公認心理師 2018-152

産後の若い母親に支援を行っている訪問スタッフへの助言に関する問題です。
意見が割れやすそうな問題だと思います。

解答のポイント

事例Aをどのように見立てるのか。
その見立てに即した適切な対応(助言)を選択できること。

事例の見立て

本設問は「乳児家庭全戸訪問事業」(こんにちは赤ちゃん事業)のさなかの支援と捉えられます。
この事業の目的としては以下の通りです。

  • 生後4か月までの乳児のいるすべての家庭を訪問し、様々な不安や悩みを聞き、子育て支援に関する情報提供等を行うとともに、親子の心身の状況や養育環境等の把握や助言を行い、支援が必要な家庭に対しては適切なサービス提供につなげる。
  • このようにして、乳児のいる家庭と地域社会をつなぐ最初の機会とすることにより、乳児家庭の孤立化を防ぎ、乳児の健全な育成環境の確保を図るものである。

訪問スタッフは、市区町村が行っている「産後ケア事業」の枠組みによる支援を手掛けていると考えられます。

「産後ケア事業」の対象者の条件と、本事例との合致点は以下の通りです。

  1. 出産後の心理的な不調があり、身近に相談できる者がいない者
  2. 家族等からの十分な育児、家事等の支援が受けられない者
  3. 産婦健康診査で実施したエジンバラ産後うつ病質問票(EPDS)の結果等により心理的ケアが必要と認められる者
参考までに、EPDSの項目に該当しそうな事例内容は以下の通りです。
  • 表情が乏しく、精神的な活力の乏しさが推測された。
  • 寝不足でつらい。
  • このまま育てられるか不安。
これらの状態を単なる「育児疲れ」と取るか、「産後うつ」と取るかの判断が大切です。
睡眠不足、表情や活力の乏しさ、家族の協力の少なさ(すなわち孤立状態)、涙ぐむなどを考えると「産後うつ」の状態と見立てて対応することが自然な事例と思われます。
産後うつは出産した女性の10人に1人がなるとされ、子どもへの虐待や育児放棄、女性本人の自殺などにつながる恐れがあります。
0歳児が虐待死の4割を占めることなども思い合せておきましょう。
当然、「100%産後うつである」と断言はできません。
ですが、この場合は「判断を誤った時のリスクの大きさ」を念頭に置く必要があります。
上記のように、虐待や母親の自殺の可能性を踏まえると、「産後うつ」と捉えて対応していくことを前提として良いでしょう。
そのことを念頭に置きつつ、選択肢ごとの対応の検証を行っていきます。

選択肢の解説

『④Aに「育児は大変なことばかりなので前向きになりましょう」と声をかけるよう助言する』

こちらについては、「産後うつ」であっても単なる「育児疲れ」であっても行わない対応だと言ってよいでしょう。
このような対応によって、これまで「産後うつ」などの精神的問題が見逃されてきたという事実があります。

また、助言の前後が矛盾している(「大変なことばかり→前向きになる」に論理性がない)など、真っ先に除外する選択肢ですね。

『②Aにすぐ保育園の入園手続を勧めるよう助言する』

こちらにつきましては、Aの状態を「子どもと一定時間離れることができれば回復するだろう」という見立ての時に行う助言です。
この対応が実現したとしても「夜中に何回も起きるので寝不足でつらい」という点についてのケアはされておらず(昼間寝れば良いでしょ、とはならないのはわかりますよね)、事例の内容を十分に汲んでいないと思われます。
よって、選択肢②は適切とは言い難いです。

また産後うつでは、ストレスの多さ、サポートの少なさ、出産によるホルモンバランスの変化によるストレス耐性の低下などにより、物事を悪く捉える循環ができてしまいます。
子どもを預けることで「自分は母親として失格だ」などという思考にもなりやすいと思われます。

更に現実的なところで言うと、保育園に手続してすぐに入ることができるものでしょうか。
地域や認可の有無にもよると思いますが「どういった状況でも行える対応ではない」という点も、この選択肢を除外する理由となるのではないでしょうか。

『①Aをすぐに精神科への受診を勧めるよう助言する』

精神科への受診は「産後うつ」の対応で真っ先に浮かんでよいものだと思います。
「産後うつ」を医療の支援が必要な状態と捉えることが大切です。
母親の精神障害が、母子相互作用および児の発達に長期的影響を与えることが産後うつ病研究により示されております。

しかし懸念として、精神科の受診を勧めたところで、現在のAの状態では受診しない(できない)可能性があります。
産後メンタルヘルスの問題点として、以下が挙げられます。

  • 受診のための時間を作りづらい。
  • 精神科との体系的な連携システムは確立されていない。
  • 薬物療法による乳児への影響を懸念する母親が多い。
  • 産後メンタルヘルスについて紹介できる病院が少ない。
このように選択肢①の対応が、一見して適切であっても、産後メンタルヘルスの枠組みで捉えると、実効性の薄い対応である可能性があります。

『③Aの代わりに訪問スタッフが夫や両親にサポートを依頼するよう助言する』

こちらの選択肢では、以下のような点がカバーされると思われます。

  • 1週間後ではなく「今すぐ」の対応になっているので、緊急性が高いことを考慮している(1週間後にサポートを依頼するとも取れるので微妙なところ)。
  • Aが自分から動かない可能性が高いことを踏まえた対応であること。
  • 訪問スタッフが動くことで環境調整を行える。
  • 両親が泊まり込むことなどができれば、寝不足などの状態も改善しやすい。
  • 夫が状況を理解することで、現実的・心理的なサポートが得られやすい。

ただし、こちらにも課題があるように思えます。

  1. Aの許可を得たという記載がないので、本当にそのような動きを取ることが現実的に可能か否か(訪問スタッフにそういった権限はないのでは)。
  2. 「産後うつ」という精神科領域の問題に対し、医療的ケアを行う形になっていない。
  3. そもそも、夫や両親との関係性が分かっておらず、それによっては「言ってもムダなのに」といった無力感を高める危険がある。

これらの課題については、実際にそういった事例や方針が明文化されていれば良いのですが、それがなかなか見つかりません。

まとめ

各選択肢には以下のような効果・課題があるように思えます。

選択肢①
効果:産後うつという問題に対し、精神医療という必要な支援の提案になっている。
課題:Aの状態で、勧められて受診するのか怪しいところ。

選択肢③
効果:援助希求できない可能性があるAに対し、より積極的な介入法と言える。
課題:Aの許可なく、このようなアプローチが許されるという知見を見つけられていない。精神医療につなげることを第一としていない。夫や両親との関係が不明確。

現状での情報を総合すると、選択肢①も選択肢③も効果と課題があり、選びにくいという感じです。

ちなみに私は選択肢③にしました。
この状態のAが勧められただけで受診するように思えないこと、選択肢①をすれば支援者側の責任は果たされますが実効性に薄いという印象を受けること、などが理由です。
(感覚的な判断なので、アテにはならないですね)

ただ、こうして示してみた課題の数からすると、選択肢①の方が適切なような気もしています。
また新しい情報が入り次第、追加修正させていただきます。

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