公認心理師 2022-70

DVを見てきた生徒への対応に関する問題です。

DVを見ることが心理的虐待に該当するというのは、虐待対応の基本的事項ですね。

問70 14歳の男子A、中学2年生。Aはささいなきっかけからクラスメイトにひどく殴り掛かったことで生徒指導を受けた。その後、Aの欠席が多くなってきたことが気になった担任教師Bは、公認心理師であるスクールカウンセラーCにAを紹介した。Cとの面接において、Aは、父親が母親にしばしば激しく暴力を振るい、母親が怪我をする場面を見てきたと述べた。しかし、父親からAへの暴力はないという。
 Cが優先的に行うべき対応として、最も適切なものを1つ選べ。
① Aの家庭環境を詳細にアセスメントする。
② 外部機関と連携しAの発達検査を速やかに行う。
③ Bと協力してAと両親を交えた面談の場を設ける。
④ 学校でカウンセリングを受けることをAの保護者に提案するよう、Bに伝える。
⑤ 学校として児童相談所などに虐待の通告を行うために、管理職などに事実経過を伝える。

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解答のポイント

事例から最も優先すべき対応が理解できる。

選択肢の解説

⑤ 学校として児童相談所などに虐待の通告を行うために、管理職などに事実経過を伝える。

本問については順を追って考えていきましょう。

事例には様々な問題がありますが、最も注目すべきは「父親が母親にしばしば激しく暴力を振るい、母親が怪我をする場面を見てきたと述べた」という箇所であり、こちらは父親による心理的虐待に該当します。

「父親からAへの暴力はない」という身体的虐待の可能性は否定されていますが、子どもの前で家族に対して暴力を振るう(DVなど)という心理的虐待の存在が明示されていますから、虐待通告を前提に考えていくことが求められるのが本事例になります。

もちろん、現時点ではAの語った内容が「今現在」なのか「過去」なのかは不明ですが、児童虐待防止法第6条において「児童虐待を受けたと思われる児童を発見した者は、速やかに、これを市町村、都道府県の設置する福祉事務所若しくは児童相談所又は児童委員を介して市町村、都道府県の設置する福祉事務所若しくは児童相談所に通告しなければならない」とあるように、虐待の可能性がある時点で通告することが義務づけられています。

ですから、スクールカウンセラーであるCが行うべき最初の対応は、学校の管理職にAの語った事実経過を伝えることになるわけであり、これは法律によって定められている「義務」ですから他の何にも優先されるべきものになりますね。

なお、管理職に伝える際に、こうした事実経過に加えて、専門家としての見立てを伝えておくのも大切だと思います。

具体的には、Aが「ささいなきっかけからクラスメイトにひどく殴り掛かった」という出来事に関しても、DVというモデルの存在が影響しているが故の可能性、虐待家庭に育った子どもの情緒の爆発のリスクが大きいこと、などのように心理的虐待を受けていることが学校での生徒指導案件にも関わってきているという見立てを伝えることで、管理職にも児童虐待の通告がAの学校内の問題を改善する方法としても有効であるという認識を持ってもらうことができます。

時々、学校の管理職がSCからの報告を聞いても動いてくれないといった類の話を耳にするのですが、もちろん組織や管理職の資質に問題があるという可能性とともに、SCが見立てを伝えることで学校で起こっている問題の改善になり得るという見通しが伝えられているか否かも重要になってきます(もちろん、学校の問題と関係なくても、虐待の可能性があるのであれば通告がmustなのですが)。

そうした対応をSCがしっかりとやっているにも関わらず管理職の危機意識が薄い場合は、SCとしてちゃんと記録を残しておくなどの「自分を守るための措置」を採った上で、どう対応するかを考えていくことが大切ですね。

以上より、本事例においてAには「ささいなきっかけからクラスメイトにひどく殴り掛かった」「欠席が多くなってきた」などの問題はありますが、そうした学校内での生徒指導および教育相談的側面の問題よりも、Aに対する心理的虐待の存在が懸念されるという事実が優先的にケアされるべきであり、そのための対応を取るよう管理職に働きかけることが最も優先されることになります。

よって、選択肢⑤が適切と判断できます。

① Aの家庭環境を詳細にアセスメントする。
② 外部機関と連携しAの発達検査を速やかに行う。

上記の通り、SCとしては児童相談所への通告を前提に、管理職に働きかけることが最優先なわけですが、それ以外の選択肢についても見ていきましょう。

ここに挙げた選択肢に関しては、まとめて「児童相談所に通告後に、児童相談所内で行われる可能性が高い対応」ということになります。

心理的虐待の可能性が示唆された以上、まずは通告を行うのが最優先であり、「もっと詳細に家族環境をアセスメントしてから通告」とかにはなりません。

人によっては「詳細にアセスメントして、その内容を児童相談所に伝えれば役立つのではないか」と考える人もいるかもしれませんが、そういう情報を児童相談所に伝えたとしても、やはり児童相談所は機関の責任としてそうした事実を再確認せねばなりません。

言い換えれば、Aに対して何度も虐待状況について語らせる結果となりますから、その点に関しては控えるという選択肢が適切だろうと思います。

なお、本事例のような状況における一般的な流れとしては、①SCがAから虐待の可能性を聞く、②SCが管理職にその事実を伝えて児童相談所等への通告を検討してもらう、③その間、Aは別室で待機してもらい、別の教員が一緒にいるようにする、④通告の判断をするのであれば、その間の対応は児童相談所と連携して決める(たいていは到着するまでの間、学校で待機させる形になる)、ということになります。

ということで、選択肢①の「Aの家庭環境を詳細にアセスメントする」に関しては控える方が望ましいと言えます(「通告が優先だから」という解説もできますが、Aへの心理的影響を踏まえて「トラウマになるかもしれない情報を語らせることの危険」という観点をもって「控える」のが大切ですね)。

また、発達検査に関しては、当然通告が優先なのであり得ないのですが、通告後に児童相談所内で行われる可能性はあるでしょう(選択肢②の「外部機関と連携し」というのは、明らかに時間がかかりすぎて虐待事例においてはリスクが高い)。

学校からの情報で「ささいなきっかけからクラスメイトにひどく殴り掛かった」という情報は児童相談所に伝わるわけですから、一時保護になった場合には発達検査も行われる場合が多いだろうと思います。

もちろん、虐待状況による情緒の不安定性という方向も考えておくことが大切ですね。

以上より、選択肢①および選択肢②は不適切と判断できます。

③ Bと協力してAと両親を交えた面談の場を設ける。
④ 学校でカウンセリングを受けることをAの保護者に提案するよう、Bに伝える。

先述の通り、本事例では虐待の通告を前提に対応していくことになるので、ここで挙げた選択肢は除外することになります。

選択肢①および選択肢②も同様ですが、わざわざ分けて解説しているのは、選択肢①と選択肢②の対応はAへの支援のどこかで行われる可能性がありますが(例えば、一時保護された後に行われる等)、ここで挙げた選択肢③と選択肢④に関しては、少なくとも現時点では想定しない対応ということになります。

まず選択肢③については、DVをしている夫とその妻という両親を呼び出し、面談の場を設定することで何を期待しているのか不明です。

DVについて話題にすることは、Aがそのことを話したと明示したも同然ですから秘密保持義務違反になりますし、加えてそのこと自体がAに更なる虐待被害を招く恐れもあります。

また選択肢④については、カウンセリングよりも虐待関連の対応が優先されますし、また、カウンセリングを受けることを仮に保護者に提案したとして、保護者に「何のために行うのか?」を伝えることが必要になりますね。

保護者から虐待の可能性があるからという理由を言うわけにもいきませんから、選択肢④の対応も無理があると言えます(クラスメイトを殴った、欠席が多いという話題で対応できなくもないですが、それ自体が虐待問題の先送りということになり、やはり採用できない対応ですね)。

もちろん、児童相談所が入ってAの言うほど状況がひっ迫していなければ、「ささいなきっかけからクラスメイトにひどく殴り掛かった」「欠席が多くなってきた」などをテーマに、Aや場合によっては保護者と話し合っていくことも考えることになりますが、いずれにせよ虐待通告後のお話ということになるでしょうね。

現時点では、これらの選択肢は検討する事項にもならないと言えるでしょう。

よって、選択肢③および選択肢④は不適切と判断できます。

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