公認心理師 2018追加-119

心理学実験について、正しいものを1つ選ぶ問題です。

心理学実験に関する問題は、実験結果を歪める要因や手続きの瑕疵などに関する見極めを問うものが多いですね。
本問のそういった内容になっています。

類似問題は、公認心理師2018-136公認心理師2018-150になります。
本問の方がより概説的な内容になっていますね。

解答のポイント

心理学実験における、独立変数・従属変数・剰余変数とは何かを理解していること。
実験結果に歪みを生じさせる諸概念について理解していること。

選択肢の解説

『①行動に及ぼす要因を明らかにするために実験者が操作する変数を独立変数という』

独立変数・従属変数は心理学実験における基本的用語です。
実験者が操作する変数を「独立変数」、捜査の結果として測定する変数を「従属変数」と呼びます。
もう少し細やかに言えば、独立変数は「何かしらを検討するために人為的に操作する側の変数」ということになります(実験者が操作する変数、だけでは剰余変数も含まれてしまいますからね)
独立変数は「系統的に変化させられる変数」であり、従属変数は「被験者の反応として現れ測定される変数」という言い方もできますね

ちなみに心理学実験においては独立変数・従属変数という呼び方が一般的ですが、調査研究においては独立変数のことを説明変数もしくは予測変数と呼び、従属変数のことを目的変数もしくは基準変数と呼ぶのが一般的です。

以上より、選択肢①は正しいと判断できます。

『②剰余変数を統制するために、複数の実験者が入れ替わり実験を実施する』

剰余変数とは、実験者が操作する独立変数以外の変数を指し、剰余変数があることによって「有意差があると言ってるけど、剰余変数が統制できてないから、本当に独立変数によるものかわからないよ」と言われてしまいます
そのため研究者は独立変数以外の変数(剰余変数)を統制し、その実験の結果が実験者の定めた独立変数によって生じた状況を作ろうとするわけです
心理学実験におけるシールドルームは光や音も遮断できますが、それはそういう事情による必要性があるからです。

このことは実験状況だけに留まりません。
多くの心理検査において教示や手順が定められているのは、それらが異なることによって検査結果に影響が出ることを防ぐためです。
例えば、WISCでは子どもが入りやすいよう動作性の下位検査(今は動作性という言い方はしませんけど)から始めます(以前は言語性からでした)。
この順番が検査者によって違えば、当然結果に影響が出る可能性が高いわけです。

また、カウンセリングでもカウンセラーはある程度安定した生活を送っていることが重要とされています。
それはカウンセラーの精神状態に大きな波があることで、クライエントの変化が何によって起こったのか捉え難くなってしまうためです。

このように心理学実験でも臨床実践でも、余分な変数を入れないように努力することは大切です。
本選択肢を考えていくのに大切なのは「複数の実験者が入れ替わり実験を実施する」ということが、余分な変数を減らすことになるのか増やすことになるのか、という判断をしていくことですね

「複数の実験者が入れ替わり実験を実施する」ことによって、「実験者が異なる」という剰余変数が増えてしまいます
例えば、実験者の性別が異なれば、それが数字としてどのように現れるか明示できなくても、対象者に影響が出ることは避けられないでしょう。
人が違えば、たとえ文言が同じであっても、感情の入り方や文節の区切り方が違ってくるでしょうし、実験者の美醜が与える影響も馬鹿にできないでしょう。

もちろん、実験前に共同研究者等で剰余変数を統制できているかを話し合ったり、統制について助言をもらうことはあるでしょう。
しかし「複数の実験者が入れ替わり実験を実施する」ことは、「剰余変数を統制する」ことにはなりません。

以上より、選択肢②は誤りと判断できます。

『③実験者の期待や願望が意図せず振る舞いに表れ、参加者に対して影響を及ぼすことをホーソン効果という』

本選択肢の内容はホーソン効果ではなく「要求特性」についての説明になっています
要求特性とは、実験場面において、実験者と被験者の意図的・無意図的な相互作用の結果もたらされる人為的バイアスの一つです
Orneによると、実験事態におかれた被験者は、実験者の意思に忠実に従うロボットではなく、さまざまな手がかりを介して実験の真の目的を知ろうとし、そうした推測に基づいて行動(あるいは反応)しています
彼は、被験者が判断材料とする手がかりのあれこれを要求特性と命名した上で、実験状況においてそういうバイアスを完全に排除することは困難としました。

選択肢にあるホーソン効果とは、産業心理学の分野でMayoを中心に行ったホーソン社での実験的研究によって認められた効果を指します。
この研究は、工場の何を改善すれば一番効果的かを調査の目的として行われ、その結果、労働者の周囲や上司が関心を高めることが物理的要因以上に効果のあることが判明しました。
このように、人は一般的に関心を持つ人や期待する人の心に応えようとする傾向があるとされています。

そのため、信頼を受けている医師などの期待に応えるため、患者が症状を告げなかったり症状の改善があったかのような態度を、意識的や無意識的に行なうことで、統計上症状が改善されたにみえることを、特に統計上のホーソン効果と呼ぶようになりました
研究において、薬を投与しないグループを設定したり、対象者の盲検化を行うのはこの効果を考慮してということになります。

以上より、選択肢③は誤りと判断できます。

『④測定値が最大値に達することにより、説明変数の効果を検出する上で問題が生じることをキャリーオーバー効果という』

本選択肢の内容はキャリーオーバー効果ではなく「天井効果」についての説明になっています
天井効果とは、通常正規分布するはずの統計量が、最大値に偏ってしまい独立変数(説明変数)の効果が検出できない場合を指します。
例えば、5件法の質問で、ほとんどの回答が5(最大値)の場合これに当てはまりやすくなります。

アンケートやテストをした際、極端に平均点が高いほうに集まったり、低いほうに集まったりした場合、対象者の能力や回答を正確に把握することができないと判断して、集計から除いたりします。
この「極端に平均点が高いほうに集まる」ことを天井効果、その対概念として「極端に平均点が低いほう」に集まることを床効果と呼びます

選択肢にあるキャリーオーバー効果とは、一連の質問に回答する際に、先行する質問が後の質問の回答に影響を及ぼすことを指します
「Aが○○という(良い)ことをしていることを知っていますか?」という質問の後に、「Aはどういう人だと思いますか?」と質問すれば良い人だと答えやすくなってしまいますね。
例えば、重要な質問項目を最後に置いてしまうとキャリーオーバー効果による影響を受けてしまうかもしれません(と言っても、重要な質問を最初に置くと、それはそれで影響があるから考えねばなりませんが)。

以上より、選択肢④は誤りと判断できます。

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