公認心理師 2021-99

教育評価に関する問題です。

詳しい資料がなくて解説に苦労しました。

教育評価とカリキュラム評価の違いを把握していることが大切ですね。

問99 教育評価について、最も適切なものを1つ選べ。
① 教育評価は、全国統一の基準に基づく。
② カリキュラム評価は、ルーブリックに基づく。
③ カリキュラム評価の対象には、部活動が含まれる。
④ 教育評価の対象には、潜在的カリキュラムが含まれる。
⑤ カリキュラム評価の対象には、学習者の学習・成長のプロセスが含まれる。

解答のポイント

教育評価およびカリキュラム評価の異同について把握している。

選択肢の解説

① 教育評価は、全国統一の基準に基づく。

教育評価の対象は多岐にわたっているが、主に学習者、教育実践、教育条件に大別できます。

まず「学習者」に関してですが、学習者(=児童・生徒)の学習・成長の促進が教育の目的であることから、教育評価は原則的に学習者を対象とした評価を基盤として行なわれます。

具体的には、各学習者あるいは学習集団としての適性(レディネス、知能、性格、興味、態度、認知スタイルなどの学習の成立に影響を及ぼす個人差要因)や、各学習者の学習・成長のプロセスと結果が評価対象となり、後者はとくに学習評価とよばれ、教育評価の最も重要な基盤と言えます。

続いて、「教育実践」に関する具体的な評価対象としては以下のものがあります。

  1. 個別具体的な教育活動の評価:これには教科教育の活動(授業など)のみならず、学校行事、自治活動、クラブ活動などの教科外の教育活動も含まれ、これらの計画、実施過程、成果のすべてが評価対象となる。また、教育活動を組織する主体である教師も評価対象に含まれる。
  2. カリキュラム評価:教育課程の編成原理、教育内容とその構造(教科編成、コアの設定、内容の配列、学年配当など)、履修の仕方、指導指針などが評価対象になる。その際、意図的、計画的に組織された顕在的カリキュラムだけを問題にするのではなく、教育する側の意図や計画とは無関係に学習される潜在的カリキュラムをも含めて評価しようとする姿勢が求められる。
  3. 教育環境としての学級(成員間の相互作用、集団構造、学級集団化の過程、学級風土など)や学校(教職員集団、学校運営組織など)が評価対象となる。

最後に「教育条件」を対象とした評価としては、物理的環境の評価(施設・設備など)、地域社会の評価(ニーズなど)、教育制度の評価などが挙げられる。

このように「教育評価」とは、教育に関連する事象の実態を把握して判断する解釈プロセスおよびそこで解釈された情報を教育的な問題解決に生かす活用プロセスの総体を指すことがわかりますね。

学校教育における教育評価の主な目的としては…

  1. 教育行政の点検と改善:国や地方による教育施策等の検討
  2. 学校運営の点検と改善:各学校のカリキュラムや運営の仕方等の検討
  3. 教育実践・学習指導の点検と改善:授業など教師による教育実践や指導のあり方の検討
  4. 学習者による自己評価の促進:学習・成長の自己確認と自己省察
  5. 家庭や地域に対する情報提供:教育や学習・成長をめぐる学校の家庭、地域社会との連携

…などが挙げられます。

評価の主体(誰が評価するのか?)は、教育や学習・成長の点検と改善にかかわる立場あるいは参加できる立場にある者であり、教師、学習者(児童・生徒)、学校の管理運営者(校長など)、教育行政当局(地方教育委員会など)、保護者・地域住民などが挙げられます。

さて、この教育評価ですが、本選択肢で問われている「全国統一の基準に基づく」か否かを考えていきましょう。

学習内容に関しては、全国のどの地域で教育を受けても、一定の水準の教育を受けられるようにするため、学校教育法等に基づき、各学校で教育課程(カリキュラム)を編成する際の基準として文部科学省が学習指導要領を定めています。

「学習指導要領」では、小学校、中学校、高等学校等ごとに、それぞれの教科等の目標や大まかな教育内容を定めています。

また、これとは別に、学校教育法施行規則で、例えば小・中学校の教科等の年間の標準授業時数等が定められています。

学習指導要領はあくまでも「それぞれの教科等の目標や大まかな教育内容」を定めているにすぎず、各学校では、この「学習指導要領」や年間の標準授業時数等を踏まえ、地域や学校の実態に応じて、教育課程(カリキュラム)を編成していくことになります。

すなわち、実際に教師が教える内容に関しては、地域や学校の実情に合わせて多少の違いがあるということになりますし、実際に異なる地域の学校に勤務していると、この違いを感じることが多いですね。

ある単元にかける時間、宿題の量、行う行事(細かいことを言えば、その行事に保護者の観覧を可とするか否か)など、かなり地域や学校によって違いがあることがわかります。

ある地域では「保護者からのクレームによって(!)」宿題の量がかなり減らされたということがありました。

つまり、各教科等の大まかな目標や教育内容は全国で統一されているわけですが、それを習得するための細々としたことは各地域や学校に委ねられているということになります。

ですから、そうした教育内容を評価するにあたっては、「全国統一の基準に基づく」のではなく、各学校の教育内容によって多少異なってくるのが自然になってきますね。

以上より、選択肢①は不適切と判断できます。

② カリキュラム評価は、ルーブリックに基づく。
③ カリキュラム評価の対象には、部活動が含まれる。
⑤ カリキュラム評価の対象には、学習者の学習・成長のプロセスが含まれる。

カリキュラム評価とは、法令や学習指導要領、児童生徒や学校の実態に基づき教育目標を設定し、目標や児童生徒の学びの実態との関係において現行のカリキュラムを評価し、より効果的かつ適切なカリキュラムの計画と実施を発展的に行う組織的かつ課題解決的な営為のことを指します。

上記で述べた「教育評価」が教育課程外の学校教育活動を含めたものになるのに対し、「カリキュラム評価」は子どもたちの学校における学習を規定する枠組み及び教育目標や内容に対する評価であると言えます。

日本においては「学習指導要領」を大綱的な基準としつつ、各学校が主体となってカリキュラムを編成することになっており、そのカリキュラムに対する評価ということになります。

カリキュラム評価における評価対象としては以下のようなものが挙げられます。

  1. 教育内容:知識、技能、価値などの文化内容
  2. 組織原理:教育内容の組織。教科or教科外など
  3. 履修原理:習得の度合いの考慮、必修or選択など
  4. 教材:教科書、視聴覚教材、実物教材など
  5. 配当日時数:各教科等に配当される日数、時数
  6. 指導形態:個別、小集団、一斉、TT、実験・実習など
  7. 指導法・指導技術

このように主に学習に関することに集約されており、「小中学校教育課程実施状況調査」などは、それぞれの時期の学習指導要領に示された目標が実際にどの程度達成されているかを評価し、カリキュラムの改善の方策を探るためのものですね。

これらを踏まえて各選択肢について見ていきましょう。

選択肢③の「部活動」ですが、「教育評価」であれば教科教育の活動(授業など)のみならず、学校行事、自治活動、クラブ活動などの教科外の教育活動も含まれ、これらの計画、実施過程、成果のすべてが評価対象となるとされています(教育課程内外に関してはこちらの資料を)。

しかし、部活動は「教育課程外の活動」であり(この点が、教師が部活動に時間を割かれることへの問題につながる。法律上は部活動に寄与せねばならないという根拠はない)、カリキュラム評価という「教育課程」を評価する枠組みでは部活動はその対象とならないと言えます。

続いて、選択肢⑤の「学習者の学習・成長のプロセスが含まれる」に関してですが、これは教育評価とカリキュラム評価の違いについて理解しておきましょう。

他選択肢の解説でも述べたように、教育評価の対象は多岐にわたっているが、主に学習者、教育実践、教育条件に大別できます。

「カリキュラム評価」については、上記のうち「教育実践」の一部に該当するものであり、教育課程の編成原理、教育内容とその構造(教科編成、コアの設定、内容の配列、学年配当など)、履修の仕方、指導指針などが評価対象になります。

これに対して、本選択肢で問われている「学習者の学習・成長のプロセスが含まれる」に関しては、教育評価のうち「学習者」に対する評価に該当するものであり、各学習者の学習・成長のプロセスと結果が評価対象となります。

「カリキュラム評価」は、あくまでもその教育内容やその構造およびその周辺に関する事柄に対する評価になりますから、学習者への評価は含まれることになりません。

続いて、選択肢②のルーブリックについて理解しておきましょう(「公認心理師 2020-100」より)。

パフォーマンスを評価するには、質的に評価できるように評価指標を作成する必要があり、このための評価指標を「ルーブリック」と呼びます。

中央教育審議会が示している定義や説明は以下の通りになります。


米国で開発された学修評価の基準の作成方法であり、評価水準である「尺度」と、尺度を満たした場合の「特徴の記述」で構成される。記述により達成水準等が明確化されることにより、他の手段では困難な、パフォーマンス等の定性的な評価に向くとされ、評価者・被評価者の認識の共有、複数の評価者による評価の標準化等のメリットがある。
(「新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて~生涯学び続け、主体的に考える力を育成するために~」答申より)

1)「目標に準拠した評価」のための「基準」つくりの方法論であり、学生が何を学習するのかを示す評価規準と学生が学習到達しているレベルを示す具体的な評価基準をマトリクス形式で示す評価指標である。
2)学習者の「パフォーマンスの成功の度合いを示す尺度と,それぞれの尺度に見られるパフォーマンスの特徴を説明する記述語で構成される、評価基準の記述形式」として定義される評価ツールのこと。
(中央教育審議会高等学校教育部会濱名篤委員(関西国際大学長)説明資料より)

難しく書いてありますが、よく成績評価で見る以下のようなものです。


こういう評価の方法は見たことがあると思いますし、多くの人が触れているものだろうと思います。

ルーブリックの一般的な特徴は以下の通りです。

  • 目標に準拠した評価のための基準作りに資するものである
  • パフォーマンス評価を通じて思考力、判断力、表現力等を評価することに適している
  • 達成水準が明確化され、複数の評価者による評価の標準化がはかられる
  • 教える側(評価者)と学習者(被評価者)の間で共有される
  • 学習者の最終的な到達度だけでなく、現時点での到達度、伸びを測ることができる

こうしたルーブリックに照らしながら、5~1点などと数量化してパフォーマンス評価を行っていくことになります。

このようにルーブリックも、選択肢⑤の学習者への評価のためのものであることがわかるはずです。

「カリキュラム評価」は、あくまでもその教育内容やその構造およびその周辺に関する事柄に対する評価になりますから、学習者への評価に該当するルーブリックは含まれることになりません。

以上より、選択肢②、選択肢③および選択肢⑤は不適切と判断できます。

④ 教育評価の対象には、潜在的カリキュラムが含まれる。

潜在的カリキュラム(hidden curriculumもしくはlatent curriculum)とは、隠されたカリキュラム、ヒドゥンカリキュラムなどと呼ばれるものです。

「潜在的」があるからには「顕在的」があるわけですが、これはいわゆる「カリキュラム」と呼ばれるもので、学校における教育課程を指し、児童・生徒はこのカリキュラムに従って学習していきます。

この「カリキュラム」は制度化されているものですから、明示的(顕在的)なものとなります。

しかしながら、児童・生徒が学校で何かを学ぶ時、教師から伝達されるものは、学習すべき内容だけではなく、非明示的に伝達されるものもあります。

例えば、教師が話しているときに、思ったことをその場で発進する生徒に対して否定的なフィードバックを行えば「先生が話している時には、何か思ってもその場で口にしてはいけない」ということを学び取り、教師がそれを歓迎していれば「思ったことをその場で発信しても良いのだ」ということを学び取るわけです。

こうした不文律以外にも、学校行事において教師たちがどのように連携を取っているかなど、学校生活の各所において何らかのことが無意識に学ばれるものです。

このように、児童・生徒が暗々裏に学び取る不文律なカリキュラム、無意識的なカリキュラムを「潜在的カリキュラム」と呼びます。

カリキュラムが教師によって教えられるものであるのに対して、潜在的カリキュラムは児童・生徒によって学び取られるものであると言えます。

児童・生徒は学校で(顕在的)カリキュラムによって学習上の影響を受けながら、同時に隠されたカリキュラムによって潜在的にも影響を受けていることになります。

こうした学校での経験すべてが学校教育であり、カリキュラムを広く捉えた場合、この「(顕在的)カリキュラム」と「潜在的カリキュラム」の両方を含め、この広い意味でのカリキュラムが児童・生徒に影響を及ぼすと言えます。

文部科学省において、この潜在的カリキュラムを特に重視しているのが「人権感覚の育成を目指す取組」すなわち道徳教育においてです。

こちらでは以下のように記されています。


[自分の大切さと共に他の人の大切さを認めること]ができるために必要な人権感覚は、児童生徒に繰り返し言葉で説明するだけで身に付くものではない。このような人権感覚を身に付けるためには、学級をはじめ学校生活全体の中で自らの大切さや他の人の大切さが認められていることを児童生徒自身が実感できるような状況を生み出すことが肝要である。児童生徒一人一人が、自らが一人の人間として大切にされているという実感を持つことができる時に、自己や他者を尊重しようとする感覚や意志が芽生え、育つことが容易になるからである。

人権教育に関わる知的理解を推進するためには、学校の教育課程を体系的に整備することが必要である。他方、人権感覚の育成には、そうしたカリキュラムの整備と共に、いわゆる「隠れたカリキュラム」(「隠れたカリキュラム」とは、「教育する側が意図する、しないに関わらず、学校生活を営むなかで、児童生徒自らが学びとっていく全ての事柄」を指す。学校・学級の「隠れたカリキュラム」を構成するのは、それらの場の在り方であり、雰囲気といったものである。)が重要である。


このように、自分と他の人の大切さが認められるような環境をつくることが、まず学校・学級の中で取り組まれなければならないこととされています。

他選択肢での解説でも述べた通り、「教育評価」とは、教育に関連する事象の実態を把握して判断する解釈プロセスおよびそこで解釈された情報を教育的な問題解決に生かす活用プロセスの総体を指します。

ですから、こうした「潜在的カリキュラム」という暗々裏に伝わるような教育内容に関しても教育評価に含まれる事項になると見なして良いわけです。

以上より、選択肢④が適切と判断できます。

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