公認心理師 2019-122

問122は準実験的研究法の特徴を問う内容になっています。
臨床現場では準実験的研究法を用いることが多いと思います。
事例研究も準実験的研究法と見なせるだろうと思うのですが、書籍によっては分けてあるものもありますね。

問122 準実験的研究法の特徴として、最も適切なものを1つ選べ。
①予備実験に用いられることが多い。
②実験的研究に比べて、内的妥当性が高い。
③実験的研究に比べて、倫理基準が緩やかである。
④参加者を無作為に割り付けることができないときに実施が検討される。

実験法に関する問題は、実際に実験をやったことがあるか否かで、そのイメージの出来具合が変わってくるだろうと思います。
実験の経験がない人でも、研究法の書籍などには具体的な実験状況を載せているものも少なくありませんから、アクセスしてみると良いかもしれませんね。

解答のポイント

従来の実験法と準実験法の違いを理解していること。

選択肢の解説

④参加者を無作為に割り付けることができないときに実施が検討される。

準実験研究法とは、独立変数を操作しなかったり、無作為割り当てができなかったり、厳格な意味での実験法の条件を十分に満たしていない実験計画のことを指します。
特に教育や臨床の現場において新しい方法の効果を調べる場合、さまざまな制約があり、実験室実験、質問紙実験などのように剰余変数の統制などが十分になされた状態で実験を行うことが難しくなります。

例えば、有効だと考えている治療法を、無作為に選ばれた一方の群のみに対して施すようなことは倫理的に問題がある場合があります。
また、学校現場で新しい指導法の有効性を調べる場合でも、新しい指導法を行う群と、従来の指導法を行う群の比較が望ましいわけですが、実際の学級では学級単位の授業をしているという制約のために、個々の児童・生徒を無作為に割り当てることが困難です。

即ち、実践現場での実験における大きな問題は、適切に実験群と統制群を設定することが困難であるという点と考えられます。
準実験は、剰余変数の統制をやや犠牲にする代わりに、そうした問題点を克服する方法です。
よって、準実験は、無作為割り当てが困難であり、そのため、もともと剰余変数の統制が十分にできない場合、特に有効な方法となります。

よって、準実験の長所と短所は以下のように分けることが可能です。
長所は、多くの変数がある場合に、唯一実施可能な方法になるという点で、独立変数以外の変数をきちんと統制できれば、因果関係を推測することが可能になります。
短所としては、2つのグループに別の差異があって統制不可能なこともあり、そのような場合は因果関係を推測できないということです。
例えば、4歳と7歳の能力を比較したい場合でも、両者は就学前・就学後という違いがあるために統制は困難になりますね。

なお、準実験は…

  • 1群事前事後テストデザイン:サンプリングした 1 群に事前テストを実施してから処遇を施し、事後テストを行う。
  • 中断時系列デザイン:処遇群とは別に統制群を取ることが困難な場合に使用される。1群事前事後テストデザイン問題点を、事前事後の測定の回数を増やすことで改善したもの。
  • 不等価2群事前事後テストデザイン:処遇群と統制群を用意し、両群に事前テストを実施、処遇群に処遇を施した後、事後テストで効果を測定する。
…などに分けることができます。

以上より、選択肢④が最も適切であると判断することができます。

①予備実験に用いられることが多い。

従来の実験の手順として、先行研究の調査、予備実験、実験参加者の確保、本実験、などとなります。
このうち予備実験とは、従来の実験室実験や質問紙実験(質問紙では予備調査と呼ぶと思います)などの本実験を行う前に行われる「実施に関する問題点を洗い出すための実験」を指します
本実験は、予備実験で示された問題点を改めて実施することになります(予備実験のデータと本実験のデータを混ぜてはいけません。どんなに予備実験のデータが良くても)。
予備実験は、本実験の練習にもなりますし、実験中にどんなトラブルが起きるかも確認することができます。
つまり、本実験とは、予備実験に対する本番の実験を指す場合が多いですね。

もともと準実験は、理想的な実験モデルを現実場面で作るのが困難な場合に用いられる方法であると言えます。
この場合の「理想的な実験モデル」とは、完全無作為により実験群と統制群とに分けて実験群にのみ操作・介入を行うことが可能であるという状況を指します

そもそも従来の実験研究において、この「理想的な実験モデル」に近づけるため、細かな問題点を洗い出す目的で行うのが「予備実験」と言えます。
そもそも準実験は、従来の予備実験などを実施するような実験計画ができないときに行われるものであり、その両者は枠組みが違うことがわかりますね。

以上より、選択肢①は不適切と判断できます。

②実験的研究に比べて、内的妥当性が高い。

内的妥当性とは、Campbellによって導入された概念です。
実験の目的は因果関係の立証であり、原因を独立変数、結果を従属変数に見立てた上で、独立変数を実験的に操作し、それに対応した従属変数の変化が見出されたときに、因果関係が証明されることになります。
内的妥当性とは、従属変数の変化の原因が独立変数の操作に帰せられる度合いを指す言葉です

つまり従属変数の変化は独立変数以外の要因によってもたらされる可能性が低いほど、「内的妥当性が高い」と表現されるということになります
すなわち、うまく実施されたバイアスの少ないランダム化比較試験ほど、「内的妥当性が高い」と判断されるということですね。

先述の通り、準実験は、無作為割り当てが困難であり、そのため、もともと剰余変数の統制が十分にできない場合、特に有効な方法となります
つまり、真正の実験デザインを適用することが困難な場合(具体的には無作為割り当てが困難な場合など)、実験の内的妥当性が低くなってしまうが、そういったケースに対処し、可能な限り内的妥当性を高く保持するように工夫された研究デザインが準実験計画なわけです。

よって準実験は、その特性上、内的妥当性を犠牲にせざるを得ない状況で用いられるものであると言って良いでしょう。
以上より、選択肢②は不適切と判断できます。

③実験的研究に比べて、倫理基準が緩やかである。

こちらは選択肢④の内容より否定される内容となっています。
本選択肢では「倫理基準が緩やか」とされていますが、むしろ「実現性が低い、倫理や実施機会の問題によって実行可能性が低い、被験者の代表性を高めにくい、などの問題点がある場合に採用される」のが準実験的研究法と言えます

例えば、有効だと考えている治療法を無作為に選ばれた一方の群のみに対して施す場合など、従来の実験研究法では倫理的な配慮から操作できない変数があることがあります。
これに対して準実験では、対照群が偶然によって介入(例えば、治療や教育など)の利益を受けないという倫理上の懸念が無い(介入群、対照群はそれぞれ元から同じグループだから)という利点があります

以上より、選択肢③は不適切と判断できます。

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