公認心理師 2018追加-22

D.A.AndrewsとJ.Bontaが主張するRNRモデル〈Risk-Need-Responsivity model〉の内容について、正しいものを1つ選ぶ問題です。

こちらについては以下の論文等を参考にしつつ解説を書いています。

あまり聞いたことがないモデルだったので、まずは概説から入っていきます。
追加試験では耳慣れない概念が多かったように思いますね。

解答のポイント

RNRモデルの概説を把握していること。
特に中核3原則を把握していると解きやすい。

RNRモデル

【RNRモデルとは】

このモデルは、再犯防止や社奇異復帰支援に資する諸原則のうち、リスク・ニード・反応性のRNR原則を中核原則とするアセスメント及び処遇の方法論的な枠組みです
カナダの犯罪心理学者Andrewsたちの研究グループが提唱・発展させてきました。

RNRモデルは、1970年代の不適切な評価研究分析手法と厳罰化などの時代思潮に乗った矯正無効論への実証的反証作業過程で生まれました。

Andrewsらは1980年代から伝統的犯罪学諸理論(緊張、下位文化、ラベリング、統制、分化接触などの理論)を、個人・対人・社会的場面における認知、学習、意思決定などの心理学的観点から整理しなおしました。
そして、多様な犯罪行動を説明する一般的パーソナリティ・認知的社会的学習理論を理論的支柱として樹立するとともに、犯罪・非行のリスク要因や処遇効果に関する評価研究などの実証的根拠を同理論の土台に据え、後に述べる諸原則を導き出しました。

RNRモデルの骨子である中核的原則は1990年に発表された2論文で示され、これにより犯罪者処遇の有効性に関連付けられる一連の要因の枠組みと、処遇の有効性を裏付ける実証的根拠が示されました

現在では北米や西欧等各国法域の犯罪者処遇の主要な実務標準となっています。
日本においても、カナダ連邦矯正保護庁の性犯罪者処遇にならい、認知行動療法に基づく性犯罪再犯防止指導の特別改善指導プログラムが2006年度から始まり、リスク・ニードアセスメントや介入密度などに応じた処遇が全国展開しています。

【RNRモデルの中核原則:リスク原則】

リスク原則とは、対象者の再犯リスク水準に対応した介入密度(時間・頻度・内容)の処遇を実施すると最も再犯防止効果が上がるという、リスク水準と処遇水準とのマッチング最適化の原則です。
すなわち、再犯リスクが高いと思われる対象者には広範で厳密な処遇が必要で、再犯リスクが低いと思われる対象者には必要最低限の介入が適切とする考え方です。
つまり「処遇の密度は再犯リスクの高い者に集中させなければならない」という原則を指して「リスク原則」と呼びます

当たり前のようですが、再犯リスクが高いと思われる対象者は「処遇困難」「抵抗が大きい」などとみなされてプログラム受講から外される傾向がある一方で、リスクが低い対象者(意欲が高く、従順な場合は特に)に必要以上に手厚い介入をしてしまうという事態も多いので、実施はそう容易くはありません。
特に、低リスク者への高密度の介入というミスマッチは、処遇効果を低下させるだけに留まらず、むしろ再犯を増加させる傾向が示されております。

よって、リスク原則に沿った処遇の実施には、信頼性・妥当性のある再犯リスク評価を安定的に行えることが前提となります。
つまり、再犯予測精度の高いリスクアセスメントツールの導入と、組織的な運用・分析評価体制が不可欠です。

こうしたアセスメントツール、すなわち「有効性が確認された再犯危険性評価基準」は、主に「静的再犯危険因子(有罪宣告歴、麻薬使用歴など)」で構成される場合と、「静的再犯危険因子」と「動的再犯危険因子(状況に応じて再犯危険性の増減がある。麻薬使用の開始・停止など)」の双方から構成される場合があります
「静的再犯危険因子」を用いた評価基準は、将来の犯罪者の行動を予測する際に高い正確性を示す一方で、それだけでは「ニード原則」に従うことが難しくなります。

「リスク原則」の実際の運用は、さまざまな制約(予算、人物、物)のもとで行われるので、その観点から捉えると、リスク原則の適用は対象者の適正な処遇選択に有用なだけでなく、処遇システム全体の効率化にも寄与することになります。

【RNRモデルの中核原則:ニード原則】

ニード原則とは、対象者の有する各種ニーズのうち、非行・犯罪誘発に関連性の高いニーズに優先づけた処遇計画の策定・実施が再犯抑止効果を高めるという原則であり、重点的処遇目標選択の原則と言えます。
上記の「非行・犯罪誘発に関連性の高いニーズ」(=犯罪誘発要因)についてアプローチしていくことが重要であるということですね。
つまり「処遇は犯罪誘発要因に限定して行われなければならない」ということを指して「ニード原則」と呼びます。

犯罪者は多くの再犯危険要因を持っていますが、それは「犯罪誘発要因」と「非犯罪誘発要因」に分けることができます
Andrewsたちは「犯罪誘発要因」として以下のものを挙げています。

  1. 犯罪歴
  2. 犯罪許容的(促進的)態度
  3. 犯罪許容的仲間関係
  4. 反社会的パーソナリティパターン(自己管理の不足、敵意、他者の軽視、冷淡)
  5. 家庭・婚姻上の問題(不安定、葛藤あり)
  6. 学業・就労上の問題(失業・学業不振)
  7. 物質乱用
  8. 余暇・娯楽活動の問題

これらの要因の布置や重みを最低限把握し、対象者固有の問題行動の機能分析を行い、処遇により変容可能な動的リスク要因削減や変容に向けた計画的な働きかけに反映させることが重要であるとAndrewsたちは主張しました。

「犯罪誘発要因」は犯罪行動に密接に関連しますが、「非犯罪誘発要因」はほとんど犯罪行動と関連性がないとされています。
「非犯罪誘発要因」は以下の通りです。

  1. 自尊心の低さ
  2. 漠然とした精神的不快感(不安、抑うつ感、疎外感)
  3. 重い精神疾患
  4. 目的意識の不足
  5. 被害経験
  6. 公的処罰に対する恐れ
  7. 身体活動の不足
このような「非犯罪誘発要因」に対する処遇によって、特定の個人の将来の犯罪行動に変化がもたらされることはないとされています
処遇プログラムにおいて、この要因に関する評価は最優先事項ではないといえます。
しっかりと「犯罪誘発要因」に対する処遇を行わなければ、将来の犯罪行動に変化はないといえます

【RNRモデルの中核原則:反応性原則】

反応性原則とは、処遇は学習者の特性に最も響く指導法を勘案して実施すると最も効果が上がるという「適正処遇交互作用」の考え方に基づく原則です
適正処遇交互作用については、こちらの記事をご覧ください。

この処遇では認知行動療法が重視されているため「処遇は認知行動療法を中心にその者の応答性を高めるようになされなければならない」ということを指して「反応性原則」と呼び、この原則に忠実であるほど再犯リスクが低下することが明らかにされています

反応性原則は、犯罪者への処遇がどのように実施されるべきかを決定するものであり、以下の「一般反応性」と「特殊反応性」という2つの構成要素が示されております。

  • 一般反応性:
    処遇対象者全般に反応性の高い指導方法であり、特に犯罪・非行臨床では、認知行動療法的な介入による非行や犯罪に特有な認知の修正や、問題解決場面での対処スキル育成などが再犯予防が大きな効果をもたらすとされています。
  • 特殊反応性:
    個人に固有の学習スタイル、人格特徴、動機づけ、適正、能力、調書などによる処遇応答性の差異であり、対象者の個性に着目し、これにフィットする指導者は介入方法・メニューをしつらえることが処遇効果向上に重要とされています。

何やら「一般遵守事項」と「特別遵守事項」みたいな印象ですね。
これらに従って、犯罪者への処遇の実施を決定していきます。

【有効性の知見】

RNRモデルは、上記の中核的3原則がすべて履行されることで最大限の効果がもたらされ、原則を無視すると再犯防止効果が低下してしまうことが確認されています。
3原則すべてを遵守した社会内処遇の場合、約35%の再犯削減効果が認められることが示されています
また、従う原則の数が減るに従い、再犯率も高くなっているという結果も示されています

この点は「コスト」の点からも優れていることが明らかになっています(処遇コスト1ドルで7ドル程度の社会的便益が98%の確率で見込める)。

【RNRモデルへの批判】

自己決定による人生目標・価値の実現を標榜するグッドライブスモデルや、犯罪からの離脱にはアイデンティティ再構築が必要とする非行・犯罪からの離脱理論の側から、RNR原則のリスク・ニード原則は、結局リスク管理一辺倒で、リスク削減のため回避目標ばかりを追求し、改善意欲の維持にも難点があるなどの批判がなされています。

選択肢の解説

『①予後評定の際には犯罪歴や処分歴は考慮しない』

RNRモデルにおいて、予後評定では「ニード原則」における「犯罪誘発要因」を重視します
犯罪誘発要因は、それがあることで再犯の可能性が高い要因です。
以下が犯罪誘発要因になります。

  1. 犯罪歴
  2. 犯罪許容的(促進的)態度
  3. 犯罪許容的仲間関係
  4. 反社会的パーソナリティパターン(自己管理の不足、敵意、他者の軽視、冷淡)
  5. 家庭・婚姻上の問題(不安定、葛藤あり)
  6. 学業・就労上の問題(失業・学業不振)
  7. 物質乱用
  8. 余暇・娯楽活動の問題

上記の通り、犯罪歴(もちろん逮捕されて処分を受けた経験も含めて)は犯罪誘発要因として予後評定で重要な因子と言えます
以上より、選択肢①は誤りと判断できます。

『②予後評定の精度は伝統的な非構造的臨床判断より低い』

「ニード原則」における「犯罪誘発要因」で示された項目は、再犯リスクの評定(予後評定)に用いられています。
この要因は幅広い犯罪者群に適用可能であるという実証的根拠が集積されています。

中心的な8つの危険因子の有効性が確認されているのは、以下の対象になります。

  • 男性犯罪者
  • 女性犯罪者
  • 先住民の犯罪者
  • 少数民族の犯罪者
  • 精神疾患のある犯罪者
現時点で、日本の犯罪者処遇制度にも適用可能か否かは検証中であるが、その可能性は十分にあるとされています。
このように、予後評定に高い精度を示していることが窺われます。

更に、寺村(2007)によると、伝統的な非構造的臨床判断や一般的心理検査による予後評定は、再犯リスク評価を保険数理統計学的に評価することに比べて予測力が劣るという証拠があり、そのため、客観的評価ツールの利用が推奨されています

以上より、選択肢②は誤りと判断できます。

『③犯罪を支える態度が変容すれば、再犯リスクは低減する』

こちらは「ニード原則」における「犯罪誘発要因」の一項目です。
先述の通り犯罪誘発要因は、

  1. 犯罪歴
  2. 犯罪許容的(促進的)態度
  3. 犯罪許容的仲間関係
  4. 反社会的パーソナリティパターン(自己管理の不足、敵意、他者の軽視、冷淡)
  5. 家庭・婚姻上の問題(不安定、葛藤あり)
  6. 学業・就労上の問題(失業・学業不振)
  7. 物質乱用
  8. 余暇・娯楽活動の問題

で構成されております。
上記の第2項目が選択肢の「犯罪を支える態度」となります。

こちらは再犯リスクを高める要因を列挙したものですから、この態度が変容することで再犯リスクが低減すると考えられています
以上より、選択肢③が正しいと判断できます。

『④ニーズ原則は対象者の能力や学習スタイルに適した処遇課題を与えることである』

「ニード(ニーズ)原則」は、犯罪誘発要因について評価を行い、当該要因に的を絞って働きかけを行うことを指します。
これに対して、「応答性原則」が、犯罪者が社会復帰支援のための処遇を受ける際の学習効果を最大化しようとする原則です

応答性原則は、処遇は学習者の特性に最も響く指導法を勘案して実施すると最も効果が上がるという「適正処遇交互作用」の考え方に基づくものです。
さまざまな適性の人々が環境から異なる処遇を与えられたとき、その処遇による結果がその人の適正だけからも処遇だけからも説明されず、両者の組み合わせによる独特の効果を示すとき、これを「適正処遇交互作用」と呼びます

すなわち、対象者の特性や学習スタイルに合わせた処遇課題を与えることの重要性を指摘しているのが「応答性原則」ということになります。
選択肢の内容は「ニーズ原則」ではなく「応答性原則」を指していると見てよいでしょう
以上より、選択肢④は誤りと判断できます。

『⑤再犯リスクを低減させることに限定せず、良い人生を送ることを目標に掲げている』

RNRモデルへの批判にもあるとおり、RNRモデルは「リスク管理一辺倒で、リスク削減のため回避目標ばかりを追求し、改善意欲の維持にも難点がある」といった批判がなされています
具体的にはWardらよって以下のような批判がなされています。

  • RNRモデルの関心はもっぱらリスク管理に向けられ、本人の動機付けや協力を引き出すことが難しい。
  • RNRモデルは有効であることが介入の正当性を根拠づけており、効果があるとみなされると極端な介入手段(去勢から死刑まで)を正当化してしまう恐れがある。

こうしたRNRモデルへの批判のうえに、ウォードらが提唱するのがGLモデル(Good Lives model)です。

GLモデルは、自己決定による人生目標・価値の実現を標榜しており、人間は生まれながらに何らかの「良さ」を追求し、犯罪行為はそれを不適切な手段で得ようとした結果であると考えます
GLモデルでは、直接的なリスク管理よりも本人のエンパワメントを通じた「よさ」(行為主体性、交友関係、内的平和や創造性など)の獲得が処遇の目的となります。
本人にとっての「良き人生」の追求が、結果的に犯罪のない「善き人生」につながると考えるのです

以上より、選択肢の内容は「RNRモデル」ではなく、それを批判している「GLモデル」のものであると言えます
よって、選択肢⑤は誤りと判断できます。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です