公認心理師 2020-127

作業同盟に関する実証研究の問題です。

何となく解けそうな問題ではありますが、やはりしっかりと「実証研究」の内容についても把握しておくことが大切ですね。

対人プロセス想起法はなんか懐かしいです。

問127 作業同盟(治療同盟)に関する実証研究について、正しいものを1つ選べ。
① 作業同盟が強固であるほど、介入効果は良好である。
② 作業同盟の概念には、課題に関する合意は含まれない。
③ 作業同盟の効果は、対人プロセス想起法によって測定される。
④ 作業同盟が確立していることは、心理療法の介入効果の必要十分条件である。

解答のポイント

作業同盟に関する実証研究、それを証明する効果研究の手法について把握している。

選択肢の解説

② 作業同盟の概念には、課題に関する合意は含まれない。

作業同盟に関しては「公認心理師 2018追加-121」でも述べていますので、ご参照ください。

作業同盟(治療同盟)という概念は、元々古典的な精神分析療法の中から提唱されたものです。

精神分析においては、自由連想法の中で展開されるカウンセラー‐クライエント関係の中で、自由連想法という作業(治療)を続けてゆくという契約を、双方ともに、その中で展開する転移・逆転移のマトリックスに巻き込まれることなく、履行してゆく部分を指して呼ばれる概念です。

ただし、現代においては古典的な精神分析を実施できる環境自体が少ない(つまり自由連想法という方法に対する合意という枠組みではなくなってきている)上に、一般的に行われている心理療法の中でも「作業同盟」「治療同盟」という表現を使うことも見られます。

ここでは、現在の心理療法全般で使われる「作業同盟」の意味を理解しておくようにしましょう。

心理的支援において、両者の間に関係が成立するのは、一方が何かしらの問題をもっていてその解決のために援助を求め、他方がその期待に応え得る専門家とみなされているからです。

すなわち、心理療法におけるカウンセラーとクライエントは協働関係にあるということが言えますね。

そして、この関係が治療的であるのは、クライエントとカウンセラーが互いにその役割をはっきりさせ、それを守ることによってであると言えます。

つまり、カウンセリングでクライエントのどういった課題について取り上げていくのか、その課題がどのようになることが目標なのか、などについての合意があり、それに向けて両者が協働していくことで治療的な関係たらしめているということです。

ただし、こうした両者の役割を守ることは、一見して契約的な関係に見えますが、その実、あたたかい人間的交流を妨げることにはなりません。

一定の安定感のある状況・形式の中で、カウンセラーの善意や人間愛は発揮されうるものであり、同時に、そうした守られた構造の中だからこそクライエントは心を十全に開くことが可能になるのです。

これらをまとめると、作業同盟とは、カウンセリングにおけるカウンセラー‐クライエント間の協働関係を指す用語であり、①カウンセラー‐クライエント両者の間におけるカウンセリングの目標に関する合意、②カウンセリングにおける課題(カウンセリングにおいて行われる事柄)についての合意、③両者の間に形成される情緒的絆の3要素から成ると言えます。

この3要素に関してはBordin(1979)が指摘しており、更に、CBTの効果研究における同盟を評価する尺度の作成過程でもこれら3要素が抽出されていますから、学派を超えて共通して認められている要素と言えますね。

このように、作業同盟には「課題に関する合意」も含まれることがわかります。

よって、選択肢②は誤りと判断できます。

① 作業同盟が強固であるほど、介入効果は良好である。
④ 作業同盟が確立していることは、心理療法の介入効果の必要十分条件である。

作業同盟に関しては、Kolden(1991)の研究によると、作業同盟の結束が強いほど、平均25回にわたるセッション後の介入結果が良いということがわかっています。

また、その他の研究レビューにおいても、作業同盟が強固であるほど、介入結果は良いことが示されています(Henryら,1994;Howardら,1991など)。

1999年にはアメリカ心理学会の心理療法部門が「実証的に支持された治療関係」を発表しました。

この「実証的に支持された治療関係」は、治療関係が持つ治療効果についての研究をレビューし、治療効果をもたらすことがエビデンスによって裏付けられた治療関係のあり方を示したものですが、作業同盟は共感、肯定的関心、承認などと同じくその有効性が証明されています。

こちらの論文では、Norcross & Lambert(2019)の研究を引用し、作業同盟について以下のことを指摘しています。

  1. 相関関係から推計される効果量がこれまでに研究されてきた他のどの要因と比較しても十分に大きい。
  2. 作業同盟以外の要因の働きの結果として相関関係が生じている可能性を検討してみても、それを肯定しうるだけの十分な結果が得られない。
  3. 想定しうる他の要因の影響を統計的に差し引いても作業同盟と治療効果の間の相関関係の強さは低下しない。
  4. セラピー経過中の個々のクライエント内の作業同盟と治療効果の変動を調べると作業同盟の高まりに引き続いて治療効果が生じている。

これらの知見から総合的に判断して、作業同盟と治療効果との間には因果関係があると見なすことができそうです。

ただし、良い作業同盟がどのように作用しているのかについては、様々な見解があります。

作業同盟が確かに直接的な介入効果を生んでいる可能性もありますが、強固な作業同盟によって、例えば、精神分析における解釈が効果的になるなどの間接的な効果がある可能性も考えられます(この場合、介入効果があるのは解釈であり、作業同盟はその成否を左右する要因ということになる)。

このように、強固な作業同盟によって変化が起こったのではなく、作業同盟は介入による変化によってもたらされた可能性もあり得るはずですが、クライエントは別の理由で改善したとしても、カウンセラーとの関係についてより良い印象を抱きがちです。

すなわち、作業同盟が何らかの作用していることは確かですが、介入において重要な要件になっているのか、それ自体が治療効果があるのかは不透明ということです。

ランバートが示した研究では、心理療法の効果の割合として、クライエント変数とセラピー外の出来事が40%、セラピーにおける人間関係が30%、期待感とプラシーボ効果が15%、技法・モデル要因が15%となっていますね(これを無批判に取り上げるのはちょっと心配ですが)。

作業同盟に類するだろう「セラピーにおける人間関係」が30%ということですが、もちろんこれがあるからこそ技法の効果が出やすいという側面もあるでしょうし、技法自体にも効果があると考えられます。

例えば、行動療法では、クライエントとの対人関係を治療成否の要件には入れておらず、純粋に技法によって改善したと捉えますね(要件に入れていないだけで、その要因が働いていないとは限らないのが難しいところ)。

いずれにせよ、選択肢④にある「作業同盟が確立していることは、心理療法の介入効果の必要十分条件である」とまで言い切るほどの知見が蓄積しているというわけではないと考えられます。

選択肢④にある「必要十分条件」という言葉は、ロジャーズの有名な論文に出てきますし、おそらくはこれの引用だろうと思います。

正式名称は「治療上のパーソナリティ変化の必要にして十分な条件」という論文であり、それまでのロジャーズの考えを要約するものとしても、整理したものとしても考えることができ、ロジャーズの諸論文の中でも重要なものの1つとして数えられます。

この論文の中でロジャーズは、建設的なパーソナリティ変化が起こるためには、次のような条件が存在し、かなりの期間継続することが必要であるとしました。

  1. 2人の人間が心理的な接触をもっていること。
  2. 第一の人‐この人をクライエントと名付ける‐は、不一致の状態にあり、傷つきやすい、あるいは不安の状態にあること。
  3. 第二の人‐この人をセラピストと呼ぶ‐は、この関係の中で、一致しており、統合されていること。
  4. セラピストはクライエントに対して無条件の肯定的な配慮を経験していること。
  5. セラピストは、クライエントの内部的照合枠に感情移入的な理解を経験しており、そしてこの経験をクライエントに伝達するように努めていること。
  6. セラピストの感情移入的理解と無条件の肯定的配慮をクライエントに電圧するということが、最低限に達成されること。

ロジャーズは、この6つの条件以外の「他のいかなる条件も必要ではない。もしこれら6つの条件が存在し、それがある期間継続するならば、それで十分である。建設的なパーソナリティ変化の過程が、そこにあらわれるであろう」と述べています。

上記の表現から「必要十分条件」という言葉が出てきたわけですね。

少なくともロジャーズの枠組みでは、作業同盟をこの「必要十分条件」には含めていませんね。

このように、作業同盟が強固であるほど、介入効果は良好ではありますが、それがあれば介入効果が「必要十分」になるとは言えないと考えられます。

よって、選択肢①が正しいと判断でき、選択肢④は誤りと判断できます。

③ 作業同盟の効果は、対人プロセス想起法によって測定される。

まず心理療法の実証的研究に関して述べていきましょう。

この点に関しては、以下の書籍が詳しかったです。

心理療法の実証的研究は、効果研究とプロセス研究に大別できます。

効果研究は「ある心理療法が、精神医学的問題、人格特性などによって形成される特定のクライエント群に対して、介入を受けない対照群と比較してどのくらい効果に差があるか」「A療法とB療法のどちらが、特定のクライエント群に効果が高いか」という問題を扱います。

対してプロセス研究では「心理療法開始から終結までに面接において起こること」についての研究であり、いわゆる事例研究などがこれに該当します。

本問の作業同盟の研究に関しては、前者の効果研究に類するものであると考えるのが妥当ですね。

現在、効果研究は以下のような手順で行われます。

  1. DSMなどの診断マニュアルによって定義された均質的な協力者が集められ、無作為に介入群と対照群に分けられる。
  2. 介入の仕方が具体例とともに明確に示された介入マニュアルが準備される。
  3. 十分な臨床経験を持つ臨床家がマニュアルに記載された介入を忠実に行う。
  4. 介入前後および途中経過における症状の変化を複数の指標から測定する。

アメリカでは、このような厳密な手続きによって効果が検証された心理療法を「実証的支持を得た心理療法」として承認する制度ができており、イギリスやドイツでも効果研究の知見がエビデンスアプローチの認定に影響力を持っています。

作業同盟も価値も、こうした研究手続きを経て証明されたわけですね。

これに対して、選択肢にある対人プロセス想起法(Kagan,1980)は、カウンセラーの訓練法の一つで、面接の録音あるいは録画データを視聴しながら、その時の感じや考えを振り返り、対人プロセスに対する気づきを高めることを目的として行われます。

昔はよく臨床心理士の教育課程の中で「試行カウンセリング」が行われました(今はどうでしょう…?)。

学生同士がカウンセラー役とクライエント役に分かれ、模擬的なカウンセリングを実施し、それを録音し、その時の感じを振り返りながら、心理療法に関する教育を行っていくというやり方です。

訓練の狙いとしては、①クライエントを1人の人格として体験すること、②カウンセラーとして自己を相手の前に示す体験をすること、③実際場面で処置すべき諸問題に気づくこと、などがあげられます。

詳しい実施法等に関しては、以下の書籍が詳しいです。

私はこれをたくさんやってきた方だと思いますし、とても大変だったと記憶しています。

昔のロジャーズ学派は、このトレーニングを頻繁に行っていたように思います(私の師匠がロジャーズ学派だった)。

対人プロセス想起法は、こうした試行カウンセリングなどで活用される手法と言えますね。

以上より、作業同盟の効果は、対人プロセス想起法によって測定されたわけではなく、効果研究の厳密な手続きをもって証明されています。

よって、選択肢③は誤りと判断できます。

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