公認心理師 2020-90

MMPIに関するやや突っ込んだ内容の問題になっています。

過去問でも妥当性尺度の解釈が出題されていますから、MMPIに関しては詳しく理解しておくことが求められていますね。

問90 MMPIの実施と解釈について、正しいものを1つ選べ。
① 各質問項目には、5件法で回答する。
② 追加尺度は、20尺度開発されている。
③ F尺度は、心理的防衛の高さを示している。
④ 第5尺度(Mf)は、性別により解釈基準が異なる。
⑤ 第0尺度(Si)と第7尺度(Pt)が90の場合は、精神的混乱状態と解釈できる。

解答のポイント

MMPIの基本的な情報を把握し、妥当性尺度および臨床尺度の解釈が可能である。

選択肢の解説

① 各質問項目には、5件法で回答する。
② 追加尺度は、20尺度開発されている。

これらの選択肢はMMPIの基本情報になりますね。

以下では、MMPIの基本情報を箇条書きにしてまとめていきましょう。

以前、MMPIについては別記事でまとめていますので、ほとんどがその転載となります(本選択肢に合わせて、いくつか追加しています)。

この記事を書いた時点の、臨床心理士資格試験過去問にも対応できる形で書いていますので、臨床心理士を受験する方にも役立つだろうと思います。


  • ミネソタ大学のハザウェイとマッキンレイが作成(1943年)。
  • 投影法(ナラティブ)から、客観性(エビデンス)へ。MMPIが出る前までは投影法が盛んで、それ故にもっと客観性のある検査はないのか、という意見が出され、それを契機に開発された。
  • 特定のパーソナリティ理論に基づいてはいない(人格特性論的でない)。
  • 臨床的妥当性(ある質問項目が臨床群と非臨床群を見分ける力があるか否かで、その質問項目を採用するか否かを決める)に基づいて作成されている。つまり、どのような内容の質問(例えば、あなたはパスタが好きですか?)であっても、それによって臨床群と非臨床群を統計的に有意なほどに見分ける力が高いならば、採用されているということ。
    ※臨床心理士資格試験では、この点でYG検査(内的整合性に基づいて作成されている)と比較されることが多かった。今はわかりませんけど。
  • 適応年齢は、原版では16歳以上、新日本版は15歳以上(小学校卒業程度の読解力あり)とされている。
  • 回答は「そう」・「ちがう」・「どちらでもない」の3件法だが、極力、2件法での回答が求められる(「どちらでもない」は10個未満とする)。
  • 550問の項目を備えている。そのため1時間以上は時間を見込む必要があり、ロールシャッハ、MMPI、WAISなどのテストバッテリーを組む場合には、疲労要因も勘案する必要がある。
  • 新しい尺度が作られ活用されている(不安尺度、自我強度尺度などが有名)。その他にも「抑圧尺度」「腰痛尺度」「頭頂葉・前頭葉損傷尺度」「依存性尺度」「支配性尺度」「社会的責任尺度」「偏見尺度」など、追加尺度の数は数百を超える。
  • 「現状」を見るもので、「性格特性」という普遍性を持っていない(例えば、うつ病は判断しづらくても、うつ状態の判断はできる)。パーソナリティ全体を見るとか、そういう力を持つ検査ではない。
  • MMPIの項目を利用してMASなどが作られている。1953年にテイラーが、キャメロンの慢性不安反応に関する理論を基にMMPIから選出された不安尺度50項目に、妥当性尺度15項目を加えた65項目で構成・作成した。
  • 「T得点」で示されるが、これは素点を置き換えた後の得点を指し、平均は50前後に設定されている。高得点とはT得点で70以上を、低得点とはT得点で45以下を指すのが一般的。

これらがMMPIの基本的な情報となり、実施以前に知識としてもっておくことが求められる内容になります。

まずは選択肢①についてです。

MMPIでは、「そう・ちがう・どちらでもない」の3件法で実施されます(〇件法というのは、選択肢がいくつあるかということですね。例えば、本選択肢のような5件法なら「強くそう思う・そう思う・どちらでもない・そう思わない・強くそう思う」などから選択することになります)。

ただし、「どちらでもない」という選択肢はできるだけ選択しないように求められます。

その理由としては、選択肢③でも述べますが、MMPIの妥当性(本当に測定したいものを測定できているか、という概念)に係わってくるからです。

続いて、選択肢②についてです。

MMPIの大きな特徴は、なんといってもその項目数の多さです。

550項目という大量の質問項目を設けているので、例えば、疲労要因やテストバッテリーを組むときに留意が必要といったデメリットもありますが、それ以上に「550項目のいくつかの質問項目を組み合わせて、新たな尺度を作成する」という大きなメリットが存在します。

元々、MMPIには上記の550項目の組み合わせから10個の臨床尺度(選択肢④および選択肢⑤で解説します)が示されていますが、この臨床尺度とは「別の概念を測ることができる項目の組み合わせ」が作られ、そうやって作られた尺度のことを「追加尺度」と呼びます。

そもそもMMPIの臨床尺度も「550項目のうちのいくつかの項目の組み合わせ」によって作られたものですが、追加尺度も「550項目のうち、これとこれとこれを組み合わせれば、〇〇という概念を測れる尺度になる!」と検証されて提出されています(言い換えれば、それほどに項目数が多い)。

有名なのが「自我強度尺度」や「不安尺度」ですが、それ以外にも数多の追加尺度が作成されており、その数は数百に及びます。

この自在性が、MMPIが活用され続けている理由の一つと言えますね。

こうした「追加尺度」を作成しても良いのは、MMPIの作成が臨床的妥当性に基づいていることと関係しています。

普通の質問紙検査であれば、たいていの場合、その質問項目には固有の意味を持たせているため、勝手に他の概念を検証する質問としては援用しづらいのです。

ですが、MMPIは臨床的妥当性という「ある疾患を有無を判別することができるかどうか(患者群と非患者群との間の統計的有意差を基に作られている)」で質問項目を定めています(2018-109の選択肢④で出題されていますね)。

つまり、質問項目に求められるのは「その質問が、患者と非患者を弁別する力があること」であり、MMPIにおいてはその質問項目に固有の意味を持たせてはいないのです(言い換えれば、弁別する力があれば、質問項目の内容はなんだって良い)。

こうした臨床的妥当性に基づいて作成されているMMPIですから、追加尺度を作成する際も「測りたい概念を弁別できればそれでよい」という捉え方で行われます。

こうした「弁別力」のみが求められるという特徴を備えているので、追加尺度も作りやすいと言えるでしょう。

以上より、MMPIでは各質問項目に3件法で回答し、追加尺度は数百に及ぶことがわかりますね。

よって、選択肢①および選択肢②は誤りと判断できます。

③ F尺度は、心理的防衛の高さを示している。

MMPIは、4個の「妥当性尺度」と、10個の「臨床尺度」で構成されています。

MMPIの妥当性尺度では、被検者の回答が歪曲されていないかを確認し、それを補正します。

また、妥当性尺度から被検者の現在の状態を解釈することも可能です。

本選択肢は「妥当性尺度」の一つであるF尺度について問われていますね。

ここでは、すべての妥当性尺度についての特徴を述べていきましょう。

まず、妥当性尺度は「?尺度」「L尺度」「F尺度」「K尺度」の4つが設けられています。

それぞれの特徴は以下の通りです。


?尺度(疑問尺度)

  • 「どちらともいえない=?」と答えた項目の数を表しており、これが多い場合は妥当性が疑わしくなるため、判定の中止、あるいは再検査を検討する必要がある。
  • 「どちらともいえない」が30個以上は検査の妥当性が疑わしいとされる。

L尺度(虚偽尺度)

  • Lはうそ(Lie)を表し、被験者が自分を好ましく見せようとすることによっておこる反応の歪みの程度を調べるもの。
  • 社会的には望ましいが実際には困難を意味し、高得点は、自分を好ましく見せようとする傾向を示唆する。
  • わりあい素朴な受検態度の歪みを検出する。

F尺度(頻度尺度)

  • 正常な成人においては出現率(Frequency)が10%以下と低い回答の有無を調べる尺度。
  • これが多いと「でたらめに回答した」「よく読まないで回答した」ために矛盾が多くなり、信頼性が低くなる(つまり回答に一貫性があるかどうかを判定している)。
  • 高得点は、教示や文章の誤解、非協力や自分を悪く見せようとする傾向、精神障害の急性症状が疑われる。
  • 一方で、「大袈裟に訴える」という援助を求める叫びの場合も。すなわち、故意に悪く見せようとする可能性、援助を求めるために症状を誇張している可能性などが示唆される。
  • アイデンティティの揺らぎや精神的混乱を反映する可能性があり、青年期に高くなりやすいという一面もある。

K尺度(修正尺度、対処尺度)

  • 自己に対する評価、検査に対する警戒の程度を調べるもので、高いほど自己防衛の態度が強い、自分の心理的問題を認めようとしない傾向となる。
  • 低得点は率直さと自己批判的態度を表す。
  • 回答の歪曲の修正するための点数として用いられる。

こうした尺度によって、その検査結果が妥当であるかどうかを判断するということになります。

これらの尺度で引っかかった場合、その検査結果の解釈もそれを踏まえて慎重に行う必要が出てきますね(検査結果の解釈はいつも慎重に行うものですけどね)。

さて、この妥当性尺度は、実際の検査用紙で左から「?尺度」「L尺度」「F尺度」「K尺度」の順で並んでいます。

これらの得点を線でつなげることでプロフィールが出来上がるのですが、このプロフィールによって被検者の特徴を見立てることも可能です。

  • LとKが50以下でFが60以上の山型パターンは、自らの情緒的問題を認めて援助を望むあまり症状を誇張して訴える「救助を求める叫び」サインとして知られている。
  • LとKが高く、真ん中のFが低い形(V字型)は、「よく見せかけている受験態度」の典型パターン。

こうした点も把握しておくと、実際の検査の解釈では役立つでしょう(臨床心理士資格試験でも出題されたことがある内容ですしね)。

このように、本選択肢にある「F尺度」は、出現率(Frequency)が10%以下と低い回答の有無を調べる尺度であり、一般的にはこれが多いと「でたらめに回答した」「よく読まないで回答した」ために矛盾が多くなり、信頼性が低くなるとされています(他の意味もあるのは上記の通りです)。

本選択肢の「心理的防衛の高さを示している」という説明は「K尺度」に関するものになります。

K尺度は、自己に対する評価、検査に対する警戒の程度を調べるもので、高いほど自己防衛の態度が強い、自分の心理的問題を認めようとしない傾向となるので、本選択肢の説明に合致しますね。

以上より、選択肢③は誤りと判断できます。

④ 第5尺度(Mf)は、性別により解釈基準が異なる。
⑤ 第0尺度(Si)と第7尺度(Pt)が90の場合は、精神的混乱状態と解釈できる。

これらの選択肢は臨床尺度に関する理解が問われていますね。

MMPIでは第0尺度~第9尺度の10個の臨床尺度が設けられています(順番は第1尺度~第9尺度の次に第0尺度の順)。

ここでは、各臨床尺度について解説していきます。


第1尺度 Hs(心気症):自分の健康状態について過度に気にして悩む傾向。高得点は、健康への懸念、身体不調の訴えで他人を操作する傾向を示す。

第2尺度 D(抑うつ):気分的抑うつの程度を示す。高得点は、抑うつ的であることを示し、低得点は、積極性のある社交的を示す(うつ病ではなく「うつ状態」を表すのがポイント)。

第3尺度 Hy(ヒステリー):特に身体面への転換症状を起こしやすい傾向。高得点は、身体症状による責任回避、自身への洞察欠如や未熟で表面的な対人関係の傾向を示す。低得点は、萎縮し同調的な傾向を示す。

第4尺度 Pd(精神病質的偏倚):反社会行動を起こしやすい傾向。高得点は、反社会的または非社会的な形の反抗や敵意を示し、低得点は受動的・同調的な傾向を示す。

第5尺度 Mf(男性性・女性性):伝統的な性役割取得の程度、性役割の柔軟性。この項目だけ、解釈が男女で異なるので注意が必要。
男性:高得点は女性的なものを取り入れる傾向や、受動的で主張性に乏しい傾向を示す。低得点は、男らしさに疑問を抱くがゆえに「男らしい男」にこだわる。
女性:高得点は、女性らしさにとらわれない。低得点は、女性らしさにこだわり、誇張される傾向がある。

第6尺度 Pa(パラノイア):疑心など妄想をもちやすい傾向。高得点は、猜疑傾向や独善性を示す。低得点は、適応的、または対人的な過敏さを示す。

第7尺度 Pt(精神衰弱):強迫神経症の指標でもある。高得点は、緊張感や不安、優柔不断、反復思考や強迫思考を示す。

第8尺度 Sc(統合失調):奇妙な行動、幻覚妄想、異常な思考の傾向。高得点は、奇妙で風変わり(エキセントリック)な傾向や疎外感を示す。低得点は、現実的。

第9尺度 Ma(軽躁病):活動性を示す。高得点は、活動過多や情緒不安定、衝動的傾向を示す。低得点は、低い活動性を示す。

第0尺度 Si(社会的内向性):社会的接触を好まない傾向。高得点は、内向的で対人関係不安定や引きこもりの傾向を示す。低得点は、社交的傾向を示す。


これらを踏まえて、ここで挙げた選択肢の解説をしていきましょう。

まず選択肢④についてですが、選択肢で述べられている通り、Mf尺度のみ他の尺度と異なって男女で解釈が異なってきます。

当然といえば当然ですが、男性性・女性性という性役割に関する尺度なわけですから、この解釈が男女で同じであって良いわけがありませんね。

と言っても、MMPIが作られた当時と現在では性役割も随分と変化してきていますから(多分…)、活用の仕方にも工夫が求められるかもしれませんね。

さて、続いては選択肢⑤の第0尺度(Si)と第7尺度(Pt)についてです。

まず大まかな解釈として、第0尺度は社会的内向性を示し、第7尺度は精神衰弱の度合いを示しています。

選択肢⑤では、これらが高得点であるということですから(90は相当高い。一般的に70以上が高得点とされている)、第7尺度からは緊張感や不安、優柔不断、反復思考の高さや強迫思考の存在が想定されます。

そして、第0尺度からは内向的で対人関係不安定や引きこもりの傾向が示されていますね。

つまり、これらの尺度の結果は、緊張感や対人関係の不安定さを示すものですが、選択肢⑤の「精神的混乱」というのとは異なるのがわかりますね(緊張と混乱は違うし、対人関係の不安定さや引きこもりと混乱も違う)。

ただし、これだけでは解説として心許ないというか不十分だと思うので、別の視点も見ていきましょう。

妥当性尺度で示したように、MMPIでは各尺度を線でつないでプロフィールを作成し、そのパターンで解釈を行うという手法も用いられており、これは臨床尺度でも同様です。

代表的な臨床尺度のプロフィールによる分析の視点は以下の通りです。

  • 右下がりプロフィール(第1尺度、第2尺度、第3尺度が高い)は、神経症傾向を示す。
  • 右上がりのプロフィール(第6尺度、第8尺度、第9尺度が高い)は、精神病傾向を示す。
  • ゴールドバーグ指標((L+Pa+SC)-(Hy+Pt)で算出される)では、40以上で精神病的傾向、30以下で神経症的傾向の存在が示唆される。
  • 浮揚プロフィール(すべての臨床尺度のT得点が70以上)は、境界例傾向の存在を示す。
  • 転換V(第1尺度↑・第2尺度↓・第3尺度↑でV字型を構成)は、心理的問題を身体症状に転換していることを示唆する。

こうしたプロフィールによる解釈も提示されていますが、本選択肢はこちらにも該当しませんね。

本選択肢にある「精神的混乱状態」に最も近い解釈がなされるのは、妥当性尺度の「F尺度」においてです。

F尺度は、出現率(Frequency)が10%以下と低い回答の有無を調べる尺度であり、これが多いと「でたらめに回答した」「よく読まないで回答した」ために矛盾が多くなり、信頼性が低くなるというのが一般的な解釈です。

しかし、別の解釈として「アイデンティティの揺らぎや精神的混乱を反映する可能性があり、青年期に高くなりやすいという一面もある」とされています。

なぜこのような解釈をするのかというと、一般的な回答として生じにくいものを集めているという点で「風変わりな自分」を見せようとしている傾向があり、これはアイデンティティが揺らいでいる人に多い(自分らしさを求めて風変わりな自分を出している)です。

また、精神的に混乱をきたしていることで、安定した回答ができていないという可能性も考える必要があります。

以上より、選択肢④のMfは解釈基準が男女によって異なります。

一方、選択肢⑤は第0尺度と第7尺度で精神的混乱を示すというのは解釈として難しく、一番近いものとしてはF尺度であると考えられます。

よって、選択肢④が正しく、選択肢⑤が誤りと判断できます。

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