公認心理師 2021-6

因子分析に関する問題です。

けっこう「因子分析による解析を計画している調査用紙の回答形式」という前提条件が重要ですから、その点を見逃さないようにしましょう。

問6 因子分析による解析を計画している調査用紙の回答形式として、最も適切なものを1つ選べ。
① 順位法
② 一対比較法
③ 自由回答法
④ 評定尺度法
⑤ 文章完成法

解答のポイント

因子分析を実施できる前提条件を理解している。

選択肢の解説

ここではまず因子分析という統計手法が、どういう作業を行うものであるかを理解しておきましょう。

こちらについては「公認心理師 2020-81」を転記しますが、この内容は上記の書籍からの引用になります。

ある国の国民性に関するイメージについて調査を行う際、アンケート項目は以下のように設定されたとします。

  1. 時間を守りそうか
  2. メールをすぐに返しそうか
  3. 整理整頓が好きそうか
  4. 笑顔が多そうか
  5. 自分の意思を正確に伝えることが得意か
  6. 相手の意図を正確に汲み取るのがうまいか

これらの項目は独立しているが、1~3については「几帳面さ」、4~6については「コミュニケーション能力」についても尋ねているように見えるのはわかりますね。

このように、各項目は我々が持つイメージについて独立に問うものではありますが、背景には共通する評価軸が存在している可能性も考えられるはずです。

このように観測された変数(ここではアンケートの質問項目に対する評価点)に影響を与えているとされる、目に見えない要因(ここでは「几帳面さ」および「コミュニケーション能力」のような評価軸)で説明する統計的手法を「因子分析」といいます。

因子分析については「公認心理師 2018追加-6」において、「きっと世の中に存在するに違いない「データの背後に潜む説明変数(独立変数)」を見つけ出す分析手法」と説明していますが、これは上記の説明の言い方を変えているだけで、同じことを言っているのがわかると思います。

心理学で測ろうとするものは構成概念と呼ばれる抽象的な理論的概念(例えば、意識、感情、態度など)ですから、この概念を身の周りの物理的な大きさのように直接的に測定することはできず、構成概念が反映される物事を通じて間接的に測定することになります。

この間接的な測定を手助けしてくれるのが因子分析という手法で、因子分析は多数の項目間の相関関係をもとに相関関係の原因となるもの、すなわち構成概念の数理モデルの上で測定できるようにした統計的手法ということになります。

心理統計における検定では、ざっくりと分けると、平均値を用いて行う検定(例えば、t検定や分散分析)と相関を用いて行う検定がありますが、上記からもわかる通り因子分析は後者になります(他にも相関係数とか重回帰分析とか)。

つまり、因子分析は相関という項目間の関係を用いるため、等間隔性が保たれている必要があり、データの尺度水準は間隔尺度か比例尺度であることが求められます。

名義尺度は被験者の反応を分類するために、反応のカテゴリーに名前を付け、それぞれのカテゴリーの頻度を数えることを可能にするというものですから、その数値には順位等は付けられません(例えば、男性を1、女性を2とした場合では、男性は女性の半分という意味にはならない)。

また、順序尺度は順序関係や大小関係を表すことはできますが、その順位間の等間隔性は担保されていません(徒競走で1位、2位、3位と決めても、それぞれの着順間は等間隔ではない)から因子分析に用いることはできません。

この点が本問を解く上では重要なので、これらを踏まえて各選択肢の解説に入っていきましょう。

① 順位法

順位法は品等法とも呼ばれます。

比較的多数の刺激を互いに関連させて判断することは簡単であり、適用範囲が広いです(この考え方は一対比較法でも述べます)。

一対比較法に基づく尺度構成もこれと同様の特性を持ちますが、系列的な順序に並べることができる刺激であれば、比較的簡便に順位法を用いることが可能です(それに、観察者としては一対比較法よりも順位法の方がわかりやすい)。

順位法においては、多数の観察者に刺激を特定の基準に従って順位を決めさせ、その結果を統計的に処理します。

順位の決め方は、最も程度の著しいものを1番とし、その他の刺激を次々と配列します。

刺激の数が多い時は、いちいち比較を行うのは時間と労力を要するという問題もあります。

こうして得られた順位法の各数値は、特定の刺激に与えられた順位を示すに過ぎませんから、平均は意味を持たず、中央値も順序尺度数でしかありません。

すなわち、順位法で得られるデータは順序尺度に属するものと限定されるということです。

ちなみに順序尺度とは、測定値の順序関係や大小関係を表す尺度であり、順序は付きますが、各順序間の差は心理的に等距離であることが保証されませんから、名義尺度と同様に四則演算することはできません。

よって、順序尺度には、名義尺度の統計量に加え、中央値、パーセンタイル、順位相関係数といった統計量を用いることになり、マン・ホイットニーの検定、符号つきの順位検定などの分析を実施できます。

上記で述べた通り、因子分析で用いるデータの尺度水準は、間隔尺度か比例尺度であることが求められており、順位法で得られるのは順位尺度ですから因子分析には不適と言えますね。

以上より、選択肢①は因子分析による解析を前提とした調査の回答形式としては不適切と判断できます。

② 一対比較法

普段の生活で感覚の量的特性を直観的に理解することは、一般的には起こりません。

例えば、明るさに関しては暗さから明るさへの質的に変異する連続性がありますが、そこに直観的に数値を対応させることができるような強弱を感じることはありません。

すなわち、感覚的に体験しているのは、観察対象の質的な特性であり、量的な特性ではないということですね。

これらを踏まえ、自分の感じた感覚量を直接表現するのではなく、質的な判断から間接的に感覚尺度を構成する方法が提案されており、こうした方法は「間接的尺度構成法」と呼ばれます。

そして、この「間接的尺度構成法」のうち、利用頻度が高いのがサーストンの一対比較法になります。

特定の、個別の対象の観察で生じた感覚や印象の強さを数値で表現したり、複数の対象について感覚や印象の強さを一度に比較したりするのは難しいことです(上記の例の通りですね)。

ところが、それらの対象を2個ずつ組み合わせて対を作って、それら2つの間で個別の感覚や印象の強さを比較することは、それほど難しくありません。

一対比較法は、このように2つの対象を組み合わせて作った対にたいして、より強い感覚や印象を生じる対象を選ぶことで、尺度構成する方法です。

この方法を用いれば、例えば、複数ある刺激の明るさや大きさ、重さといった感覚に関する尺度構成も比較的簡単にできます。

また、絵画や音楽などの芸術作品における好悪や美しさ、快適感、調和、バランスなどの印象に関する尺度構成も可能になります。

まとめると、一対比較法とは、多くの属性を持つ複数の評価対象すべての組み合わせについて、対象を一対ずつ組み合わせて提示し、快不快や好き嫌いなどの判断基準によっていずれか一方を選択させ、その比較判断に基づいて、評価対象を順序的に位置づける方法です。

感覚的印象の大小や好嫌などについて評定・選択させて刺激の主観的価値を計量化する方法で、人間の感覚的判断以外に計測法がないような分野で用いられる官能検査法の一つになります。

例えば、10個の物の好悪を順番に並べるという状況において、10個の物を1対1で比較することによって、それぞれの商品の選好度の微妙な差を適切に反映した順位付けが可能になるというのが「一対比較法」であるわけですね。

一対比較法は、基本的には判断基準の次元での順序尺度となります。

ただし、回答から対象間の非類似度距離行列を求めて、多次元尺度構成法で分析することも可能で、複数次元の空間上で評価対象の関係を表現することも可能ではあります。

ただ、あくまでも「一対比較法」は順序尺度を構成するものと見なすのが適切ですね。

以上のように、一対比較法で得られるのは順序尺度のデータになりますから、間隔尺度や比例尺度であることが前提の因子分析を行うための調査法として適さないことがわかります。

以上より、選択肢②は因子分析による解析を前提とした調査の回答形式としては不適切と判断できます。

③ 自由回答法

回答欄に自由に文章を記入する形式のことを自由回答法と呼びます。

質問に対して回答者が自由に文章や単語で記入する質問形式やその回答のことになります。

どういう場合に自由回答法が採用されるかというと、①選択肢を用意するとアンケート等に書ききることができないほど多くなってしまう(職業や夢を聞く場合など)、②研究がそれほど進んでない分野では、回答の予測がつかないので選択肢を設けることができない等、③回答者が示す「言葉」を調べたい場合は、あらかじめ選択肢を示すのは研究目的に反する、などの場合になります。

もちろん、自由回答法で得られたデータだからといって、即因子分析に不適となるわけではありません。

自由回答法によって得られたデータは、コーディングを経て何らかの尺度水準に落とし込まれることが多いですから、それが間隔尺度以降の尺度水準であれば因子分析での運用も可能です。

ですが、本問のように「因子分析による解析を計画している調査用紙の回答形式」という前提がある中で自由回答法を用いるのはちょっと迂遠ですし、自由回答法でなければ適切なデータが集められないようなテーマの場合、他に適した手法がありそうな気もします。

よって、選択肢③は因子分析による解析を前提とした調査の回答形式としては不適切と判断できます。

④ 評定尺度法

評定尺度法は、知覚量や自分の内にある感情、対象について抱く印象や感情について、その主観的程度、量を測定する場合に用いられる方法です。

例えば、ある絵画の美しさについて「とても美しい」「わりに美しい」「美しい」「やや美しい」「全く美しくない」といったように、用意されたカテゴリーのうち、自分が感じる美しさの印象の程度に当てはまるものを1つ選択することによって回答します(みんな一度はやったことがありますよね)。

前述の一対比較法や順位法は、順位間の等間隔性は保たれていませんでした。

これに対して評定尺度法は、測定値間の等間隔性が保証されていない場合には順序尺度として、測定値間の等間隔性が保たれている場合には間隔尺度として扱います。

こうした等間隔性を確たるものにするためには、どういう日本語を用いれば、その尺度表現間の間隔が同程度になるかを知っておくことが大切です(これを程度表現語と言います)。

程度表現語とは、例えば「やや」とか「全く」とか「非常に」などのことですが、こちらに関する研究(織田(1970)の研究が有名)では尺度値は対象測定概念(実現の程度、頻度の程度等)や年齢によって異なることが指摘されており、「評定尺度」に用いる言葉によって、調査結果は影響を受けると考えられます。

織田の研究によると「1.とても」 「2.わりに」 「3.すこし」 「4.あまり」 「5.まったく」の語間では、等間隔性が保たれていると見なされるされており、こうした程度表現語の使用が推奨されています(よく見ますよね)。

さて、このように評定尺度法では、得られたデータが順序尺度の場合もあれば間隔尺度の場合もあり得ます。

ただし、適切な程度表現語を用いれば間隔尺度として用いることが可能ですし、そうなれば因子分析での運用も可能です。

それに他の選択肢で適切と言えるものがない以上、やはり間隔尺度として扱える可能性が高い評定尺度法が最も適するものと言えそうです。

よって、選択肢④が因子分析による解析を前提とした調査の回答形式として適切と判断できます。

⑤ 文章完成法

文章完成法は調査用紙の回答形式ではなく、SCT(Sentence Completion Test:文章完成法)という半構造化された投影法のことを指していると考えられます。

文章完成法は、未完成の文章を刺激語として提示し、被験者が連想したことを自由に書いて文章を完成させる心理検査です。

反応文は、被験者の態度、信念、動機づけ、他の精神状態の徴候を顕在化すると考えられています。

文章完成法という形式自体は古くから存在が認められており、記憶研究で有名なエビングハウスもこの形式をもって知能を測定しています。

ただし、エビングハウスの検査は、文章を完成させるという方法は同じでも、「反応の適切さ」が問題とされていた点で大きく異なっており、どちらかというと現在の穴埋め問題に近いものでした。

現在のようにSCTをパーソナリティと関連させた最初の試みは、ペインがキャリア・ガイダンスの領域において用いた50項目からなる検査の作成です。

隠された反応を引き出すことで人格特性を明らかにする検査として考案され、大学生の職業相談に広く用いられました。

また、テンドラーの「情緒洞察検査」は、パーソナリティ検査として心理学の領域にSCTを導入した最初の研究であるとされています。

この検査では情緒表出に関連した20項目の刺激文が用いられています。

SCTが採用された理由としては、情動反応が直接的に引き出すことができ、しかも、質問紙法などの選択肢による回答と異なり、被検査者の反応に自由性が保持できることが挙げられています。

この後、1940年代には集中してSCTの研究報告がありました。

この背景には、第二次世界大戦における軍人動員のためのスクリーニング検査としてSCTが採用されたことと関連しています。

このように他の検査と違ってSCTは特定の理論的背景のもとで作成されたものではなく、多くの文章完成法という方法を活用した研究の蓄積によって広まっていきました。

SCTで得られた結果は、形式分析(記入された反応の長さ、未記入や後回しにされた回答の有無、誤字脱字、言葉遣いをみる)や内容分析(回答全体を概観して「その人らしさ」を直感的に把握したうえで、個々の項目を検討する)などによって解釈されます。

当然、数値化することが難しいわけですし、得られたデータが間隔尺度として示されるわけでもありませんから、因子分析に用いるのは不適と言えそうです。

よって、選択肢⑤は因子分析による解析を前提とした調査の回答形式としては不適切と判断できます。

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