公認心理師 2021-53

要保護児童対策地域協議会(通称、要対協:ようたいきょう)に関する問題です。

関係機関との情報共有の重要性の認識を背景として定められている、というのが私の理解です。

協議会が定められたことで、市区町村の役割はより能動的なものへと変わってきましたね。

問53 要保護児童対策地域協議会について、正しいものを2つ選べ。
① 対象は、被虐待児童に限られる。
② 構成する関係機関は、市町村と児童相談所に限られる。
③ 関係機関相互の連携や、責任体制の明確化が図られている。
④ 要保護児童対策地域協議会における情報の共有には、保護者本人の承諾が必要である。
⑤ 被虐待児童に対する情報を共有することにより、児童相談所によって迅速に支援を開始できる。

解答のポイント

要保護児童対策地域協議会の概要や成立起源について把握している。

選択肢の解説

① 対象は、被虐待児童に限られる。
② 構成する関係機関は、市町村と児童相談所に限られる。

要保護児童対策地域協議会は児童福祉法を根拠法としたものです。

まずは、児童福祉法の該当する条項を見ていきましょう。


第二十五条の二 地方公共団体は、単独で又は共同して、要保護児童(第三十一条第四項に規定する延長者及び第三十三条第十項に規定する保護延長者を含む)の適切な保護又は要支援児童若しくは特定妊婦への適切な支援を図るため、関係機関、関係団体及び児童の福祉に関連する職務に従事する者その他の関係者(以下「関係機関等」という)により構成される要保護児童対策地域協議会(以下「協議会」という)を置くように努めなければならない。

② 協議会は、要保護児童若しくは要支援児童及びその保護者(延長者等の親権を行う者、未成年後見人その他の者で、延長者等を現に監護する者を含む)又は特定妊婦(以下この項及び第五項において「支援対象児童等」という)に関する情報その他要保護児童の適切な保護又は要支援児童若しくは特定妊婦への適切な支援を図るために必要な情報の交換を行うとともに、支援対象児童等に対する支援の内容に関する協議を行うものとする。

③ 地方公共団体の長は、協議会を設置したときは、厚生労働省令で定めるところにより、その旨を公示しなければならない。

④ 協議会を設置した地方公共団体の長は、協議会を構成する関係機関等のうちから、一に限り要保護児童対策調整機関を指定する。

⑤ 要保護児童対策調整機関は、協議会に関する事務を総括するとともに、支援対象児童等に対する支援が適切に実施されるよう、厚生労働省令で定めるところにより、支援対象児童等に対する支援の実施状況を的確に把握し、必要に応じて、児童相談所、養育支援訪問事業を行う者、母子保健法第二十二条第一項に規定する母子健康包括支援センターその他の関係機関等との連絡調整を行うものとする。

⑥ 市町村の設置した協議会(市町村が地方公共団体(市町村を除く)と共同して設置したものを含む)に係る要保護児童対策調整機関は、厚生労働省令で定めるところにより、専門的な知識及び技術に基づき前項の業務に係る事務を適切に行うことができる者として厚生労働省令で定めるもの(次項及び第八項において「調整担当者」という)を置くものとする。

⑦ 地方公共団体(市町村を除く)の設置した協議会(当該地方公共団体が市町村と共同して設置したものを除く。)に係る要保護児童対策調整機関は、厚生労働省令で定めるところにより、調整担当者を置くように努めなければならない。

⑧ 要保護児童対策調整機関に置かれた調整担当者は、厚生労働大臣が定める基準に適合する研修を受けなければならない。


ここで挙げた選択肢に関しては、①と②に規定されていますね。

各選択肢に分けて見ていきましょう。

まず選択肢①が問うているのは「要保護児童対策地域協議会は誰を対象に行うのか?」ということですね。

こちらに関しては「要保護児童若しくは要支援児童」「その保護者」「特定妊婦」となっております。

それぞれの定義を述べておきましょう。

  • 要保護児童:保護者のない児童又は保護者に監護させることが不適当であると認められる児童(児童福祉法 第6条の3⑧)
  • 要支援児童:乳児家庭全戸訪問事業の実施その他により把握した保護者の養育を支援することが特に必要と認められる児童(児童福祉法 第6条の3⑤)。
  • その保護者:要保護児童もしくは要支援児童の保護者(児童福祉法に定義はなし。そのままですからね)
  • 特定妊婦:出産後の養育について出産前において支援を行うことが特に必要と認められる妊婦(児童福祉法 第6条の3⑤)。

これらが要保護児童対策地域協議会の対象になるということですね。

選択肢①にあるように「被虐待児童に限られる」わけではないとわかります。

さて、続いては選択肢②に関してです。

こちらの選択肢が問うているのは「要保護児童対策地域協議会を構成する人や機関は?」ということですね。

上記の条項にある通り「関係機関、関係団体及び児童の福祉に関連する職務に従事する者その他の関係者」ということになります。

上記を合わせて「関係機関等」と称しますが、主な関係機関等の概要については「市町村児童家庭相談援助指針(平成17年2月14日雇児発第0214002号)第5章」を参照にできます。

具体的な関係機関等に関しては厚生労働省のページにあったので、転載しておきます。


【児童福祉関係】
・ 市町村の児童福祉、母子保健等の担当部局
・ 児童相談所
・ 福祉事務所(家庭児童相談室)
・ 保育所(地域子育て支援センター)
・ 児童養護施設等の児童福祉施設
・ 児童家庭支援センター
・ 里親
・ 児童館
・ 民生・児童委員協議会、主任児童委員、民生・児童委員
・ 社会福祉士
・ 社会福祉協議会

【保健医療関係】
・ 市町村保健センター
・ 保健所
・ 地区医師会、地区歯科医師会、地区看護協会
・ 医療機関
・ 医師、歯科医師、保健師、助産師、看護師
・ 精神保健福祉士
・ カウンセラー(臨床心理士等)

【教育関係】
・ 教育委員会
・ 幼稚園、小学校、中学校、高等学校、盲学校、聾(ろう)学校、養護学校等の学校

【警察・司法関係】
・ 警察(警視庁及び道府県警察本部・警察署)
・ 弁護士会、弁護士

【人権擁護関係】
・ 法務局
・ 人権擁護委員

【配偶者からの暴力関係】
・ 配偶者暴力相談センター等配偶者からの暴力に対応している機関

【その他】
・ NPO
・ ボランティア
・ 民間団体


このように、多くの機関が要保護児童対策地域協議会の構成員になり得るということですね。

私はSCの仕事が多いので、教育機関の一員として参加することが多いです。

市の担当者が主に司会をやって、対応に関して専門的な知見から意見を求められることが多いですね。

いずれにせよ、選択肢②にあるように「市町村と児童相談所に限られる」わけではないことがわかります。

以上より、選択肢①および選択肢②は誤りと判断できます。

③ 関係機関相互の連携や、責任体制の明確化が図られている。
④ 要保護児童対策地域協議会における情報の共有には、保護者本人の承諾が必要である。

選択肢①および選択肢②の解説を読んだときに「多くの関係者が含まれているが、その責任体制、守秘義務等はどうなっているのか?」という疑問を覚える方も多いでしょう。

これらについてまとめてあるのが厚生労働省のページ「第1章 要保護児童対策地域協議会とは」になります。


1.平成16年度児童福祉法改正法の基本的な考え方

(1) 虐待を受けている子どもを始めとする要保護児童の早期発見や適切な保護を図るためには、関係機関がその子ども等に関する情報や考え方を共有し、適切な連携の下で対応していくことが重要であるが、こうした多数の関係機関の円滑な連携・協力を確保するためには以下が必要である。

[1] 運営の中核となって関係機関相互の連携や役割分担の調整を行う機関を明確にするなどの責任体制の明確化

[2] 関係機関からの円滑な情報の提供を図るための個人情報保護の要請と関係機関における情報共有の関係の明確化

(2) このため、児童福祉法の一部を改正する法律においては以下の規定が整備された。

[1] 地方公共団体は、要保護児童の適切な保護を図るため、関係機関等により構成され、要保護児童及びその保護者(以下「要保護児童等」という)に関する情報の交換や支援内容の協議を行う要保護児童対策地域協議会(以下「地域協議会」という。)を置くことができる。

[2] 地域協議会を設置した地方公共団体の長は、地域協議会を構成する関係機関等のうちから、地域協議会の運営の中核となり、要保護児童等に対する支援の実施状況の把握や関係機関等との連絡調整を行う要保護児童対策調整機関を指定する。

[3] 地域協議会を構成する関係機関等に対し守秘義務を課すとともに、地域協議会は、要保護児童等に関する情報の交換や支援内容の協議を行うため必要があると認めるときは、関係機関等に対して資料又は情報の提供、意見の開陳その他必要な協力を求めることができる。

(3) こうした改正により、

[1] 関係機関のはざまで適切な支援が行われないといった事例の防止や、

[2] 医師や地方公務員など、守秘義務が存在すること等から個人情報の提供に躊躇があった関係者からの積極的な情報提供

が図られ、要保護児童の適切な保護に資することが期待される。

特に、地域協議会を構成する関係機関等に守秘義務が課せられたことにより、民間団体をはじめ、法律上の守秘義務が課せられていなかった関係機関等の積極的な参加と、積極的な情報交換や連携が期待されるところである

(4) なお、平成16年児童福祉法改正法においては、地域協議会の設置は義務付けられていないが、こうした関係機関等の連携による取組が要保護児童への対応に効果的であることから、その法定化等の措置が講じられたものである。

また、参議院厚生労働委員会の附帯決議においても、「全市町村における要保護児童対策地域協議会の速やかな設置を目指す」こととされているところである。

これらの経緯を踏まえ、市町村における地域協議会の設置促進と活動内容の充実に向けた支援に努めるものとする。


このように示されているわけですね。

これらをわかりやすく読み解いていけば…

  1. 子ども虐待に対して適切に対応するには各機関の連携が重要だけど、それには「この連携における責任は誰が取るの?」ということが問題だった。
  2. 責任体制が明確になるだけでなく、多くの関係者が集まる場で個人情報保護の配慮はどうなるのか。

ということが課題としてあったわけですが、これを解決するために「要保護児童対策地域協議会」という運営の中核となって関係機関相互の連携や役割分担の調整を行う機関を設置し、責任体制の在り方を明確化したわけです。

そして、要保護児童対策地域協議会は「構成する関係機関等に対し守秘義務を課し」「必要があると認めるときは、関係機関等に対して資料又は情報の提供、意見の開陳その他必要な協力を求めることができる」としたわけですね。

これによって、「関係機関のはざまで適切な支援が行われないといった事例の防止」や「守秘義務が存在すること等から個人情報の提供に躊躇があった関係者からの積極的な情報提供」が期待できるわけです。

もっとも情報提供に消極的になる要因として「ある職種の人たちには守秘義務が課されているのに、法律上の守秘義務が課せられていない人たちも参加できている」ということが挙げられます。

この要因に関しては「要保護児童対策地域協議会が構成する関係機関等に対し守秘義務を課す」ということで解消し、各機関が積極的に情報提供をしやすい形となるわけですね。

上記を読めばわかる通り、要保護児童対策地域協議会での情報提供に関しては保護者等の承諾なしに行うことが可能です。

あくまでも「地域協議会は、要保護児童等に関する情報の交換や支援内容の協議を行うため必要があると認めるときは、関係機関等に対して資料又は情報の提供、意見の開陳その他必要な協力を求めることができる」ということですから、この「必要があると認める」か否かが重要なわけですね。

こちらは児童福祉法第25条の3にも「協議会は、前条第二項に規定する情報の交換及び協議を行うため必要があると認めるときは、関係機関等に対し、資料又は情報の提供、意見の開陳その他必要な協力を求めることができる」とありますから、これに基づいたものと言えます。

守秘義務については、「子ども虐待対応の手引き」にも示されております。

こちらによると、児童相談所職員が情報提供をするためには、①他の法律で提供することが定められている場合、②本人の承諾がある場合、③他人の正当な利益を保護することとの比較において、秘密を提供する方が重要である場合、とされています。

そして、上記の③の中に「虐待事例の解決のため、民間団体を含む関係機関へ情報を提供すること」が含まれているとされています。

なお、医療関係者や公務員が情報提供することが守秘義務違反にならないのは、上記の①の理由によるものですね(児童虐待防止法第13条の3)。

ただし、これらに関しては児童相談所や公務員の守秘に関して述べたものですから、本選択肢に係わる点に関しては、あくまでも「関係機関が情報提供に躊躇しなくて済むように、構成員に守秘義務を課した」ということが大きいです(そしてこれは上記の①に該当するから、情報提供がOKになる。ちょっとややこしいですね)。

以上より、要保護児童対策地域協議会では「関係機関相互の連携や、責任体制の明確化が図られて」おり、そこでの情報共有に際しては「要保護児童対策地域協議会が必要があると認めた場合」という要件以外は付されておりません。

よって、選択肢③は正しいと判断でき、選択肢④は誤りと判断できます。

⑤ 被虐待児童に対する情報を共有することにより、児童相談所によって迅速に支援を開始できる。

本選択肢の内容の判断に参考になるのが厚生労働省のページ「第1章 要保護児童対策地域協議会とは」になります。

引用すると以下の通りです。


2. 要保護児童対策地域協議会の意義

地域協議会においては、地域の関係機関等が子どもやその家庭に関する情報や考え方を共有し、適切な連携の下で対応していくこととなるため、以下のような利点がある。

[1] 要保護児童等を早期に発見することができる。

[2] 要保護児童等に対し、迅速に支援を開始することができる。

[3] 各関係機関等が連携を取り合うことで情報の共有化が図られる

[4] 情報の共有化を通じて、それぞれの関係機関等の間で、それぞれの役割分担について共通の理解を得ることができる。

[5] 関係機関等の役割分担を通じて、それぞれの機関が責任をもって関わることのできる体制づくりができる。

[6] 情報の共有化を通じて、関係機関等が同一の認識の下に、役割分担しながら支援を行うため、支援を受ける家庭にとってより良い支援が受けられやすくなる。

[7] 関係機関等が分担をしあって個別の事例に関わることで、それぞれの機関の限界や大変さを分かち合うことができる。


このように「被虐待児童に対する情報を共有すること」「迅速に支援を開始できる」ということに関しては明確化されていますね。

併せて、「どこが?」の部分に関してみていきましょう(選択肢では「児童相談所」となっていますが、これが正しいか否かの検証ですね)。

要保護児童対策地域協議会では「要保護児童対策調整機関」が置かれており、こちらは主に児童福祉担当部局あるいは母子保健担当部局といった児童福祉に関係の深い部局が指定されることが想定されていて、こちらが児童相談所その他の関係機関等との連絡調整を行う(児福法第25条の2第5項)ことになっています。

こうした役割が与えられたことで、それまで市区町村は虐待通告を行う立場でしたが、通告を受けて対応する機関へと役割を大きく変えることになったわけです。

ここで重要なのが、そうした市区町村と児童相談所の役割の明確化ですが、こちらについては「子ども虐待対応の手引き」に示されております(守秘義務等に関しても記載があります)。

つまり、市区町村はケースの緊急度・困難度等を判断するための情報収集を行い、その中で一時保護等の対応が必要と判断すれば児童相談所に送致することになるということです。

この際、児童相談所は、立ち入り調査や一時保護を成しうる唯一の機関であることを自覚し、最終的な判断は児童相談所が行うにしても、市区町村からの送致に対しては、その意見に十分に耳を傾けることが重要とされています。

このように、児童相談所は虐待事案に対して唯一の権利を持っている機関であり、要保護児童対策地域協議会で通告の必要ありと判断されたならば、中心になって動くのは児童相談所になるのは間違いありません。

ですから、本選択肢の主語が「児童相談所」になっているのは適切であると言えますね。

よって、選択肢⑤は正しいと判断できます。

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