公認心理師 2021-57

司法場面における認知面接に関する問題です。

司法面接自体は子どもを対象にしている場合が多いのですが、こちらは大人を対象とした司法面接法の一つですね。

問57 司法場面における認知面接で、面接者が被面接者に対して求めることとして、適切なものを2つ選べ。
① 文脈の心的再現
② 視点を変えての想起
③ 毎回同じ順序での想起
④ 確信が持てる内容を選んで話すこと
⑤ 話す内容に矛盾があればその都度説明すること

解答のポイント

司法場面における認知面接法に関する概要を把握している。

選択肢の解説

司法面接に関しては「公認心理師 2018追加-98」でも出題があるので、こちらも参照しておきましょう。

この問題の解説は以下の書籍を参考にしています。

また、「認知面接的手法を用いた操作面接に関する基礎研究:高村茂」も参考にしています。

これらの内容を踏まえ、各選択肢の解説に入っていきましょう。

① 文脈の心的再現
② 視点を変えての想起
③ 毎回同じ順序での想起
④ 確信が持てる内容を選んで話すこと
⑤ 話す内容に矛盾があればその都度説明すること

司法面接では、一般に被害が疑われる子ども、事件、事故の目撃者となった子どもへの面接を中心に、子どもの特性や面接法の工夫、特徴が示されることが多いです。

ただし、本来司法面接は子どもに限定したものではなく、「法的な判断のために使用することのできる精度の高い情報を、被面接者の心理的負担に配慮しつつ得るための面接法」というのが定義です(狭義の司法面接では、その歴史的背景から、子どもの被害者、目撃者を対象としていました)。

本問の認知面接法は、1980年代にFisher&Geiselmanが開発した、主として大人の目撃者を対象とする面接法です。

カリフォルニア警察で用いられ、その後アメリカの司法省によるガイドライン「目撃証拠:警察官のためのガイド」やイギリスのABE「最良の証拠を達成するために」にも引用され、広く用いられています。

日本でも、2012年の警察庁から出された「取調べ(基礎編)」という取調べの教本に取り入れられています。

認知面接法は、他の司法面接の各方法と同様に、自由報告を重視しています。

面接者が一問一答のように会話をコントロールするのではなく、被面接者にコントロールする役割を担ってもらいます(=コントロールの委譲)。

質問を行う場合は、被面接者が今まさに思い浮かべていることについて尋ねることを重視します(=適合した質問)。

認知面接法の特徴は、自由報告を促すためにいくつかの技法を用いることです。

よく知られている技法としては以下が挙げられます。

  • 文脈の心的再現(reinstate the context):目撃者に事件同時の状況をイメージ化させながら事件について語らせるといった技法。一般に記憶研究では、記銘時の環境などの手がかり(文脈効果)と検索時の手がかりが一致するほど、多くの情報が想起できることが知られている。
    「出来事を見た(体験した)ときのことを、〇〇さん(被面接者)が今そこにいるかのように思い描いてみてください。どんな場所だったか、思い出してください。どこにいましたか。その場所の様子はどうでしたか。見えたもの、聞こえたもの、明るさ、匂いはどうでしたか。他に誰かいましたか。どんな気持ちがしましたか。心の中で鮮明に状況を思い描いてください」
  • 悉皆報告(report everything):目撃者に「思い浮かんだことはすべて、間違っていようがいまいが(自分では重要ではないことだと思っても)気にかけずに報告するように」と教示し、目撃者の話した出来事を批判したり、論評したり、矛盾を突いたりせずに、勇気づけながら再生を行わせるといった技法。被面接者が話し控えることのないように、すべてを報告するように教示する。
    「〇〇さんが重要ではないと思うことでも、完全には思い出せないことでも、どんな些細なことでも、思い出せるすべてのことを話してください。あなたにとって重要ではないように思われることでも、私(面接者)にとっては重要かもしれません。頭に思い浮かんだことをすべて、〇〇さんのペースで話してください」
  • 異なる順序での想起(recall the events in different order):順に報告を求めた後、出来事を逆の順序で話してもらう。または、バラバラな順序で描写してもらう。そうすることで、抜け落ちていたことが思い出されることがある。
    「たくさん思い出すのに役立つ方法を試してみましょう。通常は出来事を最初から始めて最後に向かって思い出しますが、ここでは出来事を最後から順に話してください。〇〇さんが思い出せる、一番最後に起きたことはなんですか。更に、そのすぐ前に起きたことは…」(被面接者が事件の最初に行きつくまで繰り返す)
  • 異なる視点での想起(change perspective):例えば、犯人の目から見たらその事件がどのように見えたか、あるいは別の位置から事件がどのように見えたかなど、状況が異なった視点から描写させる技法。
    「それでは思い出すことを助けるためのもう一つの方法を試してみましょう。推測したり当てずっぽうでは話さないでください。〇〇さんが最初に事件を見た時とは異なる視点から、または事件の場にいた他の人の視点で、出来事を思い出してみてください。例えば、出来事で重要な役割を果たした人に自分を重ねてみたり、その人が何を見たのか思い出してください」

認知面接法に関しては実験研究が多く、Memonら(2010)は57件の研究を対象にメタ分析を行い、認知面接法は対照条件に比べて正確な情報をより多く引き出すこと、ただし誤った情報もわずかだが引き出されること、文脈再現と悉皆報告の効果が大きいこと、幼児と高齢者では、高齢者において認知面接法の効果が大きいことなどが示されています。

また、子ども用として、技法の数を減らした修正認知面接法があり、この中には、文脈再現と悉皆報告の技法は含まれるが、異なる順序での想起、異なる視点での想起は難しいとして採用されていません。

子どもへの適用では、高学年の児童では文脈再現の効果が見られたが、低学年の児童では状況をイメージすることがかえって記憶に混乱を生じさせることが示されていますから(仲,2012)、子どもに用いる場合には年齢を考慮することが必要となります。

さて、選択肢①の「文脈の心的再現」および選択肢②の「視点を変えての想起」は上記の通り、認知面接法において面接者が被面接者に対して求めることとして挙げられていることがわかりますね。

選択肢③の「毎回同じ順序での想起」は「異なる順序での想起」を変えて出題したと考えられ、更に、選択肢④の「確信が持てる内容を選んで話すこと」は「悉皆報告」の逆を意味しますから、これらは認知面接法において面接者が被面接者に対して求めることとは言えません。

更に、選択肢⑤の「話す内容に矛盾があればその都度説明すること」は「悉皆報告」における、「目撃者の話した出来事を批判したり、論評したり、矛盾を突いたりせずに、勇気づけながら再生を行わせる」という枠組みに反しますし、矛盾を突くような聞き方をされては話す動機づけが下がる恐れがありますね。

以上より、選択肢①および選択肢②が適切と判断できます。

また、選択肢③、選択肢④および選択肢⑤は不適切と判断できます。

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