公認心理師 2021-60

事例の見立てと対応に関する問題です。

どこまでの展望をもって提案を行っているかについて、それなりの意見を示せることが大切ですね。

問60 32歳の女性A、2歳の子どもの母親。Aは、市の子育て支援センターで、公認心理師Bに育児不安について相談した。3年前に結婚により仕事を辞め、2年半前から夫の転勤でC市に住んでいる。夫は優しいが、仕事が忙しいため、Aは一人で家事や育児を行うことが多い。知り合いや友人も少なく、育児について気軽に相談できる相手がおらず、孤独感に陥るという。BはAに対し、地域の育児サロンなどに参加し、育児や自分の気持ちについて話すなど、子育て中の母親との交流を提案した。
 BのAへの提案のねらいとして、最も適切なものを1つ選べ。
① 感情制御
② グリーフケア
③ 情緒的サポート
④ セルフ・モニタリング
⑤ ソーシャル・スキルズ・トレーニング〈SST〉

解答のポイント

クライエントの見立てを踏まえ、Aに必要な対応が何か導くことができる。

その対応と、公認心理師Bの提案が合致するかを考える。

事例の見立て・選択肢の解説

事例の情報を読んで思いつくことを挙げていきましょう。

問題を解くためには関係がない連想もありますが、それはそれで実践ではいずれ必要になる可能性もありますから挙げておきましょう。

  • 32歳:精神医学的問題の好発年齢は超えている。
  • 2歳の子ども:一次反抗期の最中で、その辺の負担がどの程度あるか。睡眠がどの程度かによって母親の負担は変わってくるかもしれない。
  • 市の子育て支援センターで、公認心理師Bに育児不安について相談:後述する主訴からすると適切な場所に適切な主訴で相談していることがわかる。現実検討力が保っていて、自分の問題をきちんと認識し、それを表現することに抵抗感が少ない。援助希求ができている。
  • 3年前に結婚により仕事を辞め、2年半前から夫の転勤でC市に住んでいる:仕事がAのアイデンティティにどのくらい影響を与えていたか。仕事を辞めること、転居することにどの程度Aが納得していたのか。
  • 夫は優しいが、仕事が忙しいため、Aは一人で家事や育児を行うことが多い:夫の状況として育児を一人で担っているが、夫の人格や夫婦関係だけで見れば問題は少ない。
  • 知り合いや友人も少なく、育児について気軽に相談できる相手がおらず、孤独感に陥るという:Aの「主訴」に該当する部分。主訴とは、その時点におけるクライエントのニーズが含まれているものである。

これらの情報とそこから連想される様々な事柄はありますが、現時点ではAに対して「ある程度精神的健康度が保たれており」「自身の問題について正しく認識し」「その改善のために適切な対応を採っている」という風に見立てることが出来そうです。

そう考えたときに「知り合いや友人も少なく、育児について気軽に相談できる相手がおらず、孤独感に陥る」と語るAに対して、まずはこの部分にアプローチするのが定石と言えるでしょう。

公認心理師Bの対応は「地域の育児サロンなどに参加し、育児や自分の気持ちについて話すなど、子育て中の母親との交流を提案した」とあります。

これは上記のAの主訴への「適切で」「現実的な」提案であると言えます。

自身の問題を正しく認識しているクライエントに対して、こうした提案を行うことは支援の手順として正しいものと言えます。

もちろん、こうした対応をしていく中でAの別の問題が浮上してくる可能性もありますが、その場合はその時点で対応を検討するのが定石でしょう。

カウンセラーの中には、上記のような「現実的な対応」を軽視する困った人もいるのですが、健康度が高く現実世界を生きているクライエントに対して「現実的な対応」をすることが大切です。

初めは薄味(現実的な対応)から始めて、必要になれば少しずつ対応を濃く(人格を話題にするような対応)していくのが心理療法の定石であり、この辺の事情は料理と似ていますね(薄く→濃くはできても、濃く→薄くはできない)。

さて本問では、上記の「地域の育児サロンなどに参加し、育児や自分の気持ちについて話すなど、子育て中の母親との交流を提案した」という公認心理師Bの対応が「何を狙って行われたものか?」を問うています。

上記を踏まえ、選択肢の解説の中でこちらについて述べていきましょう。

① 感情制御

「感情制御」とは、そのまま「感情」を「制御する」ということですから、感情のコントロールという意味ですね。

感情制御を狙った対応を採るということは、クライエントに感情のコントロールが効いていないという見立てがある場合になりますね。

本事例においては、クライエントは自身の問題を正しく認識しており、適切に問題を訴えてきているのがわかりますし、その中で感情のコントロールが効いていないような状況は見受けられません。

例えば、夫に対していちゃもんつけてしまって後から罪悪感が出てくるとか、子どもが泣いたときに感情的になってしまうとかの問題が見られるのであれば、本選択肢の「感情制御」を目指すことになるかもしれませんが、本事例では該当しませんね。

当然ながら、「地域の育児サロンなどに参加し、育児や自分の気持ちについて話すなど、子育て中の母親との交流を提案した」というのも感情制御を狙ったものにはならないと考えられます。

ちなみに、私は「感情制御」「感情のコントロール」「アンガーマネジメント」など、人の感情をコントロールする技法に関しては、あまり使用しません(嫌いとかそういうことじゃなくて、それらの効果が適切に発揮される場面は少ないということ)。

理由はいくつかありますが、例えば子どもの場合、感情のコントロールは、まず「表現」が先んじて行われるというのが正しい流れだからです。

きちんと「表現する」という体験があって(感情の爆発も「表現」になりますね)、その表現した感情を保護者とともに「調律する」ような体験を通して、ようやく「感情を制御する」という段階が来ます。

この辺は金銭感覚と同じかもしれません(最初から制御ではなく、ある程度の枠組み(例えば、お小遣い)の中で自由に使うという体験が大切で、その後にようやく「金銭感覚」が芽生えてくる)。

こうした感情発達・感情制御の流れが「自然」ですから、上記を踏まえた見立てを行い、その上で感情制御がテーマになっている場合に、それを目指した技法を導入することを検討します。

つまり、単に「感情が制御できていないから」という理由だけで「感情制御の技法を導入する」というのは短見であるということですね。

上記は子どもの場合を例にとりましたが、大人の場合でもやはり私は「コントロール」を主体する技法の導入には慎重です。

なぜなら、彼らが「感情を爆発させる」という問題を時系列で遡ってみると、たいていの場合は「過度に感情を抑えている」という場面が発見できるからです。

つまり「過度に感情を抑える」→「ある場面で、その場面での感情+抑えていた感情が噴出する」という流れがあることが多いので、そうなると問題は「感情の爆発」ではなく「感情の抑制」であると言えるわけです(爆発は抑制の副産物に過ぎない)。

こうした状況で「感情統制」の技法を行えば、クライエントの感情爆発の要因となっている「抑制」のパターンに磨きをかける可能性もあるわけですね。

こうした諸点を踏まえて、感情統制の技法は運用される必要があるというのが私の考えであり、実践ですね。

さて、話を問題に戻すと「地域の育児サロンなどに参加し、育児や自分の気持ちについて話すなど、子育て中の母親との交流を提案した」という公認心理師Bの提案は「感情制御」を目的として行ったものではないと言えますし、そもそもAに「感情制御」が必要と感じられる情報もありませんね。

よって、選択肢①は不適切と判断できます。

② グリーフケア

愛する家族や親しい友を亡くした後に体験する複雑な情緒的状態を「グリーフ(悲嘆)」と呼びます。

悲嘆反応は、愛する人を亡くした場合に生じる正常なストレス反応であり、それ自体は病的なものではありません。

そして悲嘆反応は時間的経過に伴って通常の生活に戻る道筋を辿るのが一般的です。

こうした悲嘆に苦しむ人のために特化した心理療法を「グリーフセラピー」や「グリーフケア」と呼びます。

ちなみに、ウォーデンは通常の範囲を超えた悲嘆反応である複雑性悲嘆を示す人を援助する目的で行われる、専門的な技術を用いたアプローチを「グリーフセラピー」と呼んでいます。

ですから、本選択肢の「グリーフケア」という用語は、ウォーデンの知見を踏まえれば「遺された人の喪のプロセスを促進し、死者なき現実に再適応するための支援全般」という表現が適切かもしれないですね。

さて、事例を見ればわかる通り、Aにグリーフケアが必要になる情報は一切見られませんし、こうした情報であれば面接時に述べられるのが一般的ですね。

当然のことながら、公認心理師Bの「地域の育児サロンなどに参加し、育児や自分の気持ちについて話すなど、子育て中の母親との交流を提案した」という対応もグリーフケアを念頭に置いたものではあり得ないと言えます。

もちろん、Aに死別の情報があり、それに端を発したと思われる反応があり、Bが勧めたのが死別をした人が集まるサロンであれば、目的はグリーフケアと言えますが、本事例はそうじゃないことが明白ですね。

以上より、選択肢②は不適切と判断できます。

③ 情緒的サポート

先述のように、Aに現時点では精神的な問題は見当たらず、「夫は優しいが、仕事が忙しいため、Aは一人で家事や育児を行うことが多い」「知り合いや友人も少なく、育児について気軽に相談できる相手がおらず、孤独感に陥る」というのが目下の問題と見なすことができます。

こうした状況に置かれたAにとって大切なのは、「同じ状況にある人とのつながり」が有効であると見なすのは自然であろうと考えられます。

公認心理師Bの「地域の育児サロンなどに参加し、育児や自分の気持ちについて話すなど、子育て中の母親との交流を提案した」という対応は、この「同じ状況にある人とのつながり」をAが得ることで、家事や育児を一人で行うことや育児について気軽に相談できることによって孤独感を軽減するという意図があったと考えられます。

これはBがピアサポートという、同じ問題を抱える者が集まり、それぞれの体験や行動、考え、感情などを互いに語り合い、支え合うという形を期待しているのだろうと読み取ることができます。

こうした状況は孤独感を抱えているAを情緒的に支えるものになると予想できますね。

ですから、Bの提案は「情緒的サポート」を狙ったと見なすことができますし、それがAにとっても必要なことだろうと見立てることができます。

私は、こうしたBの提案は臨床家として適切だと考えます。

カウンセラーという職に就く人の悪い癖として「自分が支える」ということが第一選択となりやすいのですが、Aのような健康度が高く、環境を整えることで改善する可能性が期待できる場合は、今回のような社会資源を提供し、その中での改善を図ることを優先した方が良いと思うのです。

なぜなら、「カウンセラーに相談する」という対応はAの「それまでの生活になかったもの」であり、いわば新しいものを生活に組み込むということになります。

それよりも「元々Aを取り巻く環境の中にあったけど、利用していなかったもの」を使って改善を目指す方が、Aの生活をできる限り変えることなく、社会資源を使って回復したという状況を作り、それがAの不慣れな土地に対する親近感を高める効果も期待できるわけです。

もちろん、サロンに通いつつカウンセリングを続けるのも良いのですが、大切なのは臨床家としてそういうビジョンを持って提案しているか否か、ということになりますね。

以上より、選択肢③が適切と判断できます。

④ セルフ・モニタリング

セルフモニタリングとは、クライエントが自分の認知や感情、行動などを観察し、自分自身に関するデータを得て、それらを検討するという一連の流れを指します。

認知行動療法においてクライエントが身につける基本的な技法とされ、問題把握、評価、変容などの方法として治療過程の様々な段階で使われることになります。

認知行動療法では、クライエントが自身の認知や感情に気づき、それを言語化できることを特に重視していますから、その実践においては、初期からクライエントにセルフモニタリングを促すことが多いです。

本問を解く上で大切なのは、「セルフモニタリングがどのような状況で使われるのか?」を把握していることですね。

上記の通り、認知行動療法では基本的な技術として用いられているわけですが、それは、その時の状況・思考・気分・身体反応・行動などを細やかに把握し、クライエントに備わっているそれらの癖やパターンを客観視し、問題と関連する部分があれば修正を加えていくという作業をしやすくするためです。

本問の状況では、Aにそうした思考・気分・身体反応・行動の一貫した問題となりやすいパターンの存在は認められませんし、見立てでも述べた通り、問題を適切に認識し現実的な対応を採ることができていると現時点では考えられます。

よって、セルフモニタリングを通してAの思考・気分・身体反応・行動の一貫した問題となりやすいパターンを見ていくという作業を優先させる理由は存在しないと言えますし、当然ながら公認心理師Bの「地域の育児サロンなどに参加し、育児や自分の気持ちについて話すなど、子育て中の母親との交流を提案した」という対応もセルフモニタリングとはかけ離れたものと言えるでしょう。

以上より、選択肢④は不適切と判断できます。

⑤ ソーシャル・スキルズ・トレーニング〈SST〉

よく日本語では「ソーシャル・スキル・トレーニング」と称されますが、正しくはSST:social skills trainingですから、「スキルズ」が適切な呼び名ですね(でも、ついスキルって言っちゃいます)。

アメリカの精神科医リバーマンによって考案され、当初は主に精神疾患のある人たちに適用されていたが、医療機関や療育施設などで、社会的コミュニケーションに課題を抱える発達障害の子どもや大人に対しても様々な形で適用されるようになりました。

SSTは、行動理論、社会的学習理論に基づく技法であり、①教示:目標とする行動を教える、②モデリング:その行動を実際に行って見せるなどして見本を示す、③リハーサル:目標とする行動を実際に行って練習する(ロールプレイ)、④フィードバック:目標の行動が適切にできているかどうかを伝え、できていれば賞賛し、できていなければ修正点を伝える、⑤般化:トレーニング場面で獲得したスキルを日常生活のどのような場面でも、誰に対しても活用できるよう促す、という5つのトレーニングが基本要素です。

なお、「ソーシャルスキル」の定義は研究者によって多様ですが、①仲間から受け入れられること、②人との関わりにおいて好ましい結果が得られ、好ましくない結果を回避できること、③社会的妥当性、の3つの観点から特徴づけられるとされています。

さて、本事例においては、AがSSTを通して身につけねばならないような社会的スキルの不足は見当たりませんね。

転居してきたため近くに友人がいない等の状況にありますが、現時点では、あくまでも転居という外的要因が大きく、ソーシャルスキルが低いために友人がいないという話ではありませんね。

もちろん、「地域の育児サロンなどに参加し、育児や自分の気持ちについて話すなど、子育て中の母親との交流を提案した」という対応も、ソーシャルスキルの習得を狙ったというにはあまりも雑なやり方と言え、当然SSTの狙いがあるとは言えないでしょう。

よって、選択肢⑤は不適切と判断できます。

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