公認心理師 2022-119

高等学校でスクールカウンセラーがストレスマネジメントに関する心理教育の授業を行う場合の内容や方法に関する問題です。

それほど迷わせる内容ではなかったと思います。

実践している人であれば(実践していなくても?)ノータイムで解ける内容でしたね。

問119 高等学校でスクールカウンセラーがストレスマネジメントに関する心理教育の授業を行う場合の内容や方法として、不適切なものを1つ選べ。
① 筋弛緩法や呼吸法などの体験的な内容の導入は控える。
② 自分自身にあったコーピングを考えられるような内容にする。
③ 自分自身の心身のストレス反応について理解できる内容を含める。
④ 養護教諭や保健体育科の教師などと事前に打ち合わせて共同授業を行う。
⑤ 進学や就職などの好ましい出来事であっても、それに伴う心身の変化に注意するよう助言する。

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公認心理師 2021-92

解答のポイント

SCが実際に心理教育を行うときの留意点等について理解している。

選択肢の解説

① 筋弛緩法や呼吸法などの体験的な内容の導入は控える。
④ 養護教諭や保健体育科の教師などと事前に打ち合わせて共同授業を行う。

筋弛緩法や呼吸法などのストレスマネジメント技法は、むしろ積極的に体験してもらうことが重要になります。

多くの高校生は「情報として」そういうやり方があることを知っている場合はありますが、「実体験」という自分の身体を通したものはそう多くはありません。

それはこうしたストレスマネジメントに限らずで、例えば、「自分の弱さを認めねばならない」と話すことができる高校生であっても、実際に「自分の弱さに向き合う状況」を回避するということも少なくありません。

「語ること」と「体験すること」の間には、時に非常に大きな断絶があり、その割合は年齢的にも状況的にも体験よりも情報が多くなりがちな高校生に顕著であると考えられます。

こうした状況にある高校生に対して、実際に筋弛緩法や呼吸法を体験してもらうことで「どういうことが自分の身に起こるのか」を感じてもらうことが重要になります。

もちろん筋弛緩法や呼吸法などが効果的な人とそうでない人がいるのは、高校生に限ったことではありませんが、体験してもらうことでその効果を実感できるという意味では高校生は顕著であろうと思います(そういうことを体験する機会が少ないので)。

特に筋弛緩法や呼吸法は、日常的に実践可能なストレスマネジメント技法ですから、本人らが効果的と感じることができれば日常的なセルフケアが可能になります。

ですから、高校ですストレスマネジメントの心理教育においては、体験的な内容の導入は重要になってきます。

余談ですが、臨床心理士資格試験で面接試験がありますけど、模擬面接をしておいた方が絶対に良いだろうと個人的には思っています。

それなりにしゃべれると思っていた学生でも、いざ面接してみるとしどろもどろになるということがかなりの割合で発生します。

一般論としても、実感としても、体験をしてみるということは大切なことだろうと思いますね。

9.11の時に、①新聞で出来事を読んだ人、②映像で見た人、③現場で体験した人では、みんな口をそろえて「悲惨だった」というでしょうが、その「悲惨」という言葉に込められる意味は、その体験の仕方によってかなり異なることは想像に難くありません。

臨床家は、その言葉にどれほどの「体験」が備わっているかというのは大切なことの一つでしょうから(もちろん全てではない。全てであるなら、ターミナルケアの支援は誰もできないことになる)、臨床家自身もこうしたストレスマネジメント技法についての効果を実感していることが重要になりますね。

さて、こうした体験型の心理教育は、効果が高いと言えますが、一方でどのような反応を示すかについても考慮しておくことが重要です。

一般に、SCがストレスマネジメントに関する心理教育を行う場合、事前に担当教員らと打ち合わせをすることになります。

打ち合わせをする内容は、行う心理教育によって異なりますが、一般的には以下のような項目になるかもしれません。

  • 現在の学校状況や生徒の姿から見て、どういったことを狙っていきたいか。
  • SCとしては、この心理教育を通して何を狙っているか。
  • 心理教育の効果を検証するための方法を導入するか(プレポストで何かアンケートを入れるかどうかなど)
  • 担当教員と合同で行うのであれば、互いにどういう役割を果たすか。
  • 行う心理教育によって、過剰に反応してしまう可能性がある生徒はいるか。いるとするならば、心理教育の内容をどのように修正するか、何か起こったときにどう対応するか。

もちろん、本問のような「ストレスマネジメントに関する心理教育」であれば、それほど強い反応を示す生徒はいないと思われますが、やはり何事にもリスクはありますから、事前の打ち合わせは欠かせません。

心理教育にも色々あり、例えば、自殺予防教育で「自殺」という表現を用いるかどうかなど、色々検討すべき事項がありますからね(一応、自殺という表現を使うことは認められていることが多い。だけど、近親者に自殺者がいる生徒がいる等の状況があれば使用を考える)。

教員との共同授業の場合、やはり「何を狙って行っているのか」についてきちんと打ち合わせることが重要ですし、心理教育の結果として、その後の教育活動がしやすくなることも大切になります。

ですから、やはりきちんと教職員と打ち合わせを行った上で、SCの心理教育は行われることが重要になりますね。

以上より、選択肢①は不適切と判断でき、こちらを選択することになります。

一方、選択肢④は適切と判断でき、除外することになります。

② 自分自身にあったコーピングを考えられるような内容にする。
③ 自分自身の心身のストレス反応について理解できる内容を含める。

人間のストレス反応は多岐にわたります。

気分などの反応(いつもに比べて元気がないor笑わない、いつもよりもテンションが高い、急に泣いたり怒ったりする、遊びや勉強にやる気が出ない、ちょっとした物音に過敏に反応する、誰とも遊びたがらないなど)、身体の反応(頭痛や腹痛、めまいなどを訴える、怖い夢を見る、眠れない、夜中に目が覚める、胸がドキドキする、息苦しいと訴える、下痢や便秘、食欲の低下や増加)、関わりに出やすい反応(強く甘えが出てくる、一人でしていたことができなくなる、親と離れることを極端に嫌がる、反抗が強くなる、言動が攻撃的になるなど)などのように、例を挙げるだけでも大変なくらいです。

こうしたストレス反応は、それぞれの人で生じやすい「ルート」のようなものがあるようで、ある人は身体反応が多めになったり、ある人は気分の変化が中心になるなど、かなり個人差が見られます。

ですから、そうした「個人差があるものだ」ということを伝え、それぞれのストレス反応について理解しておくこと、その理解を促すような心理教育を行うことは重要になります。

私は、ストレスがかかると、多くの場合、最初に肩こりやひどいと頭痛になり、ストレス出来事をこなした後には口内炎ができることが多いです。

ただ、こうしたストレス反応を理解しながら過ごすことで、事前にストレスとなる出来事への対処や、ストレスがかかるような状況では他の活動を抑えるなどの対処が可能になります(ちなみに、私個人はストレス状況を避けるという対応は行いません。特に仕事で起こるストレス状況は、避けることが許されないものがほとんどですから)。

こうしたSC自身のストレス反応を例にとりつつ、各個人のストレス反応を考えてもらうことは大切なことです。

特に高校生くらいだと、出来事‐ストレス反応の関連に気づいていないこともあるので、「実感はできなくても、時間的に近接しているのであれば、それはストレス反応である可能性を捨てない」と伝えて、ストレス反応の受け入れを進めていくことが多いですね。

そして、こうしたストレス反応が様々であれば、それに対するコーピングの方法も様々なものになります。

先述のように、筋弛緩法や呼吸法が合う人がいれば、そうでない人もおりますし、自分のストレス因を知っておくことで「ストレス反応が来るかも」という心の準備をしておくだけでもコーピングになり得ます。

ストレス因から離れる、ストレス因に自ら働きかける、ストレス反応へのコーピングをより洗練させるなど、さまざまなコーピングが各個人によってあり得るわけです。

こうしたコーピングの千差万別的性質を伝え、各個人がどのようなコーピングを行っているのか、どういったコーピングを行っていくと良いのかを考える内容になると、ストレスマネジメントに関する心理教育としては良いでしょう。

ちなみに、こうした心理教育を行う上での大切な姿勢として「皆さんは既にコーピングを無自覚のうちに行っています」という前提を持つことです。

カウンセリングでは、こうした無自覚のコーピングを意識化するなどの技法を取ることがありますが、心理教育でもそうしたアプローチは可能です。

例えば、いくつかのコーピング方法を提示するだけで「私のあれはコーピングだったんだ」と自覚してもらうことがしやすいです。

以上のように、各人が自らのストレス反応について理解できること、自分に合ったコーピングを考えられるようになることは、こうしたSCが行う心理教育において重要であると言えますね。

よって、選択肢②および選択肢③は適切と判断でき、除外することになります。

⑤ 進学や就職などの好ましい出来事であっても、それに伴う心身の変化に注意するよう助言する。

こちらはHolmesらの社会的再適応評価尺度に関する知見を踏まえたものと見なしてよいでしょう。

1960年代後半に、生活環境の変化や生活上の出来事と心身の疾患との関連性について検討した生活ストレス研究を契機として、ストレスに関わる心理社会的要因を明らかにしようとする研究が盛んに行われました。

ホームズ&レイは、生活上の重大な出来事によって引き起こされた生活様式の変化に再適応するまでの労力が心身の健康に影響を及ぼすという考え方に基づいて、社会的再適応評価尺度を作成、個人のストレスレベルを測定しようとしました。

この尺度は、生活上の何らかの変化をもたらす出来事が記述された43の項目からなり、各項目には出来事の重大さに応じて重みづけ得点が与えられています(以下がその項目と得点になります)。

順位ライフイベントLCU得点









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42
43
配偶者の死
離婚
夫婦別居生活
拘留
親族の死
個人の怪我や病気
結婚
解雇・失業
夫婦の和解・調停
退職
家族の健康上の大きな変化
妊娠
性的障害
新たな家族構成員の増加
仕事の再調整
経済状況の大きな変化
親友の死
転職
配偶者との口論の大きな変化
1万ドル以上の抵当(借金)
担保、貸付金の損失
仕事上の責任の変化
息子や娘が家を離れる
親せきとのトラブル
個人的な輝かしい成功
妻の就職や離職
就学・卒業
生活条件の変化
個人的習慣の修正
上司とのトラブル
労働条件の変化
住居の変化
学校を変わる
レクリエーションの変化
教会活動の変化
社会活動の変化
1万ドル以下の抵当(借金)
睡眠習慣の変化
団欒する家族の数の変化
食生活の変化
休暇
クリスマス
些細な違反行為
100
73
65
63
63
53
50
47
45
45
44
40
39
39
39
38
37
36
35
31
30
29
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26
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23
20
20
20
19
19
18
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15
15
13
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11

過去一年間の得点の合計が一定の基準を超えると心身疾患に罹患する可能性が高まることが報告されていますが、可能性の重大さの評価の個人差が反映されていないこと等が本研究の問題点と言えます。

1年間の合計点数が300点を突破した人のうち、79%は翌年に何らかの身体疾患を訴えており、200~299点の層では51%に、150~199点では39%までに減少していることから、ストレスの蓄積と身体疾患を訴える頻度は比例することが明確になりました。

上記のリストでは、かなり好ましい出来事であってもストレスになり得ることが示されております。

また、昔のうつ病では栄転や出産等で発症するといったことも指摘されていましたね(今のうつ病では起こらないことかもしれません。笠原の言う「合体」の資質がないと生じない現象だと思います)。

いずれにせよ、好ましい出来事であっても、何かしらの心身の反応があるというのは心理学における共通見解であり、プラスだから大丈夫だろうと甘く見ないことが大切です。

高校のストレスマネジメントに関する心理教育でどの程度こうした内容を述べるかは状況によりますが、例えば、進学や就職などがある程度決定した状況でこういう知見を伝えることには意義があるかもしれません(ただ、その時期は卒業間際で非常に忙しいので、そういうことをする暇はないことがほとんどでしょう)。

高校時代だけをターゲットにするのではなく、その後の人生において活用できる知識として、こうした好ましい出来事であっても何かしらの反応が生じるものという考えを伝えておくのも悪くありませんね。

以上より、選択肢⑤は適切と判断でき、除外することになります。

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