公認心理師 2019-63

問63はインテーク場面において相談内容を聞き始めるときの作法に関する問題です。
クライエント側に立って考えてみればわかりやすいのかなと思います。

問63 32歳の女性。民間のカウンセリングセンターに電話で申し込んだ上で、来所した。申込時の相談内容には「夫婦の関係で困っている」と記載されている。
 インテーク面接を担当する公認心理師が自己紹介や機関の説明をした上で、具体的に相談内容を聞き始める際の発言として、最も適切なものを1つ選べ。
①今日は、どういうご相談でしょうか。
②どうして、ご夫婦の関係が問題なのですか。
③ご夫婦の関係についてのご相談ということですが、なぜここに相談を申し込まれたのですか。
④お電話ではご夫婦の関係で困っていらっしゃると伺いましたが、ご結婚はいつなさったのですか。
⑤お電話ではご夫婦の関係で困っていらっしゃるとのことでしたが、もう少しご事情をお話しいただけますか。

要は主訴を問うときの作法を理解していることが求められています。
インテーカーの経験があれば、この辺も理解しやすいかもしれないですね。

解答のポイント

インテーク面接における主訴の問い方を理解している。

選択肢の解説

①今日は、どういうご相談でしょうか。

こちらはいくつかの視点で問題がある始まりです。

まず「申込時の情報が伝わっていない」という認識をクライエントに与えてしまい、その相談機関自体への不信へとつながる可能性も否定できません
こうした「入り口での不信」は後々まで尾を引くことが多く、支援の始まりの場で生じさせないように細心の注意を払うことが求められます
信用関係が築きにくくなっている事例には、少なからずこうしたカウンセラー側やその組織の無作法が関係していることが多いのです。

以前勤めてい大学の附属相談機関は、面接室の予約が「早い者勝ち」でした。
私はこれは良くないと何度も伝えましたが、変わらないままでしたね。
継続面接をしている際に、場所が毎回変わってしまう(その可能性があるだけでも)というのは治療構造上困り事であると同時に、クライエントからすれば「他の人の予定で自分が割を食っている」という認識になりかねません。
その点は水面下で、しかし確実にクライエントの内に小さな不信を募らせます。
仕方がないので次善の策として「この組織はそういうことになっていて、あなたに負担をかけるのは本意ではないのだけど、申し訳ないです」と伝え、そうした問題が生じないようにしていました。

こういうことを些事と考える人もいるのですが、クライエントにとってはカウンセラーへの信用・組織への信用・その背景にある臨床心理学への信用まで揺らぎかねない問題です。
これらへの信用はすべて繋がっていると認識しながら、カウンセラー個人だけでなくその周囲の人、組織を運営する人も考えておくことが大切ですね
クライエントは、こういうところにも心を砕いているという事実は知らなくても、その雰囲気は感じ取ってくれます。
そして、それが信用へとつながるのです。

もしも「申込時の情報があるにもかかわらず、こういうはじめ方をする。だって申込時のクライエントと今のクライエントでは困り事のニュアンスが異なる可能性もあるから」という理由で本選択肢のような聞き方をするのであれば、それはそれで問題ありです。
そういう考えで本選択肢のようなはじめ方をするのであれば、「申込時には○○についてのご相談ということでしたが、あれから日数が経っているのですが、その後もご相談したい内容については変わりはありませんか?日数が経つと相談事のニュアンスが変わられる方も多いので」と伝えれば良いのです。
「伝わっているのに、それを出さずに始める」というやり方は「すっとぼけすぎ」であり、そうした無作法からクライエントの不信が始まる可能性があります

情報は力です。
そしてクライエントはその人生の中で、何らかの形で自身が些少に扱われる経験をしていることが多いものです。
圧倒的な情報量を持つ側が目の前にいるという事実は、それだけでクライエントの外傷的経験を引き出すことも考えられます(何よりも「知っているのに言わない」という姿が、その誘因となるのです)。
よって、こちらが表現して差し支えない情報は当然として、こちらがクライエントに行うアプローチの内実も可能であれば伝えていくこと、その上で支援の方針を決定することが重要です。
もちろん、内実を明らかにすることで「台無し」になってしまうような事柄については話は別ですけど。

余談ですけど、上記では「信頼」と書かずに「信用」と表現しています。
なんだか「信頼」というのは重たい表現な気がするのですが、いかがでしょうね。
以上より、選択肢①は不適切と判断できます。

②どうして、ご夫婦の関係が問題なのですか。

この聞き方は無作法というよりも不躾といった方が良いかもしれません。
そして「そんなのすぐに言えたら、ここに来ていないよ!」と言われてしまいそうです
といっても、これは試験問題ですから、もう少しこの聞き方の問題の理路を示しましょう。

先述したとおり、主訴については「そんなにスパッと言えない」というのが普通であると思っておいた方が良いです(言えたら言えたで、その在り様が面接のテーマになっていくことも多い)。
だからこそ「クライエントに語ってもらう」ということが重要になってきます
主訴は、クライエントが持つ問題に対する一応まとまりのあるストーリーですから、どこを中心に語るのか、どのような語り口なのか、といった面が見立ての上では大切になります
よって、本選択肢のような問い方ではなく、いわゆるオープン・クエスチョンが採用される傾向が高くなるわけですね。

また、本選択肢のような問い方は「そこが問題である」という無自覚の決めつけがカウンセラー側にあるためです
クライエントに語ってもらうことで、夫婦関係が問題だと思っていたけど、実際は旦那さんの暴力であることや、奥さんの疑い深さが要因になっているということもあり得ます。
そうなると、むしろ課題は夫婦関係ではなく、いずれかの心理傾向に特徴があるからであるという見立てになるはずです。
直接の見立てを行わずに、電話申し込みの情報だけで面接を進めているという点でも、本選択肢は不適切と言えます

更に、これは感覚的なものかもしれませんが、本選択肢のように不躾に問題の核心に触れようとする姿勢は、心理支援を行う者のやり方としていかがなものかという思いがあります
もちろん、恐れずに触れなければクライエントから幻滅されるという場合もあります。
しかし、人の悩みというのは大切な宝物のようなイメージであり、普通の人は大切な宝物を玄関にはおかず、家の中の奥の奥にしまうものですよね。
ですから、いきなりそれを問うということへの「ためらい」や「畏れ」は抱いておくことが支援者の条件なのではないか、と思うのです

最後に「どうして」「なぜ」のような疑問詞を使用することに関する問題を挙げましょう
こちらについては以下に記載されていますので、興味のある方はご一読ください。

この中には「なぜ」という疑問文の機能として以下が挙げられています。

  1. 知的関心
  2. 納得できない気持ちの表明
  3. 叱責
  4. 強要
  5. 吊し上げ
  6. 探求作業への誘い

この第6項の意味で「なぜ」「どうして」という問いを発するのですが、重要なのはクライエントがどう受け取るかです。

多くの人が幼少の頃より「どうして○○したの!」と言われているはずです。
これは理由を問うているのではなく「そういう疑問文を使った叱責」なわけです。
応用として「どうして○○しないの!」は「そういう疑問文を使った強要」ですし、みんなの前で行えば「そういう疑問文を使った吊し上げ」ですね。

重要なのは、こういう疑問文を使って面接を行うことで、こうした経験が賦活され、その場が「叱責・強要・吊し上げ」の雰囲気が出てしまうことです(カウンセラーに「そんなつもりはなかった」としても関係ありません。大切なのはクライエントの経験とその賦活による体験の湧きあがりですから)

更に2、3歳くらいの子どもが「なぜ」「どうして」と頻繁に発することを思い返してみましょう。
このような疑問文を連発する幼児は、親に全面的に依存していることを思いあわせることが重要です。
すなわち「なぜ」「どうして」と連発するカウンセラーはその心性として、情報収集作業において全面的にクライエントに依存しているという形になるのです。

カウンセラーにとって大切なのは「なぜ」「どうして」といった疑問文を使わず、それ以外の質問を工夫することで、「なぜ」「どうして」に匹敵するくらいの情報量を引き出す力を備えていることになります。
これは数年練習すれば、そう難しくないと思います(大切なのは、やるかどうか、です)。

以上、様々な視点から本選択肢の課題を示しました。
よって、選択肢②は不適切と判断できます。

③ご夫婦の関係についてのご相談ということですが、なぜここに相談を申し込まれたのですか。

これはインテーク面接一般にあり得る質問になります。
しかし、この質問をこの状況で行うのは自然ではありません

よく問題文を読んでみましょう。
「インテーク面接を担当する公認心理師が自己紹介や機関の説明をした上で」とあります。
本選択肢のような来談経路や来談の動機を問う場合は、機関の説明を行う際にするのが自然ですね

本問では「インテーク面接を担当する公認心理師の自己紹介」「機関の説明」「具体的に相談内容を聞き始める」ということを分けて論じていますが、これはあくまでも文字化する、問題として示す際の方便のようなものです。
実践では、機関の説明を行うときに来談経路やその動機を問うたり、そこから具体的な相談内容に話が移っていくというのが一般的でしょう。

「ここに相談を申し込んだ理由」を問うことによって得られる情報は多く、そして重要です。
例えば、他の機関を離れてこの機関に訪れたのであれば、他機関から離れた理由によってはそこにアプローチしていくことが求められます。
前のカウンセラーへの不信があるとするなら、「私との関係でも不信を感じることがあるかもしれないけど、それを伝えてくださるのが一番の協力なんです」と伝えておく場合もあるでしょう。
また、こうした他機関を離れた理由が、実はクライエントの主訴と深く絡んでいることも少なくないのです。

同じように「他でもない今訪れた理由」も非常に重要な情報になりますね。
本事例は夫婦の関係での困り事ですが、それが数年続いていたとするなら、何かしらクライエントに「今相談に来た理由」があるはずです。
それは今後の面接の動機づけを占う可能性がある事項とも言えますね。

いずれにせよ、本選択肢は有用な問いであるものの、状況的にずれていると言えるでしょう。
よって、選択肢③は不適切と判断できます。

④お電話ではご夫婦の関係で困っていらっしゃると伺いましたが、ご結婚はいつなさったのですか。

こちらのアプローチは時系列に聞いていこうとするスタイルだと思われますが、インテークではあまり適切とは言えません。
主訴(ここで言う相談内容)とは、その時点における、クライエントの問題に対する一応のまとまりのあるストーリーです。
そのストーリーのどこに重きを置くのか、どのように色付けするのか、ということについてはクライエントの内的世界ですから、クライエントに自由に語ってもらうことで支援の方向性を見極めやすくなります(この辺は選択肢②でも述べましたね)

また、人は矛盾を内包している存在です(愛しているけど憎いとか)。
だからこそ、クライエントの語りも時系列にならず、矛盾だらけであるというときに「こころのままに語っている」と見なすことができます
時には、その事実をクライエントに伝えることで、それ自体が語りを促す操作となり得ます(ちゃんと喋れなくて、時系列がバラバラになってしまって申し訳ないと語る(思っている)クライエントは存外に多いものですよ)。

もちろん、クライエントのストーリーを一緒に整理する意味で、いろいろお話を伺ったうえで時系列に問うていくという手法を採ることもあり得ます。
ただ、本選択肢のように最初からその方式でいくのは宜しくないでしょう。
面接時にまとめていく必要がなければ、時系列にまとめていくのはインテーカーがクライエントの話を聞いて、それを報告書でまとめたりするときで良いのです。

以上より、選択肢④は不適切と判断できます。

⑤お電話ではご夫婦の関係で困っていらっしゃるとのことでしたが、もう少しご事情をお話しいただけますか。

既に述べていますが、本選択肢のようにクライエントに自由に語ってもらうというスタイルがオーソドックスなものと言えるでしょう
特に訴えを意識しているクライエントであると判定した場合、こうした導入で、陳述を誘いインテークを開始するのが良いでしょう

主訴を物語ってもらう中で、この訴えは、その人の人生全体から比較的切り離された問題であるのか、それとも長い経過を持つそのクライエントの人生全体を巻き込んだ訴えであるかを推測していくことが重要です。
前者であれば、具体的・現実的な問題であることも多いのでしょうけど、後者であれば、それに類似したクライエントの苦慮感がこれまでの人生のあちこちで生じているはずです。

といっても、あくまでもこの時点でのお話ですから、切り離された問題と見なしていたものが、あとになって人生全体と絡んでいると明らかになる場合も多いです。
ちなみに「人生全体を巻き込んだ訴え」の場合は、クライエントのカウンセラーへの接し方、その語り口といったいわゆる「雰囲気」の中に、かなりそれが現れやすいので判定もしやすいと思います。

とにかく、こういった問い方から始まり、クライエントが重きを置く部分を把握し、専門的な見立てを構築した上で支援面接につなげていくことです。
それがインテーカーの仕事になりますからね。

以上より、選択肢⑤が適切であると判断できます。

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