公認心理師 2019-52

問52は合理的配慮に関する問題です。
こちらはいくつかの法律が絡んだ上で「障害者差別解消法」があるので、その流れを掴んでおくことが前提になりますね。

問52 障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律について、正しいものを2つ選べ。
①適切な配慮を行うためには医師の意見書が必要である。
②行政機関は合理的な配慮をするように努めなければならない。
③対象者の性別、年齢及び障害の状態に応じた配慮が行われる。
④対象となる障害には身体障害、知的障害、精神障害及び発達障害が含まれる。
⑤事業者は、差別解消の配慮は負担の軽重にかかわらず必要があれば行わなければならない。

障害者差別解消法に関する問題ですが、その中でも特に合理的配慮についてが問われています。
合理的配慮に関して、他の法律との絡みも含めてまずは見ていきましょう。

まずは障害者権利条約第2条には以下の記載があります。
「「合理的配慮」とは障害のある人が他の人同様の人権と基本的自由を享受できるように、物事の本質を変えてしまったり、多大な負担を強いたりしない限りにおいて、配慮や調整を行うことである」

重要なのは…

  1. 障害者が他の人と同じように社会で生きることができるようにすること
  2. そのための配慮が度を超えていたり、する側の負担が大きすぎないことが重要

…ということです。
この定義については、以下の法律でも同様と捉えて良さそうです。
ちなみに他の法律で「合理的配慮」について明確な定義を示している箇所はありません。

上記の障害者権利条約に批准しているのが障害者基本法第4条第2項です。
「社会的障壁の除去は、それを必要としている障害者が現に存し、かつ、その実施に伴う負担が過重でないときは、それを怠ることによって前項の規定に違反することとならないよう、その実施について必要かつ合理的な配慮がされなければならない」

こうした障害者基本法で重要なのは以下の点です。

  1. 障害者の定義の拡大:
    いわゆる3障害(知的、身体、精神)の精神障害に発達障害が含まれるだけでなく、「障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるもの」が追加されたことで性同一性障害なども含まれるようになっている。
  2. 合理的配慮概念の導入:
    これを受け障害者差別解消法の中でも「合理的配慮」の実施について示されるようになった。

障害者基本法では「合理的配慮をしなくていはいけませんよ」という大枠を定めており、細かい部分については障害者差別解消法になってきます。
本問ではそこが問われているということですね。

解答のポイント

障害者差別解消法、特に合理的配慮について把握していること。

選択肢の解説

①適切な配慮を行うためには医師の意見書が必要である。

障害者差別解消法第5条には「行政機関等及び事業者は、社会的障壁の除去の実施についての必要かつ合理的な配慮を的確に行うため、自ら設置する施設の構造の改善及び設備の整備、関係職員に対する研修その他の必要な環境の整備に努めなければならない」とあるくらいで、医師の意見を聞きその内容を考えるということは規定されていません。

それも当然で、医師は外部の人間であり、その事業者や行政機関がどういう場であり、どのような配慮が可能であるのかは具体的に把握できません。
このような状況でなされる意見というものは、たいていの場合は、その場にとって現実感の無いものになりがちであり、現場が振り回される結果になりかねません
よって、適切な配慮を行うにあたっての具体的な内容は、各機関の中で調整されることになります。

医師の意見書が重要になってくるのは、障害者総合支援法に係わる事柄についてです
障害者総合支援法の対象となる障害者が障害福祉サービスを利用するためには、障害者等の障害の多様な特性その他心身の状態に応じて必要とされる標準的な支援の度合いを総合的に示す障害支援区分の認定を市町村から受ける必要があります。

この区分認定は、市町村職員等による認定調査によって得られた情報及び医師の意見に基づき、市町村等に設置されている保健・福祉の学識経験者から構成される市町村審査会において、全国一律の基準に基づき公平・公正に行われます
障害者から申請を受けた市町村は、区分認定の流れの中で医師の意見を聴くこととされており、申請者に主治医がいる場合には、主治医がその意見を記載することとされています

医師意見書は、区分認定の流れの中で、市町村が一次判定(コンピュータ判定)を行う際及び市町村審査会が二次判定を行う際に、「認定調査項目」や「特記事項」とともに検討対象となるものです。
市町村審査会では、医療関係者以外の委員もその内容を理解した上で審査判定を行うことになりますので、なるべく難解な専門用語を用いることを避け、平易にわかりやすく記載することが求められています。

以上より、選択肢①は誤りと判断できます。

②行政機関は合理的な配慮をするように努めなければならない。
③対象者の性別、年齢及び障害の状態に応じた配慮が行われる。

障害者差別解消法第7条第2項には以下のように規定されております。
「行政機関等は、その事務又は事業を行うに当たり、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をしなければならない

ここで重要なのが「合理的配慮をしなければならない」と「法的義務」が定められているのが「行政機関等」であることです。
つまり、国や地方自治体などは合理的配慮を行う義務があるということになります。

次の条項との違いを理解しておきましょう。
障害者差別解消法第8条第2項には以下のように規定されております。
「事業者は、その事業を行うに当たり、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をするように努めなければならない

この記載は事業者にとって合理的配慮が「努力義務」であることを示しています。
日本の国税法令等での「事業者」とは、個人事業者(個人事業主・事業を行う個人)と法人や団体を指します。

ここを「努力義務」にしている理由としては以下の通りです。
障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律についてのよくあるご質問と回答〈国民向け〉」の中で示されています。

  • 教育、医療、公共交通、行政の活動など、幅広い分野を対象とする法律ですが、障害のある方と行政機関や事業者などとの関わり方は具体的な場面によって様々であり、それによって、求められる配慮も多種多様です。
  • このため、この法律では、合理的配慮に関しては、一律に義務とするのではなく、行政機関などには率先した取組を行うべき主体として義務を課す一方で、民間事業者に関しては努力義務を課した上で、対応指針によって自主的な取組を促すこととしています。

このように、合理的配慮について行政機関等は法的義務を、事業者は努力義務を有しているということになります

また、いずれにも共通していることとして、そうした配慮は「当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて」行われるということです

以上より、選択肢②は誤りと判断でき、選択肢③は正しいと判断できます。

④対象となる障害には身体障害、知的障害、精神障害及び発達障害が含まれる。

障害者差別解消法第2条第1号に障害者の定義として「身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む)その他の心身の機能の障害(以下「障害」と総称する)がある者であって、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるものをいう」とされています。
こちらについては障害者基本法第2条にも同様の記述があります。

選択肢の内容は含まれていることがわかります。
加えて、「その他の心身の機能の障害」とありますが、こちらは性同一性障害などのように「障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるもの」に該当しやすいような障害すべてが含まれるということが言えます。

以上より、選択肢④は正しいと判断できます。

⑤事業者は、差別解消の配慮は負担の軽重にかかわらず必要があれば行わなければならない。

障害者差別解消法第8条第2項には以下のように規定されております。
事業者は、その事業を行うに当たり、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をするように努めなければならない

この選択肢は2点の誤りがあることがわかります。

  1. 「実施に伴う負担が過重でないとき」という条件が付されている。
  2. 「合理的な配慮をするように努めなければならない」という努力義務であること。
第1項については、主体が行政機関であろうが事業者であろうが同様です。
第2項については、主体が事業者の場合はあくまでも努力義務であるということから、選択肢の「必要があれば行わなければならない」とは齟齬があることがわかります。
実施者の負担に関連することとして、障害者権利条約第2条には以下の記載があります。
「「合理的配慮」とは障害のある人が他の人同様の人権と基本的自由を享受できるように、物事の本質を変えてしまったり、多大な負担を強いたりしない限りにおいて、配慮や調整を行うことである

後半の「多大な負担を強いたりしない限りにおいて」は、それ以降の各法律に引き継がれていることは述べたとおりです。

以上より、選択肢⑤は誤りと判断できます。

本題からはずれますが「物事の本質を変える」という点についてもう少し述べましょう。
例えば、発達障害によって教室で授業を受けることが困難になった高校生がいたとしましょう。
その生徒が別室で授業を受けることになりましたが、授業に出る代わりに学校が定めたプリント等を障害とは関係がないところで提出しないという事態が起こってしまった場合、これは単位を認定すべきではないことがわかりますね。

合理的配慮では、その障害によって正規の方法では困難な人に対して、配慮をすることによって同じような機会を得るということになります。
それなのにその代替の方法に問題が無いと見立てられるのに、それを実行しないとなると他の人と同じように単位を出すことは難しいわけです。

「このくらいのことをしてくれないと単位をあげられない」というラインを歪めてしまうことは、それは教育という「物事の本質」を歪めたことになってしまいます
合理的配慮は「できなくても目をつむること」ではなく、「その場で必要なことを、その人ができるように状況を工夫すること」ですから、適切な工夫が加えられた上で当事者が行わないのであれば、それに準じた対応をとらざるを得ないことになります。

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