに描かれた記号は色、数、形がそれぞれ異なっており、実験参加者はカードを記号の色、数、形のどれに基づいて分類するのかを決めることが求められ、その後、実際に実験参加者は1山のカードを受け取り、そのカードを以前に呈示されたカードに対して1枚ずつ分類していきます。

実験参加者にはカードを記号の色、数、形のどれに基づいて分類するのが正しいのかは知らされないが、1枚分類するごとにその分類が正しいのか否かが知らされます。

この課題の途中で分類のルールが突然変更され、実験参加者が新しいルールを学習するためにかかる時間やこの学習の際に生じるミスの数などが解析され点数化されます。

このようにウィスコンシンカード分類検査は、主に前頭葉機能を評価する検査であることがわかります。

本選択肢の失認症とは、要素的感覚障害、知能の低下、注意障害 、失語による呼称障害がないのに、ある感覚を介して対象物を認知することができない障害を指します。

失認症は様々であり、それぞれの症状に即した検査を選択することが求められます。

具体的には、視覚失認であれば物品呼称検査(物品を提示して名前を呼称してもらう。仮に言えなければ、その物品を手で触らせた後で言わせる)、半側空間無視であれば線分の2等分(患者の眼前に線分を提示し、線分の真ん中と思われる点に〇を付けさせる。例えば、左半側空間無視があるなら、左側を大きく余して〇が付けられる)などが挙げられます。

以上より、選択肢⑤は不適切と判断できます。

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