公認心理師 2019-23

問23は日本語をほぼ話せない人に対する成人の知能検査を選択する問題です。
ポイントは2点です。
「日本語をほぼ話せない」と「成人の知能検査」ですね。

問23 日本語を母語としない成人の知能検査として、最も適切なものを1つ選べ。ただし、検査内容の説明程度は日本語で理解できるものとする。
①PARS-TR
②WISC-Ⅳ
③ベンダー・ゲシュタルト検査
④ウィスコンシンカード分類検査
⑤コース立方体組み合わせテスト

まず「日本語を母語としない」という文言から、かつてのαとβという分類を思い返してほしいところです(直接は関係しませんが)。
1917年にアメリカが参戦したとき、心理学者から成る委員会が構成されました。
この委員会は、オーティスの集団検査用の案を採用して、陸軍検査(アーミーテスト)を作りました。
このアーミーテストの中には、英語をよく理解する者を対象とし、言語的な要素を多く含んでいるアルファ(α)検査と、英語をよく解さないものを対象とし、言語を用いることの少ない作業から成っているベータ(β)検査があります。

知能検査は2019-4で示した通り、ビネーによって最初に開発されました。
このときの目的としては、公立学校で知能程度が大体等しい児童を集めて学級を編成すれば、教育する上で効果が上がるのではないかと考えたということがあります。
これが1905年のことですが、1912年に上記のオーティスが集団式知能検査を開発しました。
これが集団式知能検査の起源であり、そのあとオーティスは1918年にターマン(ビネー式検査の有名な改定を行った人)と協力して軍人徴兵用の集団式の「α式検査」「β式検査」を開発しました。

有名なアメリカ軍部の集団知能検査としては、R・M・ヤーキーズらが1918年に開発した「USアーミー・テスト(米国陸軍式知能検査)」があります。
ヤーキーズは、英語を母国語とする兵士たちの知能水準を言語機能(語彙・文法・論理・記憶など)で測定する「α式検査」と、英語の読解能力が十分でない移民・外国人の知能水準を図形・記号・数字・絵画などの問題で計測する「β式検査」を作成しました。

これによって何をしたのか?
兵士の配置を決めたわけです。
言語を解したり、知的な能力が高い方が作戦等を決める・伝える位置におかれましたし、そうでない方は言語が必要でないような位置(どういう場所かは大体理解できますね?)におかれました。

これらの出来事(子どもの知能を測る・兵士の能力を測る)という出来事によって、実は知能検査は急速に発展していったわけです。
知能検査の発展を理解する上で、戦争という出来事は切り離せないということを覚えておきましょう。
ちなみにウェクスラー式で見られる言語性知能・動作性知能という枠組みは、こうしたα検査・β検査の名残ですよ。

解答のポイント

「言語を解さなくても可能」である「成人用知能検査」を把握している。
各検査の特徴を理解している。

選択肢の解説

①PARS-TR

PARS-TR:Parent-interview ASD Rating Scale-Text Revision(親面接式自閉スペクトラム症評定尺度 テキスト改訂版)という表記からもわかるとおり、ASDの特性と支援ニーズを評価する面接ツールです

ASDの発達・行動症状について母親(母親から情報が得がたい場合は他の主養育者)に面接し、その存否と程度を評定する57項目からなる検査です
この得点から、対象児者の適応困難の背景にASDの特性が存在している可能性を把握することができます。

対象年齢が3歳以上(当然子どもがですよ。3歳以上の子どものいる母親に実施するということ)ですから、幼児期および現在の行動特徴をASDの発達・行動症状と症状に影響する環境要因の観点から把握します
半構造化面接により発達・行動症状を把握することを通じて養育者の対象児者に対する理解を深めることが狙えます。

以上より、検査の目的も対象年齢も問題文のそれとは齟齬があることがわかります。
よって、選択肢①は不適切と判断できます。

②WISC-Ⅳ

WISC-Ⅳの検査概要は以下の通りです。
5歳~16歳11ヶ月が対象年齢です(ただし、知的障害が疑われる場合、5~7歳への適用は適切でない可能性あり)
知的発達のいくつかの領域における個人内差を明らかにできます。

全検査IQ(FIQ)と、4つの指標得点(群指数)の5つの合成得点を算出します。
指標得点(群指数)は、言語記憶、知覚処理、ワーキングメモリ、処理速度の4つから成っています。

かつてウェクスラー式知能検査では言語性・動作性の分類がありました(先述の通り、α検査・β検査の名残です)。
WISC-Ⅳではその分類は廃止され上記のような群指数としてまとめられましたが、下位検査の内容が大きく変化したわけではありません
すなわち、WISC-Ⅳには言語を中心とした検査項目が半分くらいは含まれています。
このことから「日本語をあまり解しない場合」に選択される検査として、ウェクスラー式は該当しないと考えるのが合理的です。

以上より、年齢や検査の目的の両面からWISC-Ⅳは妥当でないことがわかります。
よって、選択肢②は不適切と判断できます。

③ベンダー・ゲシュタルト検査

ベンダー・ゲシュタルト検査は、9枚の簡単な幾何学図形を模写することによって、ゲシュタルト機能の成熟程度およびその障害、心理的障害、器質的な脳障害、パーソナリティ傾向、知能的側面などの多方面にわたる情報を査定することができます

ベンダー自身は、このテストは「4-11歳の子どもの脳の機能ゲシュタルト機能の成熟を評価する方法で、与えられた刺激の布置全体に反応する。反応は知覚されたゲシュタルトのパターン化の運動過程である」と述べています。

この図版はゲシュタルト心理学で有名なWertheimerが作成しました。
実用上、ベンダー・ゲシュタルト検査は器質的な脳障害の有無に関して、図形の崩壊などから判定がかなり期待できるとされています。
ベンダー自身は損傷部位との関連も述べてはいますが、実際には部位の特定は困難です。

当初はこうした器質的な脳障害の判定に有効な検査でしたが、画像診断技術の向上に伴って不要になってきています。
そこでパーソナリティ評価という側面に舵を切っているという印象も受けます。
また、知的能力を判断しようとする流れもないこともないのですが、やはり正規の知能検査をせずに行うほどの精度を有しているわけでもありません。
いずれにせよ、器質的な脳障害を把握できるということが本検査の基本的な役割であると理解しておきましょう

検査自体は「模写してもらうだけ」という単純なものですから、日本語をそれほど解しなくても実施可能だと思われます
しかし、その検査の目的から考えて「成人の知能検査」として用いるには無理があるでしょう

以上より、選択肢③は不適切と判断できます。

④ウィスコンシンカード分類検査

そもそも、ウィスコンシンカード分類課題は強化学習の状況の変化に直面した際の柔軟さを意味するセットシフティングの能力を見るための神経心理学的課題です。
この課題は前頭葉の機能障害に対して感受性をもつとされていることから、遂行機能(実行機能とも言われる) の計測法として有効であるとされています

遂行機能には以下のような要素が含まれます。

  • 意思や目標の設定:
    目標の設定には、何をしたいのかを決め、未来に向けてどのようになるかを考えるといった複雑な過程が関係している。目標を明確化する能力、意図を形作る能力が必要で、それには動機づけ、自分自身や環境についての認識なども必要になる。
    一例としては、会話を始めない、感情の平板化、冷蔵庫が空でも買い物に行かない、などとなる。
  • 計画の立案:
    目標を達成するためには、必要な手段や技能、材料、人物などを決定する能力、よく考えてそれらを評価したり、選択を下す能力、更に行動を方向づける枠組みを構成し組織化する能力が必要である。
    一例として、話をまとめにくくなり、話題が飛んで核心に迫らなかったり、買い物が行き当たりばったりになるなど。
  • 目的ある行動・計画の実行:
    一連の複雑な行動に含まれる各行為を、行為者が正しい順序、かつまとまった形で、開始し、維持し、変換し、中止する能力が必要とされる。
    一例として、衝動的な行動は障害されないため衝動買いが多くなるなど。
  • 効果的に行動する:
    効果的な行動を行うためには、自分自身の行動を監視し、修正し、調節する能力が必要である。
    一例として、相手が関心がなくても話し続けるなど。

こうした障害の有無や程度を調べる方法として、ウィスコンシンカード分類課題があります
2018追加-61の選択肢⑤ではBADSについてが示されていますが、こちらも遂行機能障害を定量的に見ていくための検査ですね。

この課題は自体は、6歳半から89歳までの幅広い年齢の患者に用いられています。
ただし「Wisconsin Card Sorting Test」として出版されているものに関しては、適用範囲が成人になっているなどさまざまではあります。

以上より、この検査目的は「成人の知能検査」という枠組みのものではないことがわかります。
よって、選択肢④は不適切と判断できます。

⑤コース立方体組み合わせテスト

コース立方体組み合わせテストとは、S.C.Kohsが知能を測定することを目的に考案したテストを指します
6面がそれぞれ異なる色に塗り分けられた立方体を、いくつか組み合わせて、指定された模様を構成することが求められます。
各面が赤、白、青、黄、赤と白、青と黄に塗り分けられた1辺3センチの立方体を組み合わせて、難易度順に並べられた17問の模様を作る課題です。
正解時間によって得点が変わり、制限時間以内に2連続して課題が達成できないと打ち切りになります。

コース(1920)は3~19歳の普通児291名および知的障害児75名の計366名に、この検査を実施しました。
その結果、得点は年齢とともに上昇し(ほぼ17歳で上限に達する)、精神年齢の指標として適当であることが確認されています。
また、ビネー式知能検査とのかなり高い相関も確認されています。
現在、売り出されているコース立方体の適用については「6才~聾・難聴・老人」とされています

コースがこのテストを通して測ろうとしたのは、単なる動作性の知能ではなく一般的知能でした。
ここで想定された知能とは、分析、結合、比較、熟慮、完成、弁別、判断、批判、決定などの心的操作を含むものです。

コース自身がこの検査の利点としたのは、教示をパントマイムと模倣だけによって実施可能なことから、言語を理解しない者にも容易に適応できることでした
言語障害用の知能検査としての適用可能性を追求したのが、コース法を日本語に訳した大脇義一でした。
大脇は「聾児や難聴児のように、聴覚に障害があるために言語能力の発達が遅れた児童の知能を測定し、個人差を調べるためには、言語要因の介入しないテストすなわち非言語性テストが必要」として、7~16歳の聾児約500名に本テストを実施し、年齢別の平均得点を求める作業を行いました。

ちなみにウェクスラー式でもコース法は採用されていますが(積木ですね)、用いる色を4色から2色に簡略化しています。
また、高年齢者や脳障害の後遺症患者にも適するテストであり、リハビリテーションの現場ではよく用いられています。

以上より、コース立方体組み合わせテストは「日本語を母語としない」「成人の知能検査」として適当であることがわかります。
よって、選択肢⑤が適切と判断できます。

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