公認心理師 2018追加-59

27歳の女性A、会社員の事例です。

事例の詳細は以下の通りです。

  • 3年前から大きなプロジェクトの一員となり、連日深夜まで勤務が続いていた。
  • 気分が沈むため少し休みたいと上司に申し出たところ、認められなかった。
  • 徐々に不眠と食欲不振が出現し、出勤できなくなった。
  • 1週間自宅にいたが改善しないため、精神科を受診した。
  • 自責感、卑小感及び抑うつ気分を認め、Aに対して薬物療法が開始され、主治医は院内の公認心理師に面接を依頼した。
Aへの公認心理師の言葉として、最も適切なものを1つ選ぶ問題です。
この問題は2つのポイントがあります。
一つはAの状態が労働災害に該当するか否か、もう一つはAの現状の見立てと対応です。
これらを踏まえた上で、現在のAに対してどのような言葉をかけるのが最も適切か、を考えていく必要があります。

解答のポイント

Aに対して、どういったアプローチを最優先することが望ましいかを見立てられること。

選択肢の解説

『①趣味で気晴らしをしてみましょう』

こちらはうつ状態に対して、気を晴らすことで改善を目指そうというアプローチだと思われます。
印象としては、比較的軽度の状態のクライエントに行うような感じでしょうか。
選択肢③の説明でも記述しますが、Aに対しては「自責感、卑小感及び抑うつ気分」の軽減が重要になってきます。
本選択肢の言葉では、その中の「抑うつ気分」にアプローチするに留まると思われます。
自責感や卑小感を軽減し、Aの置かれていた環境を客観的に検証していくことがAの今後にとっても必要です。
外界を客観的に検証するためには、「自分が悪い」と感じている状態からの改善が重要になりますから、本選択肢の言葉は見立てとしてずれていると思われます。
以上より、選択肢①は不適切と判断できます。

『②労働災害の認定を申請してはどうですか』

この選択肢が適切か否かを考えていくには、Aの状況が労働災害に該当するかを考えていくことが大切です。
心理的負荷による精神障害の労災認定基準」が定められているので、こちらを参考にしていきます。
「特別な出来事」にあたる「極度の長時間労働」を、月160時間程度の時間外労働と明示しています。
また「心理的負荷の具体例を記載」してあり、具体的な期間と時間数も定められています。
また「業務による心理的負荷評価表」も示されております。
様々な基準が示されておりますが、本事例の情報だけでは労働災害か否かを判断することができません(例えば、どのくらいの残業があったかなどの記載が無い)
この状態で「労働災害であることを前提とした言葉」をかけることは適切ではないと考えられます。
決して「労働災害ではない」というわけではなく、「労働災害であるとするに足る情報の記載が無い」ということです。
以上より、選択肢②は不適切と判断できます。

『③自分のことを責める必要はないと思います』

Aの職場環境に何かしらの問題があった可能性はありますが、現在のAに対してそれを具体的・現実的に検証していくという対応は適切ではないように思われます。
なぜなら、現在のAの状態は「自責感、卑小感及び抑うつ気分」が認められており、単純に言えば「自分が悪い」と思っているからです。
「自分が悪い」と思っている人に対して、職場環境の検証をしていきましょう、すなわち外界の問題を見ていきましょうというのは大きなズレを感じます。
職場環境の課題を適切に見立てていくためには、まずは「自責感、卑小感及び抑うつ気分」の改善を目指す必要があります。
そこで本選択肢の「自分のことを責める必要はない」というアプローチは有り得るものだと思われます。
こういったことを伝えることで、Aの自責感や卑小感を和らげ、具体的・現実的に環境要因の問題を検証していくことが重要になります。
自責感や卑小感は自殺の要因にもなり得るので、うつ状態の支援としても適切でしょう。
おそらく「自分のことを責める必要はないと思います」という言葉が、効果があるほど伝わるのか?という意見もあると思います。
事例から読み取れるAの状態として、うつ病という診断が出ているという記述はなく、あくまでも「抑うつ気分」に留まっていること、微小妄想などは認められないこと、などがあります。
元々健康度の高いAが環境因を契機として状態を崩したとみるのが適当と思われ、しかも外来で対応できる状態であることを踏まえると、本選択肢のような真っ直ぐな言葉であっても伝わるものがあるのではないでしょうか。
以上より、選択肢③が最も適切と判断できます。

『④他の部署への異動を願い出てはどうですか』

Aの状態は、現在のプロジェクトの一員として勤務したことが引き金になっているように見えますし、そこから離れようとすることも助言の一つとしてはあり得るとは思います。
一方で、現在の状態のAに対して、本選択肢の提案をすることが適切かどうかは一考が求められます
Aには「自責感、卑小感及び抑うつ気分」などのうつ病の症状が見られ、こちらの回復が重要となります。
なぜなら、これらは「私が悪い」という思考が強いことを示しており、たとえ会社に責任があったとしても現在のAに選択肢の内容を勧めるのは、Aの状態とのずれが大きいアプローチだと言えるためです。
この状態で異動を勧めると「きちんと仕事ができなかった自分」「そんな自分はダメだ」という認知につながる可能性もあります。
まずこうした「自責感、卑小感及び抑うつ気分」の改善を目指し、次いでAの置かれていた会社の状況を客観的に評価していくことが重要だと思われます。
以上より、選択肢④は不適切と判断できます。

『⑤私が代わりに労働基準監督署に連絡しましょう』

この選択肢も、選択肢②および選択肢④と同じような論理によって不適切と判断可能だと思われます。
まずはAに労働災害が認められるかどうかは、現在の事例情報だけではわかりません
またAの「自責感、卑小感及び抑うつ気分」を踏まえると、外界に問題があることを前提としたアプローチはずれが大きいと考えられます(自分が悪いと思っている人に、環境に問題があったという論理で動いていることになるから)。
これらに加え、公認心理師が本人を差し置いて労働基準監督署に連絡することが不適切と考えることができます。
休みがもらえていないなどは確かに労働基準監督署に相談できる内容ではありますが、労働基準監督署の調査の申し立てをするのであれば、それなりに具体的な状況を本人が説明する必要があります
更に、労働基準法に違反していると見なされなければ「情報提供」としてしか扱われない可能性も高いです。
いずれにせよ、自責感が高まっているAに労働基準監督署を提案することも、そこに本人を差し置いて公認心理師が連絡しようとすることも不適切な対応と考えられます。
よって、選択肢⑤は不適切と判断できます。

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