公認心理師 2018追加-65

中学2年の担任教師Aの事例です。

事例の詳細は以下の通りです。

  • Aは、中学校でスクールカウンセリングを担当している公認心理師に相談した。
  • クラスの女子生徒Bが「誰にも言わないでください」と前置きして話し出した。
  • 「小学校6年生になったころから、母親が夜仕事に出ていくと継父が夜中に布団に入ってくる」
  • 「夜になるとまた来るのではないかと恐ろしくて眠れない」
  • Aは性的虐待の可能性が高いと思うが、Bに詳しく聞いていないため確証が得られていない。
  • 今後、担任教師としてどのように対応すべきか助言してほしいという。
Aに対する公認心理師の助言として、最も適切なものを1つ選ぶ問題です。
児童虐待防止法第2条において「この法律において、「児童虐待」とは、保護者がその監護する児童について行う次に掲げる行為をいう」とされています。
  1. 児童の身体に外傷が生じ、又は生じるおそれのある暴行を加えること。
  2. 児童にわいせつな行為をすること又は児童をしてわいせつな行為をさせること。
  3. 児童の心身の正常な発達を妨げるような著しい減食又は長時間の放置、保護者以外の同居人による前二号又は次号に掲げる行為と同様の行為の放置その他の保護者としての監護を著しく怠ること。
  4. 児童に対する著しい暴言又は著しく拒絶的な対応、児童が同居する家庭における配偶者に対する暴力その他の児童に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと。
この点は基本として押さえておくことが求められますね。
その他にも、いくつかポイントがありますので、それを押さえながら解説を進めていきます。

解答のポイント

守秘義務の取り扱いや実際に見聞きしていないという状況でどう対応するかがわかる。

選択肢の解説

『③虐待の可能性があることを、児童相談所に通告する』

この問題は正答の解説をした後の方が、他の選択肢の解説がしやすいので、まずはこちらから入ります。
この事例のポイントは以下の通りです。
  1. 守秘義務の取り扱い。
  2. コンサルテーション事例、すなわち、公認心理師が直接聞いていない。
  3. 虐待の有無について検証する必要性。
これらについて解説しながら進めていきます。
まず第1のポイントである守秘義務の取り扱いです。
児童虐待防止法第6条の「児童虐待に係る通告」の第3項には、「刑法の秘密漏示罪の規定その他の守秘義務に関する法律の規定は、第一項の規定による通告をする義務の遵守を妨げるものと解釈してはならない」とあります。
(第1項は、児童虐待を受けたと思われる児童を発見した者は通告しなければならない、というもの)
よって、Bに虐待の可能性があるのであれば、守秘義務を超えて通告することが求められます
一方で、「誰にも言わないでほしい」というBの思いをどのように汲み取りつつ支援を行うことが重要です。
守秘義務を超えるけれども、しかしBを守るために通告するということ、その辺のことをBにどのように伝えるかでBが大人への信頼を高めるか否かが変わってきます。
それはそのままBの支援へのつながりやすさ、動機づけの高さにも係わってきます。
第2および第3のポイントについては以下の通りです。
この事例は公認心理師が直接は聞いていない状況です。
当然、虐待が本当に行われているか否かはわからないわけです。
そこで重要なのが、前述した児童虐待防止法第6条の内容です。
その第1項には「児童虐待を受けたと思われる児童を発見した者は、速やかに、これを市町村、都道府県の設置する福祉事務所若しくは児童相談所又は児童委員を介して市町村、都道府県の設置する福祉事務所若しくは児童相談所に通告しなければならない」とあります。
重要なのが、児童虐待を受けたと「思われる」児童を発見した者、という点です。
確証がなくても、その可能性がある場合には通告することが法的義務となっています。
すなわち重要なのは「虐待の有無の検証」ではなく、「虐待が行われている可能性があれば通告する」という認識を持つことですね。
とは言っても、それらしい表現があればすべて通告というのも専門家としていかがなものかと思います。
子どもの状態や年齢によっては、実際と違うように話すことも少なくありません。
その辺を考慮して、事例中に「Aは性的虐待の可能性が高いと思うが」という担任教師の感覚を載せているわけです。
上記の通り、本問はBの話を全面的に信じて虐待の緊急度を測ることをする必要は大きくありません(問題を解く上で、ということですよ)。
ですが、一応その作業も行っていきます。
公認心理師試験2018-2に記載してある資料を参照してください。
こちらにもあるとおり、Bのされていることは緊急一時保護を検討する事態だということがわかります。
以上より、選択肢③が最も適切だと判断できます。

『①母親に電話して事実を確認する』

公認心理師2018-144にも母親に連絡することに関する解説を書きました。
この選択肢にはいくつかの問題があります。
まずは、母親が事実を知らない可能性もありますが、その場合は伝えてどう反応するかが読めないという危険性があります。
また、母親が事実を知っていた場合では、母親が知っていて放置しているのは児童虐待防止法の「ネグレクト」に該当し、母親が一緒になって虐待をしているのと同じということになります。
すなわち、より危険な状態にBを追い込むことになりかねません。
上記は実際のところはわかりませんが、「そういった危険な可能性がある対応」を取ること自体が間違いです。
Bがなぜ母親ではなく担任教師に伝えてきたのか、母親に心配かけさせたくなかったのか、母親も自分の味方ではないと思ったからなのか、それとも他にも理由があるのか、その辺はわかりません。
虐待事例において母親が抑止力になるかどうかは、一時保護の後でしっかりと児童相談所が見立てる事柄だろうと思います。
この時点で、学校のSCが取る対応は何かを考える問題ですから、それを踏まえて解いていきましょう。
以上より、選択肢①は不適切と判断できます。

『②Aが中心となって、この問題に取り組む』

児童虐待防止法第5条には「学校、児童福祉施設、病院その他児童の福祉に業務上関係のある団体及び学校の教職員、児童福祉施設の職員、医師、歯科医師、保健師、助産師、看護師、弁護士その他児童の福祉に職務上関係のある者は、児童虐待を発見しやすい立場にあることを自覚し、児童虐待の早期発見に努めなければならない」とあります。
早期発見しやすい立場として、学校の先生が挙げられているわけですね。

ただし、この選択肢にあるように「担任教師Aが中心になって、この問題に取り組む」のは誤りです。
実際に児童相談所に通告する場合には、まず管理職とその必要性を伝え、管理職から児童相談所に通告してもらうのが常識的な流れです。
たいていは、Bから話を聞いたらそのままBを学校に留め、すぐに管理職等と協議し、その日のうちに児童相談所に通告という流れかなと思います。
このような事態に対応するために、学校では管理職のいずれか(校長or教頭)が学校にいるようになっています。
すなわち、学校全体で対応するべき事態であり、担任教師の責任で行える範囲を超えています
虐待通告もそうですが、それ以降の親とのやり取りも協議していかねばなりません(児童相談所が対応するものですが、親によっては学校を責めてくることもあるでしょう)。
他の児童からの聞き取りが必要になってくる場合も考えられます。
そういった諸々の事態を見越せば、担任の責任によって対応できることではないと理解できると思います
以上より、選択肢②は不適切と判断できます。

『④安心して話していいとBに伝えて、話してくるまで待つ』

こちらはリスクアセスメント的にあり得ない対応です。
前述したとおり、Bの受けていることが事実であれば緊急一時保護を検討すべき事態です。
こういった危機的状況で「話してくるまで待つ」ということはあり得ません
Bが話してくるまでに、取り返しのつかない事態になる可能性を考えましょう。
また「安心して話していいとBに伝えて」ということについては、「誰にも言わないでください」と伝えていたにも関わらず担任教師Aが公認心理師に伝えているという事実を見落としています。
秘密を守らなかった大人に対して、Bが話してくるかどうかはかなり怪しいところです。
小さいところですが「安心して話していい」という許可のニュアンスが気に入りません。
「○○していいからね」というのは優しそうな言葉に見えて、上から目線でものを言っている表現だと心得ましょう(何かを許可する権利を持っているのは、常に立場が上の者ですよね)。
そもそも話すこと自体がBにとってかなりリスキーな行為であるし安心できるはずもありませんね。
以上より、選択肢④は不適切と判断できます。

『⑤秘密は必ず守るとBに伝えて、これまでの経緯と現状を詳しく尋ねる』

この選択肢が不適切なのは「秘密は必ず守る」と伝えることです。
不適切ポイント1は、すでに担任が秘密を守らずに公認心理師に伝えているということですね。
子どもからすれば、約束を守ってくれなかった人の言葉をどれほど信じるでしょうか。
(選択肢③の解説にも書いた通り、秘密を守れない状況でどうBとの信頼を築くかは著しく臨床的能力が問われる事項だと思います)
不適切ポイント2は、出てきた内容によっては「秘密は必ず守る」と言えないからです。
本問はBの語る内容の真偽は問題ではありませんので、一般的な臨床の考え方を問われていると捉えていきましょう。
一般的にどのような臨床場面であろうが、「秘密は必ず守る」とは言えないのではないかと思います。
そういった「無い袖を振る」行為は、どこか支援者のエゴが隠されているように感じますし、要心理支援者を依存させようとする形になりがちだと思います。
また選択肢後半の「これまでの経緯と現状を詳しく尋ねる」という行為も、心的外傷を考慮すれば適切な対応ではありません
公認心理師2018-93公認心理師2018-96公認心理師2018-124公認心理師2018-143などに、心理的デブリーフィングについて記載しました。
以上より、選択肢⑤は不適切と判断できます。

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