ロールシャッハ・テスト:第2回 施行法・分類法、反応数・反応拒否・反応時間

ロールシャッハ・テストの解説、第2回目は「施行法・分類法」と「反応数・反応拒否・反応時間」になります。
本格的な事項に入る前に、周辺的なことをしっかりと押さえておきましょう。

様々な学派があるロールシャッハ・テストですが、このブログでは基本的にエクスナー法と片口法を併記していこうと思っています。
私個人はエクスナー法を使用していますが、解釈やその解釈の背景にある仮説を学ぶ上で片口法から多くのものを得ました。
どちらが好みかというのは人によってあると思いますが、大切なのは「エクスナー法を学ぶ」のでも「片口法を学ぶ」のでもなく、「ロールシャッハ・テストを学ぶ」という姿勢です。

これは心理療法でも同じだと思います。
とある学派に傾倒することは悪いことではありませんし、それ自体がその人の自己実現に必要な場合も少なからず見受けられます。
しかし、自身が傾倒している学派以外を「ゼロ査定」するという姿勢は、学びという行為をする者として不誠実なものと言わざるを得ません。

類似する概念は学派をまたいで見られますが、その学派内でその概念が鋳造された流れがあり、その流れの微妙な違いが概念のニュアンスの違いを生んでいます。
その違いを俯瞰して眺め、自分の中にニュアンスの違いごと保管しておくと非常に幅広い捉え方が可能になると思います。
つまりは好き嫌いせず、自分が知らない世界があるということを自覚しながら学びましょうということですね。

施行法・分類法

実は施行法や分類法については、それほど試験に出ないのではないかというのが私の予想です。
ロールシャッハにはいくつかの学派というか、分析法が存在します。
代表的なのが片口法とエクスナー法ですね。
ワールド・スタンダードはエクスナー法ですが、日本においては片口法の根強い人気もあります。

学派の違いは、そのまま施行法や分類法の微妙な違いとなって現われます。
いざ試験問題を作るとなると、こうした施行法・分類法を超えて共通している事項を出すことが基本線になると思われます。
よって、学派によって異なる箇所をそうそう出題しないのではないか、というのが今のところの予想です。

とは言え、やり方がまったくわかっていないようでは試験はともかくとして、臨床実践上よろしくありません。
良い機会ですから、しっかりと把握しておきましょう。

教示(instruction)

まずは片口法の教示は以下の通りです。
「これからあなたに10枚の図版を見せます。これはインクを落として偶然にできあがった模様ですから何に見えてもかまいません。これがあなたに何に見えるか、何のように思われるか言ってください。これから1枚ずつ渡しますから、なるべく両手に持って自由に見てください。何に見えてもかまいませんから、何か見えてきたら遠慮なく答えてください」

これに対し、エクスナー法の教示は以下の通りです。
「これからやるのはロールシャッハテストと言います。今までに聞いたことや受けたことはありますか?」
その反応を受けての対話がひと段落ついたところで、Ⅰ図版を手渡しながら「これは何に見えますか?」と問う。

基本的な事柄ですが「なぜ教示が必要か?」を理解しておきましょう。
教示の目的は「いつも同じ手続きをしていることで、検査結果がクライエントの特徴を反映していると言えるようにするため」です。
教示が毎回異なってしまうと、その教示の違いによってクライエントの反応が歪められてしまう恐れがあります。
検査結果をクライエントの内的特徴を反映していると見なすためには、しっかりと教示を安定させておくことが重要です。

このことは別に検査場面に限ったことではありません。
カウンセリング場面においても、なぜ時間・場所・料金を一定にするのか、またカウンセラーの人格が安定している方が望ましいのか、という点を考えてみても同じです。
こうした内的・外的な枠組みが安定していることによって、クライエントに起こった変化を枠組みの不安定さ由来のものと見なさずに済みます。
こうした考え方は、実験心理学にも通じるものであり、科学一般に通じる面もあるかもしれませんね。

ただし、臨床実践で重要なのは「枠組みを揺らがないように努力することが必ずしも重要なのではない」と知っておくことです。
時には、その枠組みを柔軟に変化させることが求められる事例や状況があります。
杓子定規に対応することで、支援からほど遠い対応になることもあります。

こんなことを言うと枠破りを平気で行う人がいるから困るのですが、枠破りは「これは枠破りである」という自覚無く行われれば、そしてその枠破りによって生じるメリットとデメリットをできる限り把握した上で行われていなければ、その影響は破滅的なものになります。
枠破りを平気でする人は「万能感を持っている人」であり、言い換えれば「神になろうとする傲慢な思想をもった人」なのです。

自由反応段階(performance proper)

その名の通り、被検査者が自由に反応する段階です。
自由で自発的な応答を得られるように努め、暗示的・誘導的な質問はしないこと、言語的・行動的な全ての表現を抑制しないことが大切になります。

クライエントの独特な言い回しを、カウンセラーが言い換えて記録しないことが求められます。
言語だけでなく動作なども記録します。
ちなみにロールシャッハ・テストにおける言語的表現を「ロールシャッハ反応」と呼び、動作や態度のことを「ロールシャッハ行動」と呼びます。
自由反応段階では、特に第Ⅰ図版でのカウンセラーの関わりが重要とされます。
それは、人は慣れない場面では「直近の類似した体験をもとに行動する」という傾向があるためです。
すなわち、第Ⅰ図版での対応が許容されると、それ以降もそれと同じ構えで応答することが考えられます。

例えば、第Ⅰ図版で1つしか反応を示さなかった場合、エクスナー法ではもっと反応することを促すことがルールになっています
それは「1つの図版につき1つ反応するもの」という思い込んでいる可能性があるためです。
そのままにしておくことで、それ以降の図版での反応も1つずつになってしまう恐れがありますね。

片口法であれば、この時点で測っておかねばならない指標があります。

  • 初発反応時間(R1T):図版を渡されてから反応まで
  • 反応終了時間(RT) :一つの図版の反応が終わるまで
これらは「時間」概念のある方式では取っておくことが大切です。
エクスナー法では時間を計測する必要はありません。
その理由はまた後ほど。

【H21-37D】

質問段階(inquiry)

自由反応段階で得られた反応について、いろんな角度から「非指示的に」質問を行う段階です
例えば以下のような教示になります。
「いろいろと答えてもらいましたが、これからそれが図版のどこに見えたか、どんなふうに見えたか、ということについてお尋ねします。それでは、もう一度図版をはじめから1枚ずつお見せしますから、私の質問に答えてください」

反応一つひとつに関しては、図版を見せつつ…
「○○とおっしゃいましたが」
などのように自由反応段階での反応を伝えるのが一般的手法となります。

この段階での目的は、何と言っても「コーディングの完成」になります。
具体的には以下を完成させることが求められます。
  1. 図版のどこに対してなされたのか(反応領域)
  2. いかにして決定づけられたのか(反応決定因)
  3. 何を見たのか(反応内容)
これらが確定されないと、その後聞くことができるタイミングはありません。
ここで終わらせておくことが鉄則です。
ロールシャッハ・テストを教えるときに、必ず勧めているのが「同時コーディング」です。
つまりテストを取りながらコーディングをするよう勧めています。

初心者にこれを言うと「できません」という反応が多いのですが、これは「慣れ」によってずいぶん可能になります。

同時コーディングすることによって、検査実施者がどこがきちんと聞けていないのか、すなわちきちんとコーディングできない箇所がどこかが明らかにすることが可能です。
よって、その箇所に関する質問を追加で行うことにより、検査の漏れを防ぐことが可能になるわけですね。

【H7-50A】

限界吟味段階(testing-the-limits)

限界吟味段階とは、自由反応段階・質問段階で生じた疑問を受検者にたずねていく段階です。
片口法では重要視されている段階ですが、エクスナー法では行うことが前提となっていません。

Klopferら(1942)が提唱した段階です。

Rapaportは検査の統一性・客観性が失われるという理由で導入に批判的ですね。
具体的には以下のような項目について問うていきます。
  1. 図形の把握の仕方についての吟味:W反応のみの場合など
  2. 人間反応と運動因子との関係の吟味:特にⅢ図版
  3. 形態色彩反応(FC)の吟味:健康的な感情反応が可能か?
  4. 濃淡反応の吟味:自発的に濃淡のニュアンスを示さないときに
  5. 公共(平凡)反応の吟味:常識的な反応ができるか?
ここでは前2段階に比べ、誘導的・暗示的・強制的になりますね。
要は「こういう反応は出せていないけど、その辺はどうなのよ?」ということを明確にしていく段階と言えます。
一般的によく示される反応だけど、その反応が見られないということは、被検査者の個人的・内的な要因に依っている場合が多いのです。
例えば、人間を見る頻度が極端に低い、よく見られるはずの第Ⅲ図版で見られないとなると、限界吟味の対象となります。
その限界吟味を行うことで、被検査者の性向を明らかにしていくわけですね。
当然、この段階は検査者の熟練度が向上したうえでどうしても精度が求められる場合に限ったほうが無難とされています。
それは被検査者の内面に踏み込む割合が高く、侵襲的な段階であるためです。

ロールシャッハ・テストのSV

本検査のSVについても触れておきます。
なぜここで触れるのかというと、ここまでで挙げたような各段階に関する指導がSVでなされることも多いためです。
それは当然で、ここまでの各段階がしっかりとできていないと、判定の基礎となるデータがずれてしまいます。
初心者は、まずはここまでの段階を漏らすことなくできることが目標ですね。

さて、ロールシャッハ・テストのSVには以下のような段階があると思われます。

  1. 先輩に取ってもらい、スコアリングを行ってバイザーに提出。ここでは主に記号化が正確にできているかチェック
  2. 記号化の添削を受けたプロトコルが返却され、それを基にバイジーは解釈を行う。そしてその結果を再びバイザーに提出する。主に数量的データに適切な解釈を与えているかを見て、統合的な自己像を描くことは求めない。
  3. この後は、研究会への参加・事例を経験することが中心となる。要は経験を積むことが重要になってくる段階。
  4. 個人SVにて、量的なデータ分析のみならず、反応の流れを追うようにする。同時に検査者の意識を通して被験者に関する重要な手がかりを得るような方法の習得を行う。
意外とあるのが、「検査者が見ることができない反応があると、その反応を適切にコーディングできない」ということです。
逆もあり「検査者が見やすい反応があると、自分が見るようにコーディングしてしまう」ということも懸念されます。
こうしたテスト場面であっても、検査者の個人的事情というのは影響してくるということですね。
心理的支援に臨む人は、しっかりと自身の個人的事情を消化しておくことが求められます。
【H7-50D】

反応数・反応拒否・反応時間

ここからはより具体的な記号化の領域に入っていきます。
平均値なども入ってくるので、間違いなく押さえておきましょう。

反応数 R(number of response)

10枚の図版に対して、与えられた分類の対象となる反応の総計を、「反応数」もしくは「反応総数」と呼び、Rと記号します。
平均値については、研究によって多少の差があります。
ただ臨床心理士資格試験の過去問を踏まえると「20~45」と覚えておけば大丈夫だろうという印象でしょうか(個人的には45は多いんじゃないの?と思うのですが)。

R単体での解釈というのもあるにはあります。
ですが、たいていは他の記号と組み合わせながら解釈を行うものですから、あくまでもこういう意味がありますよ、という程度に留めておきましょう。

Rが少ない場合

  • 非協力的態度:
    あんまり答えたくないよ、という構え。この場合は、前半の図版においてS反応が混じってくることが多くなるなども考えられる。
  • 防衛的・抑制的:
    見ようと思っていても、心理的要因が邪魔してみることができない、反応できないという場合。
  • 抑うつ的気分:
    抑うつ状態、すなわち脳の疲弊やくたびれがあると、見ようと思っても見る力が無いということになりやすい。片口法などでは10以下だと抑うつ状態を疑う、ということが言われたりする。
Rが多い場合
  • 緊張が強く野心的な人柄:
    たくさん見てやろうというやる気がある場合や、たくさん見なければという緊張状態がある場合にたくさんの反応を見せることがある。野心的という場合は、W反応など別の指標でも出てくることがある。
  • FQが高いなら、知的・創造性の高さ:
    FQというのは反応の質のことを指し、質の高い反応が多いということは知的能力が優れている可能性があるということになる。
  • 躁的防衛:
    躁の状態だと、図版から見えた小さな部分の連想からパッと反応してしまうので、反応数が多くなりがち。しかし、そのときにパッと反応しているので、質問段階などで詳細を問われると答えられないなど、反応が全体的に未熟になりやすい。
あくまでも複数ある解釈で、よく用いられるものだけを挙げました。
複数可能性を常に頭に入れておき、それを一つに絞らずにいられるということが、心理職に求められる力とも言えますね。
以下を見ればわかるとおり、かなりの回数が出題されています。
ほとんどが平均的な反応数について問うた問題です。
中には「抑うつ感」の有無について問うて、それを反応数でみようとするという場合もあるのですが、反応数はあくまでも補助的に見る指標となっています。
すなわち、反応数の少なさそれだけで「抑うつ感がある」とはしないように問題設計がされていますので、あくまでも「抑うつ感」の判断の補助的手段と思っておくことが大切です。
【H5-36C、H8-44A、H10-49b、H9-53A、H11-46A、H17-48C、H18-49C、H18-48A、H20-48A、H22-31A】

反応拒否 Rej(rejection)

「自由反応段階」において、反応が全く与えられない図版の数をRejで示します。
自由反応では出さず、質問段階で「これが見えます」と反応した場合であってもRejになります。
あくまで自由反応段階で反応できたか否かを重視していくということですね。

Rejには2種類あります。

 ①反応拒否 Rej(rejection):検査に対して非協力的である場合
 ②反応失敗 Fail(failure):協力的であるが、反応し得ない場合
解釈としては、統覚の困難、統合失調症に見られる阻害、うつ病における抑制、表現をはばかるような反応内容、色彩や濃淡によるショック、などとされています。
ちなみにエクスナー法では、反応拒否の概念を採用していません。
【H20-34A】

初発反応時間 R1T(reaction time)

図版を手渡してから最初に反応するまでにかかる時間を指します。

  • Ⅰ図版:13.3(1~50)
  • Ⅱ図版:15.7(5~45)  
  • Ⅲ図版:12.8(4~30) 
  • Ⅳ図版:22.6(5~70) 
  • Ⅴ図版:15.5(3~55)  
  • Ⅵ図版:20.5(4~60)  
  • Ⅶ図版:18.0(5~50) 
  • Ⅷ図版:14.5(5~45)  
  • Ⅸ図版:20.0(5~60)    
  • Ⅹ図版:14.8(3~35)

R1Tが短い図版≒反応しやすいと言えますし、同時にR1Tが長い図版≒反応しにくい≒Rej大ということになりますね。

上記のうち、色彩が入っている図版(カラー図版)は、ⅡⅢⅧⅨⅩの5枚になります。
これらの図版の初発反応時間が2倍以上になるなら、いわゆる「カラーショック」が生じたと考えることが多いです。

カラーショックについては以下のような記述がなされています。

「ある被験者たちは、彩色されたカードⅧが現れると、紛れもないショックを受けた。・・・このような被験者は、常に感情を抑圧する人であり、軽症あるいは重症の神経症患者である(Rorschach,1976)」
「色彩ショック現象は、本来、神経症者において認められた。…その有効性は、神経症者を対象として検討すべきであると考える(片口安史,1976)」
このように神経症者に多い反応であるということが、かなり昔から言われていますね。
Brosin&Fromm(1940)は以下の10項目をカラーショックの指標として挙げています。
  1. 初発反応時間の遅滞
  2. 感嘆の叫び
  3. いらだち・攻撃性・消極性などの防衛的態度、不安・緊張・ストレスを示すような注釈
  4. 反応数の減少
  5. 反応の形態質の低下
  6. 豊かさ・独創性・包容性・巧妙さの減退した貧弱な反応内容 
  7. 反応の拒否・失敗
  8. 継起型の混乱  
  9. P反応の認知の困難  
  10. 決定因としての色彩因子の回避
特にカラーショックが起きやすいのが第Ⅷ図版、第Ⅱ図版であると言われています。
【H7-36B】

エクスナー法で時間概念が取り入れられていない件について

先述したようにエクスナー法の大きな特徴として、統計的に有意な指標を採用している点があります。
一方、時間概念については被検査者の特徴を示す概念として重宝されてきました。
それがなぜエクスナー法では採用されなくなったのか?

上記のカラーショックを例にとって考えてみましょう。
カラーショックは色彩による情緒的反応によって「反応が遅れる」ということを指し示しています。
これは確かにあり得ることですが、一方で情緒的な揺さぶりが生じたときの反応の仕方は「反応が遅れる」だけとは限らないとも言えます。

例えば、パッと行動に移してしまう人もいるでしょう。
その場合、R1Tが速くなってしまう可能性もあるはずです。

これはR1Tの価値を落とすものではありません。
むしろ、その個別性を色濃く反映する指標としてR1Tを見なすことが可能だということになります。
しかし、それ故に個性による影響を受けてしまい、統計的には打ち消し合う面があったのではないかと思われます。

その他の時間に関する指標

R1T以外にも時間に関する指標はあります。
例えば、反応終了時間 RT(response time)は、図版を手渡してから、その図版に反応をすべて与え終わるまでの時間を指します。

少し考えれば思い至るでしょうが、こちらは正確に測ることが難しい指標です。
例えば、被検査者がいつ止めていいか迷っているときもあるでしょうし、Ⅰ図版では励ますこともあるので一概にできないという事情があります。
よって、解釈を一般的なものとして採用するのは困難な指標であると言えますね。

記号の対応表(反応数・反応時間)

ここまででRやR1Tなど複数の記号が示されました。
出てきた記号は、片口法とエクスナー法の記号対応表としてまとめていこうと思います。
以下の通りです。

時間概念が無い分、エクスナー法の指標はすっきりしていますね。
今後、エクスナー法独自の記号なども出てくるので、その辺も含めて学んでいきましょう。

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