公認心理師 2021-52

セクハラの防止対策に関する問題です。

「個人情報を守る」という感覚の隙を突いたような問題になっていますから、各機関の性質をしっかり理解しておくことが大切ですね。

問52 雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律が示す、職場におけるセクシュアルハラスメントの防止対策について、誤っているものを1つ選べ。
① 労働者がセクシュアルハラスメントに関して事業主に相談したこと等を理由とした不利益な取扱いを禁止する。
② 紛争調整委員会は、セクシュアルハラスメントの調停において、関係当事者の同意を得れば、職場の同僚の意見を聴取できる。
③ 労働者の責務の1つとして、セクシュアルハラスメント問題に対する関心と理解を深め、他の労働者に対する言動に必要な注意を払うことを定めている。
④ 事業主は、他者から職場に置けるセクシュアルハラスメントを防止するための雇用管理上の措置の実施に関して必要な協力を求められた場合に、応じるよう努めなければならない。

解答のポイント

令和2年6月からの職場におけるハラスメント防止対策強化の内容を理解している。

選択肢の解説

① 労働者がセクシュアルハラスメントに関して事業主に相談したこと等を理由とした不利益な取扱いを禁止する。
④ 事業主は、他者から職場に置けるセクシュアルハラスメントを防止するための雇用管理上の措置の実施に関して必要な協力を求められた場合に、応じるよう努めなければならない。

これらに関しては、以下の規定がなされております。



第十一条(職場における性的な言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置等) 事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。

2 事業主は、労働者が前項の相談を行つたこと又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。

3 事業主は、他の事業主から当該事業主の講ずる第一項の措置の実施に関し必要な協力を求められた場合には、これに応ずるように努めなければならない。

4 厚生労働大臣は、前三項の規定に基づき事業主が講ずべき措置等に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針(次項において「指針」という。)を定めるものとする。

5 第四条第四項及び第五項の規定は、指針の策定及び変更について準用する。この場合において、同条第四項中「聴くほか、都道府県知事の意見を求める」とあるのは、「聴く」と読み替えるものとする。


上記の通り、選択肢①および選択肢④の内容が規定されていることがわかりますね。

仮に「法律の内容をしっかり把握できていない状態で本問を解く」という状況になったら、選択肢④に関してはかなり悩ましいだろうと考えられます。

個人情報等の感覚として「事業主が、他の事業主に自分の会社で起こっているセクハラのことで協力を求めていいの?」というのがあろうかと思います。

こちらの条項に関しては令和2年6月に施行された内容なのですが、どういう状況を想定して追加された条項なのかを理解しておくことが重要です。

これは「自社の労働者が他社の労働者にセクハラを行い、他社が実施する雇用管理上の措置
(事実確認等)への協力を求められた場合、これに応じるよう努めること」と読み替えれば良いわけです。

事実、セクハラは一つの会社内だけで起こるものではなく、上下関係や営業などで関わりのある取引先の社員に対して行われるという事例が数多く示されています。

これだけでなく、令和2年6月から職場におけるハラスメント防止対策が強化されたのですが、この内容に関してはこちらのリーフレットに詳しく述べられておりますので、一読しておくと良いでしょう。

もっと詳しい資料としては「職場におけるパワーハラスメント対策が事業主の義務になりました!」がありますので、こちらも併せて目を通しておくと良いでしょう。

以上より、労働者が相談することで不利益を被ることはあってはなりませんし、取引先だからと言って対応しないということもあってはならないことですね(法律的にはもちろん、倫理的にも)。

よって、選択肢①および選択肢④は正しいと判断でき、除外することになります。

② 紛争調整委員会は、セクシュアルハラスメントの調停において、関係当事者の同意を得れば、職場の同僚の意見を聴取できる。

こちらに関しては、以下の条項を参考にしていきましょう。


第十八条(調停の委任) 都道府県労働局長は、第十六条に規定する紛争(労働者の募集及び採用についての紛争を除く)について、当該紛争の当事者(以下「関係当事者」という)の双方又は一方から調停の申請があつた場合において当該紛争の解決のために必要があると認めるときは、個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律第六条第一項の紛争調整委員会(以下「委員会」という)に調停を行わせるものとする。

2 第十一条第二項の規定は、労働者が前項の申請をした場合について準用する。

第十九条(調停) 前条第一項の規定に基づく調停(以下この節において「調停」という)は、三人の調停委員が行う。

2 調停委員は、委員会の委員のうちから、会長があらかじめ指名する。

第二十条 委員会は、調停のため必要があると認めるときは、関係当事者又は関係当事者と同一の事業場に雇用される労働者その他の参考人の出頭を求め、その意見を聴くことができる。

第二十一条 委員会は、関係当事者からの申立てに基づき必要があると認めるときは、当該委員会が置かれる都道府県労働局の管轄区域内の主要な労働者団体又は事業主団体が指名する関係労働者を代表する者又は関係事業主を代表する者から当該事件につき意見を聴くものとする。

第二十二条 委員会は、調停案を作成し、関係当事者に対しその受諾を勧告することができる。

第二十三条 委員会は、調停に係る紛争について調停による解決の見込みがないと認めるときは、調停を打ち切ることができる。

2 委員会は、前項の規定により調停を打ち切つたときは、その旨を関係当事者に通知しなければならない。


上記の通り、条項には「関係当事者の同意を得れば」という文言は含まれておりません。

すなわち、紛争調整委員会は、当事者の「同意を得ることなく」関係当事者又は関係当事者と同一の事業場に雇用される労働者その他の参考人の出頭を求め、その意見を聴くことができるわけです。

上記に関して違和感を覚える方もおられるでしょうが、それは紛争調整委員会に関する理解が乏しい証拠です。

紛争調整員会は「個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律」を根拠法としております。


第六条(委員会の設置) 都道府県労働局に、紛争調整委員会(以下「委員会」という)を置く。

2 委員会は、前条第一項のあっせんを行う機関とする。


上記の「あっせん」とは、当事者の間に学識経験者である第三者が入り、双方の主張の要点を確かめ、場合によっては、両者が採るべき具体的なあっせん案を提示するなど、紛争当事者間の調整を行い、話合いを促進することにより、紛争の円満な解決を図る制度のことです。

紛争調整委員会は、弁護士、大学教授等の労働問題の専門家である学識経験者により組織された委員会であり、都道府県労働局ごとに設置されています。

この紛争調整委員会の委員のうちから指名されるあっせん委員が、紛争解決に向けてあっせんを実施することになるわけです。

労働問題に関するあらゆる分野の紛争(募集・採用に関するものを除く)がその対象となり(第5条)、具体的には「解雇、雇止め、配置転換・出向、昇進・昇格、労働条件の不利益変更等労働条件に関する紛争」「いじめ等の職場環境に関する紛争」「労働契約の承継、同業他社への就業禁止等の労働契約に関する紛争」「その他、退職に伴う研修費用の返還、営業車等会社所有物の破損に係る損害賠償をめぐる紛争」などになります。

上記で重要なのは、紛争調整員会が「第三者機関」であるという点です。

紛争調整委員会は第三者として「双方の主張の要点を確かめて」いく必要があるわけですから、公平かつ公正に行うためにも双方が必要な情報を提示することが求められますし、紛争調整委員会が必要と判断すれば「関係当事者又は関係当事者と同一の事業場に雇用される労働者その他の参考人の出頭を求め、その意見を聴くことができる」ということになるわけです。

この事情は「秘密保持義務の例外状況」の一つである裁判に関する状況と似ているかもしれません(こちらに関しては、Youtube版の「秘密保持義務に関する解説(第3回:全3回):公認心理師法【公認心理師資格試験】」で詳細に述べています)。

クライエントが自身のメンタルヘルスに関する問題を取り上げて法廷で訴えを起こした場合には、その裁判の場では、自分自身の「秘密保持の権利」を自ら放棄したと解釈されます。

なぜなら、裁判は公平・公正に行われなければならないので、訴えを起こしたのに必要な情報を提供しないとなれば、相手側は反論することも是認することもできなくなってしまいますよね。

そのため裁判の状況では、クライエントは自らの提訴によって、その裁判を行う上で必要な情報の提供を許可したと見なされるわけですね。

紛争調整委員会も、双方の間に入って「あっせん」を行うわけですから、正しい情報を得るための行動を取る必要があるわけで、仲介を依頼した時点で「情報提供に同意した」と見なすということになるわけですね。

もちろん、裁判でも紛争調整委員会でも、社会一般に流布することを許可したと考えるわけではありませんから、あくまでもその案件を扱う人間だけで共有するということになります。

このように、紛争調整委員会は、セクシュアルハラスメントの調停において、関係当事者の同意を得ることなく職場の同僚の意見を聴取できると言えます。

よって、選択肢②が誤りと判断でき、こちらを選択することになります。

③ 労働者の責務の1つとして、セクシュアルハラスメント問題に対する関心と理解を深め、他の労働者に対する言動に必要な注意を払うことを定めている。

こちらに関しては、以下の通り規定されています。


第十一条の二(職場における性的な言動に起因する問題に関する国、事業主及び労働者の責務) 国は、前条第一項に規定する不利益を与える行為又は労働者の就業環境を害する同項に規定する言動を行つてはならないことその他当該言動に起因する問題(以下この条において「性的言動問題」という)に対する事業主その他国民一般の関心と理解を深めるため、広報活動、啓発活動その他の措置を講ずるように努めなければならない。

2 事業主は、性的言動問題に対するその雇用する労働者の関心と理解を深めるとともに、当該労働者が他の労働者に対する言動に必要な注意を払うよう、研修の実施その他の必要な配慮をするほか、国の講ずる前項の措置に協力するように努めなければならない。

3 事業主(その者が法人である場合にあつては、その役員)は、自らも、性的言動問題に対する関心と理解を深め、労働者に対する言動に必要な注意を払うように努めなければならない。

4 労働者は、性的言動問題に対する関心と理解を深め、他の労働者に対する言動に必要な注意を払うとともに、事業主の講ずる前条第一項の措置に協力するように努めなければならない。


上記の通り、労働者の責務も定められているわけです。

なお、こちらも令和2年6月からの職場におけるハラスメント防止対策強化のポイントの一つとなっております。

労働者に課せられたのは「ハラスメント問題に関する関心と理解を深め、他の労働者に対する言動に注意を払うこと」および「事業主の講ずる雇用管理上の措置に協力すること」です。

なお、上記の「他の労働者」には、取引先等の他の事業主が雇用する労働者や、求職者も含まれることを覚えておきましょう。

どれだけ事業主が気を付けていたとしても、当の労働者の意識が低ければ結局ハラスメントは生じてしまうわけですからね。

人の倫理観はそれほどに「千差万別」であり、しかも「自分の倫理観を疑う」ということはほぼ不可能であると思います(自身の倫理観の薄さによって他者を傷つけていても、それに気づいたり反省したりすることは、本質として困難である)。

このように、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律では労働者の努力義務も定められております。

よって、選択肢③は正しいと判断でき、除外することになります。

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