公認心理師 2018追加-90

次の各種心理検査について、最も適切なものを1つ選ぶ問題です。

この問題は採点対象から除外されています。
除外理由は「選択肢が不明確なため」となっているので、解説の最後にどこが「不明確なのか」について考えてみたいと思います。

問題自体は各種心理検査についての基本的な事項を問う内容になっています。
しっかりと把握しておきたいところです。

解答のポイント

示されている心理検査の基本的事項について把握できていること。

選択肢の解説

『①バウムテストは発達レベルの評価を目的として用いられる』

バウムテストは、もともと職業適性検査の一つだったが、Kochが人格検査として再構成しました。

  1. コッホは自動車メーカーから「従業員を適材適所に配属するために役立つ心理テストの開発」を依頼される。
  2. このとき、グリュンワルドが行っていた「置きテスト」の実験結果を応用した心理テストの開発と取り組み、バウムテストを開発。

こうした流れで人格検査として広まるようになりました。

一般的な教示は「実のなる一本の木を描いてください」だが、実については教示しない人も多いです(針葉樹が多い国と広葉樹が多い国で、「実のなる木」への親和性が異なるというのがその理由のひとつ)。
解釈では、樹木の形-形態分析、鉛筆の動き-動的分析、紙面における樹木の位置-空間象徴の解釈、などがあります。

バウムテストはあくまでも人格検査ですから、発達レベルの評価を目的とはしていません
もちろん、解釈の中で「幼い印象を受ける」といった視点はありますが、「発達レベルの評価」ができるような指標を設けているわけではありません。

ただ解釈の中で、「ヴィトゲンシュタイン指数」という考え方があります。
ヴィトゲンシュタインが考案したもので、木の長さを被検査者の年齢で割ったものです。

木の長さ木(h)は、木の下部から天辺までの距離をミリメートルで測定します。
被検査者の年齢(a)は、何歳何ヶ月で測定します。
数式で表わすと「(i)=h/a」となります。

ヴィトゲンシュタイン指数では、例えば、外傷体験(バウムテストではウロが外傷体験を指すと一般的に解釈される)がクライエントが何歳のときの出来事だったかを推定するなどに用いられることがあります。
こちらもあくまでも解釈上の指標であり、発達レベルを調べるものではありませんね

では、描画法による発達レベルの評価を行う検査についても併せて調べておきましょう。
その代表はDAM=Draw A Manであり、グッドイナフが開発したものです。
人を描いてもらい、その描かれたパーツやその描かれ方を得点化し、その人の生活年齢との比によって発達指数を算出します
小さい子どもの発達指数を算出するのに向いていると言え、ある程度描画ができてしまう、例えば、絵の上手下手が明らかな年齢になると正確な算出が難しくはなります。
小さい子どもの発達指数を自然な形で算出できる点に大きな価値があると言えそうです。

よく似たものにDAPがありますが、こちらは人物画を描いてもらい、そこからパーソナリティの特徴を見る検査になります。
DAMの方が歴史は古いですね。

また、HTPでも発達指数を算出しようとしていた歴史があります
ちなみにHTPは、Buck(1966)によって考案され、1950年前後から用いられている検査です。
当初、HTPでもDAMのように各パーツの出現、その描かれ方等によって発達水準の推定をしようとしていましたが、HTPほど複雑になってくると絵の上手下手がかなり影響してしまうため、正確な計測が難しかったとされています。
現在、HTPを用いて発達レベルの評価を行うことは、ほとんど行われていないと思われます。

以上より、選択肢①は不適切と判断できます。

『②WAISは5歳から15歳を対象とする個別式知能検査である』

「WAIS」とあるだけなので、過去のWAISとその対象年齢を振り返ってみましょう。

  • WAIS-R:16歳~74歳
  • WAIS-Ⅲ:16歳~89歳
  • WAIS-Ⅳ:16歳0カ月~90歳11カ月

この前にも版はあるでしょうが、上記から見てもWAISは16歳が適用範囲の下限となります
WAISは成人用ですから、当然のことであると言えますね。

上記の「5歳から15歳」という範囲はWISCに近いと考えられます。

  • WISC-R:6歳〜16歳
  • WISC-Ⅲ:5歳0か月~16歳11か月
  • WISC-Ⅳ:5歳0か月~16歳11か月

このように選択肢の内容はWISCの年齢範囲に近いと言えますが、それでもやはり誤りと判断できますね

以上より、選択肢②は不適切と判断できます。

『③新版K式発達検査は養育者への問診により簡便に実施できる』

以前、新版K式発達検査2001の内容をまとめているので、こちらをご参照ください。
上記から抜き出していきます。

新版K式発達検査は、Gesell,A.の発達理論に基づいた検査であり、京都国際社会福祉センターで作成されました(KyotoのK=K式)。
0歳から成人まで適用可能です。
※改訂前(新版K式発達検査2001になる前)は0歳3か月~14歳0か月までだったが、これを拡大して0歳3か月未満児に対する尺度を整備しています(生活年齢100日未満の場合、発達年齢は算出できないが、用紙には1-30日の項目から始まっている)。

328項目で構成されています(実施項目は20~50項目ほど)。
聴取による判定をできるだけ避けて、検査場面の子どもの行動から判断する検査です
保護者からの聴取による判定は、「禁止」という強い文言ではなく「薦められていない」というニュアンスになっています
やむを得ない場合は聴取による判定も有り得るということですね。

ちなみに、新版K式発達検査は、1980年に「新版K式発達検査」が刊行されたときの適用年齢は0歳~10歳でしたが、1983年の「新版K式発達検査増補版」では、12歳-13歳までに拡張され、さらに2001年に刊行された「新版K式発達検査2001」では成人までに拡張されています。

検査の実施ルール、ここで言えば、検査場面の子どもの行動から判断するという点は変わっていないので、本選択肢の「新版K式発達検査」がどの版を指していても答えは変わりません。

以上より、選択肢③は不適切と判断できます。

『④ベンダー・ゲシュタルト検査では器質的な脳障害を把握できる』

ベンダー・ゲシュタルト検査は、9枚の簡単な幾何学図形を模写することによって、ゲシュタルト機能の成熟程度およびその障害、心理的障害、器質的な脳障害、パーソナリティ傾向、知能的側面などの多方面にわたる情報を査定することができます。

この図版はゲシュタルト心理学で有名なWertheimerが作成しました。
実用上、ベンダー・ゲシュタルト検査は器質的な脳障害の有無に関して、図形の崩壊などから判定がかなり期待できるとされています
ベンダー自身は損傷部位との関連も述べてはいますが、実際には部位の特定は困難です。

当初はこうした器質的な脳障害の判定に有効な検査でしたが、画像診断技術の向上に伴って不要になってきています。
そこでパーソナリティ評価という側面に舵を切っているという印象も受けます。
いずれにせよ、器質的な脳障害を把握できるということが本検査の基本的な役割であると理解しておきましょう

ちなみに「ベ」「ン」「ダ」「ー(ア)」「ゲ」「シュ」「タ」「ル」「ト」と9文字ですから、9枚の図版であると覚えておきましょう。

以上より、選択肢④が適切と判断できます。

『⑤MMPIはパーソナリティの全体像を把握するために有効である』

MMPIの作成が望まれるようになる以前は、投影法が花盛りの時代でした。
ロールシャッハテスト、TATなどに始まり、多くの投影法が創案、実施されてきましたが、それが長く続くと「もっと客観的に問題を把握できる方法はないか」という声が上がるようになりました。

そこでミネソタ大学のハザウェイとマッキンレイは臨床的妥当性を備えたMMPIを作成しました。
臨床的妥当性とは、検査の質問項目の意味内容にこだわらず、その質問項目が健常群と臨床群を見分けることができるか否かで採用不採用を決めたということを意味します。
例えば「自転車に乗れますか?」という質問が、健常群と臨床群(例えば、うつ病の群)を見分けるのに有効であると統計的に示されれば、この質問項目は採用されるということになります。
すなわち、MMPIは健常群と臨床群を見分ける力が強い検査であると言えます

ただし間違ってはいけないのは、MMPIにできることは、臨床的もしくは精神健康度から査定することであり、いわゆる人格特性論的観点から査定することではないという点です
つまり、「その場でのその人の状態像」を見極める力が非常に強いとは言えますが、それがずっと続く特性としての問題を明らかにしているとは言えないのです。
「うつ状態」であることは言えますが、「うつ病」であると判断することはできないということですね。

上記の通り、MMPIは「パーソナリティの全体像を把握するため」の検査ではなく、その人の「現在の臨床的に見地からの状態像」を把握することに有効であると言えます
その他、公認心理師2018-109にMMPIについては出題されているので、しっかりと振り返っておきましょう。

ちなみに「パーソナリティの全体像を把握するために有効」という表現で浮かぶのはSCTです
SCTは投影法でありますが、言語を刺激として用いている点、刺激語によって幅広い側面に関する把握が可能な点などから、人格を広く浅く把握するのに優れています。
よって、ロールシャッハテストなどとバッテリーを組んで、その両者の結果の齟齬や共通点から人格を全体的に把握しようとするなどの工夫がされています。

以上より、選択肢⑤は不適切と判断できます。

どこが「不明確」なのか?

上記の解説を読んでもらえばわかるとおり、以下の点が「不明確」であると推定できます。

  • WAISのバージョンを明確にしていない。ⅢとかⅣとかある。
  • 新版K式発達検査は版によって名称が違うこともあるが、その辺が不明瞭である。
ただし、これらの点については、いずれのバージョンを指していようが解答に変更はありません。
だからこそ、「正解した受験者については採点対象に含め、不正解の受験者については採点対象から除外する」という曖昧な対応になっているのだと思います。
もしかしたら「不明確」な点が上記でない可能性はありますが、やはり解答を複雑にするほどの瑕疵は本問には無かったと個人的には思います。

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