公認心理師 2022-82

質的研究における、分析結果の解釈の妥当性を高める方法を選択する問題です。

質的研究でよく使われる用語についての理解が問われていますね。

問82 質的研究における、分析結果の解釈の妥当性を高める方法として、最も適切なものを1つ選べ。
① インタビュー
② コーディング
③ メンバー・チェック
④ アクション・リサーチ
⑤ グラウンデッド・セオリー・アプローチ

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解答のポイント

質的研究における基本的用語の意味を把握している。

選択肢の解説

① インタビュー

質的研究では、直接観察法だけでは得られないデータが必要になるのが通常です。

また、直接観察は時間と労力をとられるため、それを実際に行える範囲は時間的、空間的、体力的にもかなり限られています。

更に、質的研究では、当事者の感じていることや考えていること、当事者のものの見方・感じ方・考え方を理解することが重要になりますが、それらは当事者の頭の中にあり、直接観察だけからは必ずしも十分な理解が得られないものです。

インタビューは、こうした直接観察だけではとらえにくい事柄に関するデータを、当事者との会話を通じて得る方法です(ちなみに、インタビューは「面接法」と表現する場合も多いです)。

テレビや新聞などの取材もインタビューの一種ですが、心理学の技法としては、一般に治療のためのものと、資料収集のためのものに分けられます。

更に、資料を得るためのインタビューにも様々な方法があります。

ここでは多くの方法について細かくは述べませんが、インタビューを整理する枠組みとして「構造化の度合い」を把握しておくと良いでしょう。

すなわち、手続きに従って同一の質問が呈示され、回答の範囲も限定されている「構造化面接」、質問をある程度用意しつつ、実際の回答に応じた柔軟な働きかけを用いて行われる「半構造化面接」、より自由度が高く、対象となるトピックをある程度定めた上で、自由な相互作用を通して資料が収集される「非構造化面接」という分類です。

これらは研究目的や用いる分析方法などによって使い分けられます。

このように、インタビューは直接観察だけではとらえにくい事柄に関するデータを、当事者との会話を通じて得る方法ですから、本問の「質的研究における、分析結果の解釈の妥当性を高める方法」には該当しないことがわかります。

よって、選択肢①は不適切と判断できます。

② コーディング
⑤ グラウンデッド・セオリー・アプローチ

グラウンデッド・セオリー・アプローチは、アメリカの社会学者グレイザーとストラウスによって提唱された、データに根差した理論を算出する質的研究法の一つです。

研究者により様々な方法がありますが、標準的な手法は以下の通りです。

  1. 質的データを区切ってラベルを付ける:コード化
  2. 似たラベルをまとめてカテゴリーを作る:オープン・コーディング
  3. カテゴリー同士の関連性を説明して組織化する:アクシャル・コーディング
  4. アクシャル・コーディングでつくった現象を集め、カテゴリー同士を関係づける。これが、社会現象を説明する理論となる:セレクティブ・コーディング

1の内情としては「分析したいものをよく読み十分に理解し、観察結果やインタビュー結果などを文字にして文章(テキスト、データ)を作る」「データへの個人的な思い入れなどは排除し、できるだけ客観的に、文章を細かく分断する(切片化)」「分断した後の文章の、各部分のみを読み、内容を適切に表現する簡潔なラベル(あるいは数字、コード)をつける(このラベルは、抽象度が低い、なるべく具体的な概念名とする)」といったことを行います。

文字起こしをして、それをざっと印刷して切って貼って、これ似てる・同じ感じがする、という感じで集めて…などをしていくわけですね。

こうしてカテゴリーができ、カテゴリー同士の関連性を説明し、その現象を集めることで、起こっていることを「理論」として提出することになります。

ここまでをまとめ、グラウンデッド・セオリー・アプローチの特徴を以下に示します。

  • データに密着した分析から独自の説明概念を作って、それらによって統合的に構成された説明力に優れた理論である
  • 継続的比較分析法による質的データを用いた研究で生成された理論である。
  • 人間と人間の直接的なやり取り、すなわち社会的相互作用に関係し、人間行動の説明と予測に有効であって、同時に、研究者によってその意義が明確に確認されている研究テーマによって限定された範囲内における説明力の優れた理論である。
  • 人間の行動、なかんずく他者との相互作用の変化を説明できる、言わば動態的説明理論である。
  • 実践的活用を促す理論である。

このようにグラウンデッド・セオリー・アプローチとは、目の前にある現象を「理論」として仕上げていくための研究法であり、生き生きとした「動き」のある現象を表現するものであると言えます。

さて、上記がグラウンデッド・セオリー・アプローチの簡単な解説ですが、その手法の説明の中でも示されていた「コーディング」について考えてみましょう。

グラウンデッド・セオリー・アプローチの解説内で出てきた用語ではありますが、「コーディング」という用語自体は質的研究で広く使われています。

質的研究では文章を構成する概念を「コード」と呼び、「コーディング」によって具体的な文字データに対して「コード」を割り当てていきます(例えば、あるインタビュー内の一文なりある箇所について「賞賛」「批判」などのような言葉を付けること)。

さらに、コードにおける上位概念を「カテゴリ」と呼び、カテゴリ化によって徐々に抽象化のレベルを上げてカテゴリを作成していきます。

言い換えれば、コーディングとカテゴリ化は、文字データに対して小見出しをつけ、文字データに含まれる情報を失わずに圧縮する作業となります。

この作業を行うことにより、いくつかの文字データに含まれる同一テーマを発見することができ、また1つのテーマにおけるバリエーションを確認することができるようになります。

コードを割り当てるには元の文字データをセグメントに分割します(グラウンデッド・セオリーでもこうした手順を踏みます)が、セグメントへの分割は元の文脈の意味を失ってはなりません。

このセグメントに対しコードを割り当てていきます。

コーディングおよびカテゴリ化では、セグメントおよびオリジナルの文字データとコードおよびカテゴリの対応を常に参照できる形で扱う必要があります。

上記の通り、「グラウンデッド・セオリー・アプローチ」とは、目の前にある現象を「理論」として仕上げていくための研究法であり、「コーディング」とはグラウンデッド・セオリーなどの質的研究において文字データに対して小見出しを付けて文字データに含まれる情報を失わずに圧縮する作業となります。

よって、「質的研究における、分析結果の解釈の妥当性を高める方法」として、グラウンデッド・セオリー・アプローチやコーディングは該当しないことがわかります。

以上より、選択肢②および選択肢⑤は不適切と判断できます。

③ メンバー・チェック

質的研究では、分析の途中経過を研究協力者に開示して意見を求めるという「メンバーチェック」の手続きを取ることがあります。

これは、インフォーマント(文化人類学、人類学や言語学のフィールド調査などで研究者にデータを提供する人)を交えてデータと解釈の妥当性検証を行うもので、質的研究の信憑性を高めるための戦略の一つとされています。

質的研究で、かつ実践現場に密着した研究の場合、実践者と意見を交換しながら分析を展開することが有効になります。

実践現場に入って日の浅い研究者の感じることと、現場にどっぷりつかっている実践者の感じることは、異なっていて当然であり、相違を恐れる必要はありません。

むしろ、その「異なる部分」が、現場の人々に特有の感覚やものの見方を反映していると考えられます。

このように、実践型研究における「メンバーチェック」は、分析に新たな視点をもたらし、仮説の精緻化を促進しうるものになり、現場から直接収集したデータを1次データとするならば、メンバーチェックで得られた意見は2次データと捉えることも可能です。

ただし、分析結果を開示するということは、研究者が実践者に影響を与える行為でもあります。

データの収集と分析を並行して行う場合は、この点に十分な留意が必要になります。

例えば、強いメッセージ性を含んだ分析経過が報告された場合、それが実践者の振る舞いに影響を与え、その後に得られるデータを変化させる可能性があります。

こうした働きかけを積極的に行うアクション・リサーチのような方法もあるので、研究の目的に応じて分析経過の開示の仕方を選ぶと良いとされています。

このように「質的研究における、分析結果の解釈の妥当性を高める方法」としてメンバーチェックは妥当であることがわかりますね。

よって、選択肢③が適切と判断できます。

④ アクション・リサーチ

1944年、当時MITの教授であったクルト・レヴィンが、はじめてアクションリサーチという用語を使用しました。

集団との関係を場の力動で捉えるグループダイナミクスの視点から、個人の心理的行動を説明する発想から生まれた研究方法であり、レヴィンは「社会運動、および社会運動を促す研究の、状態や影響といった多様な形態についての比較研究」であり、「計画」「実行」「実行結果についての事実発見」が螺旋上昇するステップである、と説明しています。

アクションリサーチは、群間比較研究ではなく、特定の集団における時系列による行動変容、ある変化を与えることで生じる集団内行動の変容を継続的に記述していく「問題意識‐計画‐実行‐評価」のサイクルを循環的に行っていく方法です。

基本的には、単一事例による時系列変化の研究であると言えます。

アクションリサーチという名の通り、ある行為を行うことでどのように集団行為が変化するのかを記述・評価し探求していきます。

実証主義の科学的方法では研究者は中立的観察者の位置を取るが、アクションリサーチでは集団内の人のエンパワーメントや専門性育成、集団の社会変革を目指すので、外部研究者と集団内の人の協力関係や集団内部の人が問題意識をもって研究を行う形を取ることが多いです。

つまり、アクションリサーチでは、観察者が「現象の積極的な引き起こし手」になるものであり、ある個人や集団に対して、研究者がそれらの振る舞いに一定の変化を及ぼすことを企図し、明確なプランニングに従って実践活動を試み、その変化の過程や帰結を精細に観察しようとするものです。

例えば、いくつかの教授法の実践を通して生徒の学習活動や学業達成を観察した上で、その生徒や学級集団の特質などを把握し、より適切な生徒指導や学級運営の方法を模索するような、教育心理学および社会心理学などの分野で比較的用いられやすい手法と言えます。

以上より、「質的研究における、分析結果の解釈の妥当性を高める方法」として、アクション・リサーチは該当しないことがわかります。

よって、選択肢④は不適切と判断できます。

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