公認心理師 2018追加-97

生徒指導提要(文部科学省)に示されている生徒指導として、正しいものを1つ選ぶ問題です。

生徒指導提要に関する内容は、公認心理師2018-36がありました。
このときには「生徒指導提要」という表現はなかったので、今回は明確に示された形になりますね。

生徒指導提要は販売もされている(されていた)のですが、文部科学省のページに全文が公開されています。
個人的には、学校に入る専門家はきちんと手元において読んでおいた方が良いと思っています。
持っていなくても、学校には必ず置いてありますから見せてもらうのも良いでしょう。

解答のポイント

生徒指導に関する適切な理解を持っていること。

選択肢の解説

『①教育課程における特定の教科等で行われるもの』

生徒指導提要第1章第2節に「教育課程における生徒指導の位置付け」が以下の通り示されております。

  • 教育課程は、教育の目標を達成するために、国の定める教育基本法や学校教育法その他の法令及び学習指導要領や教育委員会で定める規則などの示すところに従って、学校において編成される教育計画です。
  • 学校における教育活動は、上記のように編成された教育課程に基づいて、そこに掲げる目標の達成に向けて展開されます。その際、人間として調和のとれた児童生徒の育成を目指し、地域や学校の実態、児童生徒の心身の発達の段階や特性などを考慮し、教員の創意工夫を加え、学校の特色を生かすなど適切な教育課程の編成が求められています。
  • しかし、学校における教育活動は極めて多様であり、すべてが教育課程に位置付けて行われているとは限りません教育的に重要な活動であっても、教育課程外として実施しているものもあります。また、教育課程の教科等として行われる教育活動(各教科、道徳、総合的な学習の時間及び特別活動など)についても、そこには、その内容に関する学習指導としての教育機能とともに、教育目標を達成するための重要な機能の一つである生徒指導としての教育機能もあります。
  • つまり、生徒指導は、教育課程における特定の教科等だけで行われるものではなく、教育課程のすべての領域において機能することが求められていますそして、それは教育課程内にとどまらず、休み時間や放課後に行われる個別的な指導や、学業の不振な児童生徒のための補充指導、随時の教育相談など教育課程外の教育活動においても機能するものです

上記の通り、生徒指導は特定の教科等だけで行われるものではなく、教育課程のすべての領域において機能することが求められていることが示されています。

以上より、選択肢①は誤りと判断できます。

『②学校全体として計画的に取り組む進路指導(ガイダンス)』

進路指導は生徒指導とは校務分掌において別領域として配置されています
生徒指導提要にもありますが、中学校の校務分掌の例として、教務部・生徒指導部・進路指導部・保健部・教科会・学校給食部・特別支援委員会・各種委員会などがあります。

進路指導は「生徒が自ら、将来の進路選択・計画を行い、就職又は進学をして、さらには将来の進路を適切に選択・決定していくための能力をはぐくむため、学校全体として組織的・体系的に取り組む教育活動」になります。
生徒指導の定義については選択肢⑤にありますが、内容が異なっているのがわかりますね

生徒指導提要には、生徒指導と進路指導の関係性について以下のように記載があります。

  • 進路指導と、児童生徒の社会生活における必要な資質や能力をはぐくむという生徒指導は、人格の形成に係る究極的な目的において共通しており、個別具体的な進路指導としての取組は生徒指導面における大きな役割を果たすなど、密接な関係にある
  • しかし、学校において進路指導の中核を担う教員には、職業や産業社会に関する専門的な知見を有し、進路選択等を行う能力をはぐくむための技能等が求められることや、こうした考え方のもと、学校では、進路指導は生徒指導とは異なる校内業務として位置付けられていることから、本書では詳細については記載していない。
  • 進路指導の詳細については、「キャリア教育の推進に関する総合的調査研究協力者会議報告書」(平成16年1月28日)を参照されたい。

上記の通り、生徒指導と進路指導は密接な関係にあることを認めつつも、求められる知見・技能等の違いから異なる行内業務として位置づけられていることが示されています
進路指導については、上記のリンクから飛びましょう。

以上より、選択肢②は誤りと判断できます。

ちなみに、教育相談(スクールカウンセラーの担当であることが多い)は「生徒指導部」の中に組み込まれています。
学校の共有フォルダで「教育相談のフォルダってどこかな?」と思ったら、生徒指導部のフォルダを開けるとあると思いますよ。

『③非行や暴力行為など問題行動を叱責・罰則によって抑制する教育活動全般』

これは昨今の社会情勢を知っていれば誤りであることはわかるでしょうが、生徒指導提要上でどのように記載されているかを見ていきましょう。

「生徒指導の前提となる教育観・指導観」においては以下のように記されております。

  • 形だけの指導や叱責・罰則などによって問題となる行動が抑制されているという状態にとどまっているだけでは、十分な教育を行ったとは言えません
  • あくまでも、児童生徒が、自らの欲求を大切にしつつ、社会との調和を図りながら、自らの人格の完成を自ら求め、自己実現を図っていけるような資質や能力をはぐくんでいくことが、教育に課せられた大きな課題なのです
  • 生徒指導が、そうした教育活動において中心的な役割を果たしています。

また、上記以外にも叱責等に関する記載が見受けられます。
「生徒指導における児童生徒理解の重要性」においては以下のように記されております。

  • 性格的な特徴を知ることは、生徒指導の方法を示唆してくれるとともに、様々な問題の把握にも役立ちます。
  • 性格によって、禁止や叱責が有効なこともあるし、激励が必要なこともあります
  • また問題行動についても、非行の傾向や情緒的に不安定になりやすい性格などが考えられます。

これらの共通しているのは、あくまでも人格の完成を自ら求め、自己実現を図っていけるようにすることが目的であり、叱責等については児童生徒の性格に合わせて行うことで効果的な「場合もある」という認識ですね。

もしも生徒指導を「非行や暴力行為など問題行動を叱責・罰則によって抑制する教育活動全般」だと思っているならば、それはかなり生徒指導に関するイメージが偏っているような気がします。
そういう先生に出会ってきたということもあるのかもしれませんね。

どうも学校に対して抱くイメージについては、学校から離れた位置にいる専門家ほどネガティブな気がしています。
もちろんこれは、学校から見た医療領域に関しても言えることかもしれません。
心理職は、こうした隙間を埋める専門職だと思います(隙間産業ですね)。
きちんと両者の間に入って潤滑油として、時には重要な歯車として機能できるよう、自身の知見の偏りを自覚し、その上で他領域に関する知見を深める努力を重ねていくことが求められます。

以上より、選択肢③は誤りと判断できます。

『④校則に基づいて児童生徒に対して行われる個別指導を中心とした教育活動全般』

生徒指導提要の中に、校則については以下のような位置づけです。
校内規律は、自らの意志ではなく校則や教員からの指導により「守らされているもの」という意識から、規範の意義を理解し、児童生徒自らが規範を守り行動するという自律性をはぐくむことが重要です

また第7章第1節には校則に関する項目が設けられており、以下のように記載されています。
ちょっと長いですが、学校で校則とはどういう位置づけなのかを、この際きちんと押さえておきましょう。

  • 校則は、学校が教育目的を実現していく過程において、児童生徒が遵守すべき学習上、生活上の規律として定められており、…これらは、児童生徒が健全な学校生活を営み、よりよく成長していくための行動の指針として、各学校において定められています
  • 児童生徒が心身の発達の過程にあることや、学校が集団生活の場であることなどから、学校には一定のきまりが必要です。また、学校教育において、社会規範の遵守について適切な指導を行うことは極めて重要なことであり、校則は教育的意義を有しています。
  • 校則について定める法令の規定は特にありませんが、判例では、学校が教育目的を達成するために必要かつ合理的範囲内において校則を制定し、児童生徒の行動などに一定の制限を課することができ、校則を制定する権限は、学校運営の責任者である校長にあるとされています。
  • 校則の内容は、社会通念に照らして合理的とみられる範囲内で、学校や地域の実態に応じて適切に定められることとなるので、全国一律の校則があるわけではありません。学校種や児童生徒の実情、地域の状況、校風など、学校がその特色を生かし、創意工夫ある定め方ができます。
  • ただし、しつけや道徳、健康などに関する事項で、細かいところまで規制するような内容は、校則とするのではなく、学校の教育目標として位置付けた取組とすることや、児童生徒の主体的な取組に任せることで足りると考えられています。
  • 校則に基づき指導を行う場合は、一人一人の児童生徒に応じて適切な指導を行うとともに、児童生徒の内面的な自覚を促し、校則を自分のものとしてとらえ、自主的に守るように指導を行っていくことが重要です。教員がいたずらに規則にとらわれて、規則を守らせることのみの指導になっていないか注意を払う必要があります
  • 校則に違反した児童生徒に懲戒等の措置をとる場合がありますが、その際には、問題の背景など児童生徒の個々の事情にも十分に留意し、当該措置が単なる制裁的な処分にとどまることなく、その後の指導の在り方も含めて、児童生徒の内省を促し、主体的・自律的に行動することができるようにするなど、教育的効果を持つものとなるよう配慮しなければなりません
  • 校則の指導が真に効果を上げるためには、その内容や必要性について児童生徒・保護者との間に共通理解を持つようにすることが重要です。そのため、校則は、入学時までなどに、あらかじめ児童生徒・保護者に周知しておく必要があります。その際には、校則に反する行為があった場合に、どのような対応を行うのか、その基準と併せて周知することも重要です
  • 校則の内容の見直しは、最終的には教育に責任を負う校長の権限ですが、見直しについて、児童生徒が話し合う機会を設けたり、PTAにアンケートをしたりするなど、児童生徒や保護者が何らかの形で参加する例もあります。校則の見直しに当たって、児童会・生徒会、学級会などの場を通じて児童生徒に主体的に考えさせる機会を設けた結果として、児童生徒が自主的に校則を守るようになった事例、その取組が児童生徒に自信を与える契機となり、自主的・自発的な行動につながり、学習面や部活動で成果を上げるようなった事例などがあります。

下線部の通り、校則に基づくことが重要ではなく、それが内面的な自覚として自主的に守ることができるような指導が重要と言えます。

以上より、選択肢④は誤りと判断できます。

『⑤児童生徒の社会的な資質や行動力を高めることを目指して行われる教育活動全般』

生徒指導提要の第1章の一番初めに以下のように定義されています。
生徒指導とは、一人一人の児童生徒の人格を尊重し、個性の伸長を図りながら、社会的資質や行動力を高めることを目指して行われる教育活動のことです。すなわち、生徒指導は、すべての児童生徒のそれぞれの人格のよりよき発達を目指すとともに、学校生活がすべての児童生徒にとって有意義で興味深く、充実したものになることを目指しています。生徒指導は学校の教育目標を達成する上で重要な機能を果たすものであり、学習指導と並んで学校教育において重要な意義を持つものと言えます」

こうした事柄を理解しやすくするためにも、教育基本法についても見ておきましょう。
その第1条「教育の目的」では、「教育は、人格の完成を目指し、平和で民主的な国家及び社会の形成者として必要な資質を備えた心身ともに健康な国民の育成を期して行われなければならない」と定められています。

また第2条「教育の目標」では、「教育は、その目的を実現するため、学問の自由を尊重しつつ、次に掲げる目標を達成するよう行われるものとする」とし、以下の5つを挙げています。

  1. 幅広い知識と教養を身に付け、真理を求める態度を養い、豊かな情操と道徳心を培うとともに、健やかな身体を養うこと。
  2. 個人の価値を尊重して、その能力を伸ばし、創造性を培い、自主及び自律の精神を養うとともに、職業及び生活との関連を重視し、勤労を重んずる態度を養うこと。
  3. 正義と責任、男女の平等、自他の敬愛と協力を重んずるとともに、公共の精神に基づき、主体的に社会の形成に参画し、その発展に寄与する態度を養うこと。
  4. 生命を尊び、自然を大切にし、環境の保全に寄与する態度を養うこと。
  5. 伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛するとともに、他国を尊重し、国際社会の平和と発展に寄与する態度を養うこと。

こうした教育の目的・目標をきちんと把握していれば、本選択肢の内容が適当であることがよくわかると思います
私の教育に関する現時点でのイメージは「子どもたちを成熟した大人として社会のフルメンバーに加えるための営み」という感じです。
学校で働く心理職は、教育とは何ぞや、学びとは何ぞやということを考え続けることが大切だろうと思います(考え続けることであって、答えを持つこと、ではありません)。
それは医療や福祉でも同じでしょうね、きっと。

以上より、選択肢⑤が正しいと判断できます。

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