公認心理師 2018-71

非行傾向がある生徒が窃盗事件を起こした際のSCとの面接での対応に関する設問です。
面接時には素直だったクライエントが、あとで拒否反応を示しているという事例です。

一応、考えていく上でSCが面接中に不信感を募らせる対応をして、そのことにSC自身が気づいていないという場合は無いものとします。

おそらくですが、この問題の要は「支援者側のアクティング・アウト」です。

解答のポイント

事例の特徴とそれの意味についていくつか仮説を持てること。
セラピストのアクティング・アウトと判断できること。
対人不信(対象関係が不安定?)のクライエントへの対応について理解していること。

選択肢の解説

まず、事例で起こっていたことについては以下の通りです。

  • 両親と離婚していること、実父との関係が悪く居場所がないこと等を素直に話した。
  • SCは父親との関係がAの非行の背景にあると見立てた。
  • その場では週1回の面接を快諾したものの、次回予定日に来談せず、面接にも拒否的な態度であることが伝わってきた。

『①独自の判断で家庭訪問する』

どういった見立てならば、こういった対応を取るのかを考えてみることが大切です。
…が、どういった場合でもこういう対応は取らないだろうなというのが正直なところです。

まずあり得ない最大のポイントは「独自の判断」です。
SCとしての活動は管理職のもとで行われるべきものであり、それを「独自の判断で」行うことはあり得ないと思ってよいでしょう。
どのような対応を取るにあたっても、そういった対応を取る根拠と支援につながる仮説を共有して、管理職から許可をもらった上で行われる必要があります。

また、SCが「家庭訪問」を可能にするか否かについては、県によってかなり方針が異なります。
許可している場合や、教員と同伴なら可能な場合などさまざまです。
道中の事故、対象者とSCの性別が異なる場合など複数の課題があると言えます。

家庭訪問が可能な場合であっても、それを行うという方針についてはどうでしょうか。
家庭訪問を行うのは大雑把に言えば、本人は来校できないが、SCと家庭訪問という形であっても関わることで心理的支援になるだろうという状況と思われます。
しかし本事例の記述では、(少なくとも言葉上は)AはSCを拒否しており、このような状況で家庭訪問を行うことは良い結果とならないと考えられます。

以上より、選択肢①は不適切と判断できます。

『②児童虐待を疑い、実母に連絡する』

まず前半の「児童虐待を疑い」を支持する記述の有無について考えていきます。
事例の中にある「実父とは関係が悪く居場所がない」という記述をもとに判断していると捉えられますが、この記述のみで児童虐待防止法に定められた虐待の種別のいずれかに該当するとは現時点で言えないと判断できます

そして後半の「実母に連絡する」についても、行わない対応と言えます。
児童虐待防止法第6条には「児童虐待を受けたと思われる児童を発見した者は、速やかに、これを市町村、都道府県の設置する福祉事務所若しくは児童相談所又は児童委員を介して市町村、都道府県の設置する福祉事務所若しくは児童相談所に通告しなければならない」と記載があります。

また虐待が行われていたとしても、離婚した実母に連絡するという方針はあり得ないと言えます。
実母の状況がわからないこと、離婚事由が不明なことなどを踏まえても、実母に連絡するという対応に実効性が伴うか疑問です。

更に学校で虐待の痕跡を発見した場合には、それを管理職に報告し、管理職から然るべき機関に通告するのが取るべき手順と言えます。
法律的にも臨床的にも社会的にもあり得ない対応と捉えてよいでしょう。

以上より、選択肢②の内容は不適切と言えます。

『③Aには伝えず父親を学校に呼び出す』

まずは、前半部分の「Aには伝えず」という点について考えていきます。
こちらについては、どういった名目に拠るのかであり得るか否かが変わってきます。

例えば、生徒が学校で問題行動を起こした場合、保護者を呼び出すということは自然なことであり、生徒本人に許可がいるということでもないと思われます。
ただし、それについてはあくまでも学校が生徒指導上の対応の中で行うことであり、SCの立場で行うことではありません

SCとしての業務であり、Aへの心理的支援という枠組みの延長として保護者を呼び出すのであれば、Aへの説明・納得という形は取る必要があると思われます。
例えば、保護者とも面談したい旨を伝えた上で「ここで話したことの中で、お父さんには言ってほしくないことはどれかな?」と言った形で、面接内容の振り返りを行うなどです。
この手順を踏むことで、間接的に親子関係のアセスメントを行うことも可能です。

こうした手順を踏まないことは守秘義務等の問題もあると思えますが、それにも増して、Aとの信頼関係をどう保つかの問題とも言えます。
SCが保護者と話をしたことがAに伝われば、Aの不信感が更に高まることは想像に難くありません。

ここからは、後半の「父親を学校に呼び出す」ということがあり得るかどうかの検証になります。
推察するに、父親との関係がAの問題行動の背景にあるが、Aとのつながりが難しかったので直接父親に、ということでしょうか。
父親との面談でSCが何を伝えるのか測りかねますが、Aと父親との関係が細やかに把握できていない以上、どのような反応が出るのかは未知数です。

例えば、虐待傾向が強ければ、それに拍車がかかる可能性もあります。
A本人が「実父との関係が悪く居場所がない」と言っているわけですし。

以上より、選択肢③の内容も不適切と判断できます。

『⑤Aをよく知るクラスメイトに事情を話し、Aを面接に連れて来てもらう』

まず前半の「Aをよく知るクラスメイトに事情を話し」です。
こちらは守秘義務等の問題であり得ないと判断できますね。

学校で勤務している者が、生徒の生徒指導上の問題の解決に、直接的に他生徒を関わらせるということも道義上あり得ないと判断できます。

続いて、後半部分の「クラスメイトに…Aを面接に連れて来てもらう」についてです。
この対応については、Aの「あんな面接には二度と行かない」をどう判断したかが一つポイントになると思われますが、どのような見立てであっても無断キャンセルした生徒に対し、他生徒を使って呼び出すということは更なる不信感を生む可能性が高いと思われます。

よって、選択肢⑤は不適切と言えます。

『④Aの対人不信に留意し、面接の枠組みをしっかり保つよう工夫する』

事例の流れを見ると、面接ではラポールが築けたように思えていたが、実際は強い不信感を抱えていた、ということになるかと思います。

問題ではこれを「対人不信」と表現していますが、どのような背景かを考えてみると以下の通りです。

  • AがSCをはじめから警戒して、SCに合わせた応答をしていた場合
  • Aの自我が弱く、話そうと思ってないことまでも話してしまい、侵襲的な体験として認識されていた場合
  • SCへの両価的な感情(信頼したいが信頼できない等)が存在している場合。その延長としての試し行動である場合。
他にもあるかもしれませんが、いずれにせよSCに求められるのは「安定した対象としていること」だと思われます。
揺さぶられてActing outしてしまうセラピストに、安定した支援は難しいと言えます。

他の選択肢はすべてセラピスト側のActing outとも言えますね(来談しないこと、不信感を示されたことで揺れてしまっている)。
この点に気が付けるだけで、本設問を解くことは可能だと思われます。
(というよりも、それが狙いの問題といえるのかもしれません)
選択肢のニュアンスでは、Aを不安定な対象関係を持つ人物と捉えているようですので、その対応としては面接の枠組みを保ち、きちんと自分の役割をこなす姿が支援になると判断して差し支えないと言えます。
以上より、選択肢④が適切と判断できます。

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