公認心理師 2018追加-13

心理アセスメントにあたっての基本的な情報の収集方法として、最も適切なものを1つ選ぶ問題です。

いくつかの選択肢を除外するために、家族療法の知識が若干問われている内容になっています。
公認心理師2018追加-34などは類似した内容と言えますね。

解答のポイント

心理アセスメントにおいて一般的に行われる手続きについて把握していること。
家族療法的なアプローチについて把握していること。

選択肢の解説

『①ワンウェイミラーの行動観察はアセスメントに必要である』

家族への支援は1950年代から同時多発的に出始めました。
Batesonが、Jackson・Haley・Weaklandと共に統合失調症を家族コミュニケーションから説明したダブルバインド理論を提出したのが有名です。

カリフォルニア州ではダブルバインド理論を提出したグループからベイトソンが抜け、ジャクソンを中心に家族療法を行うようになり、この集まりを「MRIグループ」(コミュニケーション学派)と呼びます。

コミュニケーション学派の提出した概念は数多くありますが、物質的なところで言うと「ワンウェイミラー」「インターホン」「VTR」が三種の神器と呼ばれています
ワンウェイミラーとは、いわゆるマジックミラーのことですよ。
ワンウェイミラー自体は、コミュニケーション学派に限らず使われています。

実際に家族療法を行っているチームがいて、それをワンウェイミラー越しに見ている別チームがいます。
家族療法を行っているセラピストが行き詰まりを感じたときに、別チームに助言を求めるというもので、セラピストのトレーニングとしても活用されています。

ワンウェイミラーについてはこうした使われ方が、家族療法の中でされています。
多学派の中でワンウェイミラーがそれほど多く使われているという印象はありませんが、子どもの行動観察などには有効な可能性もありますね。
しかし、ワンウェイミラーを用いた行動観察自体、それなりに整った設備が求められるなど、それを前提としてアセスメントを考えていくのは現実的とは言えません

日本に家族療法が入ってきたころ、一時期家族へのアプローチとして急激に広まり、そのころ建てられた設備の中にはワンウェイミラーが残っているところがあります。
現在は別チームが控えるほどの人的余裕がある組織は無いに等しいので、使われるとしてもセラピストと子どもの関わりを保護者に見てもらうために活用することがあるくらいでしょうか。
いずれにせよ、ワンウェイミラーを行動観察で使っているところはあっても少数であることは間違いありません。

以上より、選択肢①は不適切と判断できます。

『②生育歴の聴取はアセスメントの基本となるため、初回面接で行う』

生育歴はアセスメントにおいて重要な情報であることは間違いありません。
初回面接の役割として、見立てのための情報収集とクライエントの動機づけを高めるということがあります。

初回面接に限らず、カウンセリング全般に言えることですが、クライエントが「操作されている」「動かされている」という感覚を持たせないようにすることが大切です
例えば、自分の強迫症状について語っているときに、いきなり生育歴を問うことで「自分の症状と生育歴がどうして関係があるの?」と思うクライエントもいるかもしれません。
クライエントからすると、カウンセラーから分析されている(精神分析の分析の意ではなく)、自分が把握できないところまで把握されている、という感覚になりかねません。

こうした状況は、クライエントが過度に依存する、その状況に反発を覚えるなどの反応になりかねません。
こうした動機づけを下げる結果にならないよう、生育歴を問うのであれば、その理由をクライエントにわかるように伝えることが大切になります
また、組織のルールとして生育歴を聞くことがルーティンであるという風にしておくこともあり得るでしょう
例えば、「こちらの機関では、最初の面接でこういうことを聞かなきゃいけないことになっていまして…」という感じです。
刑事がアリバイを聞くときみたいですね(「私、疑われているんですか?」「いえいえ、形式的なことで、皆さんに聞かせていただいているんです」)。

上記は初回面接で生育歴を聞くときの工夫になりますが、対象によってはそれも難しいと言えます
例えば、SCとして小学生と面接を行う場合、当然生育歴を聞くこと自体が難しいのは想像できると思います。
また、先述したように「どうしてそのことが私の問題と関係があるんですか?」という思いを抱き拒否的になるクライエントもいないではありません(理由を伝えたとしても)。

生育歴については、初回で全て把握しようとするのは現実的ではなく、治療的面接の流れのなかで自然と確認される部分が多くなると言えます
あるテーマについて話し合っていなければ出てこないような生育歴もあります(「そういえば、こういうことがありました」という感じ)。
また、そういう形で得られた生育歴は、クライエントにとっても主体的に話したという感覚が強いので、カウンセラーとクライエントの関係を上下関係のあるものにしません(一方が多く情報をもっている場合は、上下関係になりやすい状態です)

完璧にカウンセラー-クライエント関係を平等にすることは不可能ですが、それに近づくよう努力していることはクライエントに伝わります。
生育歴の聴取には、情報上の上下関係のテーマがその背景に控えていると思っておくと良いのではないかと考えております。

以上より、選択肢②は不適切と判断できます。

『③心理検査は一定の状況設定で行うため、得られた情報は客観的に信頼できる』

心理検査を実施する際、一定の状況設定で行うことが大切です。
心理検査はある程度平均値が示されているものも多く、その平均値を採った状況は「一定の状況設定」で行われています。

しかし、実際はその「一定の状況設定」が困難であることも少なくありません
クライエントのその日の精神状態・身体の調子などは、こちら側が統制できません。
機関によっては「これは家でやってきてください」と、ホームワーク的に行うこともあるようです。

検査の基本として良いことではありませんが、クライエントの状態によっては、多少なりとも基本の手続きから逸脱することもあるでしょう
多動の子どもへのロールシャッハで、部屋を一周するごとに一つ反応を出すというエピソードを聞いたことがあります。
また、心理検査ではありませんが、WISCを実施する際、2回に分けざるを得ない場合も散見します。
バウムテストなども「実のなる1本の木を描いてください」が原法ですが、「実のなる」を省く人も多いですね(針葉樹が多い地域と広葉樹が多い地域で、「実のなる木」への親近性が全く違いますから)。
もちろん、こういった手続きで得た情報は、どうしても「参考値」という扱いになってしまいますが、「そういう手続きでしか、この検査を実施することが困難であった」ということが見立て上、最も重要な情報になると言って良いでしょう

また「客観的に信頼できる」というのを厳密に、すなわち自然科学的な見地から「客観的に信頼できる」とするならば、それは適切とは言えません
人間という生のいきものを対象にするわけですから、あくまでも「その日、その場所、その瞬間のその人の状態を示すもの」という理解に留めておくのが賢明です
MMPIなどは病名が付いている臨床尺度もありますが、あくまでも「その時の状態」を見ていると捉えるのが鉄則です。

以上のように、選択肢③は不適切と判断できます。

『④アセスメントは面接でクライエントのニーズや来談経緯を聞くことから始まる』

アセスメントでは、面接を通して何を求めているのかというクライエントのニーズを聞くことは大切です
そのニーズの持ち方自体でも、かなりの情報が得られます。
例えば、過度に依存的な場合、そのニーズは大きなものになりがちですね。

「小さい子どもの場合、それは難しいのではないか」という反論もあろうかと思います。
ですが、例えば小学校低学年であっても「今日は自分で来ようと思ったの?それとも誰かに行こうって言われた?」と問うことは可能ですし、「言われて来た」と答えたとしても「どうして行こうって言われたのかはわかる?」と言って本人が課題だと思っているところを把握することは十分に可能です
そして子どもが自分がなぜ連れてこられたのか、まったく理解できないという状況であっても、その状況の把握自体が重要な見立てになりますね。

上記のように、ニーズを問うという行為には、表面的にニーズを把握するという意味がありますが、他方でクライエントの状態を把握する見立てという意味合いもかなり大きいです

またクライエントの来談経緯について問うことも重要です
こちらは「どうして他でもない今日、ここに来ようと思ったのか?」ということになります。
例えば、ずっと症状を有していてそれまでは治療機関に行かなかったけれど、やはり行こうと思った経緯があるはずです。
そういう場合、今まで治療を受けようと思っていなかったクライエントが、治療を受けると決めるまでの葛藤を把握するということになり、これ自体が心理療法的な意味を持ちます
何かを決める際、「思い切って決めた結果」をやり取りすることではなく、「切られた思い」に思いを馳せ、可能ならば共有することがカウンセラーの役割となります

上記の通り、クライエントのニーズや来談経緯を問うことは、見立てや心理療法的意味を持つ行為であり、多くの場面で行われる行為であると言えます。
よって、選択肢④が適切と判断できます。

『⑤家族関係把握のためのジェノグラム作成には動的家族画や合同家族画が役立つ』

まずジェノグラム作成は、家族療法で重要なだけでなく、心理臨床実践全般に行われています。
ジェノグラムは、男性を□、女性を○とし、家族関係を線でつないで表現するあれです。
ジェノグラムについては3世代くらいまでは遡って描いたほうが良いと言われていますが、確かに家族病理を把握するためにはそのくらいが適切と感じます(絶対に把握しようと思うのもよくありませんが)。

一方、後半の「動的家族画や合同家族画」については明らかに間違いです。
動的家族画は、Burns&Kaufmanによって考案され、加藤孝正によって日本に紹介された方法です。

従来の家族画法と異なり、教示の中に家族員の「動き」を入れてあります。
「あなたを含めてあなたの家族が何かをしているところを描いてください」と教示することで、家族力動が表現されやすいとされております

合同家族画は、クライエント本人だけでなく、家族が共同で家族画を描きます。
描画中の家族間の言動をとおして家族関係を把握したり、家族がいっしょに描画に取り組むことで相互作用や洞察を促す心理療法としての効果も期待できます
臨床心理士の過去問で「コンセンサス・ロールシャッハ法」というのが出たことがあります。
こちらも家族間で反応をコンセンサス(合意)する過程、誰の意見が採用されたか、採用決定の瞬間の力動などから、家族関係を査定します。

いずれも家族関係把握という役割はありますが、ジェノグラム作成と直結というわけでもありません

個人的には、ジェノグラム作成と併せて間取り図を描いてもらうのがお勧めです。
間取り図を描くこと自体は、司法領域で一時期やられていた方法です。
その後、あまりメジャーではありませんが、特に児童期・思春期のクライエントとのやり取りで家族関係を把握するのに、間取り図を媒介するとけっこう色んなことが出てくるものです。

よって、選択肢⑤は不適切と判断できます。

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