公認心理師 2022-72

主にストレスプロフィールを踏まえ、面接で優先的に確認すべき事項を選択する問題です。

本問は「公認心理師 2019-148」とほぼ同じ出題形式になっていますね。

今後のことも考えて、上記の解説よりも少し詳しめに述べておくことにしましょう。

問72 23歳の男性A、会社員。大学時代はサークル活動で中心的な存在であった。入社2か月後に行われたストレスチェックの結果、高ストレス者に該当するか否かを判断する補足的な面接を公認心理師Bが行った。Aのストレスプロフィールは次のとおりであった。「心理的な仕事の負担」は質、量ともに低い。「仕事のコントロール度」、「技能の活用度」、「仕事の適性度」及び「働きがい」が低い。「上司からのサポート」と「同僚からのサポート」は高い。ストレス反応は「いらいら感」が強い。「仕事や生活の満足度」は低いが、「家族や友人からのサポート」は高い。
 BのAへの面接で確認すべき事項として、優先度の高いものを1つ選べ。
① 長時間労働の有無
② 家庭生活のストレスの有無
③ 精神的な疾患の既往の有無
④ 職場の人間関係に関する問題の有無
⑤ 仕事の与えられ方に関する不満の有無

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公認心理師 2019-148

解答のポイント

ストレスプロフィールから最も整合性の高い対応を選択する。

選択肢の解説

① 長時間労働の有無
② 家庭生活のストレスの有無
③ 精神的な疾患の既往の有無
④ 職場の人間関係に関する問題の有無
⑤ 仕事の与えられ方に関する不満の有無

まずは本問の「ストレスプロフィール」なるものが何のことであるかを理解しておきましょう。

労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアル」にはストレスチェックの調査票に関する記述があり、「職業性ストレス簡易調査票」が代表的なものであると考えられます。

この評価のマニュアルとして「職業性ストレス簡易調査票を用いたストレスの現状把握のためのマニュアル‐より効果的な職場環境等の改善対策のために‐」が示されており、こちらにストレスプロフィールなどについて可視化して確認することができますね。

これらに基づいて、本問の解説を行っていきましょう。

事業場における労働者の心の健康づくりのための指針」では、メンタルヘルスケアの具体的な進め方について、①セルフケア、②ラインによるケア、③事業場内産業保健スタッフ等によるケア、④事業場外資源によるケアの4つのケアをあげています。

調査票の実施の方法や扱い方により、この4つのケアのいずれにおいても、職業性ストレス簡易調査票は有用なツールとして活用できるとされていて、①セルフケアでは、労働者個人が調査票に回答して、紙やコンピュータを用いて結果やその評価を見ることにより、ストレスへの気づきのための資料とする、という方法があります。

②ラインによるケアでは、管理監督者が、いつもと違う労働者に早めに気づき対処することも重要ですが、これに加えて産業保健スタッフや職場のメンバーと協力して、ストレスの要因となる職場環境等を改善していくことが重要です。

調査票を用いて、どのようなストレス要因が問題となっているのか、の情報を収集して、効
率よく対策を考えていくことが可能になります。

③事業場内産業保健スタッフ等によるケアでは、労働者からの自発的な相談時、あるいは、健康診断やメンタルヘルスに関する知識の付与等を目的とした健康教育等の機会を利用して、調査票を実施し、その結果を産業医等が判断することにより、ストレス問題を抱えた労働者を早期に発見し早期に対応することが可能となります。

④事業場外資源によるケア、では、事業場外の専門機関が、相談対応時やEAPの中で調査票を使用する方法が考えられます。

職業性ストレス簡易調査票は57項目からなり、仕事のストレス要因、ストレス反応、修飾要因の大きく3つから構成されています。

仕事のストレス要因に関する尺度は9つで、心理的な仕事の量的負担(A項目 No.1~3)と心理的な仕事の質的負担(A項目 No.4~6)、身体的負担(A項目 No.7)、コントロール(A項目 No.8~10)、技術の活用(A項目 No.11)、対人関係(A項目 No.12~14)、職場環境(A項目 No.15)、仕事の適性度(A項目 No.16)、働きがい(A項目 No.17)からなっています。

ストレス反応については、心理的ストレス反応と身体的ストレス反応について測定でき、心理的ストレス反応の尺度は5つで、ポジティブな心理的反応の尺度として活気(B項目 No.1~3)、ネガティブな心理的反応の尺度としてイライラ感(B項目 No.4~6)、疲労感(B 項目 No.7~9)、不安感(B項目 No.10~12)、抑うつ感(B項目 No.13~18)があります。

身体的ストレス反応は身体愁訴についてが11項目(B項目 No.19~29)からなっており、修飾要因としては、上司、同僚、および配偶者・家族・友人からのサポート9項目(各々C項目 No.1,4,7(上司)、No.2,5,8(同僚)、No. 3,6,9(配偶者・家族・友人))および仕事あるいは家庭生活に対する満足度の2項目(D項目 No.1,2)があります。

まとめると、職業性ストレス簡易調査票の構成は以下のようになっております。

  • 仕事のストレス要因:仕事の負担(量)、仕事の負担(質)、身体的負担、対人関係、職場環境、コントロール、技能の活用、適性度、働きがい
  • ストレス反応:活気、イライラ感、疲労感、不安感、抑うつ感、身体愁訴
  • 修飾要因:上司からのサポート、同僚からのサポート、家族や友人からのサポート、仕事や生活の満足度

これらは本事例で示されている内容と合致していることがわかりますね。

上記を踏まえ、本事例のストレスプロフィールをまとめておきましょう。

  1. 仕事のストレス要因;心理的な仕事の負担(量および質):低い
  2. 仕事のストレス要因;仕事のコントロール、技能の活用度、適性度、働きがい:低い。
  3. ストレス反応;いらいら感:強い
  4. 修飾要因;上司からのサポート、同僚からのサポート、家族や友人からのサポート:高い
  5. 修飾要因;仕事や生活の満足度:低い

上記の中で特に問題となりそうなのは、2の仕事のストレス要因として「仕事のコントロール、技能の活用度、適性度、働きがい」が低いこと、3のストレス要因として「いらいら感」が強いこと、5の修飾要因として「仕事や生活の満足度」が低いことが挙げられますね。

そして、本問で挙げられている各選択肢が、上記のどの項目に関する確認になっているのか対応を見ていきましょう。

  1. 心理的な仕事の負担(量および質):低い
    =選択肢①「長時間労働の有無」
  2. 仕事のコントロール、技能の活用度、適性度、働きがい:低い
    =選択肢⑤「仕事の与えられ方に関する不満の有無」
  3. いらいら感:強い
    =選択肢③「精神的な疾患の既往の有無」(※以下参照)
  4. 上司からのサポート、同僚からのサポート、家族や友人からのサポート:高い
    =選択肢②「家庭生活のストレスの有無」および
     選択肢④「職場の人間関係に関する問題の有無」
  5. 仕事や生活の満足度:低い
    =選択肢⑤「仕事の与えられ方に関する不満の有無」

上記の3にある※についてですが、この項目のポイントになるのは「いらいら感」が強いことは示されていますが、言い換えれば「いらいら感以外の項目」については問題が見られなかったということでもあります。

職業性ストレス簡易調査票を見てもらえればわかりますが、この調査票において「ストレス反応」の項目(ここ1か月の状態を問う内容)は29項目存在しており、本事例ではこのうち「いらいら感」のみが高いと判断されているわけです。

それ以外の28項目が取り上げられるような状態ではなかったことを踏まえれば、現時点でAのストレス反応はそれほど重篤なものではないと考えておいて問題がないと言えます。

ですから、この調査票の結果から選択肢③の「精神的な疾患の既往の有無」を確認するのは、整合性に欠けると言えますね。

もちろん、形式的に既往の有無を問うこともして良いのですが、いたずらに聞かなくても良い質問をするのは、要らぬ心理的負担を相手に強いるということを理解しておくことが重要です(相手から情報を取るというのは、常に心理的負担をかける可能性があると理解すること)。

また、選択肢①、選択肢②および選択肢④の内容に関しては、ストレスプロフィールから問題がないことが明確に示されていますから、真っ先に除外すべきものになりますね。

残るは選択肢⑤の「仕事の与えられ方に関する不満の有無」ですが、Aのストレスプロフィールが「仕事のコントロール、技能の活用度、適性度、働きがい、仕事や生活の満足度」といった項目の低さを示しているのであれば、仕事の与えられ方に関する不満を確認するのは整合性の高い対応であると言えます。

また、Aの「いらいら感」の高さが、「仕事のコントロール、技能の活用度、適性度、働きがい、仕事や生活の満足度」といった項目の低さと関連している可能性も考えられますから、この辺を重点的に聞いていくのは大切であると考えられますね。

事例的に見ていけば、「大学時代はサークル活動で中心的な存在であった」というAが、どのような仕事の与えられ方をしているのか、それに対してどのような認知を持っているのかを問うことは大切であるように感じます。

例えば、そうした自身が周囲の中心で過ごしていたAが、「新米」として一から仕事を与えられ、それに対してうまくできていなければ不満が募るでしょうし、自身の価値を高く見積もっている人であれば初歩的な仕事に不満を覚えることもあるでしょう。

いずれにせよ、こうした仕事の与えられ方に関する認知を問うことによって、いま現在だけでなく、これからAが社会の中で生き抜いていく上での課題なども見えてくるかもしれませんし、そういう情報を踏まえてどのようにAを成長させていくのかを考えていくきっかけになるかもしれませんね。

いずれにせよ、本事例においては「仕事の与えられ方に関する不満の有無」を確認することが、最も整合性の高い対応であると考えられます。

以上より、選択肢①、選択肢②、選択肢③および選択肢④は優先度が低いと判断でき、選択肢⑤は優先度が高いと判断できます。

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