公認心理師 2021-41

MMSEに関する問題です。

MMSE自体というよりも、検査所見を書く上での工夫や心得を問われているような印象ですね。

問41 医師から依頼を受け、MMSEを実施・解釈し報告する際の公認心理師の行動として、不適切なものを1つ選べ。
① 被検査者の実際の回答内容を解釈に含める。
② 検査時の被検査者の緊張や意欲についても解釈に含める。
③ カットオフ値を上回った場合は、認知症ではないと所見を書く。
④ 総得点だけでなく、被検査者が失点した項目についても報告する。
⑤ 被検査者が難聴で口頭による実施ができない場合は、筆談による実施を試みる。

解答のポイント

MMSE(および他の心理検査等)の実施における工夫について理解している。

MMSEの解釈において、細かな情報を含める価値を理解している。

選択肢の解説

MMSEに関する詳しい解説は「公認心理師 2020-97」にありますので、こちらを復習しておきましょう。

本問を解くための基礎知識として、MMSEの質問項目を以下に述べておきます。

  1. 見当識(時間の見当識)
    今年は何年ですか。
    いまの季節は何ですか。
    今日は何曜日ですか。
    今日は何月何日ですか。
  2. 見当識(場所の見当識)
    ここは何県ですか。
    ここは何市ですか。
    ここは何病院ですか。
    ここは何階ですか。
    ここは何地方ですか。
  3. 記銘
    相互に無関係な物品名を3個聞かせ、それをそのまま復唱させる。1個答えられるごとに1点。
    「今から私がいう言葉を覚えてくり返し言ってください。
    『さくら、ねこ、電車』はい、どうぞ」
    「今の言葉は、後で聞くので覚えておいてください」
    ※この3つの言葉は、質問5で再び復唱させるので3つ全部答えられなかった被験者については、全部答えられるようになるまでくり返す(ただし6回まで)。
  4. 注意と計算
    ○シリアル7課題「100から順番に7をくり返し引いてください」
    ※5回くり返し7を引かせ、正答1つにつき1点。合計5点満点。
    ※答えが止まってしまった場合は「それから」と促す。
    ※シリアル7課題を拒否した場合逆唱課題を行う(「フジノヤマ」を逆唱)。
  5. 再生
    「さっき私が言った3つの言葉は何でしたか」
    ※質問3で提示した言葉を再度復唱させる。
  6. 呼称
    時計を見せながら 「これは何ですか?」
    鉛筆を見せながら 「これは何ですか?」
    ※正答1つにつき1点。合計2点満点。
  7. 復唱
    「今から私がいう文を覚えてくり返しいってください。
    『みんなで力をあわせて綱を引きます』」
    ※口頭でゆっくり、はっきりと言い、くり返させる。1回で正確に答えられた場合1点を与える。
  8. 理解
    次の3つの命令を口頭で伝え、すべて聞き終わってから実行する。
    「右手にこの紙を持ってください」
    「それを半分に折りたたんでください」
    「机の上に置いてください」
    ※紙を机に置いた状態で教示を始める。
    ※各段階毎に正しく作業した場合に1点ずつ与える。合計3点満点。
  9. 読字
    「この文を読んで、この通りにしてください」
    ※「目を閉じてください」
    ※被験者は音読でも黙読でもかまわない。実際に目を閉じれば1点を与える。
  10. 書字
    「この部分に何か文章を書いてください。どんな文章でもかまいません」
    ※テスターが例文を与えてはならない。意味のある文章ならば正答とする。
    ※名詞のみは誤答、状態などを示す四字熟語は正答。
  11. 描画
    「この図形を正確にそのまま書き写してください」
    ※模写は書くが10個あり、2つの五角形が交差していることが正答の条件。
    ※手指のふるえなどはかまわない。

以上を踏まえ、各選択肢を見ていきましょう。

① 被検査者の実際の回答内容を解釈に含める。
② 検査時の被検査者の緊張や意欲についても解釈に含める。
④ 総得点だけでなく、被検査者が失点した項目についても報告する。

検査所見を書く上で、被検査者の実際の回答内容がどのような意味合いを持つか考えてみましょう。

MMSEの場合、検査項目の合計得点と定められているカットオフ値(総得点が23点以下ならば軽度認知症、24点以上27点以下ならばMCI、28点以上ならば健常者として弁別する)とを見ることが重要な所見ということになります。

しかし、被検査者の実際の回答内容からは、単に「被検査者が認知症であるか否か、MCIであるか否か」という以上の情報を得ることができます。

総得点だけでなく、実際の回答内容を載せることによって、被検査者の認知機能のうち、どこが保たれており、どこが損なわれているのかの想定がしやすくなります。

また、どのような間違え方をするのかによって、間違えた問題でも「まだ比較的保たれているかもしれない」と見なす場合もあるでしょう(例えば、間違いを述べた後に「さっきのは〇〇でしたね」などのように正答を話す場合)。

また、「被検査者の実際の回答内容を解釈に含める」とは、失点についても解釈に含めていくということに相違ありません。

例えば、シリアル7課題では、注意と計算の力を見ているわけですが、原田憲一先生は「軽い意識障害を見分ける」ためにこの課題を使っています。

軽い意識障害では、注意機能の低下が見られ特異的な間違え方をします。

すなわち、10の位は合っているけど1の位を間違える、1の位は合っているけど10の位は間違える等、片方の位を間違えるというパターンが見られやすいのです。

このように、どこで失点したかによって、そしてその失点の仕方によって、計算機能が低下しているのか、注意機能の低下が想定されるのか、ということを細やかに見ていくこともできます(もちろん、それだけでなく、検査中のあらゆる言動を踏まえて判断すべきものですが)。

もちろん、こうした細やかな解釈を可能にするためには、各検査項目が何を測ろうとしているのか、どういった成立起源をもつのかまで把握しておくと、なお良いだろうと思います。

また、実際の回答内容以外にも重要な情報は隠されています。

例えば、MMSEの得点は低くても、検査の合間に交わされる会話のやり取りから、その被検査者の認知機能がもっと高く感じられた場合、①MMSEの結果をうのみにせず、もっと詳細に検討を重ねる、②見た目よりも認知機能が低下していると見なして、被検査者を世話している人たちが「被検査者の認知機能の低下について周囲にわかってもらえないという辛さ」を抱えていないかの検討、などの可能性を考えていくことになります。

選択肢②で示されている、緊張や意欲の度合いも重要な情報で、例えば、被検査者が自身の認知機能の低下についてどのように捉えているのか現れるかもしれません。

自尊心の傷つきが深ければ、意欲の低下が著しいなどの傾向が想定できますし、それが認められれば検査前後の会話の中でそういった傾向を補完するやり取りを心がけることもできますね。

それだけでなく、緊張や意欲があったとしても、どの程度持続するかという情報があれば、被検査者の日常生活でできることとできないことの弁別をしやすくする可能性もありますね。

ここまで述べたことを総括すると、「総合得点は統計処理を背景とした、被検査者の認知機能について教えてくれる」のに対して、「具体的な回答内容、失点やそれ以外の被検査者の情報は、被検査者の個人的な特徴を把握する」という情報になるわけです。

こうした「被検査者の個人的な特徴」は、統計という枠組みで捉えることが難しい、まさに個性的なものを見ていく指標になるので、こちらも併せて解釈に組み込むことで、より鮮明で立体的な所見を示すことができるでしょう。

以上より、選択肢①、選択肢②および選択肢④は適切と判断でき、除外することになります。

③ カットオフ値を上回った場合は、認知症ではないと所見を書く。

本選択肢については、2つの視点から不適切と判断することができます。

1つは認知症の診断基準についてです。

認知症の診断基準では…

  1. 本人、本人をよく知る情報提供者、または臨床家による、有意な認知機能の低下があったという懸念
  2. 標準化された神経心理学的検査によって、それがなければ他の定量化された臨床的評価によって記録された、実質的な認知行為の障害

…と示されています(なお、この1と2の間には「および」という言葉がありますから、両方共が満たされて初めて「認知症」となるわけです)。

MMSEは上記の内、2に該当する項目になりますが、それだけで認知症であるかどうかの判断をすることはできません。

カットオフ値を下回ったとしても、1の項目が引っかかれば、さらに詳細な検査を選択・実施という可能性も考えていくことになるでしょう(画像診断なども有効な手立てである)。

すなわち、カットオフ値を上回っていようが下回っていようが、MMSEだけの結果で認知症と判断するのは不可能であるということですね。

そして2つ目ですが、「診断」は医師の独占業務なので、公認心理師がしても良いことではありません。

「認知症ではない」という判断をすることができるのは、あくまでも医師だけになりますから、本問の設定である「医師から依頼を受け、MMSEを実施・解釈し報告する際の公認心理師の行動として」行うべきではないと言えますね。

医師が業務独占資格であり、その業務の中に診断が含まれていることは「公認心理師 2019-1」をはじめ、多くの過去問で示されていますね。

以上、これら2つの視点より「カットオフ値を上回った場合は、認知症ではないと所見を書く」というのは公認心理師として行うべきとは言えませんね。

よって、選択肢③は不適切と判断でき、こちらを選択することになります。

⑤ 被検査者が難聴で口頭による実施ができない場合は、筆談による実施を試みる。

聴覚機能は加齢に伴い低下し、70歳代では5~6割、80歳代では6~8割に聴覚障害がみられ、さらに、認知症者を対象とした調査では7~9割に聴覚障害がみられるとされています。

こうした状況ですから、MMSEという認知機能を測定する検査の実施場面では、当然ながら聴覚機能に衰えが見られる被検査者がいるのはごく自然と言えるでしょう。

認知機能検査の多くは聴覚刺激を用いた課題で構成され、聴覚障害を持つ場合には認知機能が低く測定される可能性があり、特に、軽度から中等度の聴覚障害は認識されにくいので、聴覚障害が考慮されず検査結果が過度に低く示される恐れもあります。

ですから、MMSEの実施にあたっては、こうした聴覚機能の低下を認識し、それを踏まえた工夫をしていくことが大切になります。

MMSEに限らずですが、検査を実施する上で大切なことの一つとして「被検査者の能力がきちんと反映されること」が挙げられます。

前述のように、聴覚機能の問題によって、認知機能が過度に低く示されることで、その後の被検査者への支援が的を逸れたものになってしまう恐れがあります。

本選択肢のように、聴覚機能に問題がある場合、筆談による実施を試みて認知機能を測定するということも工夫の一つとみてよいでしょう。

こうした試みは、多くの発達検査でも行われていますね。

具体的には、疲労が強い児童に対して2日に分けて検査を実施するとか、場面緘黙症の児童に対して筆談で回答を求める等、です。

ただし、こうした「正規のやり方とは異なる実施法を採った」のであれば、そのことについて解釈でも言及し、その影響を考慮した所見を提出することが重要になります。

特に、MMSEの場合は、記銘、注意と計算、再生、復唱など、音声で伝えることを前提としている項目も多いので、筆談で行った場合の解釈は慎重に行う必要がありそうです。

なお、聴覚障害による見かけ上の認知機能低下という問題を解決することを目的として、MMSE を文字化して施行する試みが行われています(こちらなど)。

論文を読む限り、こうした試みは正式に採用されているわけではないので、やはり「正規のやり方とは異なる」という認識の下で実施することが大切になりそうです。

以上より、MMSEの実施にあたり「被検査者が難聴で口頭による実施ができない場合は、筆談による実施を試みる」というのはあり得る対応と言えます。

よって、選択肢⑤は適切と判断でき、除外することになります。

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