公認心理師 2021-122

学校でいじめ予防プログラムを作成・評価する際の留意点に関する問題です。

教育プログラムに関する問題と言うよりも、学校という組織での振る舞いについて問われている面もあるように感じます。

問122 公認心理師が、小学校高学年を対象に30分程度のいじめ予防プログラムの実践を依頼された。実施するプログラムを作成・評価する際の留意点として、不適切なものを1つ選べ。
① 小学校の教師に対して説明責任を果たす。
② 当該小学校におけるいじめ事象を聞き取る。
③ 実践したプログラムの終了後に形成的評価を行う。
④ アクションリサーチの観点からプログラムを実施し、評価する。
⑤ 参加児童に対して質問紙調査を実施し、アウトカムを査定する。

解答のポイント

学校での教育プログラムの作成・評価に関する理解を有している。

選択肢の解説

① 小学校の教師に対して説明責任を果たす。
② 当該小学校におけるいじめ事象を聞き取る。

学校における教育相談は、①開発的(発達促進的)教育相談、②予防的教育相談、③問題解決的(治療的)教育相談という3つの機能を有しています。

開発的教育相談の対象はすべての児童・生徒であり、学校生活への適応とともに人格的な成長を促進するというものになります。

予防的教育相談は問題を未然に防ぐ活動であり、学習のつまずきや家庭の問題などを含めて、表面上は大きな問題となっていないけれど、ストレスが高い状態にある子どもたちのSOSを見逃さずに早期に対応することで、大きな問題になることを防ぐ活動です。

問題解決的教育相談は、いじめや不登校、非行などの問題が生じたときに、本人はもちろん、周囲の児童・生徒、家族、場合によっては専門家の力を借りて問題の解決を図るような活動を指します。

本問の「いじめ予防プログラム」に関しては、その時々によって上記のいずれの教育相談の機能に属するかは変わってくるでしょう。

いじめが起こっているのであれば問題解決的教育相談の一環として、いじめにつながる兆候がある場合には予防的教育相談として、いじめの兆候はないけど予防として全体に行うときには開発的教育相談に該当します。

カウンセラーとして学校でいじめ予防プログラムなどのような教育プログラムを実施するときには、その学校やその学級の課題を聞き取ることが重要な手続きとなります。

考えてみれば当たり前のことで、教育プログラムを実施する先のニーズを事前に聞いて、そのニーズを組み込んだプログラムの方が、より効果的なプログラムになるわけです。

本問においては「いじめ予防プログラム」を実施するわけですから、当該小学校におけるいじめ事象を聞き取っておくことで、その改善に向けたプログラムを構成することがしやすくなります。

この聞き取りを通して、この学級でのいじめ予防プログラムが教育相談のいずれの機能に属するかも変わってくるわけですね。

SCでいじめ予防プログラムをしたことのある人も多いと思いますが、「いじめ予防ならこのプログラム」といつも同じことをしている人を散見します。

それだと楽ではありますが、その時々の子どもたちの課題を見誤る可能性が高くなってしまいますから、毎回オーダーメイドでプログラムを作るくらいの気持ちの方が良いだろうと思います。

特に本問のテーマである「いじめ予防」に関しては、いじめの発生自体が単一の要因で起こるとは言えず、時には正常発達の中で生じるいじめもある(反抗期になり親の価値観に反発している子どもが、まだ反抗期に入っておらず親に従順な子どもを見たときにイライラするなど)など、単一の予防プログラムでカバーできるテーマではないはずです。

ですから、いじめ予防プログラムを実践する際には、その対象となる児童・生徒の状況を問い、どこまで踏み込んだプログラムにするか(現在進行形でいじめが生じていると、やりづらいプログラムもある)を考えていくことが大切です。

そして、こういう事前の聞き取りは主に担任からすることが多くなります(担任とは別に管理職から客観的なクラスの課題を伝えられることもありますが)。

こうした聞き取りを踏まえて、何かしらの狙いをもってプログラムを構成するわけですが、当然のことながら、そういった「プログラムの狙い」をきちんと担任や管理職に伝えておくことが必要な手続きとなります。

これは「した方が良い」のではなく、その組織で活動するにあたって「しなければならないこと」です。

その学級で「いじめ予防プログラム」という「普段と違う体験」を入れ込むことで、学級の中で「普段と違う状態を示す子ども」が出てくることも想定せねばなりません。

そして、その対応を主に行うのは担任になるわけですから、担任に対していじめ予防プログラムの狙いと効果について事前に伝え、実施した感触等も事後に伝えておくことが求められます。

これが選択肢①の「小学校の教師に対して説明責任を果たす」ということになりますね。

以上より、選択肢①および選択肢②は適切と判断でき、除外することになります。

③ 実践したプログラムの終了後に形成的評価を行う。

Bloomはマスタリー・ラーニング(一斉指導と個別指導の組み合わせで、90%以上の子どもを期待される水準に到達させようという主張と実践方法)を理想的学習と考え、それを達成するために診断的評価、形成的評価、総括的評価の3タイプに評価法を分類しました。

診断的評価は、学年・学期・単元などの開始時期に、現在までの習得レベルの確認や、次の学習に必要とされる知識・技能を備えているかどうかの判定を行うために実施されます。

形成的評価とは、文字通り「形成していくための評価」であり、「作り上げていく・進めていく過程で必要な評価」のことを指し、Bloomがマスタリー・ラーニング理論との関連で提唱した評価概念です。

要は「指導の途中でそこまでの成果を把握し、その後の学習を促すために行う評価のこと」「評価を学習活動が終了した時点で行うのではなく、学習過程の最中に、次の教授=学習活動が適切で有効に行われるように、修正の必要な部分を即座に把握するために行う評価」であり、例えば、1回1回の授業の最後に行う小テストや振り返り(こういう形成的評価のためのテストを、形成的テストと呼びます)など、学習の途中で学習者が自分の理解状況を把握することを必要に応じて助けるような行為はこれに該当します。

他にも、教材開発やプロジェクトを進めていく過程で、細かくチェックを行って改善に役立てるなどといったように、比較的頻繁に行うフィードバックの総称のことでもあります。

また、総括的評価とは、その名前が表すように「一通りの流れが終わった後に、全体を通してどこが良かったか(悪かったか)を見るための評価」です。

 一つの単元や課程の終わりなど、全体を見通したいときに行うものであり、学期末テストや通信簿などがその代表と言えるでしょう。

ちなみに学校以外でも、企業研修の最終日に行うアンケートやテストなどがこれにあたりますね。

「総括的」なものですので、例えば教材に対する評価の場合だと、その教材が学習者に及ぼした影響を見ることはできますが、学習者自身が途中で自分の学習進度を判断するような情報は与えることができません。

まとめると以下の通りになります。

  • 診断的評価:学習開始前に現時点でのレベルの確認、次に必要とされる単元の習得に必要な力が備わっているかを見る。
  • 形成的評価:学習活動と並行して行われるもので、授業内容の理解度を確認したり、それをフィードバックすることで学習の達成水準を上げるための評価。
  • 総括的評価:学習が終わった段階で、学習目標がどれだけ達成できたか見る。

これらを念頭に置き、選択肢③の検証に入っていきましょう。

上記の通り形成的評価とは「学習活動と並行して行われるもので、授業内容の理解度を確認したり、それをフィードバックすることで学習の達成水準を上げるための評価」ですから、いじめ予防プログラムの「終了後に」行うものではありません。

形成的評価をするのであれば、いじめ予防プログラムの途中で評価を行ってもらい、それを受けてより伝わりやすい形に修正するなどが正しい用い方になります。

よって、選択肢③は不適切と判断でき、こちらを選択することになります。

④ アクションリサーチの観点からプログラムを実施し、評価する。

1944年、当時MITの教授であったクルト・レヴィンが、はじめてアクションリサーチという用語を使用しました。

集団との関係を場の力動で捉えるグループダイナミクスの視点から、故人の心理的行動を説明する発想から生まれた研究方法であり、レヴィンは「社会運動、および社会運動を促す研究の、状態や影響といった多様な形態についての比較研究」であり、「計画」「実行」「実行結果についての事実発見」が螺旋上昇するステップである、と説明しています。

アクションリサーチは、群間比較研究ではなく、特定の集団における時系列による行動変容、ある変化を与えることで生じる集団内行動の変容を継続的に記述していく「問題意識‐計画‐実行‐評価」のサイクルを循環的に行っていく方法です。

基本的には、単一事例による時系列変化の研究であると言えます。

アクションリサーチという名の通り、ある行為を行うことでどのように集団行為が変化するのかを記述・評価し探求していきます。

実証主義の科学的方法では研究者は中立的観察者の位置を取るが、アクションリサーチでは集団内の人のエンパワーメントや専門性育成、集団の社会変革を目指すので、外部研究者と集団内の人の協力関係や集団内部の人が問題意識をもって研究を行う形を取ることが多いです。

アクションリサーチでは、まず何らかの認識(事実の発見)によって問題意識を持ち、全般的な計画を立てて実行、評価、計画の修正、再実行、再評価…という流れで行っていきます。

本問の「いじめ予防プログラム」を例の取れば、学級内での児童間の関わりから何かしらの問題意識が生じ、「いじめ予防プログラム」の計画を立て、実行して評価していくという流れになるでしょう。

このように見てみると、学校で行われる教育プログラムはまさにアクションリサーチの側面を持っていることがわかりますね(児童と関わりながら行っていくという点もアクションリサーチに近い)。

ですから、アクションリサーチの観点からプログラムを実施し、評価するということは「いじめ予防プログラム」を実施する上で適切なアプローチであると言えますね。

よって、選択肢④は適切と判断でき、除外することになります。

⑤ 参加児童に対して質問紙調査を実施し、アウトカムを査定する。

アウトカムとは「成果」という意味の英語で、研究領域において、研究がもたらす本質的な成果のことを指し、論文や特許の数といった外形的なものではなく、実際に社会にどんな影響を与えたかを評価すべきだという考えから注目されるようになりました。

このことを踏まえると、本問の「いじめ予防プログラム」に対するアウトカムでは、このプログラムによって「生徒の意欲・態度が変容したか、いじめに対する意識の向上や具体的な改善法の案出に結び付いたか」などを評価していくことになります。

ちなみに、学校に限らずですが「やったこと自体」が重要ということは多々あるのですが、これはいわゆる「プロセス評価:当初の計画通りに進捗したか」であって、アウトカムをどの程度創出したかを検証するのが「アウトカム評価」と呼ばれています。

一般論として、本問のように「いじめ予防プログラム」をはじめ、何かしらの教育プログラムを実施した際には、「参加児童に対して質問紙調査を実施」ということは必要な手続きであると言えます。

この手続きがないと、「やるだけ」になってしまって、具体的な「効果(ここがアウトカム)」が見えないことになってしまいますからね。

あえて「質問紙」と書くと形式ばった感じがしてしまいますが、実際は簡単な5件法での質問だったり、感想文という形のものが多いだろうと考えられます(対象が児童であれば、理解能力等も考えてのものでなくてはならない)。

「いじめ予防プログラム」のアウトカムを検証するということは、具体的には、いじめに対する児童の認識の変化(いじめと思っていなかったけど、自分もいじめをしていたのかもしれない等)、実際にいじめ場面での関わり方の変化(いじめ場面に出会ったら、積極的に声をかけたい等)などが期待できます。

選択肢にある「参加児童に対して質問紙調査を実施」するにあたっては、こうした変化を検証できる内容に質問紙を設定する必要があります。

そして、この質問し内容の設定に関しては、その学級の課題等を踏まえて決めていくことが求められますから、選択肢②であるような事前事後の担任等との関わりが重要になってきますね。

なお、こういう教育プログラムを行う上で大切な姿勢として、「問題がある子どもたちの改善を目指す」よりも「問題を起こしていない子どもたちの在り様を認め、それを強く保証し、労うこと」の重要性を認識しつつ行うことです。

「問題がある子どもたちの改善」は単発の予防プログラムでは改善が生じないことも多いですが、周囲が「いじめに対する認識を強くする」ことによって、学級でいじめをしにくい空気を醸造することができます。

そして、こういう「問題を起こしていない子どもたち」は、問題を有している子どもたちと比較して、教育プログラムでの認識の変化を素直に語ってくれる割合が高いですから、アウトカムの査定がしやすい対象であると言えます。

このようにアウトカムを査定するにしても、どのような視点を持っておくかで、その査定作業自体が変わってくると言えますから、事前に担任や管理職と打ち合わせしておくことが重要ですね。

以上のように、参加児童に対して質問紙調査を実施し、アウトカムを査定することは重要な教育プログラムの手続きの一つと言えます。

よって、選択肢⑤は適切と判断でき、除外することになります。

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