公認心理師 2021-56

特別支援教育コーディネーターの役割に関する問題です。

過去問では、解説の中で特別支援教育コーディネーターの機能が出てきたりしていましたが、こうした根本的な問題は今まで出題がなかったですね。

問56 特別支援教育の推進について(平成19年4月、文部科学省)が示す特別支援教育コーディネーターの役割として、適切なものを2つ選べ。
① 保護者に対する学校の窓口となる。
② 特別支援教育の対象となる児童生徒を決定する。
③ 特別支援教育の対象となる児童生徒に対して、直接指導を行う。
④ 特別支援教育の対象となる児童生徒について、学校と関係機関との連絡や調整を行う。
⑤ 外部の専門機関が作成した「個別の教育支援計画」に従い、校内の支援体制を整備する。

解答のポイント

文部科学省の通知「特別支援教育の推進について」の内容を把握している。

学校臨床の経験のなかで特別支援教育コーディネーターの役割を理解している。

選択肢の解説

① 保護者に対する学校の窓口となる。
④ 特別支援教育の対象となる児童生徒について、学校と関係機関との連絡や調整を行う。

これらの選択肢については、通知内の「3.特別支援教育を行うための体制の整備及び必要な取組」の「(3) 特別支援教育コーディネーターの指名」に記載が以下の通りあります。


各学校の校長は、特別支援教育のコーディネーター的な役割を担う教員を「特別支援教育コーディネーター」に指名し、校務分掌に明確に位置付けること。

特別支援教育コーディネーターは、各学校における特別支援教育の推進のため、主に、校内委員会・校内研修の企画・運営、関係諸機関・学校との連絡・調整、保護者からの相談窓口などの役割を担うこと。

また、校長は、特別支援教育コーディネーターが、学校において組織的に機能するよう努めること。


このように、本選択肢で示されている「特別支援教育の対象となる児童生徒について、学校と関係機関との連絡や調整を行う」「保護者に対する学校の窓口となる」ということが役割として挙げられていますね。

それ以外にも、校内委員会・校内研修の企画・運営が挙げられています(私もたくさん研修依頼をもらっています。有難いことです)。

上記の通り、特別支援教育コーディネーターは、校内や福祉、医療等の関係機関との間の連絡調整役として、あるいは、保護者に対する学校の窓口として、校内の関係者や関係機関との連携協力の強化を図るための役割です。

児童生徒(およびその保護者)と、「校内の各委員会などに代表される校内支援体制」「医療福祉といった学外の支援体制」を結ぶ役割を担っているわけですね。

特別支援教育コーディネーターの役割については、平成15年3月の「今後の特別支援教育の在り方について(最終報告)」でも示されていますね。

以上より、ここで挙げた選択肢内容は特別支援教育コーディネーターの役割に合致することがわかります。

よって、選択肢①および選択肢④が適切と判断できます。

② 特別支援教育の対象となる児童生徒を決定する。

こちらは対象が「児童生徒」という表記なので、学校内で「特別支援教育の対象となる児童生徒」を決定する際の主体を問うている内容と考えてみていきましょう。

学内で特別支援教育の対象になると共有できた児童生徒に関しては、その旨を保護者と話し合っていくことになります。

保護者が拒否的な場合もありますが、「本人のより良い教育のために、個別の教育支援計画を作らせてもらいたい」と伝えて、こちらの作成を先に行うこともあり得ますし、その内容を共有することで保護者の理解が進むこともあり得ます。

保護者が特別支援教育を希望する場合、教育委員会の担当部署(学校指導課など)へ保護者が相談申し込みを行ったり、教育委員会の担当者が学校に巡回に来たり、検査を取りに来るなどの形になります。

教育委員会に各機関からの情報(学校での様子、医療機関での診断や療育状況など)が集約され、それらを踏まえて、教育委員会が審議してどういった教育が望ましいかの判断を示すことになります。

その内容が保護者に伝えられ、入学や転学、体制の変更になるという運びですね。

このように、障害のある児童生徒の就学先については障害の状態、教育上必要な支援の内容、地域における教育体制の整備の状況や、本人・保護者の意見、教育学・医学・心理学等の専門家の意見等を踏まえた総合的な観点から教育委員会が決定する仕組みとなっております。

本選択肢の「特別支援教育の対象となる児童生徒を決定する」という文脈が、上記のような大きな流れを指しているのであれば、決定するのは教育委員会と言えます。

ただし、もっとマクロなレベルで「校内で、この児童生徒を特別支援教育の対象にした方が良いね。そっちの方が、この子の教育が進みやすいね」というレベルの決定と捉えれば(保護者にそのことを伝える前の段階)、校長を中心とした校内の各支援委員会となるでしょう。

この段階では、当然特別支援コーディネーターが中心になって意見を述べることも考えられます。

ただし、あくまでも特別支援教育コーディネーターの役割としては「校内委員会・校内研修の企画・運営」「関係諸機関・学校との連絡・調整」「保護者からの相談窓口」となっており、「特別支援教育の対象となる児童生徒を決定する」という点に役割があるわけではありません。

決定後に、保護者との相談窓口として機能していくというイメージの方が適切ですね。

以上のように、「特別支援教育の対象となる児童生徒を決定する」のは特別支援教育コーディネーターの役割とは言えないと考えられます。

よって、選択肢②は不適切と判断できます。

③ 特別支援教育の対象となる児童生徒に対して、直接指導を行う。

先述のように、特別支援教育コーディネーターの役割としては「校内委員会・校内研修の企画・運営」「関係諸機関・学校との連絡・調整」「保護者からの相談窓口」が示されています。

本選択肢にある、児童生徒への直接指導を行うのは、校内の支援体制の中で児童生徒と関わる先生や支援員となることが多いですね。

特別支援学級に在籍している児童生徒であれば、特別支援学級の担任が直接指導を行うことになりますね。

また、児童生徒は、特別支援学級に在籍していても原学級があるので、原学級で授業を受ける場合には、その学級の担任や中学校で多い教科担任制なら各科目の先生が直接指導を行うことになります。

原学級での授業では、特別支援学級の担任がサポートすることもありますし、支援員が付いて対応することもあるので、こちらも直接指導の役割を担うと言えます。

他にも、通常学級に在籍していても「通級指導」を受けることも考えられ、その場合は、通級指導の担当教員が直接指導を行うことになります。

このように、当該児童生徒に直接指導を行う教員は多岐にわたることがわかりますね。

なお、特別支援教育コーディネーターが学級担任や特別支援学級担任を兼務することも考えられるため、特別支援教育コーディネーターだから直接指導は行わないというわけではありません(それほどまで、現在の学校は教員の人数を絞られている状況で、少ない人数で回す必要に迫られています)。

しかし、あくまでも本問で求められている「特別支援教育コーディネーターの役割」という観点から言えば、直接指導が特別支援教育コーディネーターの役割とはならないわけですね(やるけど、それは担任等の役割として行うということ。機械的に言えば)。

以上より、「特別支援教育の対象となる児童生徒に対して、直接指導を行う」のは特別支援教育コーディネーターの役割とは言えないと考えられます。

よって、選択肢③は不適切と判断できます。

⑤ 外部の専門機関が作成した「個別の教育支援計画」に従い、校内の支援体制を整備する。

まず「個別の教育支援計画」に関しては「参考1 「個別の教育支援計画」について」に詳細が示されております。

こちらによると「個別の教育支援計画」は、障害のある児童生徒の一人一人のニーズを正確に把握し、教育の視点から適切に対応していくという考えの下、長期的な視点で乳幼児期から学校卒業後までを通じて一貫して的確な教育的支援を行うことを目的として作成されるものです。

ですから、教育のみならず、福祉、医療、労働等の様々な側面からの取組が必要であり、関係機関、関係部局の密接な連携協力を確保することが不可欠となりますし、学校に入る以前から作成されているものと言えますね。

学校での個別の支援計画が作成される場合は、教育的支援を行うに当たり同計画を活用することを含め教育と他分野との一体となった対応が確保されることが重要となります。

この「個別の教育支援計画」に盛り込まれる内容としては、①特別な教育的ニーズの内容、②適切な教育的支援の目標と内容、③教育的支援を行う者・機関、になります。

この作成者として示されているのは、「就学段階においては、盲・聾・養護学校又は小・中学校、若しくは高等学校が中心となって作成する。学級担任や学校内及び他機関との連絡調整役となるコーディネーター的役割を有する者が中心となって具体的な内容を確定する」とありますね。

ですから、この計画を決める段階においては、特別支援教育コーディネーターが中心的な役割を担うことも多いでしょう(それが特別支援教育コーディネーターの役割と明確に決まっているわけではありませんが、役割に付随する機能として自然な成り行きと言えますね)。

ちなみに、学校で作成された個別の指導計画が既に「個別の教育支援計画」の内容を包含するなど、同様の機能を果たすことが期待される場合には、その学校の個別の指導計画を「個別の教育支援計画」として扱うことが可能とされています。

これらのことを踏まえると、本選択肢前半の「外部の専門機関が作成した「個別の教育支援計画」に従い」という箇所が、やや引っかかる内容であることがわかりますね。

就学段階においては学校内でその具体的な内容を確定するわけですから、単純に外部の専門機関が作成したものを踏襲するというわけではありません。

学校は学校で、その状況に即したものを作成し、それをもとに支援を行っていくという理解が正しいと言えます。

実態としては、入学時点や発達的な課題が確認された時点で学校が中心になって作成されるパターンが多いように感じますが、私が知らないルートもあるでしょうし、発達的な課題が幼いころから明確な場合にはその限りではないでしょう。

ただし、その内容を含めて校内の「個別の教育支援計画」を作成するということには変わりありませんから、確実に不適切な内容とも言えないでしょう(入学時点で上がってきたものをもとに支援体制を整備することもあるだろうから)。

更に、選択肢後半の「校内の支援体制を整備する」についても検討していきましょう。

こちらについては通知内の「3.特別支援教育を行うための体制の整備及び必要な取組」の「(1) 特別支援教育に関する校内委員会の設置」を見ていきましょう。


各学校においては、校長のリーダーシップの下、全校的な支援体制を確立し、発達障害を含む障害のある幼児児童生徒の実態把握や支援方策の検討等を行うため、校内に特別支援教育に関する委員会を設置すること。

委員会は、校長、教頭、特別支援教育コーディネーター、教務主任、生徒指導主事、通級指導教室担当教員、特別支援学級教員、養護教諭、対象の幼児児童生徒の学級担任、学年主任、その他必要と思われる者などで構成すること。

なお、特別支援学校においては、他の学校の支援も含めた組織的な対応が可能な体制づくりを進めること。


上記の通り、支援体制を確立するのは「各学校において、校長のリーダーシップの下」で行われることになります(上記の「確立」を「整備」と読み替えても差し障りないと言えそうですよね)。

それに、校内の支援体制の在り方としては、個別指導、チームティーチング、オープン教室、少人数指導、通級指導教室、特別支援学級など多岐にわたります。

こうした広い視野での支援体制を整備していくのを特別支援教育コーディネーターの役割と見なすには無理があり、こちらはやはり校長を中心とした管理職のリーダーシップに基づいて行われると見なすのが妥当ですね。

先の通知内でも、校長の役割として「特別支援教育実施の責任者として、自らが特別支援教育や障害に関する認識を深めるとともに、リーダーシップを発揮しつつ、次に述べる体制の整備等を行い、組織として十分に機能するよう教職員を指導することが重要である」とされていますから、上記のように考えて間違いないでしょう。

以上より、「外部の専門機関が作成した「個別の教育支援計画」に従い、校内の支援体制を整備する」のは特別支援教育コーディネーターの役割とは言えないと考えられます。

よって、選択肢⑤は不適切と判断できます。

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