公認心理師 2021-35

医療におけるアドバンス・ケア・プランニングに関する問題です。

ACPがどういった営みであるか、に関する理解が問われています。

問35 医療におけるアドバンス・ケア・プランニング〈ACP〉について、誤っているものを1つ選べ。
① 話し合いの内容を文章にまとめ、診療録に記載しておく。
② 話し合いの構成員の中に、親しい友人が含まれることがある。
③ 患者の意思は変化する可能性があるため、話し合いは繰り返し行われる。
④ 患者の意思が確認できない場合は、担当医療従事者が本人にとって最善の方針を決定する。
⑤ 患者と多職種の医療・介護従事者、家族等の信頼できる者と今後の医療・ケアについて十分な話し合いを行うプロセスである。

解答のポイント

アドバンス・ケア・プランニングの概要について把握している。

選択肢の解説

③ 患者の意思は変化する可能性があるため、話し合いは繰り返し行われる。
④ 患者の意思が確認できない場合は、担当医療従事者が本人にとって最善の方針を決定する。
⑤ 患者と多職種の医療・介護従事者、家族等の信頼できる者と今後の医療・ケアについて十分な話し合いを行うプロセスである。

ここでの解説は以下の書籍を引用・参考にしつつ述べております。

治療やケアにおいて本人の希望や意思を尊重することは、現代医療倫理の基本原則になっています。

そのため、患者本人の意識が明瞭であり、自分で判断でき、かつその意思を伝えられる場合には、本人が考える最期を本人の意向に沿って実現するため、大きな問題が生じることは比較的少ないと考えられます。

しかし、患者の意識が明瞭でなかったり、判断力やコミュニケーションに問題があったりする場合は、難しい問題に直面します。

意識不明の状態にある患者の治療に関する意向が不明確な場合、どのような治療を提供し、あるいは提供しないのかについて、医療提供者側は非常に難しい判断を迫られることになります。

こうした課題に対応するための指針の一つとして、2007年に厚生労働省が「終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン」を示し、国レベルとして初めてとなる終末期医療に関する指針を示しました。

2018年にこのガイドラインは「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」に改訂されています。

この解説編では改訂に至った経緯が示され、近年諸外国で普及しつつあるアドバンス・ケア・プランニングの概念を盛り込んだことと、ACPを医療・介護の現場で普及することを目的とした改訂であることが述べられています。

つまり、国の方針として、人生の最終段階における医療・介護の現場の中で、ACPに基づく医療・ケアを実施することが強く推奨されたということですね。

さて、このように国レベルで本人の意思を尊重した医療・ケアの提供や人生の最期の迎え方を考えることの重要性が示されているわけですが、この中でACPに関しては「人生の最終段階の医療・ケアについて、本人が家族等や医療・ケアチームと事前に繰り返し話し合うプロセス」とされています。

上記はやや簡潔な定義ですが、2017年に生命倫理懇談会が答申書として「超高齢化社会と終末期医療」を公表しており、この中では以下のように定義されています。

将来のケアについてあらかじめ考え、計画するプロセスないしそのプロセスにおける患者の意思決定を支援する活動を指す。一般的には、患者本人、患者の家族、医療・ケア提供者の「話し合いのプロセス」と解釈されており、患者の希望や価値観に沿った、将来の医療・ケアを具体化することを目標にしている。

このようにACPは「話し合いのプロセス」であり、そのプロセスとは医療者から見ると患者の意思決定を支援する活動であると定義されているわけです。

このようにACPに関してはいくつかの定義が示されているわけですが、その内容には以下の3つが共通に含まれているとされています。

  1. 患者と医療者や家族などのケア提供者が共に行うこと。
  2. 意思決定能力の低下に先立って行われること。
  3. プロセスを指していること。

この他、諸外国や日本における定義を踏まえ、ACPの実践は人生の様々な場面において継続的に行われる必要があることと、話し合いの内容を示した定義が以下の通りです。

「ACPは、将来の意思決定能力の低下に備えて、今後の治療・ケア・生活について、本人・家族など大切な人そして医療者が話し合うプロセスである。話し合う内容は、現在の病状と今後の見通しのみならず本人の価値観や希望、人生や生活の意向を含む。それらの内容は心身状態の悪化など病状が経過する中で変化することを前提として、さまざまな局面で繰り返し行われるものである」

これらが日本におけるACPの定義やその流れとなります。

これらを踏まえて、ここで挙げた選択肢の解説をしていきましょう。

上記の通り、選択肢③の「患者の意思は変化する可能性があるため、話し合いは繰り返し行われる」および、選択肢⑤の「患者と多職種の医療・介護従事者、家族等の信頼できる者と今後の医療・ケアについて十分な話し合いを行うプロセスである」ということは正しい内容であることがわかりますね。

対して、選択肢④の「患者の意思が確認できない場合は、担当医療従事者が本人にとって最善の方針を決定する」はACPの本質から外れた内容であることがわかるはずです。

あくまでも本人の意思を尊重するための営みがACPということになりますね。

よって、選択肢③および選択肢⑤は適切と判断でき、除外することになります。

また、選択肢④は不適切と判断でき、こちらを選択することになります。

① 話し合いの内容を文章にまとめ、診療録に記載しておく。
② 話し合いの構成員の中に、親しい友人が含まれることがある。

これらの選択肢は、上記の解説を少し詳しく述べる必要があります。

改めてACPの特徴をまとめてみると「本人を取り巻く関係者により話し合いをする」「話し合いの内容は、治療の選択に限定されない多様なものである」「話し合いは継続して行われる」「話し合いにより、本人の情報を繰り返し更新する」などが挙げられます。

これらについてより詳しく述べる形で解説していきましょう。

まず、ACPの話し合いでは、本人や家族そして医療者が参加者になります。

この家族の中には、場合によっては家族に代替する知人などの近親者も含まれることがあります。

話し合いの内容によっては、医療機関内のソーシャルワーカーや地域の福祉職が含まれる場合があります。

選択肢②の「話し合いの構成員の中に、親しい友人が含まれることがある」に関しては適切な内容ということになりますね。

特に子どもが近くに暮らしていない場合、近くに住む友人の方が本人の意向を良く知っているということもあり得ます(私の母親にもそういう友人がいます。間違いなく私よりも母の意向wよく理解しているだろうと思いますね)。

話し合う内容は、現在直面している病状あるいは今後生じる可能性のある病状、今後の見通しを踏まえた治療やケア、また療養を含めた医療に関する事項、加えて医療のことだけでなく、本人の懸念していること、価値観や希望、最期を迎えるまでにどう過ごしたいかなどという人生や生活に対する意向、本人の死後の家族に対する要望なども含まれます。

こうした話し合いは、本人の意思決定能力が低下する前に行われることが大原則になります。

本人が直面するあらゆる局面の中で適当な時期に複数回にわたって行われることが望ましいとされています。

話し合いが複数回にわたって行われることの意義としては、病状の変化によって本人の意思や選択は変わり得るため、話し合いをプロセスとして捉えるというACPの特徴が生まれるわけです。

こうした話し合いの中では、具体的な治療の方針、例えば心肺蘇生を試みるか否か、医学的処置の方針(症状を和らげる処置だけを行う、限定的な処置を行う、気管への挿管や人工呼吸器などを用いて最大限の治療措置を行う等)、人工栄養補給(経管栄養を含む人工栄養補給を長期間行うか否か、使用期間のみ行う等)などの方針も含まれてくるわけです。

よって、これらの内容はカルテに記載されるのが自明ということになりますね。

以上より、話し合いの構成員には家族以外の友人も含まれることがありますし、話し合いの内容はカルテに記載されることになります。

よって、選択肢①および選択肢②は適切と判断でき、除外することになります。

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