公認心理師 2019-27

問27は教育学の概念である形成的評価についてですね。
「形成的評価」という用語で辞書等を調べてもヒットしないことが多いですけど、「教育評価」とか「マスタリー・ラーニング」で調べたら出てきます。

問27 形成的評価について、最も適切なものを1つ選べ。
①一定の教育活動が終了した際に、その効果を把握し判断するために行う評価。
②個人の学力に関する特定の側面をそれ以外の側面と比較して把握し判断するために行う評価。
③過去と現在の成績を比較して、どの程度学力が形成されたかについて把握し判断するために行う評価。
④指導前に、学習の前提となるレディネスが形成されているかを把握し、指導計画に活用するために行う評価。
⑤指導の過程で学習の進捗状況や成果を把握し判断して、その情報をその後の指導計画に活用するために行う評価。

形成的評価は教育学の概念ですから、知らないという方も多かったのではないかと思います。
ここではBloomのマスタリー・ラーニングの考え方を簡単に述べた後、各評価についての解説を行っていきます。

解答のポイント

Bloomの提唱した診断的評価・形成的評価・総括的評価の違いを把握していること。

マスタリー・ラーニング

マスタリー・ラーニングとは、B.S.Bloomらによって提唱されたもので、「完全な習得を目指す学習」という意味です。
学力の面で落ちこぼされる子どもが多くなっている学校教育で、一斉指導と個別指導の組み合わせで、90%以上の子どもを期待される水準に到達させようという主張と実践方法です。

この仮説としては、1つには、教科における子どもの特性と成績評価との相関が高いという点について、教授-学習の質的改造、特に教材を個々の学習パターンに応じて分肢化し、時間量の違いを考慮すれば、子どもの適正と成績評価との相関を低くでき、90%以上の子どもが完全に習得できるというものです。
2つ目の仮説としては、学習成果の向上をもたらすために、基準への達成を競争的、抑圧的な手段をとらず、協力的な方向に向けることが必要とされています。

実施の方策については要約的に言えば、以下の3つのことが必要とされています。

  1. 学習目標の分析:
    ひとまとまりの学習単元内容を教材のもととなっている学問の構造に基づき、小さい目標に分類し、構造化し、評価プランと指導プランを構成する。
    成就目標の作成方法として、内容的要素を縦軸にとり、行動的要素を横軸にとって、マトリックスを作る方法が有効とされている。
  2. 事前の準備:
    事前テストでレディネスに欠陥のある子どもたちは、それを補う学習課題を与えられ、レディネスを揃える手続きが採られる。
    成就目標は子どもに提示し、目標を達成するように動機づけ、学習の持続力を増大させるようにする。
    教材・資料の与え方を、個々の子どもの学習パターンに応じて変えるように工夫する。
  3. 学習過程:
    学習科目ごとに形成的評価を実施し、それぞれの子どもの学習困難点ごとに補習的学習や深化学習が行われる。
    再び一斉学習の中で個別に学習したことを交流し、まとめていく。

これらを通して、子どもの認知、情意、技能の各領域にわたって学習能力を伸ばすように図ることが必要とされています。

Bloomの評価論

マスタリー・ラーニングの考え方自体は、当時もなかったわけではないが、教材構造化や形成的評価の手法は新しいものでした。
Bloomはマスタリー・ラーニングを理想的学習と考え、それを達成するために診断的評価、形成的評価、総括的評価の3タイプに評価法を分類しました

診断的評価は、学年・学期・単元などの開始時期に、現在までの習得レベルの確認や、次の学習に必要とされる知識・技能を備えているかどうかの判定を行うために実施されます

形成的評価とは、文字通り「形成していくための評価」であり、「作り上げていく・進めていく過程で必要な評価」のことを指し、Bloomがマスタリー・ラーニング理論との関連で提唱した評価概念です
要は「指導の途中でそこまでの成果を把握し、その後の学習を促すために行う評価のこと」「評価を学習活動が終了した時点で行うのではなく、学習過程の最中に、次の教授=学習活動が適切で有効に行われるように、修正の必要な部分を即座に把握するために行う評価」であり、例えば、1回1回の授業の最後に行う小テストや振り返り(こういう形成的評価のためのテストを、形成的テストと呼びます)など、学習の途中で学習者が自分の理解状況を把握することを必要に応じて助けるような行為はこれに該当します。
他にも、教材開発やプロジェクトを進めていく過程で、細かくチェックを行って改善に役立てるなどといったように、比較的頻繁に行うフィードバックの総称のことでもあります。

また、総括的評価とは、その名前が表すように「一通りの流れが終わった後に、全体を通してどこが良かったか(悪かったか)を見るための評価」です
一つの単元や課程の終わりなど、全体を見通したいときに行うものであり、学期末テストや通信簿などがその代表と言えるでしょう。
ちなみに学校以外でも、企業研修の最終日に行うアンケートやテストなどがこれにあたりますね(今日、ちょうど研修をしてきましたが、私が退室した後に参加者の皆さんがこれを書いているはずです)。
「総括的」なものですので、例えば教材に対する評価の場合だと、その教材が学習者に及ぼした影響を見ることはできますが、学習者自身が途中で自分の学習進度を判断するような情報は与えることができません。

まとめると以下の通りになります。

  • 診断的評価:学習開始前に現時点でのレベルの確認、次に必要とされる単元の習得に必要な力が備わっているかを見る。
  • 形成的評価:学習活動と並行して行われるもので、授業内容の理解度を確認したり、それをフィードバックすることで学習の達成水準を上げるための評価。
  • 総括的評価:学習が終わった段階で、学習目標がどれだけ達成できたか見る。

これらを念頭に置き、各選択肢の検証に入っていきましょう。

選択肢の解説

①一定の教育活動が終了した際に、その効果を把握し判断するために行う評価。
③過去と現在の成績を比較して、どの程度学力が形成されたかについて把握し判断するために行う評価。

これらの選択肢の内容は「教育活動が終了した際」「どの程度学力が形成されたかについて把握し判断する」という文言から、学習が終わった段階で目標達成度合いを見ようとしているので「総括的評価」に分類されると言えます。

よって、選択肢①および選択肢③は不適切と判断できます。

②個人の学力に関する特定の側面をそれ以外の側面と比較して把握し判断するために行う評価。
④指導前に、学習の前提となるレディネスが形成されているかを把握し、指導計画に活用するために行う評価。

これらの選択肢の内容は「指導前に」となっていたり、これからの学習に役立てようとする意味合いが強いと判断できるので、「学習開始前に現時点でのレベルの確認、次に必要とされる単元の習得に必要な力が備わっているかを見る」という診断的評価に分類されると考えられます。

よって、選択肢②および選択肢④は不適切と判断できます。

⑤指導の過程で学習の進捗状況や成果を把握し判断して、その情報をその後の指導計画に活用するために行う評価。

本選択肢にある「学習の過程で」「その情報をその後の指導計画に活用する」という点より、「学習活動と並行して行われるもので、授業内容の理解度を確認したり、それをフィードバックすることで学習の達成水準を上げるための評価」である形成的評価に分類できると判断できます。

以上より、選択肢⑤が適切と判断できます。

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