公認心理師 2022-47

職場における自殺のポストベンションに関する問題です。

「ポストベンション」と聞くと専門的な感じがするかもしれませんが、どの領域にも共通する自殺時の危機介入の理解で解ける内容だったと思います。

問47 職場における自殺のポストベンションとして、不適切なものを1つ選べ。
① 必要に応じて専門職員による個別相談の機会を与える。
② 集団で行う場合には、関係者の反応が把握できる人数で実施する。
③ 自殺の原因になったと推察される人間関係を含め詳細まで公にする。
④ 強い心理的ショックを経験した直後の一般的な心身の反応について説明する。

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解答のポイント

職場におけるポストベンションについて理解している。

選択肢の解説

① 必要に応じて専門職員による個別相談の機会を与える。
② 集団で行う場合には、関係者の反応が把握できる人数で実施する。
③ 自殺の原因になったと推察される人間関係を含め詳細まで公にする。
④ 強い心理的ショックを経験した直後の一般的な心身の反応について説明する。

公衆衛生では、予防はその目的から第一次予防、第二次予防、第三次予防の3つのレベルに分けて考えられており、自殺の対策に関しても同様です。

まず一次予防とは、自殺行動へと駆り立てるようなさまざまな要因を除去することが目的です。

例えば、個々人の認識を変えるように働きかけたり、より適切な対処行動が取れるように援助したりすることが含まれます。

よく行われているのが自殺予防啓発プログラムの実施で、学校の授業などを活用して進められることも多いですね。

続いて、二次予防の目的は、既に存在している状況が進行しないように阻止することです。

つまり、自殺における二次予防とは「自分を傷つけたいと思っている」「自殺をしようと思っている」「過去に自殺を試みたことがある」といった対象を同定し、支援に繋げることを指します。

例えば、自殺行動のハイリスク群をスクリーニングするためのプログラムを実施するなどが二次予防に該当します。

そして三次予防とは、自殺を実際に実行してしまった人に対して援助を提供することを指します。

この中には、自殺行動の影響が家族や友人、医療関係者に広がらないように働きかけることも含んでいます。

なお自殺予防の領域では、プリベンション(prevention:事前対応)、インターベンション(intervention:危機介入)、ポストベンション(postvention:事後対応)という3段階に分けて予防について論じます。

プリベンションとは、現時点で危険が迫っているわけではありませんが、その原因を取り除いたり、教育をしたりすることによって、自殺が起きるのを予防することを指し、上記で言えば一次予防に該当します。

インターベンションとは、今まさに起きつつある自殺の危険に介入し、自殺を防ぐことを指し、上記で言えば二次予防に該当します。

自殺の予防に全力を挙げることは当然ですが、残念ながら自殺を100%防ぐことは不可能です。

そこで、ポストベンションとは、不幸にして自殺が生じてしまった場合に、遺された人々に及ぼす心理的影響を可能な限り少なくするための対策を意味し、これは上記で言えば三次予防に該当するわけです。

そして、本問で問われている「職場における自殺のポストベンション」については安全衛生情報センターのホームページに「自殺後に遺された人への対応」としてポストベンションで行うべきことがまとまって記載されています。

ここから抜き出しつつ、解説を行っていきましょう。

まずは選択肢②の「集団で行う場合には、関係者の反応が把握できる人数で実施する」と関連する箇所を抜き出します。


(1)関係者の反応が把握できる人数で集まる
 できるだけ早い段階でケアを実施するのが望ましいのですが、対象とする人々がそれを受け入れる準備ができているかどうかを十分に検討してください。職場で同僚が自殺した場合には、葬儀が済むのを待ってもよいでしょう。葬儀の準備で慌しい思いをしている最中にケアを実施しようとしても、外部からのケアを受け入れるだけの準備ができていないことも多いからです。(なお、学校で生徒の自殺が起きたような場合には、より早い対応が必要になってくることを、一言付け加えておきます。)ケアを始める前に、どのような状況で自殺が生じたのか概要を把握しておき、これから対処しようとしている人々の状態をつかんでおきます。
 ケアを行う際のグループの人数ですが、関係者の反応が十分に把握できる人数にします。他者の自殺を経験した人がどれほど精神的に動揺しているのか把握できる数に限ったほうがよいのです。
 理想的には対象者は 10人くらいまでにします。20人以上となると、自殺の事実について知らされた人の反応を的確にとらえるのが難しくなってしまいます。多人数を扱わなければならない場合には、いくつかのグループに分けるといった工夫をします。

 また、誰がケアを主導するかというのも問題になります。できれば、利害関係がなく、ポストベンションについて経験豊富な精神保健の専門家が実施したほうがよいでしょう。とはいえ、可能な限り早い段階でケアを実施するのに、いつでも外部から専門家の協力が得られるとは限りません。そのような場合には、職場で責任ある立場の人やメンタルヘルスの担当者が、以下に挙げるような手順を踏む必要が出てきます。
 なお、ケアを中心的に進めていく人以外に、もう一人別に補佐役を置いて、グループの反応を見届けるのもよい方法です。


上記の通り、ポストベンションを集団で行う場合には、関係者の反応が十分に把握できる人数にすることが明記されていますね。

よって、選択肢②は適切と判断でき、除外することになります。

続いて、選択肢④の「強い心理的ショックを経験した直後の一般的な心身の反応について説明する」と関連する箇所を抜き出してみましょう。


(4)知人の自殺を経験した時に起こり得る反応や症状を説明する
 知人の自殺を経験した後にはさまざまな複雑な反応が生じます。ところが、精神医学についての知識が十分にない一般の人々は、そのような症状が自分だけに起きている異常な反応と考え、誰にも相談できずに悩んでいることがあるのです。時間の経過とともに軽快していく症状でそれほど心配のないものから、ただちに適切な介入を始める必要のあるものまでさまざまです。
 表6-2のようなパンフレットをあらかじめ用意しておいて、それを使って説明するのもひとつの方法です。これには、知人の自殺を経験した後に生じる可能性のある、うつ状態、不安障害、ASD(急性ストレス障害)、PTSD(外傷後ストレス障害)などの症状を具体的に挙げてあります。あくまでも対象となる人々が理解しやすい言葉を用います。また、相談先などについても具体的な情報を含めてください。

※表6-2
強い絆のあった人が亡くなるという経験は、遺された人にさまざまなこころの問題を引き起こしかねません。病死や事故死よりも、自殺はさらに大きな影響を及ぼします。このような経験をした人の中には以下に挙げるような症状が出てくることがあります。時間とともに徐々にやわらいでいくものから、永年にわたってこころの傷になりかねないものまでさまざまです。時には、うつ病、不安障害、ASD(急性ストレス障害)、PTSD(外傷後ストレス障害)を発病して、専門の治療が必要になることさえあります。次のような症状に気づいたら、けっしてひとりで悩まずに○○○(電話○○○)に連絡して、相談に来てください。周囲の人に同じような症状に気づいたら、相談に行くように助言してください。
● 眠れない
● いったん寝ついても、すぐに目が覚める
● 恐ろしい夢を見る
● 自殺した人のことをしばしば思い出す
● 知人の自殺の場面が目の前に現れる気がする
● 自殺が起きたことに対して自分を責める
● 死にとらわれる
● 自分も自殺するのではないかと不安でたまらない
● ひどくビクビクする
● 周囲にベールがかかったように感じる
● やる気がおきない
● 仕事に身が入らない
● 注意が集中できない
● 些細なことが気になる
● わずかなことも決められない
● 誰にも会いたくない
● 興味がわかない
● 不安でたまらない
● ひとりでいるのが怖い
● 心臓がドキドキする
● 息苦しい
● 漠然とした身体の不調が続く
● 落ちつきがない
● 悲しくてたまらない
● 涙があふれる
● 感情が不安定になる
● 激しい怒りにかられる


これには少し説明が必要かなと思います。

上記の内容では「知人の自殺を経験した時に起こり得る反応や症状を説明する」というやるべきことは記載されていますが、なぜそれを行うべきかは述べられていないからです。

こうした心理的ショックの際に「それによって起こる反応や症状を説明する」ことの意義は、「自分に何が起こっているのかを理解する」ことが主な目的です(心の準備をしておくという意見もあるでしょうが、それは第一ではありません)。

人間は知的生命体であり、知的生命体にとって最も苦しい状況の一つが「自分に何が起こっているのかわからない」「これからどうなるのか理解できない」といった前後不覚の状態です。

心理的ショックを前にした反応は「そういう状況における自然な反応」「危機を前にした生体の防御反応」ということをしっかりと理解しておくことで、上記の知的生命体ゆえの苦しさを軽減させることができます。

つまり、心理的ショックな状況では「出来事自体に対する反応」と「その反応への戸惑い」が複雑に絡み合いながら混乱として表明されるので、きちんと説明を行っておくことで後者の「反応への戸惑い」を大幅に減らすことができるわけです。

このような事情から、「強い心理的ショックを経験した直後の一般的な心身の反応について説明する」というのは適切な対応であることがわかりますね。

以上より、選択肢④は適切と判断でき、除外することになります。

続いて、選択肢①の「必要に応じて専門職員による個別相談の機会を与える」と関連する箇所を抜き出してみましょう。


(5)個別に専門家による相談を希望する人には、その機会を与える
さらに、グループの中では自分の気持ちを十分に表現できなかったと感じ、個別に話を聞いてほしいと思っている人もいます。そのような人には可能な限り早い段階で、専門家に話をしたり、助言を受けたりできる機会を設けます。これも時機を逸してしまっては、意味がなくなるので、十分な注意が必要です。


上記の通り、専門職員による個別相談の機会を与えることもポストベンションの一つとして挙げられていますね。

心理的問題にはいくつか共通特徴がありますが、その一つとして「対応が早いほど予後が良い」ということがあります(統合失調症でも、急性期直後に関われた事例はすこぶる予後が良いそうです)。

以上より、選択肢①は適切と判断でき、除外することになります。

最後に選択肢③の「自殺の原因になったと推察される人間関係を含め詳細まで公にする」について見ていきましょう。

こちらは直接的な箇所(詳細まで公にするか否かに関する記述)はないのですが、関連しそうな箇所を抜き出してみましょう。


(2)自殺について事実を中立的な立場で伝える
 自殺が生じたという事実を必死になって隠そうとしたところであっという間に噂や憶測でほぼ全員に知れ渡ってしまいます。たしかに衝撃的ではありますが、自殺が起きたという事実を淡々と伝えて、それに動揺している人がいるならば、個別・具体的に働きかけていくことが賢明です。
 ある人の自殺が複数の自殺を引き起こす群発自殺という現象があります。とくに若者の間で群発自殺が生じる危険が高いのですが、成人の間でも群発自殺が起きることがあります。ある企業の小さな部門で数ヶ月の間に複数の自殺が生じたという事例もあるのです。
 なお、自殺についてはあくまでも事実を淡々と話すべきであって、故人を非難したり、貶めるような発言をしてはなりません。また、逆に故人の生前の様子をあまりにも美化して語るのも、逆効果になります。


上記の通り、自殺が起こったときには「自殺の事実を」「淡々と伝える」ということが重要になってきます。

ここだけでそれなりに解説としては成立するのでしょうが、なぜそのような伝え方が重要かを述べていきましょう。

上記にも群発自殺のリスクが述べられていますが、一般に自殺事案における緊急対応のもっとも中核となる対応目的が「群発自殺の予防」になります。

そして、群発自殺を予防するのに最も効果的なのが「情報の統制」です。

その組織が把握している「事実」を、情緒的喚起を起こさない形で「淡々と」伝えることが重要になってくるわけです。

もちろん「自殺の原因となった人間関係」も、もちろん後々になれば「事実」と認定されるかもしれませんが、本選択肢では「推察される」という表現が付されているので、これを「事実」と認定してはいけませんね。

ですから、本選択肢の時点では「自殺したという事実を淡々と伝えるのみ」がポストベンションで行うことであり、それ以上の情報の提示は控えるべきです。

もう少し「情報の統制」の重要性を述べていきましょう。

一般に身近に心理的問題を示す人がいると、その周辺の人は同様の心理的問題を示すリスクがあります。

例えば、家族に不登校の人がいればそのきょうだいは不登校のリスクが高まりますし、リストカットをする人がいれば同じくリスクが高まります。

これを「遺伝子」とか「家族病理」と見なす知見もあって良いのですが、最も大きな要因は「苦しい時の表現法としての「それ」を知っている」ということにあります。

ですから、自殺という情報に触れ続けることで、もしくは、その組織内で自殺の話題が収まらないような情報の伝え方をしてしまうことで、周囲の人たちの内面に「自殺という方法の可能性」が無自覚の内に刻まれてしまうわけです。

よって、「情報の統制」を行うことで、つまりは、「これ以上でもこれ以下でもない情報」「組織が持ち得る情報はここまでで、これ以上はどこを突いても出てこない情報」を伝えることで、周囲の人が「自殺という方法」に触れる機会を減らすことが重要になってくるわけです。

もちろん、組織として持ち得る情報が実際はもっと多い可能性もありますが、あくまでも「事実として認定されていること」までにするべきですし、情報の開示には多少なりとも「遺族の同意」が大切になってくる場合もあります。

それらの情報を加味して、公開できる情報を検討することが重要になってくるわけですね。

以上を踏まえると、ポストベンションにおいて「自殺の原因になったと推察される人間関係を含め詳細まで公にする」という推察レベルの内容まで公開するのは間違った対応であることが分かります。

よって、選択肢③が不適切と判断でき、除外することになります。

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