公認心理師 2020-98

教育心理学で話題になりやすい主体的な学びや個に応じた学びに関する問題です。

いわゆる「授業方法」という枠組みで語られるテーマになりますから、教育心理学の書籍等で確認しながら学ぶと良いかもしれませんね。

問98 学びは多様であるが、例えば洋裁を学ぶ際に、工房に弟子入りし、仕上げ、縫製、裁断などの作業に従事し、やがて一人前となるような学びを説明する概念として、最も適切なものを1つ選べ。
① 問題練習法
② ジグソー学習
③ 問題解決学習
④ 正統的周辺参加
⑤ プログラム学習

解答のポイント

教育心理学における教育方法について把握している。

選択肢の解説

① 問題練習法

まず「問題練習法」という概念自体を見つけることができませんでした。

10冊程度の教育心理学関係の書籍をざっと見てみましたが、こちらに該当しそうな概念は見つかりません(インターネットで検索しても、論文検索しても出てこない)。

本問の特性上、おそらく「問題練習法」という特定の教育アプローチについて述べているのだと思いますが(他選択肢が全てそういう仕組みになっているので、本選択肢もそれと同じでないと違和感が大きい)、それを見つけられない以上、ここでは「練習による学習」という全般的な解説にとどめることにします。

そもそも「練習」とは、学習の定義のうち、経験に係わる学習成立要因の一つです。

一般にある動作を繰り返す反復すると、その技能の自動化、量的・質的向上がみられるが、同時に、疲労や心的飽和も現れてきます。

「練習」とは、通常前者を目指しての反復行為を指します。

一般に練習過程は、横軸に練習回数・期間、縦軸に量的・質的向上を示す測度を用いて練習曲線を描いて示すことができます。

課題や測度によって異なりますが、一般的に、初頭期は初頭努力によって成績の向上が見られ、中期は疲労その他の負の要因がその成績の向上を制止して向上が一時停止します(プラトー期)。

終期には再び向上が見られ、こうした練習曲線で性格の判定を行うのが内田‐クレペリン検査ですね。

こうした「練習」の効果に関しては、技能学習の中で語られることが多いですね。

本選択肢は、「問題」を「練習」する方法ということですから、単純に考えれば、上記のような「練習」の効果を目指して問題を解いていく方法ということになるのかもしれません。

ですが、本問の構成として、すべて「教育者が行う教育方法」について述べていると言え、単に「問題を練習すること」を指すのであれば、「教育者が行う教育方法」と見なすのは難しいと考えられます。

本問の構成を踏まえれば、「問題を練習すること」ではなく「どういう問題の練習のさせ方をするか」に関する概念が出題されるべきですから、上記のような単純な捉え方ではいけないように思います。

いずれにせよ、これ以上は「問題練習法」という特定の方法を見つけられないことには進められません。

また、何かの機会に探しておきましょう。

以上のように、本選択肢の概念がどういった教育アプローチを指すのか不明ですが、他の選択肢の中に設問の内容と合致するものがありました。

よって、選択肢①は(おそらく)不適切と判断できます。

② ジグソー学習

ジグソー学習とはAronsonらが開発した学習指導法です。

例えば、30人の学級があったとして、まずこれを6人ずつの5集団に分けて「ジグソー集団」とし、協同学習の仲間と決めます。

次に学習内容を6つに分割して6か所のテーブルで並行して各内容を学習しますが、このとき、各集団から1人ずつの代表が各テーブルに出張することになります(これを「カウンターパートセッション」と呼びます)。

学習が終わったら各代表は自分のジグソー集団に戻り、今度は学習内容を仲間に教えることになります(これを「ジグソーセッション」と呼びます)。

こうしたジグソー学習は、個人間競争が成功と両立しない仕組みになっているのが特徴で、協力の意義が体験できるとされています。

また、各代表は異なった内容を学習しているので、集団の中では自分が教え役を体験できると同時に、仲間を頼ることができないため、カウンターパートセッションにおける学習が真剣になります。

さらに、仲間内の一人ひとりが重要な存在になるため、差別やいじめの解消につながることが期待されています。

ジグソー学習の実施にあたっては、各ジグソー集団の人数と学習内容の分割数が同じにすることが必要条件となります。

なお、各集団が異なったピースを持ち寄って1枚の絵を構成するジグソーパズルに似ていることから「ジグソー学習」と命名されました。

上記の通り、ジグソー学習は協同学習(助け合いで学ぶ)という枠組みの方法の一つであり、他の協同学習法として、バズ学習(少人数グループに分けて話し合わせる。話し合い時にうるさいから「バズ」学習とされている)やLTD話し合い学習法(読書課題の予習の上、話し合う内容に関するステップが設けられている)などがあります。

ジグソー学習の長所は、①学習者一人一人に責任感、学習への参加意識=意欲が生まれる、②学習に対する視野が広がる、③自己有用感や自尊感情が育まれる、などが挙げられます。

これに対して、ジグソー学習の短所は、①教師の課題設定と人数に応じた学習課題のパート分けが重要になり、相応の力量が求められる、②カウンターグループで、どこまで自分の主観を発して良いかについての戸惑いが生まれる、③学習者の知的能力により、学習者全体への影響がある、などが挙げられます。

上記の通り、本選択肢の内容は設問のそれとは異なることがわかります。

以上より、選択肢②は不適切と判断できます。

③ 問題解決学習

問題解決学習とは、アメリカの教育学者Deweyによって提唱された体系的な知識の配列に沿った学習を行うのではなく、具体的な問題の解決を通して進める学習のことを指します。

学習を能動的なものと規定し、知識の暗記にみられる受動的なものを脱却し、自ら問題を発見し解決していく能力を身につけていくことに本質を求めました。

デューイは学校を「小さな社会」と捉え、直接的経験、生活、作業、反省的思考の重要性を強調しています。

特に反省的思考については「暗示‐知性化‐仮説‐推理‐検証」という流れの学習指導の展開を提唱しています。

このことから、問題解決学習では、以下のような流れに沿って行われます。


  1. 問題解決の発見:暗示とも言われ、子どもたちが直面する生活上の問題を間接的に題材として教師が課題を提示する。
  2. 問題の整理:知性化とも言われ、子どもたちが主体となり、提示された課題について、何が問題の核心なのかについて整理を行う。
  3. 解決のための観察:仮説とも言われ、暗示された問題が日常生活のどのような場所で生じているのかを第3者の視点で観察し、問題のコア=核を予測する。
  4. 問題解決に向けた方策の発見とその吟味:推理とも言われ、子どもたちが主体となり問題解決の具体的方法を話し合う。
  5. 問題解決策の適応:検証とも言われ、自分たちで考え出した問題への解決方法を体験として実行し、その結果を振り返る。

問題解決学習ではこうした学習指導過程を基本形としています。

このように教師が子どもたちに学習を押し付けるのではなく、子どもたちが主体的に学習に取り組むための環境や教材又は方法を講じていく考え方を「プラグマティズム」と呼びます。

文部科学省は、大学教育改革のためにアクティブ・ラーニングを推奨しており、その一環として課題解決型学習をあげていますね。

問題解決学習の長所は、①日常場面から課題を暗示するため学習に親しみを持たせやすい、②直接体験をさせるため、日常生活に直結する、③学習内容の保持が高い、ということが挙げられます。

これに対して、問題解決学習の短所は、①多くの時間と労力が必要になる(うまくいかなければマイナスも大きいということ)、②基礎学力がないことには、問題解決の方法が発想できない、③問題場面ごとに解決方法を模索するため、様々な場面に般化されにくい、などが挙げられます。

上記の通り、本選択肢の内容は設問のそれとは異なることがわかります。

よって、選択肢③は不適切と判断できます。

④ 正統的周辺参加

正統的周辺参加は、学習における状況論的アプローチの一つです。

状況的学習論は、学習のメカニズムを論じる理論ではなく、学習を社会から孤立した個人の営みとは考えず、学習を様々な実践的な活動の場における技術や知識の習得と捉え、学習は社会的状況や文脈に埋め込まれていると考えます。

上記の「学習が状況に埋め込まれている」とは、状況それ自体の中に学習や実践の知が存在していること、さらに学習がなされることによってまた新たな状況が創り出されていることを言います。

こうした状況的学習論の提唱者であるLave&Wengerは、学習とはある実践の共同体の一員になる過程であり、その共同体における言葉を使い活動し、さらに共同体を構成していくことであると考えます(例えば、転校生や帰国子女がクラスに慣れ、共に行動し、そのクラスの様式を身につけ、クラスの中心メンバーになっていく過程も学習と見なすわけですね)。

レイヴとウェンガーは、この学習論を「正統的周辺参加」という言葉で説明しています。

正統的周辺参加とは、学習者が共同体の新参者として重要な業務の周辺的な重要度の低い業務を担当するところから始め、技能の熟達につれ中心的でより重要な業務を担当する十全的参加者へと変化していくことを指します。

彼女らは実践共同体として、リベリアの仕立て屋を取り上げ、新参者が古参者になる過程を明らかにしています。

新参者は、最初は帽子とズボン下、子どもの普段着の作り方を学び、その後に外出着やフォーマルな衣服、そして最後に高級スーツを作るようになります。

そこではボタン付けなど衣服の製造の仕上げの段階を学習することから始め、それから縫うことに、そしてその後にはじめて布の裁断の仕方を学びます。

新参者は失敗してもやり直しがきき、大きな損害のない周辺的な事柄を担当するのですが、それでも仕立ての仕事の中で一定の役割を果たすことで、仕立て屋の共同体の一員となります。

また、新参者は直接教わるのではなく、親方や他の徒弟の仕事を観察することから学んでいきます。

このような実践の場で獲得される知識や技術は、抽象的で断片的な知識ではなく、実際の業務の遂行に深くかかわるものです。

つまり、状況的学習論の立場では、学習するとは、最終的に社会の中で何らかの役割を果たすことができるようになることなのです。

その意味で、学習するとは、社会的参加の過程であり、個人がその社会の中で自己を構成していく過程と捉えているわけですね。

正統的周辺参加のような学習は、典型的には伝統産業の技術や実践知の伝達を狙いとする徒弟制をはじめ、実践知の伝達を必要とする場(中心となる熟練した古参者がいて、古参者を取り巻くように熟練度の異なる様々な参加者がいる共同体)に共通するものと言えます。

なお、2020-24の選択肢③には「認知的徒弟制」が出題されていますが、こちらは伝統的な徒弟制における学びのシステムを踏まえ、学校教育における認知的な学びを捉えようとする立場ですね。

上記の通り、本選択肢の内容は設問のそれと合致すると言えますね。

以上より、選択肢④が適切と判断できます。

⑤ プログラム学習

プログラム学習は、スキナーの理論提起が主たる契機となって構築されたものです。

プログラム学習におけるプログラムとは「学習目標を書く学習者に達成させるために学習内容を具体化し目標行動として、あらかじめ系列化した意図に従って確実に学習させる整理・体系化した内容」を指します。

すなわち、学習内容が強化の論理に従って細かく順序よく整理され(=スモールステップの原理)、ステップごとに学習者の反応が喚起されるよう(=積極的反応の原理)に進行しながら、各ステップの学習の確認(=フィードバックの原理)がなされ得るようになっていることです。

また、プログラムによる学習の進度は各学習者の個別(=自己ペースの原理)に応じてなされます。

更に、意図的に作成され学習者に供するプログラムは常時学習者の学習結果により修正(=学習者検証の原理)されることが特徴です。

つまりプログラム学習は以下のようにまとめられます。

  1. スモールステップの原理:最終目的に至るまでの下位目標を難易度の順に配列し、スモールステップを重ねることで最終目的に到達できるようにする。
  2. 積極的反応の原理:回答を書くなどのように積極艇に行動で反応させる。反応には強化(正誤に基づくフィードバック)が与えられる。
  3. フィードバックの原理:正誤に基づくフィードバックは回答の直後に即時的に与えられる。
  4. 自己ペースの原理:個人差に応じて、学習者のペースで進められる。「オペラント=自発」であることからも、これが前提であると言える。
  5. フェイディングの原理:はじめは正答が出やすいようにヒントなどの援助を多く与えるが、次第に援助を減らし、自己の力で行うようにさせる。
    (なお、これらの原理について一つ、以下を掲げる研究者もいます)
  6. 学習者検証の原理:教師により作成された上述のプログラムの妥当性を、学習者の理解や発達度との一致度により検証する。

こうしたプログラム学習の長所は、①学習者の能力や学習態度に対応して、学習を最適化できる、②教師の学習指導方法における個人差の影響を小さくできる、③自分で誤答を訂正することができ、不安の高い学習者も安心できる、などが挙げられます。

これに対して、プログラム学習の短所は、①プログラム学習そのものを適用できる教科が、確実に正解が出せる科目に限られる、②学習者の自由な発想や積極的な学習活動を育成しづらい、③課題が単調になり、学習者が飽きてしまうことがある、などが挙げられます。

上記の通り、本選択肢の内容は設問のそれとは異なることがわかります。

以上より、選択肢⑤は不適切と判断できます。

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