公認心理師 2018追加-36

特定妊婦のリスク要因として、不適切なものを1つ選ぶ問題です。

児童福祉法第6条の3○5において「出産後の養育について出産前において支援を行うことが特に必要と認められる妊婦(以下「特定妊婦」という)」であり、特定妊婦に対して「その養育が適切に行われるよう、当該要支援児童等の居宅において、養育に関する相談、指導、助言その他必要な支援を行う」とされています。

そして特定妊婦のリスク要因については、いくつかガイドラインが出ています。
まずはその辺をまとめてから、各選択肢の検証に入ります。

解答のポイント

公的に示されている特定妊婦のリスク要因について把握していること。
その上で、より「出生前のリスクが高い」選択肢を限定できること。

特定妊婦のリスク要因に関するガイドライン

【厚生労働省:養育支援を特に必要とする家庭の把握及び支援について

こちらの中に「具体的には、望まない妊娠、若年の妊娠、精神疾患、支援者の不在などの妊婦に関する情報が重要であり、これらの情報を妊娠の届出から得た情報、医療機関から提供された情報、妊婦から妊娠・出産や出産後の子育ての相談を受けた関係機関の情報などから把握する」という記載が認められます。

【厚生労働省:養育支援訪問事業ガイドライン

養育支援訪問事業の対象者について記載があります。
「この事業の対象者は、乳児家庭全戸訪問事業(こんにちは赤ちゃん事業)の実施結果や母子保健事業、妊娠・出産・育児期に養育支援を特に必要とする家庭に係る保健医療の連携体制に基づく情報提供及び関係機関からの連絡・通告等により把握され、養育支援が特に必要であって、本事業による支援が必要と認められる家庭の児童及びその養育者とする」とされた上で、具体例が述べられています。

  1.  若年の妊婦及び妊婦健康診査未受診望まない妊娠等の妊娠期からの継続的な支援を特に必要とする家庭
  2. 出産後間もない時期(おおむね1年程度)の養育者が、育児ストレス、産後うつ状態、育児ノイローゼ等の問題によって、子育てに対して強い不安や孤立感等を抱える家庭
  3. 食事、衣服、生活環境等について、不適切な養育状態にある家庭など、虐待のおそれやそのリスクを抱え、特に支援が必要と認められる家庭
  4. 児童養護施設等の退所又は里親委託の終了により、児童が復帰した後の家庭

また、このガイドラインには「支援の必要性を判断するための一定の指標」も示されています。
そこで示されているのは以下の通りです。

  • 若年
  • 経済的問題
  • 妊娠葛藤
  • 母子健康手帳未発行・妊娠後期の妊娠届
  • 妊婦健康診査未受診等
  • 多胎
  • 妊婦の心身の不調

こちらは「項目の提示」となっており、一例だと見るのが妥当です。

【厚生労働省:要支援児童等(特定妊婦を含む)の情報提供に係る保健・医療・福祉・教育等の連携の一層の推進について

こちらには特定妊婦の様子や状況例がチェックリストとして記載されています。
その内容は以下の通りです。

  • 妊婦等の年齢
     →18歳未満
     →18歳以上~20歳未満かつ夫(パートナー)が20歳未満
     →夫(パートナー)が20歳未満
  • 婚姻状況:
     →ひとり親
     →未婚(パートナーがいない)
     →ステップファミリー(連れ子がある再婚)
  • 母子健康手帳の交付
     →未交付
  • 妊婦健診の受診状況:
     →初回健診が妊娠中期以降
     →定期的に妊婦健診を受けていない(里帰り、転院等の理由を除く)
  • 妊娠状況
     →産みたくない。
     →産みたいが、育てる自信がない。
     →妊娠を継続することへの悩みがある。
     →妊娠・中絶を繰り返している。
  • 胎児の状況:
     →疾病
     →障害(疑いを含む)
     →多胎
  • 出産への準備状況:
     →妊娠の自覚がない・知識がない。
     →出産の準備をしていない。(妊娠36週以降)
     →出産後の育児への不安が強い。
  • 社会・経済的背景:
     →住所が不確定(住民票がない)、転居を繰り返している。
     →経済的困窮、妊娠・出産・育児に関する経済的不安
     →夫婦ともに不安定就労・無職など
     →健康保険の未加入(無保険な状態)
     →医療費の未払い
     →生活保護を受給中
     →助産制度の利用(予定も含む)
ただし、こちらのチェックについては「特定妊婦かどうか判定するものではなく、あくまでも目安の一つ」とされているので、直ちに活用できるというわけではありません。

選択肢の解説

上記の厚生労働省が示している特定妊婦となり得る要因を見てみると、本問の選択肢全てがその要因として挙げられています。
先の特定妊婦の定義「出産後の養育について出産前において支援を行うことが特に必要と認められる妊婦」を踏まえたときに、「より出産前において支援を行う必要性が高い」とされるのはどの選択肢かを考えていくことが求められていると捉えることができます。

特定妊婦は、言い換えれば虐待の可能性が高くなりがちな状況と捉えることができます。
そこで、本解説では「児童虐待に係る児童相談所と市町村の共通リスクアセスメントツールについて」の内容を参考にしつつ、選択肢の検証を行っていきましょう。

『①若年妊娠』
『③経済的困窮』
『④望まない妊娠』
『⑤母子健康手帳未交付』

「児童虐待に係る児童相談所と市町村の共通リスクアセスメントツールについて」では、ここで挙げた選択肢すべてが虐待の危険要因として挙げられております

選択肢①については、若年保護者・若年妊娠といった表現が見られ、虐待に発展する可能性が高いとされています。

選択肢③については、世帯の経済状態がリスク要因として挙げられており、生活保護であるか否か、ライフラインの具合などが重要になってきます。
保育園からの聞き取り等で、両親のお金の使い込みなどがわかる場合もありますね。

選択肢④については、例えば、レイプやDVで不本意な妊娠をしたが妊娠週数が進み中絶できない妊婦などが該当し、出生ゼロ日殺害事例などに見られる特徴です。

選択肢⑤については、「子どもへの拒否的感情・態度」の具体的指標として、母子健康手帳未発行、乳幼児健診未受診が挙げられています。
こちらには「次の出産後に子を殺害したり虐待したりする事例などの中には、妊娠を届け出ず、母子健康手帳未交付のままのケースもある」とされています。

以上より、選択肢①、選択肢③、選択肢④および選択肢⑤は、特定妊婦のリスク要因として適切と判断できます。

『②多胎妊娠』

こちらについては特定妊婦となり得る要因として挙げられていますが、上記の児童虐待に係るリスクアセスメントツールの中には記載がありません

多胎妊娠は、それ自体が問題なのではなく、母親の精神的成熟、経済状況、家族の受け入れなどの要因と絡めて考えていくことが重要だと思われます。

ちょっと別の角度から考えてみると、不妊治療によって多胎妊娠の割合は増えるとされています
排卵誘発剤を用いた場合、複数の卵子が排卵されるため二卵性双生児の可能性が高まります。
また、以前まで体外受精によって、複数個の受精卵を戻すことも可能でした。
現在では、日本産科婦人科学会が「原則1個」としていますが、35歳以上や2回以上続けて妊娠不成立であった女性などについては「2胚(受精卵)移植を許容する」としています。

もちろん不妊治療を行っている場合は、望んでの妊娠であるの可能性が高いわけで、虐待のリスクは低くなると考えてよいでしょう。
また、多胎妊娠→特定妊婦となってしまうと、かなりの数の妊婦が「特定妊婦」となってしまいます
すなわち多胎妊娠を要因として特定妊婦と定める場合、予期しない多胎妊娠、複数の子どもを養える状況ではない、家族状況(シングルマザーであるかどうか等)などを総合してリスクアセスメントをしていくことが重要であることがわかります

以上より、選択肢②はそれのみで特定妊婦のリスク要因とするには不適切と考えられます。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です