公認心理師 2019-90

問90はデイケアの利用者ミーティングに関する問題です。
「精神障害回復者社会復帰訓練事業」とありますから、社会復帰を目標としたデイケアミーティングということになりますね。

問90 精神障害回復者社会復帰訓練事業におけるデイケアでの利用者ミーティングの運営について、最も適切なものを1つ選べ。
①原則として挙手により発言者を募る。
②決められた全時間の参加を義務づける。
③利用者同士の関わりは最小限度にする。
④司会担当者は利用者の発言を止めてはならない。
⑤会話だけでなくホワイトボードや紙に書いて伝達する。

デイケアにもいろいろありますが、本問の場合は精神障害の回復過程にあり、社会復帰を目指す人たちを対象としたデイケアということになりますね。
生活リズムを身につけたり、人と関わる練習という意味合いもある場所になり、スポーツ、創作、料理等のプログラム活動を通し、参加者と共に社会生活に適応できる力を身につけ、社会復帰の足がかりとして利用する場所になります。

解答のポイント

デイケアという枠組みを踏まえて、ミーティングの基本的なルールについて理解していること。

選択肢の解説

①原則として挙手により発言者を募る。

デイケアミーティングでは、メンバーが安心して発言できるような場を作り上げていく必要があります。
共感的で、人として尊重されており、好意的なアドバイスがあり、失敗にも受容的な雰囲気があると安心して発言することができるようになります。
併せて大切なのは、意見が表明されることを歓迎するという姿勢です。
挙手というルールがあってしまうと、流れのなかで発言するという現象が生じにくくなります。
話のなかで浮かんだことを、その場でパッと言えるような環境が大切であり、そのためにも唐突に発言されても受け容れられるようなミーティングであることが大切です。

もちろん、浮かんだ連想がサポーティブではない場合や、緊張感をもたらす発言になることもあるでしょう。
そのためにスタッフが一緒に参加して、ちょっとしたサポートを行っていくわけです。

状況やミーティングの内容、メンバーの特徴を踏まえて挙手を求めるということもあり得なくはないと言えるのかもしれませんが、基本的には「ぬるっと発言する」「唐突に発言する」ということが当たり前のものとして見ておくことが重要ですね。

以上より、選択肢①は不適切と判断できます。

②決められた全時間の参加を義務づける。

こちらはそもそもデイケアの枠組みとの矛盾があります
デイケアでは、さまざまなプログラムを通して、病状の回復と社会適応力の改善を目指します(メンバーの自立と社会参加を援助する場、ということですね)。
プログラムの内容は、月ごとの行事(誕生会とか食事会とか)、その季節に応じた行事(花見、海に行く、焼いもとか)、そして日々のスポーツ、料理、手芸、軽作業、ミーティングなどがプログラムとして設定されております。

参加者は、自分の希望に沿って、その人のペースでプログラムを選択することができます。
デイケア参加者はその日のプログラムを見て参加・不参加を決めることも少なくありません(もちろん、毎日きちんと通うことが大切になる人もいるのですけど、参加自体は自由です)。
そうした選択自体が、自主性・自発性の発揮につながる面もあると言えるでしょう。

さて、こうした基本的に参加が自由とされている「デイケア」の中で行われるミーティングにだけ「決められた全時間の参加を義務づける」というのは明らかに矛盾があります。
もちろん、ミーティングの内容によっては、グループ全員の参加を求めることもあるでしょう。
例えば、その場の活動の基本方針や全体行事の計画などは、メンバー全員で決めることが望ましいと言えますからね。
ただ、それでもやはり「参加を求める」という範囲に留まるのは、デイケアがそうした強制的に参加を求めるような場ではないという基本枠があるためです。

以上より、選択肢②は不適切と判断できます。

③利用者同士の関わりは最小限度にする。

まずデイケアという場の作用として、メンバー同士の関わりが重要になります
社会復帰に関してよくあることなのですが、スタッフとともに考えて決めたアルバイトなどは続かない人でも、デイケアメンバー間で紹介されたアルバイトは続く、ということも見受けられます。
何が続く秘訣になっているのかは不明ですが、しっかりと決めると辞められない感があって、それがプレッシャーになることもあるのかもしれません。

さて、こうしたことに限らず、デイケアでは参加者同士の関わりが重要になります。
ただメンバーによっては様々な経験を背景として、受身的・逃避的な構えが身についていたり、スタッフに対して依存的だったり、人と接する場面では葛藤を極力避けようとすることも見受けられます。
そうなると、積極的にデイケア活動に参加しないということも生じやすく、ミーティング場面でも消極的になってしまうことも見受けられます。

そういう場面でも、スタッフはできる限り利用者同士が関わり、ミーティングが進行していくように工夫することが重要です。
もちろん、スタッフに話した方が伝わりやすいという面は少なからずあるのでしょうが、ミーティングの場でスタッフとばかり関わることを繰り返すと、参加者の自主性や、自分がメンバーの一人としてそのグループを動かしていこうとする意欲などが育ちにくくなることが懸念されます。

デイケアミーティングに限らずですが、何かしらの集団を通して心理的支援を行っていこうとする場合、当人同士の関わりによる作用が支援における不可欠な要因と言えます。
そういうやりとりの中で、緊張するような場面も生じるでしょうが、それ自体が社会生活では生じ得る出来事と言え、社会復帰に向けて必要な体験であると考えることもできるでしょう。

以上より、選択肢③は不適切と判断できます。

④司会担当者は利用者の発言を止めてはならない。

デイケアミーティングでは、メンバーの発言を尊重するということが大切なルールですから、話をさえぎることを躊躇する場合もあるでしょう。
また、発言を止めると、そのメンバーが傷つくと考える人もいるかもしれません。
しかし、メンバーの発言を尊重するということは、メンバー全員に発言の機会を持ってもらうようにするということでもありますから(発言しなければならないということではなく、発言の機会がなくなることが良くない)、それを崩すような言動にはストップをかけることが大切になります。

例えば、一人の人が話し続けるという場面があり、内容によっては長くても聞くことが大切なこともあるでしょうけど、場を盛り上げよう、緊張に耐えきれず、自分を良く見せようとして、などの動機によって話し続けるということもあり得ます。
また、自分をコントロールできず、同じ話の繰り返しになってしまうこともあるでしょう。

そういう時には司会担当者が話を止めることも重要になります。
端的に「他の人の発言も聞きたいので、この辺で終わりにしてください」と伝えるということ、「話題が変わってますよ」という軌道修正などもあって良いでしょう。
その人の発言を踏まえて、他のメンバーにふって、他のメンバーが参加できるように誘導するというアプローチもあり得ます。
本問のように社会復帰を前提としたデイケアであれば、尚更こうしたアプローチが重要になってくると考えられます。

なお、司会担当者をメンバーが勤めることもありますが、施設スタッフが行った方が良い面が大きいかなと個人的には思います。

以上より、選択肢④は不適切と判断できます。

⑤会話だけでなくホワイトボードや紙に書いて伝達する。

個人的な経験ですが、私は講演するときに資料無しでも大丈夫な人ですが、聴衆のために資料は用意するようにしています(自由参加の講演なら資料無しでも良いのですけど、流れとして設定されていると不本意参加の方もおられますからね)。
資料があると、それに目を落としたり、書込んだり(書込むふりをしたり)、することで「参加している感」を醸し出すことができます。
こういうことは別に精神的な問題の有無に関わらないことであり、例えば、会社の会議などで集中していなくても資料を手に取って見ていれば参加している風な雰囲気を出すことができます。
こういうことは、社会参加をする上で大切な処世術だと思うのです。

また、精神障害を有していると、自分が発言したら参加者の視線が自分に集まるという状況はなかなか緊張感があるものです。
中井久夫先生の言葉ですが、視線にも限界被ばく量があるんです。
ホワイトボードや紙が用意されていると、そこに目を向け、発言者に集まる視線の量を軽減することができます。
「社会復帰に向けてそんなことで良いのか?」と思われる方もいるかもしれませんが、会議でどれだけの人が発言者の方を見ているかを考えれば、むしろ発言者に目が向くという事態こそが不自然な状況と言えるのではないでしょうか。

もっと実務的な視点で言えば、伝達事項がホワイトボードや紙で明示されていることで、情報を誤って受け取ってしまうことを避けることができたり、「言った言わない」の水掛け論を避けるという機能も期待できますね

以上より、選択肢⑤は適切と判断できます。

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