公認心理師 2018追加-43

いじめ防止対策推進法におけるいじめの定義として、最も適切なものを1つ選ぶ問題です。

現在の定義だけでなく、いじめの定義がどのように推移してきたのか、どういう点が変更されてきたのかをきちんと理解しておけば解きやすい問題だと思います。

解答のポイント

いじめ防止対策推進法におけるいじめの定義を把握していること。
文部科学省が出しているいじめの定義の変遷を知っていると、選択肢の除外をしやすい。

解答のポイント

こちらの問題については、文部科学省が出しているいじめの定義の変遷を見ていきましょう。

【昭和61年度からの定義】

いじめとは、

  1. 自分より弱い者に対して一方的に
  2. 身体的・心理的な攻撃を継続的に加え
  3. 相手が深刻な苦痛を感じているもの

であることを前提として、学校としてその事実(関係児童生徒、いじめの内容等)を確認しているものを指しています。
なお、「起こった場所は学校の内外を問わないもの」とされています。

【平成6年度からの定義】

いじめとは、

  1. 自分より弱い者に対して一方的に
  2. 身体的・心理的な攻撃を継続的に加え
  3. 相手が深刻な苦痛を感じているもの。なお、起こった場所は学校の内外を問わない

であるとしています。
以前の定義との変更点として、「起こった場所は学校の内外を問わない」が追加されています。
また、「個々の行為がいじめに当たるか否かの判断を表面的・形式的に行うことなく、いじめられた児童生徒の立場に立って行うこと」という点も追加されています。

【平成18年度からの定義】

この年からいじめの定義が以下のように修正されています。

  • 個々の行為が「いじめ」に当たるか否かの判断は、表面的・形式的に行うことなく、いじめられた児童生徒の立場に立って行うものとする。
  • 「いじめ」とは、「当該児童生徒が、一定の人間関係のある者から、心理的、物理的な攻撃を受けたことにより、精神的な苦痛を感じているもの」とする。
  • なお、起こった場所は学校の内外を問わない。

以前の文言から、「一方的に」「継続的に」「深刻な」といった文言が削除されています。
更に、「いじめられた児童生徒の立場に立って」「一定の人間関係のある者」「攻撃」等について、注釈を追加していますね。

【いじめ防止対策推進法の施行に伴った、平成25年度以降の定義】

同法第2条にいじめの定義が以下のようになされています。
「この法律において「いじめ」とは、児童等に対して、当該児童等が在籍する学校に在籍している等当該児童等と一定の人的関係にある他の児童等が行う心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものを含む)であって、当該行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じているものをいう」

関連する内容として、同法第3条の基本理念が以下のように定められています。

  1. いじめの防止等のための対策は、いじめが全ての児童等に関係する問題であることに鑑み、児童等が安心して学習その他の活動に取り組むことができるよう、学校の内外を問わずいじめが行われなくなるようにすることを旨として行われなければならない。
  2. いじめの防止等のための対策は、全ての児童等がいじめを行わず、及び他の児童等に対して行われるいじめを認識しながらこれを放置することがないようにするため、いじめが児童等の心身に及ぼす影響その他のいじめの問題に関する児童等の理解を深めることを旨として行われなければならない。
  3. いじめの防止等のための対策は、いじめを受けた児童等の生命及び心身を保護することが特に重要であることを認識しつつ、国、地方公共団体、学校、地域住民、家庭その他の関係者の連携の下、いじめの問題を克服することを目指して行われなければならない。

この点からも、いじめが起こった場所が学校の内外を問うていないことがわかります。

これらの点を踏まえて、各選択肢を見ていきます。

『①自分よりも弱い者に対し一方的に与える身体的・心理的な攻撃であること』

こちらの選択肢の内容は昭和61年の定義が近く、しかも被害者側の苦痛感については全く触れていませんね
この選択肢の問題点としては以下の通りです。

  • 「自分よりも弱い者」という曖昧な状況設定があること。
  • 「一方的」であることを条件としている。
  • 被害者側の苦痛に触れていないこと。
これらの点から、選択肢①は不適切と判断できます。

『②身体的・心理的な攻撃が継続的に加えられ、相手が深刻な苦痛を感じていること』

こちらの選択肢の内容は昭和61年および平成6年の定義に近くなっています
この定義の問題点としては以下の通りです。

  • いじめる側といじめられる側の関係性について触れていない。
  • 「継続的」であることを条件にしている。
  • 「深刻な苦痛」という苦痛感に曖昧な条件があること。
これらの点から、選択肢②は不適切と判断できます。

『③一定の人間関係のある者から、心理的、物理的な攻撃を受けたことにより、精神的な苦痛を感じていること』

こちらの選択肢の内容は平成18年度の定義に近いものになっています
こちらの定義の問題点としては以下の通りです。

  • いじめる側といじめられる側の関係性が広すぎる:例えば他校生徒からの暴力行為なども「いじめ」とせざるを得なくなる。
  • 苦痛感に「精神的」という条件があること
これらの点から、選択肢③は不適切と判断できます。

『④一定の人的関係のある他の児童等から、心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを含む。)を受け、それによって心身の苦痛を感じているということ』

こちらの選択肢の内容はいじめ防止対策推進法の定義になっています。

平成18年度の定義では、いじめの対象となる人間関係の枠組みを広げすぎていましたので、その点が修正されましたね。
また、「精神的」に限定せず「身体的」なものを含む内容となっています。

かなり被害者側に寄った定義と言えるでしょう。
それ自体は問題ないと思うのですが、現場ではなかなか難しいところがあります。

これは余談ですが、心理学的に見た「被害者」というのは、必ずと言って良いほど「自分が悪い」という感覚を持っています。
ですが、そういった感覚を法律の定義に含むことはできませんし、いじめを防ぐという大同のために小異を切り捨てざるを得ないのでしょう。

以上より、選択肢④が最も適切であると判断できます。

1件のコメント

  1. お世話になっております。「一定の人的関係のある他の児童等から」と、加害者の範囲が限定されています。最近の報道では、SNS等で知らない人から書き込みをされ、心理的に落ち込んだという例が紹介されています。これらは、いじめ防止対策推進法が想定するいじめではない、という理解でよろしいですか

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