公認心理師 2022-21

障害受容では、過去に「公認心理師 2018-21」の中途障害者の理論の出題はありましたが、それ以外では特に明確なものはなかったですね。

価値転換理論自体は有名なものですが、これを機会にその周辺の理論も一読しておくと良いかもしれません(紹介した論文の中に書いてありますね)。

問21 T.DemboとB.Wrightらが提唱した障害受容の理論に関する説明として、正しいものを1つ選べ。
① 価値範囲を縮小する。
② 相対的価値を重視する。
③ 失われた能力の回復を重視する。
④ 精神障害の病識研究を端緒とする。
⑤ 障害に起因する波及効果を抑制する。

関連する過去問

なし

解答のポイント

価値転換理論についての理解を有している。

選択肢の解説

① 価値範囲を縮小する。
② 相対的価値を重視する。
③ 失われた能力の回復を重視する。
④ 精神障害の病識研究を端緒とする。
⑤ 障害に起因する波及効果を抑制する。

ここではまず障害受容の理論についての私見を述べておきましょう。

障害受容の理論は、障害種(身体障害か精神障害か等)や対象(本人か家族か等)によってかなり細かく存在しています。

これらを別々に覚えておくのは大変なので、ある理解の軸を持っておくと良いと考えています。

ここでいう理解の軸とは、障害受容の理論とは「受け容れたくない現実を受け容れる過程に関する理論である」という捉え方です。

このように見ておくと、どのような段階を経て「受け容れたくないことを受け容れていくのか」、その受け容れの段階で「どのような心理が生じるのか」などについて統合的に把握することができます。

また、こうした捉え方は、心理的な要因(例えばコンプレックスや自我の脆弱性)によって、目の前の事態を認めないというクライエントの在り様に対して、現在の状態を捉えたり、これから変化していくときの流れを予測する上で役立つものになります。

繰り返しますが、一つひとつの理論を適切に把握することと併せて、このように「統合的に捉える」ことも行っていこうとすると良いだろうと思います。

ちなみに障害受容の理論には、既に大きく分けて「段階論」と「価値転換論」という2つの軸があり、前者は障害を受け入れる「過程」について論じたものであり、後者は障害を受け入れた「理想的な状態」とはどのようなものかを論じたものになります(本問では価値転換論についてが問われていますね)。

段階論で論じられている「障害受容」は「障害の受容過程」がどのようなものであるべきなのかという議論になりやすく、価値転換論で論じられているのは「障害を受容した状態」というのはどのようなものであるべきなのかということが論じられやすいという特徴があります。

こうした理解の軸も併せて持っておくと、より定着がしやすいかなと思いますね。

それでは、以下から本問の解説に入っていきましょう。

本問の解説では「「障害受容」における生涯発達とライフストーリー観点の意義 : 日本の中途肢体障害者研究を中心に」「障害受容概念と社会的価値‐当事者の視点から‐」の両論文で解説を行っていきます。

Dembo&Wright(Levintonも加わっているはず)の障害受容の理論とは「価値転換理論」になり、この理論は日本の障害受容論に大きな影響を与え、現在流通している障害受容の主要な定義に価値転換が要素として含まれているほどです。

価値転換理論は第二次世界大戦の戦傷者の研究から発展したものであり、肢体障害者を中心に可視的な障害者に面接調査を行った結果、身体障害を「価値あるものの」喪失または欠損と捉えました(ここが選択肢④の正誤判断のポイントですね)。

Wrightは、この結論から、障害受容とは「身体障害者が障害を不便かつ制約的なものでありながらも、自分の全体の価値を低下させるものではないと認識すること」と定義し、この定義を肢体障害者だけでなく身体障害者一般にまで広げました。

価値転換論では、喪失の受容することとは「何に価値を置くべきかという考え方に関する発想の転換」と捉えており、その価値転換には以下のような4つが必要とされています。

  1. 価値範囲の拡大:障害によって失った価値以外にも、多くの価値には存在していることを情動的に認識すること。
    「歩く」という価値は失われても、歩くことにこだわらなければ、「移動」は車いす使用によって可能であり、価値の本質的な部分は失われていないと気づく。
  2. 障害に起因する波及効果を抑制:障害が部分的に能力の制限や価値の低下をもたらすとしても、自分の能力全体を制限したり、価値全体を低めたりするものではないと身体障害者が認識することを指す。
    ある分野で自分の能力が標準以下でも、その点のみが劣っていると捉え、その人の人格全体の価値を貶めることにはつながらない。
  3. 身体的価値を人格的な価値に従属させる:身体障害者は障害による身体の麻痺や変形から「外見を気にする」という劣等感を持つが、身体上の外見よりも、親切さ、賢明さ、努力、協調性などの内面的な価値が人間としては重要だということを悟ること。
    外見や身体的能力よりも、内面の方が大切だと考えること。
  4. 相対的(比較)価値から資産価値への転換:自分の価値を他人又は一般的基準と比較して判断する(相対的価値)のではなく、自分自身の価値自体に目を向ける(資産価値)ことを指す。
    他者と比較して相対的に優れていると見なすことによって生じる価値から、内在的価値を自分の価値と考える。

上記の4つのうち3つが本問の選択肢の正誤判断に使われていますね。

すなわち、選択肢①の「価値範囲を縮小する」は「価値範囲を拡大する」の誤りであり、選択肢②の「相対的価値を重視する」は「相対的価値から資産価値への転換」の誤りになります。

また、選択肢⑤の「障害に起因する波及効果を抑制」は正しい内容であることがわかりますね。

なお、選択肢③の「失われた能力の回復を重視する」ですが、そもそも価値転換論では、障害受容とは「身体障害者が障害を不便かつ制約的なものでありながらも、自分の全体の価値を低下させるものではないと認識すること」と定義していますし、そのために「何に価値を置くべきかという考え方に関する発想の転換」が重要という理論ですね。

ですから、「失われた能力の回復を重視する」ということはこの理論に該当しないことがわかりますね。

以上より、選択肢①~選択肢④は誤りと判断でき、選択肢⑤が正しいと判断できます。

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