公認心理師 2021-127

学生相談における学生生活サイクルに関する問題です。

学生相談において学生生活サイクルという視点をもって支援に活かしていくことが重要です。

「別の話題」を通して、以下で示すような課題のことを間接的に話しているということも多いですね。

問127 学生相談で語られることの多い、学生生活サイクル上の課題の説明として、最も適切なものを1つ選べ。
① 入学期は、対人関係をめぐる問題が相談として語られ、学生生活の展開が課題となる。
② 中間期は、無力感やスランプなどが相談として語られ、自分らしさの探求が課題となる。
③ 卒業期は、研究生活への違和感や能力への疑問が相談として語られ、専門職としての自己形成が課題となる。
④ 大学院学生期は、修了を前に未解決な問題に取り組むことが相談として語られ、青年期後期の節目が課題となる。

解答のポイント

鶴田(2001)をはじめとした学生生活サイクルに関する知見を理解している。

学生生活サイクルの特徴・選択肢の解説

本問にある「学生生活サイクル」とは、大学生の学年の移行に伴う心理的課題の変化を軸として、学生相談事例及び大学生全体を理解する視点です(鶴田(2001)を参照)。

これまで学生相談では、主としてこころの健康度に基づいた見立てが行われてきましたが、この新しい視点では、学生生活の時間の流れや学年に注目します。

学生は、学年の移行とともに様々な課題に直面し、それらを克服したり、克服できなかったりすることを繰り返しながら成長していきます。

この考え方では、学生時代を入学期(入学後1年間)、中間期(一般的には、2~3年次)、卒業期(卒業前1年間)という時期に分け、大学院の期間である大学院学生期を加えて、それぞれの時期ごとに学生が直面しやすい悩みと課題、および学生相談カウンセラーとしての対応が示されています。

なお、この視点を「学生生活サイクル」と呼ぶのは、学生時代が学年の進行に沿って心理的課題が変化する一つのサイクルを描いていると考えられること、学生時代の終わりが次の時期の始まりというように、前後の時期と繋がっているからです。

入学期中間期卒業期大学院学生期
来談学生が語った主題移行に伴う問題
入学以前から抱えてきた問題
無気力、スランプ
生きがい
対人関係をめぐる問題
卒業前に未解決な問題に取り組む
卒業前の混乱
研究生活への違和感
能力への疑問
研究室での対人関係
指導教員との関係
学生の課題学生生活への移行
今までの生活からの分離
新しい生活の開始
学生生活の展開
自分らしさの探求
中だるみ
現実生活と内面の統合
学生生活の終了
社会生活への移行
青年期後期の節目
現実生活の課題を通して内面を整理
研究者・技術者としての自己形成
心理学的
特徴
自由の中での自己決定
学生の側からの学生生活へのオリエンテーション
高揚と落ち込み
曖昧さの中での深まり
親密な横関係
もうひとつの卒業論文
将来への準備
職業人への移行
自信と不安

上記は学生生活サイクルの特徴をまとめたものですが、各選択肢の解説を通して各期について詳しく述べていくことにしましょう。

なお、本問では上記の書籍を参考に解説を述べています。

① 入学期は、対人関係をめぐる問題が相談として語られ、学生生活の展開が課題となる。

入学期は、学生が今まで慣れ親しんだ生活から離れ、大学での新しい生活へと移行する時期です。

この時期は、生活上の変化が大きく、多くのことを自分で決めるように求められます。

学生は、入学に伴って生じた課題と、入学以前から抱えてきた課題とに直面することになります。

学業の領域では、入学直後の修学上の問題(履修方法など)、学業への集中困難などの相談があります。

大学のカリキュラムに慣れること、自分の関心領域を選ぶことなどが課題になります。

進路の領域では、不本意入学や進路変更希望、入学後の目標喪失などの相談があり、大学や学部に所属感を持つこと、学科や専攻を選ぶことが課題となります。

対人関係の領域では、新しい関係を作る難しさ、小集団(クラブ、サークル、クラス)に入る難しさなどの相談があり、新しい対人関係を開始することが課題になります。

親子関係では、親や家族から物理的・心理的に離れて関係を見直すことが課題になります。

このように学生生活全般において、新しい環境で生活を展開することが課題となり、新しい生活に適応できない場合には、過去に馴染んだ習慣や友人関係に戻ることが生じやすいです。

この時期の学生に会うときには、以下の点に注意を払うことが大切になります。

  1. 入学したことを肯定する力:この時期の学生生活は、入学した大学・学部への満足度によって大きく左右される。例えば、入学をめぐる気持ちは、大学への所属感、適応を左右するものであり、学生生活の基盤となると思われる。
  2. 新しい生活を開始する力:入学直後には、学生生活を始めることが課題となり、学業、進路、対人関係などについての新しい挑戦と、日常生活の新しいリズムに慣れることが重要になる。

これらを踏まえて、本選択肢の内容を見ていきましょう。

本選択肢では「入学期は、対人関係をめぐる問題が相談として語られ、学生生活の展開が課題となる」とありますが、この内容は後述する中間期の主題や課題になります。

入学期には、移行に伴う問題や入学以前から抱えていた問題が主題となりやすく、学生生活への移行・今までの生活からの分離・新しい生活の開始などが課題になりやすいです。

以上より、選択肢①は不適切と判断できます。

② 中間期は、無力感やスランプなどが相談として語られ、自分らしさの探求が課題となる。

中間期は、大学への初期の適応が終わり、生活上の変化が比較的緩やかな期間です。

学生生活を展開して自分らしさを探求することが課題となる時期であり、また将来に向けての選択が次第に近づいてくる時期でもあります。

学生が時間をかけて自分を見つめることができ、大学入学直後の表面的な適応を一時的に壊すような体験をする時期でもあります。

学業の領域では、無気力、スランプ、意欲減退などの相談があり、学生が自分の関心の的を絞ることが課題となります。

進路の領域では、進路変更や将来の進路についての相談があり、職業選択への準備や研究室の選択が課題になります。

対人関係の領域では、同年代との対人関係、リーダーシップの取り方などについての相談があり、対人関係の深まりと広がりが課題になります。

親子関係は比較的変化の少ない時期になります。

この時期の学生に会うときには、以下の点に注意を払うことが大切になります。

  1. 生活を管理する力:学生生活の送り方の個人差が大きい時期であり、日常生活をどのように過ごしているかという話題から、学生の状態を理解することができる。
  2. 学生生活を展開する力:この時期は、学生が自分らしい生活を展開する時期であり、学業、進路、対人関係への取組に注目することからいろいろな情報が得られる。

これらを踏まえて、本選択肢の内容を見ていきましょう。

本選択肢の「中間期は、無力感やスランプなどが相談として語られ、自分らしさの探求が課題となる」はまさに中間期の課題と言えます。

中間期には、無気力やスランプ、生きがい、対人関係をめぐる問題が主題となり、学生生活の展開・自分らしさの探求・中だるみ・現実生活と内面の統合が課題となりやすい時期とされています。

以上より、選択肢②が適切と判断できます。

③ 卒業期は、研究生活への違和感や能力への疑問が相談として語られ、専門職としての自己形成が課題となる。

卒業期は学生生活を終え、将来への準備をする時期です。

近年では、大学院に進学する学生も増えており、必ずしも学生生活の最後の時期とならない場合もあるが、1つの大きな節目となる時期です。

学業の領域では、研究課題を前にした相談があり、卒業研究への集中、研究の完成が課題になります。

進路の領域では、進路選択の迷い、不安などの相談があり、卒業後の進路決定が課題となります。

対人関係の領域では、研究室での対人関係、異性関係などの相談があり、卒業による別れなどが課題となります。

親子関係では、進路をめぐる親子のずれなどの相談があり、進路の決定が課題になります。

この時期の学生に会うときには、以下の点に注意を払うことが大切になります。

  1. 進路を決める力:卒業期には、現実的な進路選択を行うことが課題となり、内面と現実との統合が課題となる。進路の選択と決定は、これまでの生活のまとめ、将来への準備をする作業である。
  2. 学生生活をまとめる力:卒業期には、研究のまとめと進路の決定の両方を行う力が必要となる。卒業という節目を前にして、今まで未解決であった自らの課題を整理し、まとめあげる作業をする学生がいる。

これらを踏まえて、本選択肢の内容を見ていきましょう。

本選択肢の「卒業期は、研究生活への違和感や能力への疑問が相談として語られ、専門職としての自己形成が課題となる」は、後述する大学院学生期の課題になります。

卒業期には、卒業を前に未解決な問題に取り組むこと、卒業前の混乱が語られる主題となり、学生生活の終了・社会生活への移行・青年期後期の節目・現実生活の課題を通して内面を整理などが課題となります。

以上より、選択肢③は不適切と判断できます。

④ 大学院学生期は、修了を前に未解決な問題に取り組むことが相談として語られ、青年期後期の節目が課題となる。

大学院学生期は、学生が最終的に学生生活を終える時期であり、職業人としての自己を形成する時期です。

前期(修士)課程では、研究生活の開始、研究室での対人関係、進路などが課題となりやすく、後期(博士)課程では研究の完成、進路が課題となりやすいです。

学業の領域では、研究が生活の中心になります。

研究生活への不安や違和感、他大学からの入学者の適応などの相談があり、研究への集中、研究の完成が課題となります。

進路の領域では、進路選択、将来への不安などの相談があり、研究室への適応、修了後の進路決定が課題になります。

対人関係の領域では、研究室での対人関係、異性関係などの相談があり、とりわけ研究室の中の対教員や学生間の関係が課題になります。

固定された人間関係の中で、ハラスメントの問題が起きやすいのもこの時期です。

親子関係では、卒業期と同様、進路をめぐる親子のずれなどの相談があり、親子関係をめぐる葛藤を整理することが課題となります。

この時期の学生に会うときには、以下の点に注意を払うことが大切になります。

  1. 研究生活に馴染む力:大学院学生期では、研究室に馴染むこと、研究のテーマを定めて方法を習得することが最初の課題となる。大学院の時期には、研究課題を自分のものとして主体的に達成する能力が求められるようになる。
  2. 社会に着地する力:この時期は、学生時代の最後の時期であり、社会に着地すること、就職することが課題となる。社会への着地は、学生の学問的能力だけでなく、コミュニケーション力などを含めた総合的な能力が求められる課題である。

これらを踏まえて、本選択肢の内容を見ていきましょう。

本選択肢の「大学院学生期は、修了を前に未解決な問題に取り組むことが相談として語られ、青年期後期の節目が課題となる」は、卒業期の課題であることがわかりますね(修了という言葉は使っていますが、それは惑わせるためですね)。

大学院学生期は、研究生活への違和感、能力への疑問、研究室での対人関係、指導教員との関係などが学生の語る主題となりやすく、研究者および技術者としての自己形成が課題となります。

以上より、選択肢④は不適切と判断できます。

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