公認心理師 2019-36

問36はアルツハイマー型認知症の患者に対して公認心理師が実施することの選択です。
意外と過去問との絡みが多い設問でした。

問36 Alzheimer型認知症の患者に対して公認心理師が実施するものとして、不適切なものを1つ選べ。
①ADAS
②回想法
③COGNISTAT
④ケアプラン原案の作成
⑤認知症ケアパスへの参加

この問題は「Alzheimer型認知症の患者に対して公認心理師が実施するもの」というところが重要で、まずは各選択肢の内容は「Alzheimer型認知症の患者に対して」適切であるか否か、加えて「公認心理師が実施するもの」として適切であるかどうかの判断が必要です。
「公認心理師が実施」できたとしても「Alzheimer型認知症の患者」に行うことが適切ではないということもあり得ます(ただ、本問ではそのような作り方はしていませんでしたね)。

解答のポイント

認知症ケアパスの全体図を把握し、その中でのケアプランの立ち位置、公認心理師の職域を理解していること。

選択肢の解説

①ADAS

Alzheimer’s Disease Assessment Scaleの略語で、エーダスと読みます(少なくとも私がやっていたころは)。
記憶を中心とする認知機能検査で、アルツハイマー型認知症に対するコリン作動性薬物による認知機能の評価をおもな目的としています
単語再生、口語言語能力、言語の聴覚的理解、自発話における喚語困難、口頭命令に従う、手指および物品呼称、構成行為、観念運動、見当識、単語再認、テスト教示の再生能力の、11の課題から構成されています。

0~70点の範囲で、得点は失点であるため、高得点になるにつれて、障害の程度が増していきます。
認知症の重症度を判定するというよりは、継続的に複数回実施し、得点変化によって認知機能の変化を評価する検査です

こういう「継続的に複数回実施」という検査は意外と少なく、そのことを前提としているのはADASとソンディテスト(10回法が基本)くらいでしょうか。
よって、ADASを行う価値としても、継続的に実施して認知症の経過を見ていくという点にあると言ってよいでしょう

認知症の診療を行う病院では、心理師(士)にオーダーされることが多い検査の一つと言えます
以上より、選択肢①は適切と判断でき、除外することが求められます。

②回想法

回想法とは、単純に言えば昔のことを思い出してもらう方法と言えます。
Butrlerによって提唱された方法です。
もともと高齢者が人生を振り返ることの心理的な価値を考察したことから始まりました。
回想による人生の振り返りの過程を過去の再評価と再構成につなげ、過去を現在に生かすという特徴があります。

回想しやすいように昔の写真や音、香りを刺激として用いることがあります。
グループで行うことが多く、高齢者にとって昔の懐かしい写真や生活品などを見たり触れながら、昔の経験や思い出を語り合います。

一般に、自身を安定させる、自尊感情を高めるなどの個人内効果と、対人関係を促進させるなどの社会的効果の両方が期待されます。
認知症の場合は、情動機能の回復、意欲の向上、発語回数の増加、非言語的表現の豊かさの増加、集中力の増大、問題行動の軽減、社会的交流の促進、支持的・共感的な対人関係の形成および他者への関心の増加、などが効果として挙げられています

実施にあたっては、高齢者の人生の歴史に関心を寄せて耳を傾けること、慎み深い聞き手になること、安易な受容や共感もどきは避けること、揺らぎつつもどっしりと構えること、相手を変えようとしないこと、答えを与えようとしないこと、笑い・遊び・色の心を大切にすることなどが挙げられます。

特に本問で示されているような「Alzheimer型認知症」の場合、近時記憶から障害されることが多いが、過去の記憶に関しては保たれていることも少なくありません。
回想法によって、記憶がよみがえって脳が活性化するだけでなく、自らの体験に聞き手が共感し、受けとめることで情緒的な安定を狙うことが可能です。

なお、回想法は実施者を特に選びませんが、公認心理師もその実施者として挙げることができます。

以上より、選択肢②は適切と判断でき、除外することが求められます。

③COGNISTAT

COGNISTATは、認知機能の多面的評価を目的としており、障害されている能力と保持されている能力を視覚的に捉えることができるスクリーニング検査です。
認知障害のプロフィールから、リハビリテーションを行う上での有益なヒントが得られます。

以下のような内容を把握することが可能です。

  • 脳器質性の損傷による認知障害の特徴把握
  • リハビリやケアの指針の検討
  • 痴呆性疾患、脳血管障害、頭部外傷の臨床評価
  • 統合失調症、うつ病、アルコール性障害等の認知障害の評価

MMSEやHDS-Rは見当識や遅延再生の評価項目が入っていますが、刺激の提示から再生までが比較的短時間であるため、より軽度の健忘症などを評価する場合には、提示から再生までの時間が長いコグニスタットが適しています。
HDS-Rよりも認知症の鑑別に感度が高いとされています。

コグニスタットの大きな利点は、WAISなどのように各下位検査を認知プロフィールで表示できることにあります。
これによってどの認知領域にどの程度の障害があるのか、どの領域が保たれているかを視覚的に理解することができます。
すなわち、被験者の「保持されている能力」と「低下している能力」を視覚的にとらえることができるということです。

平成30年診療報酬点数表において、臨床心理・神経心理検査として複数の区分が示されており、COGNISTATも含まれています。
こちらに記載されている検査は、公認心理師が実施してよいものと見做して問題ないと思われます。

以上のように、本問の「Alzheimer型認知症の患者に対して」「公認心理師が実施するもの」という枠組みにCOGNISTATは適当であることがわかります。
よって、選択肢③は適切と判断でき、除外することが求められます。

④ケアプラン原案の作成

ケアプラン原案の作成は、介護サービスを利用するための手続きに含まれています。
介護サービスを利用するためには、市町村(保険者)に申請して要介護・要支援認定を受けなくてはなりません。
給付資格の要件を認めてもらって初めて、サービスの利用が可能になるということです。
問題文では「Alzheimer型認知症の患者」としか記載が無いので、どの程度の状態かは不明ですが、この患者もしくは家族から要介護・要支援認定の申請が出されるということにかんしては特に矛盾はありませんね

要介護・要支援認定とケアプランの作成、特に在宅の場合の大まかな流れは以下の図をご参照ください。

申請からの流れを順を追って説明していきます。
申請をすると、市町村から職員などが訪問し、定められた様式の調査が行われ、調査票をもとにコンピュータによる1次判定結果が出されます。
それと、あらかじめ提出されている主治医意見書の資料を参考にして、保険者が設定した介護認定審査会で2次判定が出されるという仕組みになっています。

ここでは「要支援」の1~2から「要介護」の1~5までの7段階で認定されます。
介護度ごとに、在宅サービスで利用できる給付の上限が設けられております。
施設サービスに関しては「要介護1」以上でないと利用することができません。

「要支援1~2」の認定を受ける人は、地域包括支援センターが介護予防ケアマネジメントを行います。
そこで予防プランの作成をして介護予防サービスを受けることになります。

認定を受けた後に、サービス計画をもとに必要なサービスを利用します。
利用計画は利用者自身で作成することもできますが、多くはケアマネージャーに作成を依頼することになります(自己負担はありません)

利用者から介護サービス計画(ケアプラン)の作成、サービスの選定・調整依頼を受けるところから、ケアマネージャーによるケアマネジメント(居宅介護支援)が始まります
介護保険制度は、都道府県に認定されたケアマナージャーが利用者のニーズに即したサービスの選定・調整を行うところに特徴があります。

依頼を受けたケアマネージャーは、利用者の状態把握をアセスメント表を用いて行います
状態把握から、課題分析を行ってケアプランを作成します
ケアプランの書類で、利用者のニーズ(生活上、解決を要する課題)や、長期・短期目標、サービス内容、サービス提供の頻度、サービス担当者などが明らかにされます。
それとともに総合的な支援方針や、週間サービス、日課も書類化されます。
同時に、利用者にかかわるサービス担当者を収集してケアカンファレンスを開き、ケアプランについての意見を交換します。
その積には、利用者・家族が同席することが望ましいとされています。
作成されたケアプランは、利用者に説明した後、同意を得て初めてサービス利用に結びつきます。

提供されたサービスについて、ケアマネージャーが、利用者・家族の満足・苦情、またサービス提供者の意見などを定期的に聴取し、同時にケアプランに策定してあるニーズや目標に照らし合わせて、その達成状態を把握、サービス内容を評価し、必要に応じて調整をしていくことになります
これらの状態把握に基づくケアプランの作成から、サービス提供、評価に至る過程を「ケアマネジメント」と呼びます

さて、ここからは別個に「ケアマネージャー」について詳しく述べていきます。

ケアマネージャー(介護支援専門員)とは、介護保険法法第7条第5項において「要介護者又は要支援者からの相談に応じ、及び要介護者等がその心身の状況等に応じ各種サービス事業を行う者等との連絡調整等を行う者であって、要介護者等が自立した日常生活を営むのに必要な援助に関する専門的知識及び技術を有するものとして介護支援専門員証の交付を受けたもの」と位置づけられています。

厚生労働省が出しているケアマネージャーの定義は以下の通りです。
要介護者や要支援者からの相談に応じるとともに、要介護者や要支援者が心身の状況に応じた適切なサービスを受けられるよう、ケアプラン(介護サービス等の提供についての計画)の作成や市町村・サービス事業者・施設等との連絡調整を行う者であって、要介護者や要支援者が自立した日常生活を営むのに必要な援助に関する専門的知識・技術を有するものとして介護支援専門員証の交付を受けた者」
このようにケアプランの作成はケアマネージャーが主に行うことと言えますね。

ケアマネジャーは、大別すれば、居宅におけるケアマネジャーと施設等におけるケアマネジャーに区分されます。
居宅におけるケアマネージャーは、居宅介護支援事業所(ケアマネ事業所)や介護予防支援事業所(地域包括支援センター)に配置され、要介護者や要支援者からの相談を受け、ケアプランを作成するとともに、居宅サービス事業者等との連絡調整等や、入所を要する場合の介護保険施設への紹介等を行います。

要介護者等はケアプラン作成の依頼の旨を市町村にあらかじめ届け出た上で、ケアマネジャーによって作成されたケアプランに基づき、居宅サービス等の提供を受ける場合、1割の自己負担を払うことでサービスを受けることが可能になります(現物給付化)。

以上より、ケアプラン原案の作成は公認心理師ではなくケアマネージャーが行うものと考えられます。
もちろん「公認心理師=ケアマネージャー」である可能性も考えられますが、基本的にそこまでのイレギュラーな状況を考慮に入れる必要はありませんし、あくまでも「公認心理師の職域で行うことはどれか?」を問うていると捉えるべきです。
よって、選択肢④が不適切と判断でき、こちらを選択することが求められます。

⑤認知症ケアパスへの参加

認知症ケアパスについては、厚生労働省が出している「今後の認知症施策の方向性について」に詳しく示してあります。

こちらの提言では「認知症の人は、精神科病院や施設を利用せざるを得ない」という考え方を改め、「認知症になっても本人の意思が尊重され、できる限り住み慣れた地域のよい環境で暮らし続けることができる社会」の実現のため、新たな視点に立脚した施策の導入を積極的に勧めています。
これまでの「自宅→グループホーム→施設あるいは一般病院・精神科病院」というような形骸化された不適切な「ケアの流れ」を変え、むしろ逆の流れとする標準的な認知症ケアパス(状態に応じた適切なサービス提供の流れ)を構築することを、基本目標とするものです

すなわち認知症ケアパスとは「認知症ケアパスとは、認知症の人とその家族が、地域の中で本来の生活を営むために、認知症の人と家族及び地域・医療・介護の人々が目標を共有し、それを達成するための連携の仕組み」ということになります。
より具体的に言えば、認知症ケアパスとは、認知症の人が認知症を発症したときから、生活機能障害が進行していく中で、その進行状況にあわせていつ、どこで、どのような医療・介護サービスを受ければよいのかをあらかじめ標準的に決めておくものです

地域で早期から継続的に包拢的な医療・介護サービスを提供する仕組みを構築するためには、多職種の連携による適切なケアプランの作成が行われる必要があります。
具体的には…

  • ケアマネジャーが、在宅の認知症の人について、その症状や家族の抱える不安などの状況把握を行うとともに、専門医療機関での確定診断やかかりつけ医等からの情報提供を受け、対象者の認知症の重症度、状態等についてのアセスメントを行う。
  • アセスメント結果や地域ごとに作成した標準的な認知症ケアパスを活用し、ケアマネジャーがケアプラン(将来的に状態が変化し重症となった場合や緊急時対応等を含む)を作成する
  • ケアマネジャーが作成したケアプランを基に、地域包拢支援センター等を中心として、医療・介護従事者、行政機関、家族等の支援に携わる者が一堂に会する「地域ケア会議」を開催し、アセスメント結果を活用したケアプランの検討・検証を行う体制が全国で構築されるよう推進していく。

このように選択肢④でも示されたケアプランの作成の参考になるということがわかりますね。

具体的な支援にあたっては、不適切な「ケアの流れ」を変え、標準的な認知症ケアパスを構築するとともに、特に以下の5つの施策を重点的に取り組むべきとしています。

  1. 早期診断と「認知症初期集中支援チーム」による早期ケアの導入
  2. 「認知症の薬物治療に関するガイドライン」の策定
  3. 一般病院入院中の身体合併症を持つ認知症の人や施設入所中の行動・心理症状発症者に対する外部からの専門家によるケアの確保
  4. 精神科病院に入院が必要な状態像の明確化について、有識者等による調査、研究の実施
  5. 「退院支援・地域連携クリティカルパス(退院に向けての診療計画)」の作成と地域での受入れの体制づくりの推進

特に認知症支援では、行動・心理症状等への不適切な対応などにより、不必要な施設入所や精神科病院への入院が増えているという課題が挙げられています。
また、介護保険施設等でも、行動・心理症状への対応ができていないため、精神科病院に入院するケースが見られることが指摘されています。

こうした点への具体的な方策の一つとして「身近型認知症疾患医療センターの整備」が挙げられております(ちなみに2018追加-141で出題された認知症初期集中支援チームは認知症ケアパスの「起点」ですね)。
このセンターの要件としては以下の通りです。

  1. 身近な地域に存在する(概ね65歳以上人口6万人に1か所程度)。
  2. 検査体制を有する医療機関との連携により的確な診断や投薬の適切な管理等を行うことができる認知症の専門の経験を有する医師と臨床心理技術者(兼務可)を配置する
  3. 診断後、早期に適切な介護サービス等の支援につなげ、地域で暮らしていけるよう、かかりつけ医やセンターが担当する区域にある数箇所の地域包括支援センター等との連携担当者を配置(兼務可)し、連携体制を築いている。
  4. 行動・心理症状の増悪による転院や入院を回避する目的として、病院や介護保険施設・事業所への診療相談、往診など(いわゆる地域リエゾン)を行っている。
  5. 診療所又は病院により行われるもの。
2018追加-18にも出題されたBPSDなどが、不適切な支援の背景にあるとされていることが多く、そのためそれを理解し、助言できるような専門職が求められているわけです。
上記にある「臨床心理技術者」とは、公認心理師と見なすのが自然ですね(おそらくは作成当時は臨床心理士が念頭に置かれていた)

こちらに「標準的な認知症ケアパスの概念図」が示されておりますが、この中の認知症行動・心理症状悪化時などの急性増悪期診療などで「精神科医療機関等」と連携を取ることがあり得ますし、そこでは公認心理師が支援にあたることも十分に考えられます
それこそ本問の選択肢①~③などを、公認心理師が実施することもあり得るわけです。

以上より、選択肢⑤は適切と判断でき、除外することが求められます。

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