公認心理師 2020-100

教育においては、児童生徒を何らかの方法によって評価していくことになります。

その評価方法に関する問題となっています。

今年度は、教育心理学からの出題も多くみられますね。

問100 教育場面におけるパフォーマンス評価のための評価指標を示すものとして、正しいものを1つ選べ。
① ルーブリック
② ポートフォリオ
③ テスト・リテラシー
④ ドキュメンテーション
⑤ カリキュラム・マネジメント

解答のポイント

教育における様々な評価法やその具体的な方法論について把握している。

選択肢の解説

① ルーブリック
② ポートフォリオ
④ ドキュメンテーション

学習評価や教育評価の重要な目的の1つは改善です。

教育評価の手順は、教育測定をして、何かに照らして改善の手がかりをつかみ、改善策を立て、実践にかけることになります。

学習や教育の成果を調べるための手段としては、以下のような手段が考えられます。


  1. 本人から情報を得る方法
    ・ペーパーテスト:中間テスト、期末テストのような定期テストなど。教科学習におけるごく一般的な技法である。
    ・行動観察:児童生徒のつぶやき、目立った行動などのエピソードを観察する。
    ・実技テスト:体育、理科、英語(英会話)などで使われる。
    ・ポートフォリオ:美術の作品制作、総合的な学習の時間、生活科などで好んで援用される。資料の収集、整理による。
    ・アンケートや面接:教師と児童生徒との対話と言い換えても良い。やわらかい聞き取り。
  2. 間接的に情報を得る方法
    ・他の教師から意見を求める。学習指導では、研究授業などの研修の場が多い。
    ・他の児童生徒から意見を求める。
    ・保護者や地域の人々からの意見を求める。

ここで挙げた選択肢でテーマになっているのは、ルーブリック、ポートフォリオ、ドキュメンテーションに関することですが、これらについては上記の「ポートフォリオ」に関して詳しく述べることで解説していきましょう。

教師と児童生徒の2者間で、お互いの学習評価と教育評価が一致していれば、子どもの自己学習は積極的に進みやすいでしょうし、外発的モチベーション操作(教師が児童生徒に学ぶ意欲を強制的に起こさせる行為等)はずっと少なくて済みます。

この点で注目されているのが「ポートフォリオ」による評価です。

学習において、自分はどのようなことを努力しているのか、どこがどのように成長したか、何を達成したかなどについての証拠となるものを、目的、目標、規準と基準に照らして、系統的・継続的に収集したものを「ポートフォリオ」といいます。

子どもは教師と協同して、自己の成長の証拠となるものを収集していきます。

ポートフォリオに収められるのは、①学習の成果としての作品や学習のプロセスを示す作業メモ、②子どもの自己評価、③教師による指導と評価の記録、などの3つになります。

ポートフォリオに収められた収集物に基づいて、教師や子どもが、子どもの成長を評価するのがポートフォリオによる評価法です。

ポートフォリオによる評価は、以下の4つの段階で進められます。


  1. 子どもたちにポートフォリオの紹介をして、目標や基準を確認する。
  2. 目標と基準に照らして作品を収集し、選択していく。単なる学習ファイルとの違いは、振り返って取捨選択するところにある。
  3. 自分の学習のプロセスと結果について振り返り、メタ認知していく。反省の段階である。
  4. 教師と子供の対話を中心とした検討会をもつ。子ども主導で保護者などを招待するような検討会も企画される。

こうしたポートフォリオによる評価の背景には、「真正の評価論(できるだけ現実の世界に近いリアルな課題に取り組ませる中で子どもを評価する)」と「構成主義の学習観(子どもを環境との相互作用のなかで自分の経験に関して個人的な理解を意味を構成していく能動的な学習主体と見なす立場)」があります。

こうしたポートフォリオの中でも、活動の記録や記述のためにポートフォリオを集積する作業は「ドキュメンテーション」と呼ばれています。

「ドキュメンテーション」は、プロジェクト活動の記録など「クラスの中で起こる子ども同士の関係や、子どもと保育者、子どもとモノとの関係など、二つか(二項関係)それ以上のものとの間で起こるある関係性を示したもの」とされています。

ドキュメンテーションのためのメディアは、絵や制作物、VTR、写真など、とにかく活動の様子や成果がわかるものであればよいとされています。

文部科学省のページや、教育心理学の書籍等を読んでの「ポートフォリオ」「ドキュメンテーション」の関係を考えてみると、まずは「ポートフォリオ評価」という枠組みがあって、その中に「ポートフォリオ」「ドキュメンテーション」という方法論があるというふうに読み取れました(ただし、その辺は資料によって微妙に表記が異なる。ポートフォリオとドキュメンテーションを別個としているものもあれば、重なり合ったものであると見なしているものもある)。

こうした「ポートフォリオ評価」の長所は、児童生徒と教師がポートフォリオやドキュメンテーションを前にしてお互いに評価作業することができるという点にあります。

定期テスト等と違い、学習の過程を質的に見ていくことができるため、児童生徒が自ら進んで学習に取り組むことができやすくなると考えられます。

しかし、ここで一つ問題があります。

制作物やVTR、写真等のパフォーマンスを評価するのは至難の業ですが、ポートフォリオ評価では、パフォーマンス課題を評価することが行われています。

パフォーマンスを評価するには、質的に評価できるように評価指標を作成する必要があり、このための評価指標を「ルーブリック」と呼びます。

中央教育審議会が示している定義や説明は以下の通りになります。


米国で開発された学修評価の基準の作成方法であり、評価水準である「尺度」と、尺度を満たした場合の「特徴の記述」で構成される。記述により達成水準等が明確化されることにより、他の手段では困難な、パフォーマンス等の定性的な評価に向くとされ、評価者・被評価者の認識の共有、複数の評価者による評価の標準化等のメリットがある。
(「新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて~生涯学び続け、主体的に考える力を育成するために~」答申より)

1)「目標に準拠した評価」のための「基準」つくりの方法論であり、学生が何を学習するのかを示す評価規準と学生が学習到達しているレベルを示す具体的な評価基準をマトリクス形式で示す評価指標である。
2)学習者の「パフォーマンスの成功の度合いを示す尺度と,それぞれの尺度に見られるパフォーマンスの特徴を説明する記述語で構成される、評価基準の記述形式」として定義される評価ツールのこと。
(中央教育審議会高等学校教育部会濱名篤委員(関西国際大学長)説明資料より)

難しく書いてありますが、よく成績評価で見る以下のようなものです。


こういう評価の方法は見たことがあると思いますし、多くの人が触れているものだろうと思います。

ルーブリックの一般的な特徴は以下の通りです。

  • 目標に準拠した評価のための基準作りに資するものである
  • パフォーマンス評価を通じて思考力、判断力、表現力等を評価することに適している
  • 達成水準が明確化され、複数の評価者による評価の標準化がはかられる
  • 教える側(評価者)と学習者(被評価者)の間で共有される
  • 学習者の最終的な到達度だけでなく、現時点での到達度、伸びを測ることができる

こうしたルーブリックに照らしながら、5~1点などと数量化してパフォーマンス評価を行っていくことになります。

もちろん、パフォーマンス評価が万能というわけではなく、例えば、ルーブリックの作成は難しく、パフォーマンス評価はとにかく時間がかかります。

しかし、このような作業を多くの教師がともに意見交換して取り組むことで、教師同士の学びあいが生まれ、児童生徒との結びつきもずっと近く親しみのあるものになっていきます。

以上より、ここで挙げた選択肢はそれぞれが関連しあっているので、違いを弁別できるようにしておくことが重要になります。

本問の「教育場面におけるパフォーマンス評価のための評価指標」として、最も適切であると考えられるのは「ルーブリック」と言えますね。

よって、選択肢②および選択肢④は誤りと判断でき、選択肢①が正しいと判断できます。

③ テスト・リテラシー

テスト・リテラシーとは、テスト活用能力のことを指します。

リテラシーとは社会の中で生きていくために必要な読み書き能力ですが、テストリテラシーとは「テストという事象や情報を正しく理解・分析・整理し、それを表現・判断する能力」ということになると思います。

テストリテラシーの構造は以下の通りです。


図.テストリテラシー(テスト活用能力)の構造

上記の各項目を説明しつつ、テストリテラシーの育成の重要性を述べていきましょう。

「テスト作成技能」では、教科内容として重要だとしても技術的に見てテスト問題としては出題しにくい内容があります。

この場合、出題されなかったから重要ではないと、児童生徒が誤解してしまう可能性が高くなってしまい、テスト作成技能が低いことでこうした問題を生み出してしまう恐れがあるのです。

「テストの採点技術」では、採点ミスが多かったり、重要性の点からみて不自然な配点をすると、児童生徒から教師への信頼が揺らぎ、教室の授業運びにも悪影響を及ぼします。

「テストの教育・学習利用法」や「テストの生徒指導・進路指導利用法」も同様です。

例えば、ある教科のテストだけでクラス分けをするのは個に対応していると言えませんし、テスト内容と児童生徒の人格面は無関係なので、この辺によって児童生徒への振る舞いを変えてしまうことはあってはならないことですよね(成績が悪いから生徒指導を厳しくするとか)。

このように、テスト・リテラシーとは、テストにまつわる様々な事象に関する理解とその活用に関する具体的な技術等を総合した概念と言えそうです。

こうしたテスト・リテラシーに関しては、教師だけが身につければよいものではなく、保護者や児童生徒も同様に育成し身につけることが求められていると考えられます。

このように、テスト・リテラシーは、本問で求められている「パフォーマンス評価」という限定的な評価に関する事項ではないことがわかります。

以上より、選択肢③は誤りと判断できます。

⑤ カリキュラム・マネジメント

学習指導要領が令和元年度に改定され、そこからの出題になります。

教育課程とは、学校教育の目的や目標を達成するために、教育の内容を子供の心身の発達に応じ、授業時数との関連において総合的に組織した学校の教育計画であり、その編成主体は各学校であります。

各学校には、学習指導要領等を受け止めつつ、子供たちの姿や地域の実情等を踏まえて、各学校が設定する教育目標を実現するために、学習指導要領等に基づきどのような教育課程を編成し、どのようにそれを実施・評価し改善していくのかという「カリキュラム・マネジメント」の確立が求められることになります。

特に、今回の改訂が目指す理念を実現するためには、教育課程全体を通した取組を通じて、教科横断的な視点から教育活動の改善を行っていくことや、学校全体としての取組を通じて、教科等や学年を越えた組織運営の改善を行っていくことが求められており、各学校が編成する教育課程を核に、どのように教育活動や組織運営などの学校の全体的な在り方を改善していくのかが重要な鍵となります。

つまり、カリキュラム・マネジメントとは、各学校が教育課程(カリキュラム)の編成、実施、評価、改善を計画的かつ組織的に進め、教育の質を高めることを意味します。

カリキュラム・マネジメントの狙いは、児童や学校、地域の実態を適切に把握し編成した教育課程に基づき組織的かつ計画的に各学校の教育活動(授業)の質の向上を図ることにあります。

こうした「カリキュラム・マネジメント」については、これまで、教育課程の在り方を不断に見直すという下記2の側面から重視されてきていますが、「社会に開かれた教育課程」の実現を通じて子どもたちに必要な資質・能力を育成するという新しい学習指導要領等の理念を踏まえ、これからの「カリキュラム・マネジメント」については、以下の3つの側面から捉えられます。


  1. 各教科等の教育内容を相互の関係で捉え、学校の教育目標を踏まえた教科横断的な視点で、その目標の達成に必要な教育の内容を組織的に配列していくこと。
  2. 教育内容の質の向上に向けて、子供たちの姿や地域の現状等に関する調査や各種データ等に基づき、教育課程を編成し、実施し、評価して改善を図る一連のPDCAサイクルを確立すること。
  3. 教育内容と、教育活動に必要な人的・物的資源等を、地域等の外部の資源も含めて活用しながら効果的に組み合わせること。

これまでは教育課程の内容を見直すことばかりに視点が置かれてきましたが、学習指導要領が新しくなり教育内容が大きく変わると同時に、3つのポイントを念頭に置いて取り組む必要が出てきました。

以下に、この3つのポイントについて詳しく述べていきましょう。

まずは、教科を横断して教育課程を編成することに関してです。

新しい学習指導要領が目指すのは、授業の質的転換で、児童生徒の主体性を引き出しながら、深い学びの実現を目指しており、知能や技能にとどまらず、思考力や判断力、表現力の育成に狙いを置いています。

これらの能力育成は1つの教科だけで行えるものではないので、教育課程を構成するすべての教科がそれぞれの役割を果たすと同時に、国語で養った言語能力を他の教科でも育成するような教科をまたいだ教育課程の編成が求められます。

授業は子どもたちの実態と教育目標に応じた授業計画を立てるべきだとされています。

続いて、PDCAサイクルで絶え間なく教育の質向上に関してです。

Pは計画(Plan)、Dは実施(Do)、Cは評価(Check)、Aは改善(Action)を指し、このサイクルを回して絶え間なく学校教育の質を高めていくことが文部科学省の狙いです。

サイクルを確立するためには、子どもたちにどのような資質を身につけさせたいかを明確にした学校の全体構想をまとめ、それに基づいて教育課程の内容を詰めていかなければなりません。

従来、学校の全体構想は校長ら管理職だけで決議していましたが、現場で子どもたちと接する教員も加えて学校全体で検討を進めることで、実際の指導でさらに効果を上げられると期待されています。

最後に、地域と連携した授業の編成に関してです。

子どもたちが育む資質や能力は、社会で活躍するために必要不可欠なものと捉えます。

社会や地域とのつながりを意識させることも重要で、地域と連携した授業を組むことで、より大きな効果を期待できます(具体的には、放課後や土曜日を活用し、社会教育と連携することも有効とされています)。

学校で行われている教育内容を地域の人たちに知ってもらうとともに、地域の人たちから情報や課題を教えてもらい、より深い学びを実践できます。

このように、カリキュラム・マネジメントは端的に言えば「各学校が教育課程(カリキュラム)の編成、実施、評価、改善を計画的かつ組織的に進め、教育の質を高めること」ですから、本問で求められている「パフォーマンス評価」という限定的な評価に関する事項ではないことがわかります。

以上より、選択肢⑤は誤りと判断できます。

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