公認心理師 2020-65

事例の特徴から、入所する可能性のある施設を選択する問題です。

家庭裁判所が「決定できる施設」や、年齢による規定を理解しておくことが重要ですね。

問65 9歳の男児A、小学3年生。Aは、学校でけんかした級友の自宅に放火し、全焼させた。負傷者はいなかった。Aはこれまでにも夜間徘徊で補導されたことがあった。学校では、座って授業を受けることができず、学業成績も振るわなかった。他児とのトラブルも多く、養護教諭には、不眠や食欲不振、気分の落ち込みを訴えることもあった。Aの家庭は、幼少期に両親が離婚しており、父親Bと二人暮らしである。家事はAが担っており、食事は自分で準備して一人で食べることが多かった。時折、Bからしつけと称して身体的暴力を受けていた。

家庭裁判所の決定により、Aが入所する可能性が高い施設として、最も適切なものを1つ選べ。

① 自立援助ホーム

② 児童自立支援施設

③ 児童心理治療施設

④ 児童発達支援センター

⑤ 第三種少年院(医療少年院)

解答のポイント

児童福祉法や少年院法に規定されている各施設の特徴について理解していること。

特に年齢による規定は把握していることが望ましい。

選択肢の解説

① 自立援助ホーム

自立援助ホームは児童福祉法第6条の3に規定されています。

入所の要件としては「義務教育を終了した児童又は児童以外の満二十歳に満たない者であつて、措置解除者等であるもの(以下「満二十歳未満義務教育終了児童等」という)」とされています。

また、同法33条の6にも以下のように規定されています。

児童相談所長は、特に必要があると認めるときは、第一項の規定により一時保護が行われた児童については満二十歳に達するまでの間、次に掲げる措置を採るに至るまで、引き続き一時保護を行い、又は一時保護を行わせることができる。

  1. 第三十一条第四項の規定による措置を要すると認める者は、これを都道府県知事に報告すること。
  2. 児童自立生活援助の実施が適当であると認める満二十歳未満義務教育終了児童等は、これをその実施に係る都道府県知事に報告すること。

つまり自立援助ホームとは、義務教育終了後15歳から20歳までの家庭がない児童や、家庭にいることができない児童が入所して、自立を目指す場です。

「家庭がない児童、家庭にいることができない児童」の大半が、児童相談所に一時保護されているなどの経緯があることがほとんどということになるでしょうね。

事例Aは9歳の小学校3年生ですから、義務教育修了の年齢に達していませんので、システム上、本選択肢の対応は採れないことになります。

以上より、選択肢①はAが入所する可能性が高い施設として不適切と判断できます。

② 児童自立支援施設

まずAがどういった流れで家庭裁判所の決定まで進むかを理解しておくようにしましょう。

少年事件では、捜査機関は犯罪の嫌疑がある場合は、すべての事件を家庭裁判所に送致しなければならないとされています(少年法第41条および第42条)。

そして家庭裁判所において調査を経て(少年法第8条)、少年に対する最終的な処分を検討します。

もっとも、一定の重大事件については、家庭裁判所は検察官に送致(逆送)しなければならないとされています。

ただし、逆送致は14歳以上であること(刑事処分の対象になる年齢が14歳から。しかし、実際に14歳で逆送致されることはほとんどない)、「死刑、懲役又は禁錮に当たる罪の事件について、調査の結果、その罪質及び情状に照らして刑事処分を相当と認めるとき」(少年法第20条)に該当する必要があるので、本問のAに関しては当たらないことがわかりますね。

本事例では、家庭裁判所の調査(第21条)を経て、審判が下ったという段階です。

そしてこの時点でAに下される可能性のある決定は以下の通りになります。

  • 児童福祉法の措置:児童相談所長等に送致(少年法第23条第1項:第18条)
  • 不処分(少年法第23条第2項)
  • 保護処分:保護観察(少年法第24条第1項)
  • 保護処分:児童自立支援施設又は児童養護施設(少年法第24条第2項)
  • 保護処分:少年院送致(少年法第24条第3項)

この中から、Aの環境や問題を鑑みて、もっとも「可能性が高い」のはどれになるかを考えていくことが大切です。

児童福祉法第7条には児童福祉施設についての記載があります。

それによると、児童福祉施設とは、助産施設、乳児院、母子生活支援施設、保育所、幼保連携型認定こども園、児童厚生施設、児童養護施設、障害児入所施設、児童発達支援センター、児童心理治療施設、児童自立支援施設及び児童家庭支援センターを指します。

また、児童自立支援施設とは、児童福祉法第44条を根拠法とする「不良行為をなし、又はなすおそれのある児童及び家庭環境その他の環境上の理由により生活指導等を要する児童を入所させ、又は保護者の下から通わせて、個々の児童の状況に応じて必要な指導を行い、その自立を支援し、あわせて退所した者について相談その他の援助を行うことを目的とする施設」です。

なお、上記は児童福祉法に規定されている施設ですから、18歳未満が対象になることも覚えておきましょう(少年法の少年は20歳未満、児童福祉法の少年は18歳未満ですね)。

この定義を踏まえて、事例Aの状況や問題を見ていきましょう。

まず「不良行為をなし、又はなすおそれのある児童」という箇所ですが、Aが行った「学校でけんかした級友の自宅に放火し、全焼させた。負傷者はいなかった。Aはこれまでにも夜間徘徊で補導されたことがあった」はこの要件に該当します。

さらに「家庭環境その他の環境上の理由により生活指導等を要する児童」という箇所については、Aの「家事はAが担っており、食事は自分で準備して一人で食べることが多かった。時折、Bからしつけと称して身体的暴力を受けていた」という状況は、この要件に該当すると見て良いでしょう。

加えて言えば、「学校では、座って授業を受けることができず、学業成績も振るわなかった。他児とのトラブルも多く、養護教諭には、不眠や食欲不振、気分の落ち込みを訴えることもあった」という一見して発達的要素の問題を感じさせる点についても、継続的な虐待環境に曝されたことを起因とする問題と見ることもできます。

虐待された児童が多動傾向・衝動傾向を持つのは、ずいぶん前から指摘されていることですからね。

ここで、児童福祉法上の措置と保護処分について理解しておきましょう。

家庭裁判所は児童福祉法上の措置として「都道府県知事または児童相談所長送致」を行い、そこから各児童福祉施設への措置があり得ます。

また、保護処分としての「児童自立支援施設または児童養護施設送致」もあり得ますね。

すなわち、入口は違う(児童福祉法上の措置・保護処分)けど「児童自立支援施設」や「児童養護施設」への送致という出口が同じ場合があるのです。

この一見同じ出口ではありますが、そのルートによって細かい点に違いがあることも理解しておきたいところです。

まず、保護処分としての児童自立支援施設や児童養護施設送致ですが、これは決定機関は「家庭裁判所」、決定の内容は「児童自立支援施設と児童養護施設のいずれか」、親権者等の同意は「親権者の意に反しても入所させることができる」ということになります。

対して、児童相談所長への送致、すなわち児童福祉法上の送致になると、決定機関は「児童福祉機関」になり、決定の内容は「福祉的な観点から、送致上の施設を選択する。施設入所措置を採らないこともあり得る」となり、親権者等の同意は「原則として親権者等の意に反して入所させることはできない」となっています。

本問における児童自立支援施設送致については、保護処分の流れでの送致ということになりますね。

以上より、選択肢②が、Aが入所する可能性が高い施設として最も適切と判断できます。

なお、他選択肢にはない方向についても考えてみましょう。

まずは不処分ですが、これはAの行った問題(けんかした級友の自宅に放火し、全焼させた)や、家庭環境の劣悪さなどを踏まえれば、可能性は低い選択と判断できます。

そのまま自宅に戻したところで、同じことの繰り返しになる可能性の方が高いように思えます。

もちろん、この判断は事例に応じて「家庭裁判所が決める」ことですから、我々がそれを判断してよいわけではないという前提は必ず守る必要があります。

この点に口を出そうとするのは「越権行為」であり「分を弁えない」という在り様であり、社会で働く支援者として未熟な行いであることは言うまでもありません。

また、保護観察についても理解しておきましょう。

保護観察処分になる少年については以下の2パターンあります。

  1. 保護観察処分少年:非行により家庭裁判所から保護観察の処分を受けた少年を指します。更生保護法第二節(第66条~第70条)に条文が示されております。
  2. 少年院仮退院者:非行により家庭裁判所から少年院送致の処分を受け、その少年院から仮退院となった少年を指します。更生保護法第三節(第71条~第74条)に条文が示されております。

本事例では1の流れになりますね。

更生保護法には年齢に関する規定がありませんが、Aの年齢で保護処分となることはないようです。

保護観察とは、非行のある少年が社会の中で更生するように、保護観察官及び保護司による指導と支援を行うものです。

Aの家は虐待の問題が継続している家庭ですから、Aを家庭に居させたまま更生するというのはやや難しいようにも感じますね。

③ 児童心理治療施設

児童福祉法第43条の2によると、「児童心理治療施設は、家庭環境、学校における交友関係その他の環境上の理由により社会生活への適応が困難となつた児童を、短期間、入所させ、又は保護者の下から通わせて、社会生活に適応するために必要な心理に関する治療及び生活指導を主として行い、あわせて退所した者について相談その他の援助を行うことを目的とする施設」です。

まずAが児童心理治療施設に送致される可能性の有無について考えてみましょう。

家庭裁判所で「児童相談所長送致」すなわち「児童福祉法に則った措置」になる場合、その児童相談所から児童心理治療施設に送致されることはあり得るでしょう。

しかし、これは家庭裁判所から「直接」送致されるということはありませんから、本問の「家庭裁判所の決定」とすることは不可能なはずです。

家庭裁判所から直接送致されるとしたら、(児童福祉施設では)児童自立支援施設又は児童養護施設のみになるはずです。

以上より、選択肢③はAが入所する可能性が高い施設として不適切と判断できます。

仮に「児童相談所→児童心理治療施設」というルートも含めて、本問の「家庭裁判所の決定」と見なしている場合、児童心理治療施設はルール上あり得るのですが、やはり無理のある論理だろうと思います。

万が一、これが成り立つとしても、虐待家庭のAに対して「短期間、入所させ、又は保護者の下から通わせて」という極めて保護者が近い位置にAを置いたまま支援をするということはあり得ないだろうと考えられます。

④ 児童発達支援センター

児童福祉法第43条によると、「児童発達支援センターは、次の各号に掲げる区分に応じ、障害児を日々保護者の下から通わせて、当該各号に定める支援を提供することを目的とする施設」であり、福祉型と医療側に分けられています。

福祉型児童発達支援センターでは「日常生活における基本的動作の指導、独立自活に必要な知識技能の付与又は集団生活への適応のための訓練」を行うのに対し、医療型児童発達支援センターでは「日常生活における基本的動作の指導、独立自活に必要な知識技能の付与又は集団生活への適応のための訓練及び治療」と治療が加わっていることがわかりますね。

選択肢③でも述べたように、児童発達支援センターも「家庭裁判所の決定」として送致されることはない機関です。

すなわち、システム上、本選択肢は不適切とまずは言えます。

それだけでなく、実践の面でも、やはりこちらの選択肢は不適切です。

本選択肢を考える場合、Aの本質的な問題を発達障害であると見立てる必要がありますが、それはなかなか難しいですね。

虐待環境によって、Aの感情統制能力が育まれていない可能性、発達障害的に見えるのは虐待による影響の可能性などを考慮すれば、発達障害の支援を第一に持っていくのは不適切と言えます。

このように、システム上も実践上も児童発達支援センターという選択肢は浮かばないはずです。

以上より、選択肢④はAが入所する可能性が高い施設として不適切と判断できます。

⑤ 第三種少年院(医療少年院)

少年法第24条には「家庭裁判所は、前条の場合を除いて、審判を開始した事件につき、決定をもつて、次に掲げる保護処分をしなければならない。ただし、決定の時に十四歳に満たない少年に係る事件については、特に必要と認める場合に限り、第三号の保護処分をすることができる」とされており、上記の第三号に該当するのが少年院になります。

少年院法第4条にある少年院種別の記載でも、この点は明示されています。

  • 第一種 保護処分の執行を受ける者であって、心身に著しい障害がないおおむね十二歳以上二十三歳未満のもの(次号に定める者を除く)
  • 第二種 保護処分の執行を受ける者であって、心身に著しい障害がない犯罪的傾向が進んだおおむね十六歳以上二十三歳未満のもの
  • 第三種 保護処分の執行を受ける者であって、心身に著しい障害があるおおむね十二歳以上二十六歳未満のもの
  • 第四種 少年院において刑の執行を受ける者

すなわち、おおむね12歳から第一種少年院に送致可能であると言えます。

ちなみに「おおむね」とされているのは、例えば11歳だったとしても、その事件の内容に照らして少年院送致が適当と家庭裁判所が判断することがあり得るということです。

ここで事例Aの年齢に注目してみましょう。

事例Aは9歳の小学校3年生ですから、第3種少年院に入る年齢(12歳)を下回っていることがわかりますね。

以上より、選択肢⑤はAが入所する可能性が高い施設として不適切と判断できます。

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