公認心理師 2020-137

事例の見立てを行い、それを査定するのに最も適した検査を選択する問題です。

この設問構造はお馴染みのものであり、毎年数問の出題がありますね。

今回、初出のテストもあるので、ここでしっかりと把握しておくようにしましょう。

問137 30歳の男性 A、会社員。独身で一人暮らしである。Aは、職場での不適応感を訴えて精神科を受診した。幼少期から心配性と言われてきたが、ここ半年ほどでその傾向が一層強まってきた。仕事で失敗したり、失業したりするのではないか、重大な病気にかかっているのではないかなど気になって仕方がない。自分でも心配しすぎだと分かってはいるが、いらいらし、仕事にも集中できず、疲労がつのる。寝つきも悪く、しばしば早朝に覚醒してしまうこともある。
医師から Aの状態をアセスメントするよう依頼された公認心理師が、Aに実施するテストバッテリーに含めるものとして、最も適切なものを1つ選べ。
① AQ-J
② CAPS
③ GAD-7
④ LSAS-J
⑤ Y-BOCS

解答のポイント

事例の内容から特定の疾患を同定することができる。

その疾患の評価に最適な検査を選択することができる。

選択肢の解説

本問を解く手順として、まずは本事例Aがどういった疾患を抱えている可能性があるかを判断することが重要です。

そして、その次に、その疾患を評価できる検査を選択することで正答にたどり着くことになります。

ここでは、まずAの疾患について考えていきます。

事例にある「Aは、職場での不適応感を訴えて精神科を受診した。幼少期から心配性と言われてきたが、ここ半年ほどでその傾向が一層強まってきた。仕事で失敗したり、失業したりするのではないか、重大な病気にかかっているのではないかなど気になって仕方がない。自分でも心配しすぎだと分かってはいるが、いらいらし、仕事にも集中できず、疲労がつのる。寝つきも悪く、しばしば早朝に覚醒してしまうこともある」という状況から、どういった疾患を想定するかですね。

明らかに不安関連の障害であることがわかると思いますが、その中でも「全般性不安障害」が一番近いだろうと考えられます。

全般性不安障害の診断基準は以下の通りです。


A.(仕事や学業などの)多数の出来事または活動についての過剰な不安と心配(予期憂慮)が、起こる日のほうが起こらない日より多い状態が、少なくとも6ヵ月間にわたる。

B.その人は、その不安を抑制することが難しいと感じている。

C.その不安および心配は、以下の6つの症状のうち3つ(またはそれ以上)を伴っている(過去6ヵ月間、少なくとも数個の症状が、起こる日のほうが起こらない日より多い)。
注:子どもの場合は1項目だけが必要
 1.落ち着きのなさ、緊張感、または神経の高ぶり
 2.疲労しやすいこと
 3.集中困難、または心が空白となること
 4.易怒性
 5.筋肉の緊張
 6.睡眠障害(入眠または睡眠維持の困難、または、落ち着かず熟眠感のない睡眠)

D.その不安、心配、または身体症状が、臨床的に意味のある苦痛、または社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている。

E.その障害は、物質(例:乱用薬物、医薬品)または他の医学的疾患(例:甲状腺機能亢進症)の生理学的作用によるものではない。

F.その障害は他の精神疾患ではうまく説明されない[例:パニック症におけるパニック発作が起こることの不安または心配、社交不安症(社交恐怖)における否定的評価、強迫症における汚染または、他の強迫観念、分離不安症における愛着の対象からの分離、心的外傷後ストレス障害における外傷的出来事を思い出させるもの、神経性やせ症における体重が増加すること、身体症状における身体的訴え、醜形恐怖症における想像上の外見上の欠点や知覚、病気不安症における深刻な病気をもつこと、または、統合失調症または妄想性障害における妄想的信念の内容、に関する不安または心配]


不安は何かしらに置き換わることが多く、置き換わるものやそれへの反応によって「恐怖症」になったり「強迫性障害」になったりします。

しかし、本事例では「不安」は「不安」のまま体験されており、クライエントはそれを何かに置き換えているような様子は見られません。

ちなみに、何かに置き換えてしまっているよりも、「不安」を「不安」のまま感じている方が、支援はしやすく改善も早い印象があります(もちろん、事例によって差はありますが)。

例えば、「置き換え→置き換えた対象への対応」ということが「症状」になってしまっている強迫性障害の場合は、その人が抱えている「もともとの不安」からどんどん遠ざかっていっているのが理解できますね。

そうやって「もともとの不安」から遠ざかるほどに、支援のしにくさ、クライエントが自身の不安に気づくことがし難くなるのは仕方がないことだろうと思いますし、それ故に支援の困難さも高まっていくわけです。

さて、上記の診断基準と本事例の内容を併せて見ていきましょう。

まず「ここ半年ほどでその傾向が一層強まってきた」という前提は、診断基準Aにある「少なくとも6か月間にわたる」という記述と対応しますね。

そして「仕事で失敗したり、失業したりするのではないか、重大な病気にかかっているのではないかなど気になって仕方がない」というのも、診断基準Aの「(仕事や学業などの)多数の出来事または活動についての過剰な不安と心配(予期憂慮)」であると見なすことができます。

また「いらいらし、仕事にも集中できず、疲労がつのる。寝つきも悪く、しばしば早朝に覚醒してしまうこともある」という記述は、診断基準Cの「落ち着きのなさ、緊張感、または神経の高ぶり」「疲労しやすいこと」「集中困難、または心が空白となること」「易怒性」「睡眠障害(入眠または睡眠維持の困難、または、落ち着かず熟眠感のない睡眠)」に該当すると言えます。

さらに「自分でも心配しすぎだと分かってはいるが」については、診断基準Bの「その人は、その不安を抑制することが難しいと感じている」に該当します。

こうした「わかっているのにやめられない」というのは、不安関連障害によくみられる反応のひとつですね。

こういう自分の内にある感情体験に違和感を覚えることを「自我違和的」と表現しますが、自我違和的でなくなるほど(つまり、自分の内にある不安に違和感を覚えなくなるほど)に重症化しているような印象を受けます。

全般性不安障害のクライエントは、不安に対して自我違和的な感覚を持っていることが多いですね。

さて、本問ではクライエントを「全般性不安障害」である可能性を考え、それを確かめるようなアセスメントを行っていくことが求められます。

そのことを踏まえ、各選択肢で示されているアセスメントの特徴を示していきましょう。

① AQ-J

AQとは、Autism(自閉症)-Spectrum Quotient(指数)の略で、ASDのスクリーニングテストとして使われています。

ASDでは、社会的なコミュニケーションの取り方の困難さ、こだわりの強さを大きな特徴とされており、このような特徴や傾向をスクリーニングするため、Simon Baron-Cohen&Sally Wheelwrightたちによって考案されたのがAQです(語尾のJはJapanを意味します)。

AQ-Jでは、「社会的スキル」「注意の切り替え」「細部への注意」「コミュニケーション」「想像力」の5つの項目があり、50問4択で解答していきます。

これらはすべてASD傾向を知るために重要な項目となります。

得点による判断は以下の通りです。

  • 33点以上:発達障害の診断がつく可能性が高いといえます。日常生活に差し障りがあると思われます。
  • 27~32点:発達障害の傾向がある程度あるといえます。日常生活に差し障りはないと思われますが、一部の人は何らかの差し障りがあるかもしれません。
  • 26点以下:発達障害の傾向はあまりありません。日常生活にも差し障りなく過ごせていると思われます。

本事例ではASDを疑わせるような所見は見られませんから、AQ-Jをテストバッテリーに含む整合性がありません。

以上より、選択肢①は不適切と判断できます。

なお、2020-73、2019-69において「AQ-J」の出題がありますね。

② CAPS

CAPS (Clinician-Administered PTSD Scale) は、優れた精度のPTSD構造化診断面接尺度として各国の臨床研究や治験で広く使用されています。

PTSDの構造化診断面接尺度として医療保険適用もされています。

所要時間は、面接で90分前後、分析で30分ほどとされています。

本事例では、PTSDを喚起するような出来事も、PTSDを疑わせるような症状も存在しません。

過覚醒と見ることができなくもない症状はありますが、やはり出来事基準が存在していないことや「幼少期から心配性と言われてきた」という特徴からもPTSDという判断には矛盾があると言えます。

以上より、選択肢②は不適切と判断できます。

なお、2019-139で「CAPS」の出題はありますね。

③ GAD-7

GAD-7(Generalized Anxiety Disorder-7)は、Spitzer、Kroenke、Williams&Löweによって作成された、全般性不安障害を簡易に評価するための質問票になります。

末尾の「7」は質問項目の数になりますね。

GAD-7では、「この2週間、次のような問題にどのくらい頻繁に悩まされていますか?」という教示に始まり、不安関連の問題に関する7項目の質問に4件法(「全くない=0 点」「数日=1 点」「半分以上=2 点」「ほとんど毎日=3 点」)で答えていく自己記人式質問票になっています。

合計点は 0~21点で、0~4点は全般性不安障害がなく、5~9点は軽度、10~14点は中等度、15~21 点は重度と評価されます。

先述の通り、本事例は全般性不安障害である可能性が考えられるので、GAD-7をテストバッテリーに組み込むのは合理的な判断と言えますね。

以上より、選択肢③は適切と判断できます。

なお、GAD-7は公認心理師試験初出になります。

他の選択肢の項目が既出ですから、「正解を知っている」よりも「不正解がわかる」ことで正答を導くことが重要な問題と言えますが、同じく不安関連の問題を査定する「LSAS-J」や「Y-BOCS(DSM-5からは強迫性障害を不安関連障害に含んでいませんが、不安を背景とした障害であることは事実)」も含んでいることから、なかなかな問題であると感じました。

④ LSAS-J

Llebowitz Social Anxiety Scale(LSAS-J)=リーボヴィッツ社交不安尺度は、社交不安障害を測定する目的で開発された尺度であり、国際的にも広く用いられている社交不安障害の標準的な尺度とされています。

LSAS-Jは社交不安障害の臨床症状や薬物療法、精神療法の治療反応性を評価することを目的に欧米ではもちろんのこと、日本でも用いられています。

質問は24項目で、対人場面や人前で何かをするときの恐怖感、あるいはそういった場面の回避の程度など、両方を分けて測ることができます。

24の状況は行為状況と社交状況の2種類に分かれており、ランダムに混ざっています。

24項目の質問について、0~3の4段階評価した後、合算した得点によって、以下の4段階で重症度の評価を行います(総得点0~144点)。

  • 約30点:境界域
  • 50~70点:中等度
  • 80~90点:さらに症状が顕著;苦痛を感じるだけでなく、実際に社交面や仕事などの日常生活に障害が認められる
  • 95~100点以上:重度;働くことができない、会社に行けないなど社会的機能を果たすことができなくなり、活動能力がきわめて低下した状態に陥っている

こうした重症度の評価を行うことができるという点から、臨床効果の尺度としても用いられています。

こちらの選択肢に関しては、「全般性不安障害」と同じ不安障害群のカテゴリーに含まれる「社交不安障害」という疾患のアセスメントに使われる検査という点で少し迷うところです。

しかし、クライエントの状況は社交的な状況に限定しているわけではありませんから、「社交不安障害」に限定したアセスメントを組み込むのは時期尚早であると言えそうです。

以上より、選択肢④は不適切と判断できます。

なお、2018追加-72で「LSAS-J」の出題がありますね。

⑤ Y-BOCS

Yale-Brown Obsessive Compulsive Scale(Y-BOCS)=エール・ブラウン強迫尺度は、強迫性障害の強迫観念や強迫行為の臨床的重症度の評価において最も一般的に用いられる方法であり、10の項目から成り、費やす時間、関連する苦痛、機能障害、抵抗性、強迫観念と強迫行為の制御を評価します。

Y-BOCSは症状評価リストで特定した主要な強迫観念及び行為について、症状に占められる時間や社会的障害度など10項目を0-4点の5段階で評価・合計し総得点(40点満点)を決定します。

重症度については、10~18点は軽度、18~29点は中度、30点以上は重度と判断されます。

厚生労働省が出している「強迫性障害(強迫症)の認知行動療法マニュアル (治療者用)」にも本検査の記載があります。

研究レベルではY-BOCS総得点が治療前より25-35%減、総得点16以下と言われています。

寛解レベルは12点以下に下がることであり、治療者と患者の事情が許すならば改善するところまで治療続ける方が望ましいとされています。

本選択肢も少し迷うところですが、上述の通り、クライエントは不安を何かに置き換えている様子は見られず、現時点で強迫性障害の可能性を疑うには事例状況に矛盾があります。

何かに置き換えているような様子があり、それによって生活が狭くなっていることが認められれば「Y-BOCS」を組み込むことも考えるのですが、本事例は該当しませんね。

以上より、選択肢⑤は不適切と判断できます。

なお、2018追加-72、2019-139、2020-73で「Y-BOCS」に関する出題がありますね。

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